51 それこそが、真実/不死鳥の騎士団

クリスマスの翌朝はとてもじゃないけれどもプレゼントに素直に喜ぶことができなかった。
たぶんそれは、いつもならば聞こえてくるあの人の声が聞こえないから
つい最近出会ったばかりなのに、なんだかずっと昔からいるような――――

目の前のスープをくるくるとかき回せながら、目の前で起きている出来事をぼーっと見ていた

「我輩はダンブルドアの命できた」

父上が朝から騎士団にいらっしゃっている

「しかし、ブラック、よかったらどうぞどいてくれたまえ。気持はわかる…かかわっていたい訳だ」

…父上、機嫌が悪いな

「何が言いたいんだ?」

―――シリウスも父上に負けず劣らず、ピリピリしているな・・・
間に挟まれたハリーがかわいそうだな

先ほどからずっとこうして脳内実況中継をしている
この喧嘩を止める気さえも起こらないし、ハリーを助けてやろうとも思わない

何に関しても、何も行動したいとは思えなかった
無気力な腰はずっしりとイスに根をはっていたし、スープを混ぜることすらめんどくさい

「別に他意はない。君はきっと……あーいらいらしているだろうと思ってね、何も役立つことができなくて」

…今日はどうしてこうも気だるいんだ………

「ポッター、我輩は君ひとりに話をしにきた。校長は君が閉心術を会得することを御望みのようだ」

「へ、へい…何ですか?」

「閉心術だ、ポッター」

…ハリーも閉心術を?
そんなの無理に決まっている。今のハリーにできっこない

…なぜこうもマイナスな方向でしか考えられないのだろうか
名前は今先ほど自分が思った考えが嫌になった

「ちょっとまて―――もし君が閉心術の授業を利用してハリーを辛い目にあわせていると聞いたら、わたしは黙っていないぞ」

「泣かせるねぇ。しかしポッターが親そっくりなのに当然君も気がついているだろうね?」

「ああその通りだ」

・・・もういい、やめてくれ

「さて、それならばわかるだろうが、こいつのこの傲慢さときたら―――」

・・・もう、やめてくれ・・・これ以上無駄な争いで時間を無駄にするな
名前は我を失った二人をどうにかして黙らせられないだろうかと考えを張り巡らせていた時…

「やめろっつってんだろ、馬鹿ども」

急に懐かしいあの声が…聞きたかったあの声が聞こえてきた
その声でようやく我に返ったのか先ほどから突き出していた杖を急いでしまい、その声の元を見た

「――――クライヴ!!」

そこに立っていたのは少しやつれたクライヴだった

「お前…もう平気なのか?!」

「…あぁ、心配かけさせちまって悪ぃな」

「―――本当だ、馬鹿もの」

「おいおい、今度は俺がバカって言われる番かよ」

すると二人は何やら気まずそうに咳払いした

「それよりアルバスから聞いたか?ハリー、お前閉心術やるんだって?」

「…え、あ、うん」

「俺が教えてやれたら教えてやりたかったんだけどなー、だけど今俺が魔法を使うことはあまりよくないって言われたからさ……セブルス、こいつ思いのほか意地悪するから何か困ったら俺に言ってくれよ、な?」

そういうとセブルスがかっと顔を赤くさせたがクライヴはそれを面白そうに見ていた

「あとよ、アーサーが退院したようだぞ」

「え!?おじさんが!?」

ハリーがうれしそうにクライヴの顔を見上げた

「ほんとかクライヴ!?」

「嘘ついてどーすんだよ黒わんこ」

「ホントか・・・・よかった・・・・・・」

今やクライヴの言葉にツッコミを入れている余裕などなかった
嬉しすぎて聞き流してしまったのだった。

そのあとも元気になったアーサーを見て二人のテンションはあがりっぱなしだった。セブルスと名前だけが冷静にその場を眺めていた
冷静な二人だけれども、表情は軟らかかった

「…父上、クライヴもまさか………夢を?」

「―――あぁ、校長はそうおっしゃっていた」

「……」

今、元気そうにみんなと笑い合ってるクライヴを見て胸が痛くなった
きっと自分よりも昔の人だから血が濃厚だ
僕よりも恐ろしい夢を見ているに違いない―――――

だけど、そんなのみじんも感じさせないように笑顔で笑っている…
僕も、まだまだ勉強が必要のようだ

きっと朝からずっと無気力なのは魔力が悪夢によってかなり消耗されたからだろう
ようやく気がつくなんて…

なぜこんなに身近にある答えがすぐ見つからなかったのかと己を罵った
早く気がつけばあんな暗い気持にもならずにすんだものの……

そのあとしばらくして、ハリー達はナイトバスで、名前とセブルスはウィーズリー家の暖炉から戻ることになった

「…名前、セブルス、君たちも頑張りすぎないようにね」

「ふん…貴様に言われたくないな」

「…リーマスもな」

「…ふたりとも、ありがとう」

小さくセブルスが舌打ちをしたような気がした。
ホグワーツに戻り、名前は黙々と勉強をしていた
ドラコはベッドの上で寝ころびながら本を読んでいる

「っく…くくくく」

「―――名前、いったい何が面白いんだ?」

不気味な笑い声をあげる名前を驚いたような、どこか怯えたような表情で見上げた

「…ッ何がだ?今僕は――――……笑っていた、か?」

「あぁ…どうしたんだよ名前」

レーガン家とゴーント家の血のつながりは深い。ゆえに互いに激しい感情を共有してしまう。ただのレーガン家とゴーント家ならばないのだが、名前とクライヴのように特殊な例ならば、なのだが クライヴはヴォルデモート卿の親友、そして名前は闇の印がついている
恐らくヴォルデモート卿と深いかかわりのあるレーガン家の者たちだからこそ、ヴォルデモートの感情を共有してしまうのだろう。
唯一、ハリーと違って心の中を詮索されないで済むのは名前達がレーガン家だから。レーガン家は守の魔力の強い家柄なのだ

「…ドラコ、翌朝の預言者新聞にはきっと何か不吉な事が書かれているぞ」

「……え、あ…うん、そうか。でも一体どうして急に笑ったんだ―――?」

「…もう寝る」

ドラコは訳が分からず、でもどこか安心したように頷いた

薬を飲んでいるのに朝からずきずきと闇の印が痛む
どういうことだろうか…

朝、名前が言ったとおり予言者新聞には不吉な事が大きく載っていた
ドラコはどこかうれしそうに、でもどこか恐ろしげに見ていた

「…Mrs.ベラトリックスも脱獄………」

ぼそりとつぶやいた言葉にすかさずドラコが食いついてきた

「君は確か父上の学生の頃に行ったことがあったんだよな…?その時に知り合ったのか……その……」

「あぁ。」

いくら伯母にあたる人でもドラコには少し恐ろしいようだ
それもそうだ。彼は一度も本当の闇というのを味わったことがないのだから。ドラコには闇は不向きだ
名前は心配そうに友の背中を見つめた

それからしばらく経ち、ザ・クィブラーの所持が禁止された頃、クライヴから緊急の手紙が来た

名前へ

急に悪い、でも急いでいるんだ
嫌な事が起こる
お前の左目もそう感じている筈だ
死ぬかもしれない
シリウスが
こっちでシリウスは見張っている
だからハリーをどうか見張っててくれ

PS.この手紙を読んだらすぐ燃やしてくれ

クライヴより

この手紙を見てしばらくは言葉を発することができなかった
シリウスが―――――死ぬ?
去年からずっと痛みを感じていたが・・・闇の力が強まってるだけじゃなかったのか・・・・
ずるずると力が抜けていくような気がした

……シリウス

おまえは・・・

ジェームズ達のところへ…アルベルトたちのところへ行こうとしているのか・・・・・・?

それからも名前の頭の中には鮮明にシリウスの『死』が映し出されていた
どうしたら未来を変えられる
どうしたら、大切な人を守れる

どうしたら…

ずっと考え事をしていたせいで精神がずたぼろになった名前は早速医務室へ運ばれて行った
今月に入って何度目だろうか
ぼんやりと医務室の天井を見上げてつぶやいた

今名前の頭のなかを誰が整理できようか
アンブリッジが犯罪者と手を組んでハリー達の会合の話を盗み聞きしていたこと
ファッジがダンブルドアを停職させようとしていること
ハリー達がDAとなるものを開いていること
ルシウス・マルフォイが武器・・・予言を探していること
ヴォルデモート卿が力を完璧に取り戻したこと
ハリーとヴォルデモート卿がつながりあっていること
夏にハリーにしかけたディメンターはアンブリッジが、魔法省がしかけたことだったこと

それ以上にもっと、たくさんあった
何から話せばよいか、何を話したいのかも最近分からなかった

だから最近はいつも無口な名前だったがいつも以上に無口になってしまい、しまいにはドラコといる時ですらあまり言葉を発せなくなっていた。手紙の返事も溜まりにたまっていたしファッジからはまた例の如くお茶会…
もうすぐテストもちかい。OWLの試験が

夜になれば時々悪夢をみさせられる

そしてシリウスの死が――――…

「…名前、アンブリッジがここの校長になったことは知ってたか?」

「…」

そうなのか
でもダンブルドアはどこへ行ったんだ…?

名前はただ黙々とパンを食べながらドラコの話を聞いていた

「父上もさぞお喜びしている頃だろう……」

ドラコはにこにこと笑いながらいう

「次の授業はなんだったっけ?」

尋問親衛隊に任命された余韻ゆえにドラコの足取りは軽かった。これからきっとハリー達をじゃんじゃんいたぶっていくのが楽しみでしかたないのだろう
今の名前にはそれを止める気力さえもない。ハリーには悪いが、どうにかここは耐えてほしい。
進路の面接も無事終わり、ついにOWLが刻々と近づいてきていた
ドラコはひたすら参考書を開いては何かを書き取り、名前にわからないところを聞いていた

名前はのんびりと教科書をぱらぱらと読んでいた
ふと、ハリーの事が気になった

クライヴにはハリーをよく見張っておくようにと言われていたが、なかなかハリーと出くわすことがなかったせいか最近のハリーの様子なんてまったくもってわからない。ク ライヴにそれを手紙で知らせたかったが、あいにくクライヴのようにフクロウも使わず手紙を送る方法を知らない名前はただ、アンブリッジの監視をすることしかできずにいた

テスト当日、名前はアンブリッジから不吉な話を盗み聞きした

「ルビウス・ハグリッドをアズカバンへ送ります」

「ほう…あの半巨人をかね?失神呪文が効くかどうか…」

「おそらく数発撃たなくちゃぁ効かないだろう」

…なんということだ

「いつ連行しますか?」

「―――明後日」

名前はごくりと唾を飲んだ
危ない、ハグリッドが。でもいまやダンブルドアもいないしマクゴナガルも多忙だ
父上も自分の仕事で精いっぱいだし、OWLもある…

かといって、クライヴにも手紙を出すことができない……煙突ネットワークもフクロウも見張られているのだ
ハグリッドの小屋に近づくことも許されていない…ならばどうしろと・・・・

…本当にどうしたらいいのだ

こういうとき、改めて自分は無力なのだと再確認させられる
どうすることもできない名前はぎりりと唇を噛んだ

鉄の味が口中に広がる。