52 それこそが、真実/不死鳥の騎士団

OWLも落ち着いてできず、結局満足のいくような内容には至らなかった
そして事はテスト中に起きた

ハグリッドを救うべく、駆け付けたマクゴナガルが胸に四本もの失神呪文を受け倒れたのだ。他の生徒もそれを目撃したらしく、今広間ではずっとその話に持ちきりだった
次の試験はなんだったか…そんなことをのんきに考えている暇はなかった

「…ハリー!」

「名前!!君も見ただろ?!」

「…あぁ」

ハリーが心配になってどうにかドラコを捲いてハリーと話をすることができた

「…あの人は人間以外は野蛮だとおもっているからな………それより、ハリー、これからどんな悪夢を見ようと惑わされるな。僕から言えることはこれぐらいだ」

そういい残し、名前は足早にその場を後にした
あまりハリー達と長くいるのはあまりよくない…いや、正しくは今の状態のハリーと一緒にいるのはとても危険なのだ
今や閉心術をあきらめたハリーに、むやみに近づくなんて自殺も同然だ。自分の居所や状況、そしてクライヴの存在をヴォルデモート卿に気付かれかねない
ハリーが閉心術を断念せざる負えなかった理由がどうであれ、セブルスにも非がある。
自分が…開心術さえ使えればハリーの特訓に手伝ってやれたのだが…こうもいろいろ忙しいとそれも出来ない

ただ自分が言えることは、ヴォルデモート卿が見せるまぼろにし惑わされるな、ということ

『…レーガン家の生き残りはどうだ?」

『…はい、魔法省側に今はいるようです』

『ふん……あの小僧は頭がいいからな、流石はレーガン家といったところだろうが……しかしやつを侮ってはならんぞ、やつは父親同様閉心術に長けておる』

ヴォルデモート卿が深いソファに腰をかけ、片手にはスリザリン家のロケットを持っていた

『…あの小僧には何か、不吉なものを感じる……だがあいつを、俺様の最愛の妹をよみがえらせるにはレーガン家の血が必要だ』

『……はい』

『小僧の監視、怠るでないぞ。俺様はそろそろ仕上げ作業に入る――――丁重にもてなさねば、ポッターを』

「――――うっ!」

急に燃えるような熱さが左腕に広がった
頭には先ほどからずっとヴォルデモート卿の会話が鳴り響いている
試験中にも関わらず、名前はその場に倒れこんだ

スリザリンの女子生徒の悲鳴が聞こえた気がしたが…もはやそんなこと、どうだっていい
早く、父上に会わなければ

そして、伝えなくては――――――

ハリーが危険だ、と

教師の止める声も、生徒たちのどよめきの声を無視して名前は地下室に向かって駆けた
今まで走ったことがない速さで…
喉が恐怖でカラカラだ。声もうまくでない

「――――父上!!」

部屋に入ると、セブルスも同様にして腕を抑えソファに寄りかかっていた
額からは脂汗が流れ出ている

「…父上」

「……あぁ、お前もやはり闇の帝王を感じたか…」

「―――ハリーが危ない、今まで以上に…」

「…とりあえずお前もここに座っていなさい…我輩は出かけてくる…いいな、この部屋を一歩も出てはならないぞ」

そういわれ、名前はおとなしくソファに腰をかけた
セブルスが去ってしばらくしても左腕の痛みは消えることなく、じんじんと名前を苦しめていた

しばらくするとセブルスが急いで戻ってきた

「―――大変なことになった。ブラックが闇の帝王に捕まった……だからあの馬鹿は使えない…足手まといだ、実に」

…何だって?

名前はいそいそと準備するセブルスの姿を茫然と見ていることしかできなかった
シリウスが捕まった……?

『シリウスが、死ぬかもしれない』

クライヴからもらった不吉な手紙の内容が繰り返される。

せめて盾の魔法を使ってシリウスを助けることができたかもしれない

でも今の自分に、そんな魔力は残っていなかった
彼らの怪我を治すのにすべて使い果たしてしまったのだった。

ただでさえ薬を飲んで魔力が削られているのだ……名前は己の非力さに悔しさの涙を流した

「あいつがシリウスを殺した、あいつを殺してやる!」

今や昔の面影の残らないベラトリックスに向かって殺気を放つハリー
名前はその様子をただ、みていることしかできない

下手に外には出れない…

それに、体が思うように動かなかった
名前はそこで意識を失った

「―――――トム、久しぶりだな」

「…クライヴ!なぜ貴様が…・・・・・」

「殺しそびれて残念だったな、ほんと、俺の青春返せっての」

「―――わしもおるぞ」

今、この強力な魔力を持つ三人が互いにぴりぴりと静かな殺気を放って立っている

「…ふん、しかし貴様らの命日も今日までだ――――死ね!」

緑の閃光、赤い閃光、黄色い閃光が爆音を立ててぶつかり合う
若干黄色い閃光が負けている…クライヴにまだ覚悟が決まっていない証拠だった

「―――クライヴ、貴様は昔からそうだった、その甘さが、己の身を滅ぼすぞ!」

高らかに笑うヴォルデモートをクライヴはつらそうな表情でにらむ
心からは血の涙が流れているに違いない
クライヴは・・・親友二人も無くしてしまったのだから―――――

「覚悟が決まっていないようだな、クライヴ。それごときでは俺様は殺せない!」

「―――クライヴ、覚悟を決めるのじゃ」

「…っぐ、そんなこと、わかって、る―――!」

あいつにも言われたけれども
いざこうして対峙してみると―――――キツい

トムがこんなにも変わり果ててしまったなんて
昔のトムはいないのか――――?

ちらちらと、昔のお前を感じてしまうのはなぜなんだ
わざとか…?やめてくれ、覚悟が緩んでしまうから

お願いだから

そんな切なそうな表情で

俺を

見ないでくれ

赤い閃光がぐんぐんと緑色の閃光を追い負かしていく

光の中で昔、平和だったあの時代が蘇る

『今度俺の家に来いよ、古い文献見せてやるよ』

『…あぁ、楽しみにしているよ。君を朝起こす仕事、夏休みもしなくちゃならないなんてね…』

『よろしくトム!俺低血圧なんだって』

『―――ただのねぼすけだろ、君は』

赤い眼を細めて笑うトム
外でかぶってる仮面の笑顔じゃなくて、本当のトムの笑顔―――…
それを知ってるのは、俺とお前の妹ぐらいだったんだよな

お前は言ったよな
将来、ともに歩んで行こうって

いつまでも、親友でいようって

漏れ鍋で、またかぼちゃスープを飲もうなって
あそこのいもりのリゾットを早食いしようなって

たくさん

たくさん

夢を語ったよな。
次の瞬間、ヴォルデモートがこの場から逃げた
クライヴが覚悟さえ決めていればヴォルデモートの脱出を阻止できたかもしれない…
だけど、今、床に崩れ落ちているクライヴにそんなことができただろうか

ダンブルドアはクライヴの背中をやさしくたたき、苦しそうにほほ笑んだ

「…クライヴ、よく頑張ったの…」

「―――――」

悲しすぎて、涙さえも流れてこなかった
悲しみが一気に押し寄せすぎた
あまりにも変わり果てた姿のトム、その眼にはちらほらとトムの心が見え隠れしていて。
シリウスを殺したトム。
だけど、胸に渦巻くのは憎しみじゃなくて
底なしの悲しみと虚しさだけ。

シリウスのいない騎士団の本部で、クライヴは一人シリウスの部屋に閉じこもりっきりだった。誰もクライヴを止めやしなかった。

彼の背中がすべてを物語っていたから。

「…クライヴ、ここに朝食置いておくからな」

いつしかシリウスの部屋が作業場と変わった日、名前はここに1週間ぶりに訪れた
学校も終わり、今は夏休みだ。

「…ありがとう」

喉が掠れている。
もう声を出すことすら難しそうだ。

「―――シリウスがな、アルバムを一緒に見てほしいと言っていたんだ……」

名前はシリウスが大切にしまっておいたアルバムをクライヴに手渡した

「…怖いから、見れないと言っていた。クライヴ、シリウスの代わりに見てやってほしい………」

まだシリウスの匂いがするそのアルバムは
あの悲しみを思い起こさせるには十分すぎた

「―――――馬鹿黒わんこ」

アルバムの中ではジェームズ達と一緒に笑いあうシリウス、そして…

あの、全員で取った写真が…
こちらに向かって
手を振っていて

今にも鮮明に思い出せる
過去の世界へ行った時のこと

シリウスがまだ自分と同じ年くらいで、馬鹿なことばかりやってて
父上と僕にちょっかいばかり出してて

「―――外、雨降ってるな」

「…あぁ」

窓に顔を向けるクライヴ

雨なんか降っていないのに

だけど僕は何も言わなかった
ただ、そうだな、と短く答えただけ

クライヴの頬からは一筋の涙が流れていた。

『名前…どうしたの?元気がないわ』

夏休みに一昨年知り合ったガブリエルが遊びに来ていた
どうしてだろうか、彼女が無性に恋しくなるのは

『……胸が、苦しいんだ。何も言えないけれど――――』

『…名前』

ガブリエルは名前をやさしく抱きしめる
細い腕が名前の腰に触れる

ガブリエルはとても柔らかくて…

とても、いいにおいだった

『…辛い思いをしている貴方を思うと、わたしも辛くなります。こうして、貴方の心の痛みを和らげることができれば…』

彼女の頬は涙で濡れていた
きっと僕の代わりに泣いてくれてるんだろう

『…ありがとう、ガブリエル』

貴女が、いつまでも僕の側からいなくなりませんように。