35 それこそが、真実/炎のゴブレッド

組み分け儀式も終わり、生徒たちが一斉に食事を始めた。なかなかフォークを進めることができないでいる名前をドラコは隣でとても心配していた

「みんなよく食べ、よく飲んだことじゃろう。いくつか知らせがある。もう一度耳を傾けてもらおうかの」

ダンブルドアが今年から追加された場内持込禁止の品々を読み上げると、毎年恒例の生徒立ち入り禁止の森や、ホグズミードの説明をした

「寮対抗クィディッチ試合は今年は取りやめじゃ。これを知らせるのはわしの辛い役目での」

今年、ここホグワーツで三大魔法学校対抗試合が行われる事を知らない生徒たちは悲鳴に似たような声を上げた。隣にいるドラコはそんな生徒たちをフッと鼻で笑った

しかし丁度そのとき、耳を劈く雷鳴とともに、大広間の扉がバタンと開いた

―――ズキンッ

大広間へ入ってきた一人の男からはなにやら物凄く嫌なものを感じた。気のせいだろうか、左腕と左眼が痛んだ気がした

「闇の魔術に対する防衛術の新しい先生をご紹介しよう――――ムーディ先生です」

静まり返った広間の中、ダンブルドアの明るい声が響いた

「・・・マッド-アイ・ムーディ、闇払いのか・・・?」

名前が小さくつぶやいた。

周りはムーディの不気味なありさまに呪縛されたかのように、ただじっとムーディのほうを見つめるばかりだった

「先ほど言いかけていたのじゃが、これから数ヶ月にわたり、我が校は、まことに心躍るイベントを主催するという光栄に浴する。この催しはここ百年以上行われていない。この開催を発表するのは、わしとしても大いにうれしい。今年、ホグワーツで、三大魔法学校対抗試合を行う」
「ご冗談でしょう!」

フレッドが大声をあげた。ムーディが到着してからずっと大広間に張り詰めていた緊張が、急に解けた。ほとんど全員が笑い出し、ダンブルドアも絶妙の掛け声を楽しむように、フォッフォッフォと笑った

「Mr.ウィーズリー、わしは消して冗談など言っておらんよ」

するとダンブルドアは三大魔法学校対抗試合のことについて説明し始めた。賞金一千ガリオンと聞いた生徒達は物凄い勢いで沸きあがった

しかし、17歳以上の者しか代表候補として名乗りをあげることが出来ないと説明したとたん、ダンブルドアへのブーイングが次々に聞こえてきた。勿論隣のドラコもがっかりしているようだが・・・

一通り説明も終わり、生徒たちは就寝すべく各自の寮へと戻っていく。名前は途中、セブルスに呼ばれてしまったのでドラコに先に帰っておいてもらった

「・・・左のほうは平気か」

「はい、今は」

「そうか・・・ならいい。身体に少しでも変わったようなことがあればすぐ我輩のところへ来なさい。我輩がいなければ校長の元へと行くんだ」
「はい」

セブルスは名前が寮に入っていくまで、我が子の背中をずっと心配そうに見ていた。
新学期早々、ハグリッドの授業ではまた何かありそうで心配でならなかった。今度は尻尾爆発スクリュートとかいう生物を育てるのだとか

「それで、なぜわれわれがそんなのを育てなきゃならないのでしょうねぇ?つまり、こいつらははんの役に立つのだろう?」

今回ばかりはドラコの言う事こそがごもっともだと思った。一体この奇妙な生物を育てて何になるのだというのだろうか――――つくづくハグリッドの過激な授業はよく分からなかった

結局ハグリッドの授業は無駄に体力を消費して終わった。
数占い学の授業中、名前はぼんやりのあの女性の声を思い出していた

・・・レーガン家初代当主は一体どんな禁忌を犯してしまったのだろうか。もしかして、マリシア叔母様が亡くなってしまったのもそれと関連しているのか――――?

だんだん確信に近づいているような気がした。今日から図書館にこもって調べることにした名前は、授業が終わったとたん禁書の棚に入るためにセブルスの元へ向かい、許可書を貰った

「あの顔つきはなんだい?鼻の下に糞でもぶら下げているみたいだ。いつもあんな顔をしているのかい?それとも単に君がぶら下がっていたからなのかい?」

ハリーの声が向こう側から聞こえてきた。何事だろうと思い駆けつけるとドラコと言い争いをしているようだった。まぁいつものことだろうが・・・
「僕の母上を侮辱するな、ポッター!」

6人はあまりにもカッカしているのか、やってきた名前の気配にも気付いていないようだ。

「それならその減らず口を閉じておけ」

バーン!

ドラコがハリーに向かって呪いをかけた。しかし的が外れ、頬をかすめるだけだった
二つ目の音がしたとたん、ドラコは白い毛長イタチに姿を変えられていた

―――マッド-アイ・ムーディ

ムーディが卑劣な真似をしたドラコに呪いをかけたのだった。ムーディのいい噂は聞いたことがなかった。名前はドラコを守るべくドラコをひょいと拾い上げると抱きかかえるようにして守った。
急に名前が現れたことにハリーやゴイル達は驚いていたが、ロンはドラコを守るかのようにして抱きかかえた名前を不満げに見つめた

「触るな!」

ムーディが名前に向かって唸ると、名前も負けじとムーディを睨んだ

「・・・あなたの良い噂は聞いていませんので。」

「―――貴様は・・・スネイプの1人息子か・・・・・・・」

「・・・」

今度は名前を不気味な義眼でぎょろりと見た

「お前の父親の過去はわしがよく知っている・・・・・そしてお前の”腕”のことも」

「―――だから、何だというんですか」

ツーと冷や汗が流れる。ホグワーツの教師陣は名前に闇の印がついていることを知っているのだ。もちろんこのことはトップシークレットだったし、まさかムーディがそのことについて触れるとは思っても見なかった
「ムーディ!何をなさっているのですか」

タイミングよくマクゴナガルが現れた。
今、名前にとってマクゴナガルは砂漠にあるオアシスよのうにも感じられた

「教育だ」

マクゴナガルは名前が抱きかかえている毛長イタチと化したドラコを見ると叫んだ

「教―――ムーディ、これは生徒なのですか?」

「さよう!」

「そんな!」

急いでドラコを元に戻し、マクゴナガルはムーディを叱咤した。

「ムーディ!本校では居残り罰を与えるだけです!さもなければ規則破りの生徒が属する寮の寮監に話をします」

「それではそうするとしよう」

ドラコは憎しみと屈辱で薄青い目をぎらっと光らせてムーディを見上げ「父上に言ってやる・・・そうすればお前はすぐクビになる」と、呟いた

「フン、そうかね?」

どうやらムーディは地獄耳らしい。名前でも聞き取りにくい小さな声でもはっきりと聞こえてみせた

「いいか、わしはおまえの親父殿を昔から知っているぞ・・・・・・親父に言っておけ。ムーディが息子から目を離さんぞ、とな・・・・・・・・・わしがそう言ったと伝えろ・・・さて、おまえの寮監はスネイプだったな?」

意味深な目線を名前に向けていった。

「やつも古い知り合いだ。懐かしのスネイプ殿と口を聞くチャンスをずっと待っていた・・・・・・来い。さぁ」

そしてムーディは名前の後ろにいるドラコの腕をむんずと掴み、地下牢へと引っ立てていった。そんな親友の姿を不安げな瞳で見つめた。

それにしても何故自分を一瞬見たのだろうか―――・・・ムーディが去っていく間際、不敵に笑ったような気がした。
魔法薬学で、ネビルが鍋溶かしの記録を更新した。樽いっぱいの角ヒキガエルのはらわたを抜き出すという処罰をあたえられたようで、げっそりとやつれていた

名前はここ2日間ずっと図書室にこもりっきりだった。何代にも渡る呪いについて調べているからだった。

「古代の呪い・・・・・・いいや、これも違うか」

ぶつぶつと独り言をいいながらひとつの机を占領していた。まるでその姿はハーマイオニーのようだった

「―――こんにちは、名前」

「・・・!セドリックか」

新学期になってからセドリックと話す機会がだいぶ増えたような気がする。それは名前が図書館にこもりっきりだったからかもしれない。セドリックも頻繁に図書館を利用しているためか、よく近くの席になることが多い。それもあってセドリックとは大分話すようになった

「今日はどこぐらいまで調べたんだい?」

「・・・20冊くらい、といったところだ」

「ははは、流石だね名前は―――・・・僕も何か手伝おうか?」

「・・・ならば」

こうやってセドリックに手伝ってもらうことも多くなった。何よりも1人でこの数十冊の本を探すのは一苦労だ。重たい本を持っていても、やはりセドリックとは筋力の差が激しすぎた。クィディッチの選手もやっているためか、名前の数十倍は筋力があるセドリックが助太刀してくれているのはなによりの救いだった

図書館にこもりっきりなのは名前だけではなかった。ハーマイオニーも名前に近い机を1つ占領して本を読みふけっていた

今日も結局いい収穫は無く、寮へと帰っていった

明日は確か4年生はじめての闇の魔術に対する防衛術の授業だった。名前は頭からどうにかあの不気味な義眼でじろりと見てくるムーディの像を振り払って部屋に入った

「・・・名前、この間は本当にありがとう」

「しつこいなドラコも。気にするな。ムーディのいい噂は聞いたことが無かったからな・・・・・・直感的に危険だと思った」

「―――父上があいつをただで済ますはずが無い・・・・・・絶対に、復讐してやる」

「僕もあいつは苦手な類なのかもしれない・・・ドラコ、あいつには近づかないほうがいい」

「あぁ、そんなこと分かってる」

僕はあいつから”ただならぬ気配”を感じ取った・・・

気のせいなのだろうか――――”闇”の気配がしたような気がした。左眼も痛んだし、左腕も最近は酷く痛んでいる。左眼の場合、どっちの理由で痛いのかで混乱していた。死を感じ取って痛いのか――――闇を感じ取って痛いのか

ヴォルデモート卿の力が強まってからというもの、名前は毎日セブルス特製の薬で痛みを抑えていたが、左眼の赤みをおさえることはできず、日に日に赤みが増していった。

そんな名前を余所に、授業は刻々と近づいている。どんよりとした気持ちで朝を迎えた名前の機嫌は最高潮に悪かった。親友のドラコですら声をかけづらいという程に
態度に出ているという名前にしては珍しいケースに、ドラコは驚いていたしクラッブ達も驚いていた。今日はパンジーも名前に中々声をかけられずにいた

「このクラスについては、ルーピン先生から手紙をもらっている――――」

この人物の一言一言が名前のストレスを溜めていく。この胸のムカムカは一体なんなのだろうか―――――そのせいで回りにあたってしまうという失態に、自己険嫌していた

「さて・・・・・・魔法法律により、最も厳しく罰せられる呪文が何か、知っている者はいるか?」

「えーっと・・・パパが1つ話してくれたんですけど・・・・・・たしか『服従の呪文』とかなんとか・・・」

「ああそのとおりだ」

ムーディが褒めるように言う。

「おまえの父親なら確かにそいつを知っているはずだ。一時期、魔法省をてこずらせたことがある。『服従の呪文』はな」

するとムーディは一匹の大蜘蛛を手の上にのせ、皆に見えるようにすると――――

「インペリオ!服従せよ!」

蜘蛛は細い絹糸のような糸をたらしながら、ムーディの手から飛び降り空中ブランコのように前に後ろに揺れ始めた。

―――――可哀想に

心の中で呟いた。この教室の中でムーディに呪いをかけられている蜘蛛をみて暗い表情を浮かべているのは名前やハーマイオニーくらいなものだろう。
ハーマイオニーはこの呪文がとんでもない、皆のように笑っているようなのんきなものではないことをちゃんと理解しているようだ。隣にいるドラコもけらけらと笑っている

・・・これが人間ならば笑っていられないだろうがな

「面白いと思うのか?わしがおまえたちに同じ事をしたら喜ぶか?」

ムーディがそういうと一瞬にして笑い声が消えた

「完全な支配だ」

可哀相に、蜘蛛は丸くなってコロリコロリと転がりはじめた

「わしはこいつを、思いのままにできる。窓から飛び降りさせることも、水に溺れさすことも、誰かの喉に飛び込ませる事も・・・・・・」

つまり、今支配されているこの蜘蛛に自由に生きる権利は何一つ無いのだ。完全なる支配――――・・・それこそがこの呪文の一番恐ろしいものだった。

「何年も前になるが、多くの魔法使い達がこの『服従の呪文』に支配された―――だれが無理にうごかされているのか、誰が自らの意思で動いているのか、それを見分けるのが魔法省にとって一仕事だった」

「『服従の呪文』と戦うことはできる。これからそのやり方を教えていこう。しかし、これには個人の持つ真の力が必要で、だれにもできるわけではない。できれば呪文をかけられぬようにするほうがよい。油断大敵!」

ムーディはそう大声を上げると、ちらりと名前を見たような気がした

「ほかの呪文を知っている者はいるか?何か禁じられた呪文を?」

どこか楽しんでいるような声色だ。名前にはそうはっきり感じ取られる

「1つだけ――――『磔の呪文』」

ネビルが声を上げた。
ネビルの両親がその『磔の呪文』によって今、長年に渡り聖マンゴの重症患者の病棟に入院させられていることをシリウスから聞いたことがあった。ムーディはそれを絶対に知っている。だからわざとネビルが手を上げるように仕向けたのだ――――――

「おまえはロングボトムという名だな?」

・・・・・・なんて狡猾なやり方なのだろうか
名前は心の中で毒づいた

「『磔の呪文』、それがどんなものかわかるように、少し大きくする必要がある」

するとムーディが蜘蛛に肥大化呪文をかけ、見やすくした

―――それをネビルの目の前でやってみせようとしているのか、この男は・・・

「クルーシオ!苦しめ!」

たちまち蜘蛛は足を胴体に引き寄せるように内側に折り曲げてひっくり返り、七転八倒しワナワナと痙攣しはじめた

ムーディはいまだに蜘蛛はら杖を離さず、蜘蛛からは聞こえない悲鳴が響き渡る。ネビルは苦痛の表情を浮かべ――――そんな中、ムーディの表情はどこか愉しげだ
名前は苛立ちを抑えきれず、ガコンと机を殴った。