そのおかげか、蜘蛛はようやく苦痛から開放され、ムーディの手の平で伸びていた。
あたりがシーンとなる。みんなの視線が意外な音の元凶の人物に向かっていた
「―――スネイプ、何がいいたいんだ、あ?」
「―――・・・いいえ何も」
胸のムカムカが絶好調に達した。
「・・・あとで教室に残れ。では続ける。『磔の呪文』が使えれば、拷問に『親指締め』もナイフも必要ない・・・これも、かつて盛んに使われた。では他の呪文を何か――――スネイプ、答えろ」
ムーディはひん曲がった口をさらにひん曲げてにんまりと笑った。
―――嫌な笑いだ
「アバダ ケダブラ――――死の呪文」
「そうだ。最後にして最悪の呪文。『アバダ ケダブラ』・・・・・・死の呪いだ」
ガラス瓶に手をつっこみ、蜘蛛をひっつかまえた。何をするのか察してかは知らないが、蜘蛛は必死に――――命のともし火を守るように逃げようとした
―――哀れな蜘蛛・・・お前は何のために生まれてきたのだろうな・・・・・・子孫を残すために生まれたのに・・・ここでお前の命が消えようとしている。しかし僕は何もすることができない・・・・・・・・・・・・
名前は一瞬にして殺された蜘蛛に心の中で追悼した。そして再びムーディを見上げると此方をみて微笑んでいた
「よくない。気持ちのよいものではない、しかも反対呪文は存在しない。防ぎ様がない。これを受けて生き残ったものは――――ただ1人。わしの目の前に座っている」
ムーディはそれを言うためにわざわざハリーの側までやってきたのだ。ハリーだって望んで闇の帝王の呪文を跳ね除けたのではないのだから――――
こいつが、死ねばいいのに
自分が一瞬そんな考え方をしてしまったことに驚いていた。着実に闇が身に染まりつつあることを改めて感じた
「『アバダ ケダブラ』の呪いには強力な魔力が必要だ――――おまえたちがこぞって杖を取り出し、わしに向けてこの呪文を唱えたところで、わしに鼻血さえ 出させる事ができるものか。しかしそんなことはどうでもよい。わしはおまえたちにそのやり方を教えにきているわけではない」
再びムーディと目が合うと、意味深に笑った。嗚呼、こいつを今無性に殺してやりたい
そんな考えを頭の隅から無理やり振り払うと先ほどのショックから抜け出せていないネビルを発見した
―――可哀想なネビル、そしてハリーも・・・。どうしてこうも世の中は悲しみだらけなのだろうか
「さて・・・・・・この三つの呪文だが―――『アバダ ケダブラ』、『服従の呪文』、『磔の呪文』―――これらは『許されざる呪文』と呼ばれる。同類であ るヒトに対してこのうちのどれかを1つ呪いをかけるだけでアズカバンで終身刑を受けるに値する。おまえたちが立ち向かうのはそういうものなのだ。そういう ものに対しての戦い方を、わしはおまえたちに教えなければならない。備えが必要だ。武装が必要だ。しかし、何よりもまず、常に、絶えず、警戒することの訓 練が必要だ。羽ペンを出せ・・・・・・これを書き取れ」
ムーディの言葉には実に深い含みがあった。
“常に、絶えず、警戒”――――自分そのものに警戒せよということなのだろうか。ムーディが警戒するにあたる人物である事は明白だった。それも、名前にとっては・・・だが
今までこんなにも生々しい防衛術を学んだ事がなかったほかの生徒は、きっとムーディを尊敬しているに違いない。外見は別にして・・・
授業が終わった時、名前は言われたように教室に残った。何を言われるのだろうか――――早く帰りたい、早く安全な場所へ行きたい
「―――スネイプ、腕を見せろ」
「――――ッ!」
「・・・ダンブルドアからは聞いている。腕を見せろといったのだ」
名前は回りに生徒がいないのを確認し、恐る恐る包帯を取り、左腕を曝した
「ふむ――――――・・・ほう・・・この印は・・・・」
ムーディは名前の腕をむんずと掴む。急に来た痛みで顔を歪ませるがそんなのお構いなしだというように、腕を引き寄せまじまじと見た
「――――ふ、もういい。」
「――――」
すぐさま包帯を巻いた。この男に左腕の印を見られることが非常に屈辱的なものだと感じたからだ。それにしても何故ここまでしなければならないのだろうか――――まるで、印を確認しているかのようにも見えた
「この印を、教師以外の者に絶対見られてはならないぞ――――特に、イゴール・カルカロフには」
まさかムーディもセブルスと同じ事言うとは思わなかった。意外な発言に目を丸くしていると、ムーディは面白そうに笑った
「・・・おまえの父親が元死喰い人だということも知っておる。息子のお前にも付いていると気付けばすぐさまお前に付けこんでくるだろう・・・・・・あいつは薄汚い卑怯者の男だ、油断大敵!」
「・・・」
この男は一体どこまで知っているのだろうか。名前は身震いした
「おまえのその印は特別なものだ――――」
「・・・何故分かるんですか」
「わしはそれと同じ印のついた”お方”を見たことがある」
「――――!それは一体・・・」
「名前はわからない。しかしそのお方もとある方のかけがえの無い存在だった・・・・・・わしが言えるのはここまでだ」
そう言うと名前を次の授業へ向かうように言った。最後の言葉がどうしても引っかかっていた。この印と同じ印をつけられた人物――――・・・この印は特別な人物につけられるのだろうか・・・。しかし一体誰の?
考えても考えても答えは導き出せなかった。最近は色々と謎ばかり頭の中で蠢いている。1つでもすっきりすれば勉強も集中してできるのだろうか、薬の副作用と解明されない謎ばかりあるせいか最近は勉強に全く集中できないでいた
数占い学ではつい眠りそうになってしまったし、割と得意な魔法史でさえもなかなか頭に入っていかずじまいだった
「はぁ・・・・・・」
今年は災難な年だ。名前は今までに無い不吉な予感を胸に抱き寮へと戻って行った。
レーガン家の事についていろいろ調べた。そしてついにそれらしき資料を見つけることができた。ダンブルドアやダンブルドアの部屋にある本からこれらの情報は手に入った。禁書の棚にすらなかったのだ。レーガン家とはそれほど特殊な家系なのだとすぐわかった
10章 レーガン家について
レーガン家とは、サラザールスリザリンの血を引く稀少な一族だ。ゴーント家とは深く関わり合いが昔からあったものの、近代ではバラバラに。
レーガン家初代当主、クライヴ・S・レーガンはサラザール・スリザリンの孫にあたる。後に彼独自の“禁断の魔法”と呼ばれるものを使うが、それのせいで レーガン家は一生解けぬ呪に蝕まれることとなった。一人の女性を蘇らせようと“禁断の魔法”を使ったのはいいものの、彼女の心は甦らず、結局数日後何も食 事もせず死亡してしまった。彼女は最後、ひたすら「消えたい」と言っていたという。クライヴは女性が死んでしまったショックと、一族を巻き込むほどの強大 な魔法が失敗してしまった絶望感で自殺してしまった。
彼の断末魔が未だに一族を死に追いやるという。その呪いを受け継いだ稀なる者は必ずどちらかの目が赤くなっており、死を予期することができる。
また、一族の中でもその呪いに対しての抵抗力が強い者が極稀に生まれることがある。魔力は一般の魔法使いたちよりも高く、特殊な力を持っている。時を渡れ る能力とサラザールスリザリンの血筋のものを滅ぼす力だ。サラザールスリザリンの血を色濃く継ぐ者にしか効果はないが、スリザリン家はそんな力を持つレー ガン家を恐れた。
「――――――そんな…」
信じたくなかった。自分の死が以外と身近なところにあったなんて。
だからマリシア叔母様は死んでしまったのだ。この呪いのせいで。だから母上は死んでしまったのだ――――――…この呪いのせいで。
初代当主は愛する女性を蘇生させようと“禁断の魔法”を使った。しかしそれはあっけなく失敗に終わり、後世にもわたるほどの代償を残して自殺した―――――
なんて自己中な人間なのだろう。名前は苛立ちを我慢できず、爪で机の上を引っ掻いた
一度死んだ者は―――――決して蘇りやしないのに。そんなこと、彼だってわかっているはずだ。
本にはまだ続きがあった。
彼らの歴史を知り、その力を利用する者たちが現れるのを恐れてスリザリン家は彼らが記載されている書物すべてを焼き尽くし、外に出回ることを固く禁じた。 この本はレーガン家の外れ者、クライヴが書いたものである。初代当主と同じ名前なんて、実に不吉だと思う。しかし私はレーガン家の真実をここに記そう。 レーガン家がたどってきた歴史を残すためにも…
「なんだと…クライヴだと?!」
あの不思議な女性の出てくる夢に幾度か登場した名前――――――クライヴ
もしかしたら、この人はハグリッドが言っていた変人クライヴのことなのかもしれない。
名前ははっとして羊皮紙を取り出した。そして羽ペンを急いで走らせ、息をのんだ
「――――――つながった」
真実は、繋がった。
ようやく一つの糸で――――――
「あの女性は―――――ヴォルデモート卿の妹。」
もしかしたら、その女性のことをダンブルドアはよく知っているのかもしれない。これは後で必ず聞きに行かなければ…
名前は再びガシガシと羽を走らせ、今まで知ったことをまとめあげた。そして核心にようやくたどり着いたのだった…
夢の中でしか見たことはないが、黒髪で赤目の少年はおそらく若い時のヴォルデモート卿……トム・マールヴォロ・リドルに違いない。彼の妹の名前は残念ながらわからないが彼にとってかけがえのない存在なのは確かだろう。
名前は急いで校長室へと駆け込んだ。それを予期していたのだろうか、ダンブルドアが紅茶を用意して待っていた
「…もうすぐ来る頃じゃろうと思ってたわい……君は賢い子じゃからの――――気づいてしまったのじゃな、呪の原因、そしてあの子のことも―――――」
「…校長先生は僕があの女性の夢をよく見ることを知っていたんですか…?」
「わしの夢にもよく出てくるからのう……最近は特に」
「!!」
これには名前も驚いた。まさかダンブルドアの夢にも彼女が現れていたなんて
もっと早くからダンブルドアを頼ればよかったのだ。彼が教えてくれなかったのはきっとなんんらかの複雑な理由があるからなのだろう
「…あの子は……兄が戻ってきたと、近い未来…完璧に力を取り戻すと教えてくれたのじゃ」
「!…そ、それは――――」
「君の印も、セブルスの印もじきにもっと色濃くなるじゃろう……」
それはなんとなく察しが付いていた。クィディッチ・ワールドカップに現れたあの闇の印を見てからずっと思っていたことだ。しかし名前はそれよりももっと気になっていることがあった
「彼女の名前は…」
この質問にダンブルドアはうーんと唸った。
「この質問はちと難しいのう…わしも…そしておそらくヴォルデモート卿ですらあの子の名前を呼ぶことは不可能じゃろうて……」
結局ダンブルドアは何も教えてくれなかった。彼女の名前は自分でさえも言えないのだという。いったいどういうことなのだろうか…
校長室を出ていく際に、ダンブルドアに声をかけられた
「―――名前、名前というのはとても大切なものじゃ……もしかしたら、命の次に大切なものかもしれん」
いったいダンブルドアは何を言いたいのだろうか…
最後の意味深な言葉が夕食中も頭の中をぐるぐると泳ぎ回っていた。そんな名前をドラコは不思議そうに見ていた
「あ」
「どうしたんだ名前?」
ここで重要なことを思い出した。まだクライヴのことについてなにも聞いていなかったのだ。ついつい声に漏らしてしまったことを少し恥じた
「いや…なんでもない」
先ほどのことを誤魔化すかのように、ポテトサラダを口いっぱいにいれた。
今日はムーディの授業があって憂鬱だったが、すべての謎が確信に近付いてきたのもあって今日は機嫌が良かった
そんな朝、名前のもとへ一通の手紙が届いた。差出人はシリウスからで、最近のハリーの傷が痛み始めたということと、心配なのでハリーの様子を定期的に手紙で書いて送ってほしいとのことだ。
……これではまるでストーカーだ。シリウス、親ばかにもほどがあるぞ―――――
シリウスの親ばかさを少しほほ笑ましく思った。しかしそんな穏やかな時間も、ムーディの授業によって無残にもかき消されてしまった
授業が終わったとき、ムーディの背中を睨みつけたのは言うまでもない
「おい名前、もうすぐで来るな…」
何が?とは決して言わないが急に話を切り出してきたドラコに驚いた
「―――ほら、例のあれ」
「あぁ、それか」
つまりドラコが言いたいことは――――外国の学校の生徒がホグワーツに、ビクトール・クラムがホグワーツに来るということをいいたのだろう。ドラコはクラムの話になるとやけに息を荒げて話す。もちろん、それは名前の前だからこそなのだが…
最近は四六時中ドラコがクラムの話をしているような気がする。そこまで好きなのならば、ファンレターでも出せばいいのに。しかしそれは貴族であるドラコのプライドが許さないのだろう。