50 それこそが、真実/不死鳥の騎士団

セブルスが去ったあと、テーブルの上に準備されていた食事をとった
スープがとても温かかった。
翌日から学業に復帰することとなった名前の話はすでに他の寮の生徒にも行きわたっていた
早朝こっそりと自室に戻ろうと談話室に足を入れたとたん、スリザリンの女子生徒達が待ち構えていた。そして大量の花束や手紙を必死に名前に渡しに来た
部屋に入る前からすでに名前の静かに寮に入ってドラコを驚かそう作戦は台無しになってしまい、部屋の入口でドラコから盛大に言葉攻めを受けた

「…ほんとに、心配……したんだぞ」

今まで聞いたことがないような、消え入りそうな声のドラコ
僕はここまでいろんな人に愛されていたのか

涙腺から何かがこみあがってきそうになるのをどうにかこらえ、小さく「ありがとう」と答えた
感動の再開も経て、今朝食をとっていた
先ほどからずっとパンジーがあまり食事をとらない名前をちらちらと不安げに見てくる
サラダがなくなればサラダを取ってくれたし、パンも取ってきてくれた

なんか…至れり尽くせりだな
名前は心の中でつぶやいた

名前の復活の話を早速聞きつけたハリー達は早速名前のもとへと駆け寄った
話をしている間、ドラコの表情は面白いものだった。だって、ずっと眉間にしわを寄せていて……わかりやすいというか、なんというか

「名前…!おかえりなさい!」

「…あぁ」

「お見舞いに行きたかったんだけど…行けなくて、ごめんね」

「気にするなハリー」

「あ、双子たちから名前にってこれ預かってたんだ」

ロンから赤い箱を受け取った
…いかにもという箱

まったく、あの双子は何を考えているやら
とりあえずそれを魔法で小さくし、ポケットにしまった
次の授業は確かハグリッドの授業――――魔法生物学か

名前が現在苦手とする教科の一つだ
予習復習してもどうしてもハグリッドの授業にはついていけない……それに必ず問題が起こる
これが何よりの悩みの種だった。

隣で今ハグリッドをぎらぎらとした瞳で見ているドラコを見てため息を吐いた

「ええか?」

ハグリッドはクラスを見渡してうきうきと言った
ああどうしてこの授業はいつもこんな雰囲気なんだ。僕は勉強がしたいだけなのに…
名前の憂鬱な一時間が始まった

授業を終えた名前はよろよろとベンチに座った
…疲れた
病み上がりなのもあるし、何よりもあの場にアンブリッジがいたことが原因の一つだ
あの人は・・・とことんホグワーツを、ダンブルドアをやっつけるつもりなんだな。正直あの人をどうにかするなんて僕にはできなさそうだ
しかも相変わらずドラコはハリー達にちょっかいを出すという素晴らしい趣味をお持ちで…

今日で何度目かわからない溜息を吐いた

12月に入り、魔法省クリスマスパーティーが着々と近づいてくるにつれ名前の表情は曇ってゆく
それだけじゃない。まだクライヴが目を覚まさないのもその理由の一つだ

…もう、大分経つのか
校長室で目を覚まさないクライヴの隣に花を置き、部屋を後にした
目のクマは無くなったにせよ、まるで死んだように眠るクライヴの姿をずっと見つめることができなかった。母親の最期を連想させてしまうから・・・

事はその日の夜起きた
夢の中でヴォルデモート卿の声が聞こえてきた。その声はとても…とても歓喜に満ちていた
左腕の激痛で真夜中に目覚めさせられた

はぁ…はぁ…

心臓がおかしいほどにバクバクいっている
だけど気分がとてもよかった――――何故だ

名前は隣ですやすやと眠る友を見て再びベッドにもぐった…が、なかなか眠りにつくことができない

翌朝、セブルスに校長室まで連れて行かれて驚くべき話を聞いた

「…Mr.ウィーズリーが?」

「……そうじゃ。レーガン家の者として君は何か感じなかったかね?」

ヴォルデモートとハリーの次に深いかかわりを持つ名前が昨晩何も感じなかったはずがない。ダンブルドアの瞳は鋭かった

「…歓喜していました……とても」

「―――そうか、教えてくれてありがとう」

ダンブルドアはぶつぶつと何かつぶやき、部屋の奥へとはいって行ってしまった
…やはり、ハリーとヴォルデモート卿は繋がっているのか

名前はふだんよりも眉間のしわを多く寄せている父親の後姿を見送って自室へと戻った。部屋に戻るとドラコがねぼけているのか、靴下を裏っかえしで履こうとしていた

「…ドラコ、靴下」

「あ…?おはよう……」

まだ靴下が裏っかえしなのに気付いていないようだ
止めたが相当眠いのか、そのままふらふらと再びベッドにもぐってしまった。

「…やれやれ」

まだ朝食まで余裕がある、寝かせておくか

名前はドラコを置いて読書に耽った。
今日はクリスマスだ とても長くて・・・・憂鬱なクリスマスの始まり

パーティー会場には魔法省の面々がお互いの腹を探り合っている
知り合いの子はドラコ以外いなかった

ドラコがいるだけまだましといえよう…
名前は隣でチェリーを食べているドラコを見た

「…ドラコ、お前を見ているとほっとするよ」

「……どういう意味だよ」

「わかりやすくて。」

「―――つまり僕がすぐに顔に出る単純馬鹿だといいたいのかい?」

「まぁそんなところだ」

ドラコ、お前はいつまでもそのままのドラコでいてくれ

一通りダンスを終え、まだダンスをしている友を横目に早速本来の目的である魔法省の詮索を始めた

「…こんばんわMr.ファッジ。このたびはパーティーに誘ってくださり…」

「おお君は名前君、大分背が高くなったね、ん?」

「…はい」

ファッジは明るく陽気な声でぽんぽんと名前の肩を叩く
隣にはもちろんいやらしい笑みを浮かべたアンブリッジがいる。これから…腹の探り合いが始まる
もちろん、僕が負けるはずはないがな

3人は日常のことや、最近のニュースの話を話した
そして重要な話…ダンブルドアについて早速食いついてきた

「あー、君の学校の校長は最近元気かね?」

「…いいえ、なんだか最近不穏な動きがあるようです」

とたんに二人の表情が変わった
ほうら、食いついてきた
名前は内心ほくそ笑んだ

「…ほう、どんな動きなんだね?」

「それは――――」

パーティーが終わり、その足で騎士団のところに報告すべくポートキーでブラック邸へと向かった
クリスマスの真夜中、もはや日付はクリスマスではなかったがクリスマスツリーがいい感じに装飾され、ようやくクリスマスを感じることができた

静かな広間に足音がこつこつと響く
その音を聞きつけてかクリーチャーが早速やってきた。どこから持ってきたのか知らない御馳走をたくさんかかえ・・・・・

「お坊ちゃま、おかえりなさいませ!嗚呼クリーチャーは名前お坊ちゃまのお顔が見たくて見たくて……!」

おろおろと地にひれ伏すクリーチャーを名前はどうすることもできなかった。とりあえずたくさんの御馳走をテーブルの上に置き、椅子に座ってかぼちゃジュースを飲んだ
ほんとにどこから持ってきたのだろう・・・・まぁまずくはないからいいが

クリーチャーの敬愛の眼差しをずっと受けながら、早く他の団員がやってくることを祈って

「…時にクリーチャー」

「っはい、なんでしょう名前お坊ちゃま!」

「……お前は、血について考えたことはあるか」

「―――クリーチャーめが言えることではありませんが、純血は素晴らしいと思います」

「…わかった」

クリーチャーに聞いた自分が馬鹿だった、と心の中でつぶやいた
そんな答えがほしいんじゃない。ほんとに相手を間違えた

「…名前か?」

「―――シリウス」

久々の友との再会にシリウスの表情は明るくなった
だがシリウスは以前よりも表情を曇らせ、クリスマスに不具合な表情をしていた。名前にはその表情の理由がなんとなくうかがえた
…クライヴが心配なのだろう
きっと騎士団の中にいる人たちではシリウスとクライヴの二人は一番仲がいい。学生時代の時のような感じでいられるからかもしれないけれど、たぶんそれ以上にシリウスにとってクライヴは必要不可欠な人物なのだろう

「…元気か?あいつ」

「……まだ目覚めない」

「―――早くいつものあの馬鹿声が聞きたいな」

「…ほんとだな」

きっとシリウスは、もうこれ以上親友を失いたくないのだろう
だから、人一倍恐れていた――――クライヴがこのまま目覚めないことを

「…やっぱりあのアンブリッジの魂胆はそういうことだったのか」

シッシとクリーチャーを追い払い、近くにいないことを確認して今日の出来事を話し始めた

「あぁ。パーティーにいた魔法省役員の中に数人、ダンブルドア派がいた……」

「―――そうか、それはいい報復だ」

椅子に座っているとシリウスがココアを持ってきてくれた
持ってきてくれたココアは、とても温かかった

「…ハリー達はもう寝たのか」

「あぁ…お前も早く寝たほうがいい………疲れただろ?」

「――あぁ、少しな。寝る前に…アルバムを見せてもらってもいいか?」

新学期が始まる前、ここにいたときにシリウスが昔のアルバムをひとつだけ残してあると教えてくれた。そのアルバムはどうしても捨てられないとかで…
だけど、中身を見る勇気がなく、今度一緒に見てほしいと言われていたのだった

「…悪いな、まだ……その」

シリウスは顔をうつむかせた

「…無理はしなくていい。見れるようになったら言ってくれればそれでいいから…」

部屋を後にする前、シリウスが弱った声でありがとうな、と言ったのを忘れる事ができない
―――きっとあのアルバムの中にはアルベルトと取った写真やジェームズと取った写真……死んでいった大切な人たちとの写真があるのだろう。確かに死んだ者の写真を見るのはつらい。
名前も数年前まではそうだった――――だからシリウスの気持ちは十分わかる

「―――死者は何も語らず、か」

アリスとセブルスと自分との3人で取ったあの思い出の写真を思い出した
写真の向こうで手を振る母親の姿…名前を挟むようにしているセブルス………そして今にも泣きそうな自分の顔

「――――もう泣かない、そう決めたのにな」

名前はひとりごちた。