49 それこそが、真実/不死鳥の騎士団

「…その監督生は、酷くマグルが嫌いで………一部の人からはこう呼ばれてたんだ、『闇の帝王』って」

ああどうかこれが嘘でありますように。
妙な胸騒ぎがしてならない

ダンブルドアは心を落ち着かせるために紅茶を一口含んだ。
しかし不安の種が解消される訳ではなく…
そんなの、ただのその場しのぎにしかならないのだ。

さて、どうしたらいいか…
どうしたら――――――

そんなときだった

・・・・せんせい

聞こえてきた、1年前、頻繁に出てきたあの子の声が・・・

・・・・きこえる?偏屈じじい

「おぉ……その声は…・・・・・・・・今、君の声が聞こえることが何よりの支えじゃ…今こそ君の力が必要じゃ…わしらに力を貸してくれんかの?」

・・・・だーめ

「…お願いじゃ、この偏屈じじいの最後の願いじゃ………」

・・・・兄貴は最後まで己を貫き通すよ、絶対光になんかに屈しないと思う。あんたが何をやっても無駄…ただあんたのできることは、兄貴の手から子供たちを守る、それだけ

「…どうにかならんのかね………君の力が、どうしても…どうしても必要じゃ。なんならわしのこの命をささげてもいい」

・・・・いらないよ、あんたの魂なんて。それにあたしは今実体すらない…この意思もいつかはあんたたちに聞こえなくなっちゃうし………あんたの指図は受けない、己の意思で行動する」

「…そうか、わかった。じゃが最後に教えてくれんかの………トムの心は生きておるかの?」

・・・・じゃぁね、アルバス

沈黙の返事…ああつまりそういうこと
声が聞こえなくなって一段と静かになった部屋で短く不死鳥が鳴いた

「…そうか、まだトムが存在しておったか………クライヴには辛いもんじゃ…心さえ死んでいれば彼とて覚悟は決められる…しかし、まだトムがヴォルデモートの中に存在し続けている限り、クライヴは彼に杖ひとつさえ向けることはできんじゃろうて」

憂いの篩に再び杖を向け、ダンブルドアは記憶の世界へと飛んで行った
そこにはとある一軒の古い屋敷

庭には…

『…クライヴ、君は一体どうするんだい?将来…』

『俺の将来?どうせ家を継ぐんだろ…でも俺、正直このあと何十年もこの悪夢に耐えられるかわからねぇ…』

庭にいるのはまだ14歳の少年2人。
1人は赤い眼で黒髪のハンサムな少年―――――トムだ
その隣でスケッチブックを片手になにやら書いている少年は…幼き日のクライヴ。

『……クライヴ』

『ほんとさ、学校じゃ悩みとか一切無さそうにみえるみてーだけど……正直むかつくんだよな、お前ってほんと悩みとかなさそうでいいなとかいう発言。なにあれ?死んじゃえば?』

『……グリフィンドールの5年生、ジャーニー・ハイソンだな。穢れた血の癖に…』

『…おい、その言い方やめろよ。確かにあいつはいろんな意味で穢れてるんだろーけど…。ところで、あいつは元気か?』

『君は由緒正しい家柄なんだ…、マグルと付き合うのはどうかと思うぞ』

『おい俺の重要な話はスルーかよ』

『当たり前だ、君のことは大親友だと思っている。しかしこればかりは別だ…妹はお前にやらん』

『おい、大切にするからさぁ…俺ほんとあいつのことが好きで好きで仕方がないんだ』

『無理な願いだね。妹は僕にとっての宝だ、命よりも大切なのに君にやれるものか』

『・・・・まぁいいさ、実力で振り向かせてやる!覚悟しろよ!』

『まぁ存分に足掻くといいさ。あの子は僕に似て気難しい子だからね…利用されないように』

『ふん!宣戦布告だ!』

最後にはお互い笑いあって記憶がフェードアウトしてゆく
トムにも…ヴォルデモートにもあんな時代があったのだ。ダンブルドアはゆっくりと立ち上がった。次の記憶はどうやらゴーント家の記憶のようだ

『レーガン家も落ちぶれた…我らと手を組まない、そう言い放った。』

『…いずれこうなるとおもっとってたわい』

豪華な食卓で、数人の男たちがチキンを憎々しげにかみしめながら話していた。婦人の肌の色は悪く、当主の顔はもっと残忍な顔だった。どうして顔に栄養がいきわたらなかったのだろうと言えば失礼になるが、この家の性格みたいなものがきっと顔に出てきてしまっているのだろう

『レーガン家…まったく、困ったものだ。いかにして対処しようか…』

『だいじょうぶじゃ、あの家はいずれ滅びる…近いうちにな。初代当主のバカな行いのおかげであそこの家は滅亡じゃ……じゃが、旧家が消えてゆくのはどことなくさびしいものじゃ…。』

『…仕方がない。それがやつらの選んだ道ならば』

『それもそうじゃな。そういえば…知ってたか?クライヴ・レーガンを…初代当主と同じ名前を付けられた長男坊を』

『おお、知っている。そやつが何か?』

『そ奴の弟……ギリー・レーガンは幼いが話のわかる奴のようじゃ』

『ほう…ギリー・レーガンか……。』

ギリー・レーガン…つまり、名前の祖父にあたる人物、クライヴの実の弟だった。クライヴの弟のギリーは闇の魔術にとても関心があったことでも有名だったし、魔法律でも彼が提案した法律がいまだにいくつかのこっている。それも純血贔屓の…

純血思想の魔法使いは未だに多くいる。その大半は魔法省に努めているのだから、魔法省がレーガン家を崇拝するのも無理はない
ギリーは社交的で、人当たりも良く誰からも信頼されていた男だったが、家族だけになると態度が一変するのだ。
子供に対する愛情表現が一切なかった。時渡り人の息子が生まれた時もヴォルデモート卿に睨まれるのを恐れてマグルの家に隠しただけのことであって、愛情故の行動ではない

この時、クライヴが16歳でギリーが14歳の頃だろうか…
この頃からあの二人はすれ違い始めていた――――

トムとクライヴがお互い、正反対の道を歩み始めた時だった。
ここは・・・どこだ・・・・・・
クライヴはいつもの悪夢のあと、急にまっくらな空間に放り出されてしまった

天国か?それとも――――

「キリクちゅあんの精神の世界へようこそ~」

クライヴは耳を疑った
この声は・・・ずっと聞きたかったあの人の声だ

「…お、お前…ほんとうにキリクなのか――――?」

「そうにきまってるじゃん、何言ってんの、相変わらずあんたってキモい男だね。」

「き、キモいってお前――――――それより、どうしてお前がここに…俺はどうしたんだ…?」

「あんた、意識失ってるんだよ、相当長い時間ね。夢の世界と現実は時差が激しいからね…ま、あたしが言いたいのはそういうことじゃないって」

「…キリク、会いたかった、愛してる」

「キモい」

「―――じゃぁ、なんのためにお前は・・・お前は確か…死んだんじゃ……」

「確かに死んだけど。だけどこうして戻ってきた……使命のために」

「…使命とか、お前に似合わねぇな」

「うるさいよ変人」

俺はどうしてもこの現実を受け入れることができなかった
禁断の魔法を使って死んだ彼女は現在、精神だけ存在・・・つまり魂だけの存在なのだという
自分は重大な使命を背負ってここに戻ってきたと教えてくれたが…重大な使命、きっとあのことぐらいしかないだろう

「・・・この戦争、いいや、この決着、いつつくんだ?」

「・・・もうすぐ。そうだね、あと数年すれば―――それには大きな犠牲が必要。でもその犠牲を払えば、レーガン家も呪縛から解き放たれ、
あの少年も普通の少年に戻る。満月になっても魔力の影響で蛇に変身しなくなるし、左目も治る」

それは神からの救いの手だった
クライヴはまだその大きな犠牲が何なのかを知らなかった。だからかもしれない

「犠牲か……その犠牲って何なんだ?」

「…まだ言えない。ただ一つだけ言えることはある――――兄貴をあの沼からすくい上げることができるのはアンタとあたししかいない」

「……俺と、お前…」

「…アルバス・ダンブルドアでも、ハリー・ポッターでもない」

沈黙が続く
いつまで続くのかわからないけれども

声が、出なかった

「アンタが――――兄貴を殺すの」

「…トムを――――」

トムを

己の手で

なんとなく、頭の隅にはちゃんと入れていたはずなのにいざいわれると…
親友を殺すのだ、今や昔の面影が全くなかったとしても――――大切な人を己の手で殺めなくてはならないのだ

「…アンタにしかできない………いや、アンタだからこそお願いするわ・・・兄貴をすくってあげて」

頭を鈍器で叩かれたかのように、頭の中にはゴーンゴーンという音が鳴り響いている
もう何も考えられない。

親友を殺す、いざ現実に直面してみるとそう簡単にはいかない
言葉では言えたとしても――――俺は、俺はトムを殺すことができるのだろうか…

「…もう時間がないの。兄貴の心は生きている」

「――――ッ!!」

一番苦しい言葉だった

「アンタをまだ、心の奥底では親友だと思っている」

「――――俺、は・・・」

言葉がうまく出てこない
今彼女はなんと言った?トムの心が…生きている、と?

クライヴは絶望に打ちひしがれた
心が…まだあの頃の心が残っている親友を――――殺めなくてはならないなんて
あの頃の心が死んでいるのならまだ決意がつく。でも…

「―――苦しいよね、辛いよね」

そっとクライヴの頬に触れる…いや、たぶん触れているのだろう
目では彼女の手が見えるのに、実際は何も感じない

だけどそんなことを考えている余裕は今のクライヴにはなかった。

喉がやけに渇いてて、
無性にシリウス達と会いたくなった

なぜだろう

「決着をつける時はあたしも手助けしてあげる……その時は――――」

現実に引き戻されるとき、彼女の口からは驚くべき言葉が発せられた
俺はそのまま光の中へと吸い込まれていった。
ぐわんぐわんと頭が揺れる
だ・・・誰だ?

「名前…!」

「―――父上」

いつの間にかにベッドに眠らされていた。つまり、それほど長く眠っていたということ

「…馬鹿者」

「…」

「馬鹿者」

父上の馬鹿者という言葉はいつも暖かい。貶してるわけじゃないことぐらい、息子なんだからわかる。
セブルスの不器用な優しさが心にしみわたる

父上の言葉が何よりの特効薬だ
そう、ここに入学してから・・・何度父上の言葉を支えにしただろうか

「……うえ」

喉がやけにカラカラだった
声がかすれる
たぶん、それだけじゃない

「…闇の力が………レーガン家の呪が…」

レーガン家とゴーント家の血のつながりは深い
ヴォルデモート卿が力を増してることぐらい闇の印に頼らずともわかっていたことだけれども…

「父上も―――どうか無理をなさらないでください」

最近セブルスが闇のほうの密偵で慌ただしく動き回っていることも知っていたし、前より随分痩せたことも知ってた。

「…クライヴが倒れた、お前が倒れたのとほぼ同時だろう」

…クライヴも?
名前はセブルスの話を静かに聞いた

「…まだ校長室で眠っている。ダンブルドアが最善を尽くしているから平気だろうが……」

「……。」

クライヴは倒れてから1週間、目を覚まさないらしい
日々の疲れが溜まっているのもあるのだろうが、それ以上にヴォルデモート卿の存在が彼に影響を与えていた
名前は知っている。クライヴとヴォルデモート卿…トム・リドルが親友同士なのを

辛いだろうな…

「それと、新しい薬ができた。しかしこの薬はお前の体に大きな負担をかける…」

「…」

それは100も承知だ
闇の時代が訪れる、闇から大切な人を守れるだけの力がほしい
そのためには…このリスクの高い薬を飲み続けるしか他ならないのだ。

「以前より眠気は少ないだろうがその分、時々魔法が使えなくなる」

それは魔法使いにとって大きな痛手だ
薬の飲み方を教わり、薬の瓶を受け取る

…以前より不気味な色になったな
薬は真赤でまるで血のようだった。でもそんなわがままは言っていられない
脱狼薬よりもひどいその薬をぐびりと飲み干した

…味は、言うまでもない

左目の赤みは無くなり普段の色に戻っていた

「…警戒を怠るな。それと、魔法省からお前に手紙が届いている」

「…これは」

それは、魔法省大臣ファッジからの直々のクリスマスパーティーのお誘いの手紙だった
きっとダンブルドアの腹を探ろうと必死なのだろう。名前はため息をついた

「…がんばります」

「―――お前に大人の魔法使いがやるような仕事をさせてすまないと思っている……だが、お前が一番最適なのだ」

魔法省のスパイをするには

セブルスはカタンとイスからたった

「…無力ですが、尽力をします」

「…すまない」

自分の背に近くなった息子の頭をやさしく撫でた。