34 それこそが、真実/炎のゴブレッド

ナルシッサはそんな夫をギロリと睨み上げた。一瞬ナルシッサと目が合って微笑まれてしまった―――――あの微笑にはどんな恐ろしいことが含まれているのだろうか
想像するだけでも恐ろしいので、アイルランドのマスコットキャラクターに目を向けた

空からは大量のレプラコーン。それを急いで拾い上げようとする観衆――――無論、ロン達もだったが。名前はそんな彼らを不思議そうに見た

何故これが偽者だと気付かないのだろうか・・・

「さて、レディース・アンド・ジェントルメン。どうぞ拍手を――――ブルガリア・ナショナルチームです!ご紹介しましょう――――ディミトロフ!」

ブルガリアのサポーターたちの熱狂的な拍手に迎えられ、箒に乗った真っ赤なローブ姿が、遥か下方の入場口からピッチに飛び出した。あまりの速さに姿がぼやけて見えるほどだ。

「イワノバ!ゾグラフ!レブスキー!ボルチャノフ!ボルコフ!そしてえぇぇぇ――クラム!」

ドラコはクラムの姿を一生懸命追いかけていた。ハリー達も大人たちも興奮していた。その中で唯一無表情なのといえば、マルフォイ夫妻と名前ぐらいなのかもしれない。ルシウスは楽しんでいるのだろうが、いつものポーカーフェイスで隠しとおしていたし、ナルシッサも楽しいのだろうが、女性なのかやはり落ち着いていた

両チームの選手名が全て呼ばれ、審判のハッサン・モスタファーがホイッスルを吹き、バグマンの試合開始の声によってクィディッチ・ワールドカップは幕開けした。
試合はブルガリアが160点、アイルランドが170点でアイルランドが勝利した。ビクトール・クラムが最後の最後にスニッチを取ったのには驚いたが

「勇猛果敢な敗者に絶大な拍手を―――ブルガリア!」

すると、敗者のブルガリア選手7名が会談を上がってボックス席へと入ってきた。スタンドの観衆が賞賛の拍手を送った。
ブルガリア選手はボックス席の座席の間に一列に並び、バグマンが選手の名前を呼び上げると、1人ずつブルガリア魔法大臣と握手し、次にファッジと握手した。列の最後尾がクラムで、まさにボロボロだった。顔は血まみれで、両目のまわりには見事な黒い痣が広がりつつあった。
次にアイルランドチームが入ってきて、トロフィーを受け取ると、選手は高々と掲げた。下の観客席から祝福の声が轟き渡ると、嬉しそうににっこりした。

名前は試合が始まってからというもの、スタジアムの歓声で頭が痛いのかと思っていた。試合が終わった後もガンガンと痛んでいるのは何故だろうか―――――そう、あの時からだ。あの妙な視線を感じたときから・・・

チクリと左腕と左眼が痛んだ気がした。気のせいだ。だって3日前からちゃんと薬を飲んでいるし、痛み出すはずは無い――――きっとあんな緊張する席に座っていたからだ
名前はドラコに支えられつつも、会場を後にした。

「・・・平気かね、名前」

「―――人ごみに酔ったみたいです」

「あらまぁ・・・・・・ならばドラコ、来た時話したように名前と一緒に森へ――――絶対に此方にきてはいけませんよ」

ナルシッサはドラコに念を押すと、森へと行く事にした。しかし何故―――森へ?名前は不思議に思い、夫妻を見つめたが意味深な笑みで返されるだけだった

―――――ズキン

「いっ・・・・・・!」

左眼が物凄く痛み出した。ドラコに支えられていたものの、支えきれず倒れてしまった。そんな名前に急いで夫妻が駆け寄った

「―――名前!どうしたのかね」

「い″っ・・・・・いっ―――――」

「どうしたんだ名前!」

ドラコは痛みで悶え苦しむ親友の姿に顔を真っ青にさせた

「来る―――――――」

「ドラコ・・・名前の薬をテントから急いで持ってきなさい!」

ナルシッサはドラコに急いで薬を持ってくるように言うとドラコは一目散にテントへと向かっていった。夫妻はとりあえず名前を木の幹に寝かせた。

「―――左眼が痛むのかね?」
「・・・は――――いッ」

名前の前髪をよけて左眼を見ると――――――――
不気味なほどに紅い瞳がちらついた。ルシウスはこの瞳の持ち主を知っていた――――まるであの方々みたいな瞳だ、小さく呟いた

チリン・・・

『だいじょうぶだよ・・・痛くない、痛くない――――ただ、ちょっとレーガン家の呪いがアンタにふりかかっただけのこと・・・』

頭の隅から再びあの女性の声が響いてきた。

――――のろい・・・?

『そう、初代レーガン家当主が犯した罪の代償――――――』

――――罪の代償・・・?

『クスクス。永久に連鎖する――――死の舞踏会』

――――あなたの名前は・・・いったいあなたは・・・・・・

『あたしの名前?そんなの・・・忘れちゃった』

――――え・・・?

そして再び、女性の声はどこかへ消えてしまった。気付けば心配そうに顔を覗き込むマルフォイ家が目の前にいた

「・・・名前!ようやく目覚めたか!」

「・・・一体、どれくらい眠っていたんだ――――」

「10分程よ。それよりも貴方・・・・・・今、なんて言ったの?」

「―――?」

ナルシッサとルシウスは名前のことを真剣に見つめていた。自分が今何を言ってしまっていたのだろうか――――まさか、あの会話が声にでていたとでもいうのだろうか

「・・・まぁいいでしょう。ドラコ、名前が目覚めましたからね――――約束どおり、森の中へ」

「はい」

ドラコに支えながらも森へと入っていった。
「・・・何故森に?」

「―――もうすぐ分かると思うよ。」

これから何が始まるというのだろうか・・・名前は左眼と左腕の印が痛み出している時点で嫌な予感が頭を横切っていた。ヴォルデモート卿が動き出した――――と

「ここらへんで見物でもしようか」

ドラコはそう言うと木によりかかった。名前は木の根の上に座り、薬の副作用でまぶたが重くなっているのをどうにか開き、ぼーっと空を眺めていた

「・・・過去の世界へ行っていたんだってな」

「・・・あぁ」

「楽しかったか?」

「――――あぁ」

儚くもあり、幸せな過去での生活――――今でも夢に出てくる。ジェームズ達に悪戯を仕掛けられた時のことや、セブルスやアリスと過ごした幸せな日々を・・・

「生きる、か・・・」

「どうした?」

「いや、何でも無い」

「そうか」

アルベルトと約束した―――――”生きる”ということ。これが一体どういう意味なのだろうかまだ分からないが・・・僕はこの約束を守っていこうと思う。
だから去年のように無茶はしないようにしないとな――――

名前は大切な家族から守ってもらった命をかみしめるかのように、強く手のひらを握った

しばらくすると爆発音、悲鳴などがキャンプ場から聞こえてきた。
――――始まる事とはこういう事だったのか・・・

名前は遠くでちゅうぶらりんのマグルの少女を見てため息を吐いた。一体ルシウスは何のためにあんなことをしているのだろうか・・・・・・
だがあれで左眼と左腕が痛み出したわけではないとうことを、名前は知っていた。絶対にあれではないのだ―――――これから、起こる出来事が全ての始まりに違いない・・・

「ロン、どこなの?嗚呼こんな馬鹿なことをやってられないわ――――ルーモス!光よ!」

向こうのほうから魔法使いの少女の声が聞こえてきた。いや―――まさかハーマイオニーではないだろうか。名前は声の元をぼんやりとした目で見ると赤毛の少年が木の根のところで倒れているのが見えた

――――ロン?それにハリー達も・・・・・・あぁ、逃げてきたのか

「木の根につまずいた」

そんな突然の来客にドラコの瞳がギラリと光った。
――――なんでこういうときになるとドラコは嬉しそうに笑うのだろうか―――――・・・ハリー達が好きなのか?

「まあ、そのデカ足じゃ、無理も無い」

「この!ゲスヤロー!」

「言葉に気をつけるんだな、ウィーズリー」

ドラコはさらに嬉しそうに言う。(ちなみにハーマイオニーは隣で下品な言葉を言うロンに怒るか怒るまいか悩んでいた)

「君達、急いで逃げたほうがいいんじゃないのかい?その女が見つかったら困るんじゃないのか?」

ドラコはハーマイオニーのほうを顎でしゃくった。

「それ、どういう意味?」

「グレンジャー、連中はマグルを狙ってる。空中で下着をみせびらかしたいかい?それだったら、ここにいればいい・・・・・・連中はこっちへ向かっている。みんなでさんざん笑ってあげるよ」

・・・ドラコ、卑猥だ。ハーマイオニーの下着がそんなにも見たかったのか?
名前は心の中で呟いた。それにしても彼らは名前の存在に気付いてはいないようだ――――木の陰だからなのだろうか。話はドラコ対3人で進められている。特に話しに入る気も無かったので、静かにその様子を観察していた

3人がドラコを睨みつけながら去っていった。結局、名前がいることには誰も気付いてくれなかった。何だか少し虚しいものもある
「僕らは向こうへ――――・・・もうすぐ終わるだろうからね。」

ドラコに引っ張られるがままに森へ進むとボロボロの帽子が落ちていた。ドラコはこれが我が家へ続くポートキーなんだと説明してくれていた最中であった――――

「―――ッ!!!!」

「あれはっ・・・」

空を見て驚いた―――――闇の印が・・・・不気味に浮かび上がっていたのだから。
名前は左眼と左腕の痛みに耐え切れず、その場に倒れこんでしまった。

『・・・おかえり、兄貴』

意識が消えてゆく中、あの女性がそう言ったような気がした。
目を醒ますとそこは随分と見覚えのある場所だった―――――そう、自分の家の自分の部屋だった。
家に帰ってきたのか・・・・・・よかった・・・でも、何故記憶が無い?

名前は家に帰ってくるときの記憶が一切無かった。倒れたっきりだ
まだ重たい身体をどうにか起き上がらせ、枕もとに置いてあった鏡で自分の左眼を見た。

「・・・不吉な」

左眼は真っ赤になっていた――――そう、マリシア叔母様が亡くなったときのように

痛みは薬で抑えられているものの、このままずっと左眼を見つめていると痛みがぶり返しそうになったので急いで鏡を伏せた。左腕の包帯を取ると、以前より印がはっきりと濃くなったような気がした

「―――目覚めたのか!」

足音で目覚めたのが気付いたのか、セブルスが扉を勢いよく開き、薬の乗ったお盆を持ってきた

「・・・父上、僕はどのようにして帰って来たのでしょうか」

「ドラコ・マルフォイが運んでくれたそうだ―――それにしても、左眼のほうは平気か」

「痛みはありませんが・・・色は――――マリシア叔母様の時のように真っ赤でした。左腕は――――」

印が濃くなった腕を見せるとセブルスは息を呑んで、自分の腕をまくって見せた

「―――父上。まさか・・・・・・例のあの人が」

「・・・認めたくは無いが、そうとしか言えないだろうな」

「・・・・・・」

闇の帝王が立ち上がった―――――再び、暗黒の時代が・・・
あの予言の通り以前よりもより恐ろしく・・・・・・。名前は息を呑んだ

「・・・我輩はお前を守ってみせる。だから安心なさい」

「・・・はい」

セブルスは息子の頭をそっと撫でると薬を飲むように言った

「以前より強力になっている。だから副作用が今回は強くなっている――――服用した翌日の昼まで続くだろう。変身を防ぐ薬も同様だ・・・・・・飲んだ翌日は寮で休んでいる事だ」

セブルスは強い眠気が名前の学校生活に支障をきたす事を案じていた。すでにダンブルドアや他の教師陣には名前の薬のことを伝えてあった。なので眠る事があったとしても叱られることも無いだろうし、事前の勉強をきちんとしている我が息子ならば平気だろうと思っているのだ

「―――日刊予言者新聞だ」とセブルスは言い息子に闇の印が浮かび上がった写真が載っている予言者新聞を渡した

「・・・魔法省のヘマ、犯人を取り逃がす―――警備の甘さ、闇の魔法使い、やりたい放題・・・国家的恥辱――――」

新聞記事を読み上げた。闇の魔法使い――――恐らくデスイーター・・・死喰い人のことだろう。この記事を書いているのはリータ・スキーターに違いない

あの中にはMr.マルフォイもいたのでしょうか―――なんて分かりきった質問なんかするはずもなく。名前はマグルをちゅうぶらりんにしているルシウスの様子を想像して身震いした

午後、本を読みゆっくりと過ごしているとマルフォイ家の梟がやってきた。手紙はドラコからだった

“名前へ”

君が倒れた後、大変だったよ。母上が迎えにきてくださるまで僕は君を担ぎしばらくいたんだ。倒れている君を見つけた母上は悲鳴を上げて倒れそうになってい たよ。僕も君が倒れてかなり動揺したんだからな。とりあえずスネイプ先生が君を迎えに来てくれたからいいものの・・・・・・。
早い返事を待っている。        ”ドラコ”

手紙の返事を手短に書くと梟に持たせた。
もう夏休みも終わりだ。ホグワーツ・・・慌しい学園生活が再び始まる。名前は今年、とても嫌な事が起きるのではないかと心配していた。

―――貴女は一体何者なんだ・・・?

たびたび関わってくる女性――――しかし名前を忘れてしまったという彼女。
なんとなく、これから起こるであろう出来事はその女性に深く関わっているような気がした。そして自分の左眼がこうなってしまったのも―――――・・・恐らく

それにしてもレーガン家初代当主が犯した罪とは一体どのようなことだったのだろうか・・・・・・

考えていくうちに、頭が痛くなってきたので名前はいったん考える事をやめ、書斎へと向かっていった。理由は勿論、レーガン家関係の本があるか無いかを調べるためだ。

「――――やはり、無い」

レーガン家の資料は不思議なほどに一切無かった。ホグワーツでもあの一冊がどうにか見つかったくらいで・・・・・・・
リーマスは、自分が一番レーガン家の事を知っていると教えてくれたが、名前はレーガン家のことについて全然知らなかった。そんな自分が一番知っているだなんて―――・・・。父上までもが知らない歴史が隠されたレーガン家。一体どんな家なのだろうか―――・・・・・・・・
ホグワーツ特急でいつもと同じく、ドラコ達と一緒のコンパートメントに座っているとドラコがむくりと起き上がった。どうせろくな事をしないだろうに―――――

そんなことを思いつつ、名前は窓に激しく打ち付ける雨を見ながらセブルスにしつこく言われた言葉を思い出していた

『イゴール・カルカロフだけには絶対近づくな』

イゴール・カルカロフとは元死喰い人で現在はダームストラングの校長をしている。息子の闇の印の気配を嗅ぎつけ、付けこんでくるだろうとセブルスは心配していた

そんなことをずっと思っているうちにホグワーツ特急はホグワーツへと到着してしまった。外はそんな名前の嫌な予感を際立たせようとしているのか、ゴロゴロと雷が鳴っていた

「おい、名前、聞いてるのか?」

「あ・・・すまない、聞いていなかった」

どうやら名前は先ほどからずっとドラコの声かけに無反応だったらしい。

「君・・・顔色が良くないけど―――薬の副作用か何かか?」

「あぁ」

とりあえずそう答えておいた。答えるのもめんどくさかったのだ
全員が席につくと、帽子が歌い始めた

“いまを去ること一千年、そのまた昔のその昔 わたしは縫われたばかりで、糸も新し、真新し そのころ生きた四天王 いまなおその名を轟かす”

“荒野から来たグリフィンドール 勇猛果敢なグリフィンドール”

“谷川から来たレイブンクロー 賢明公正レイブンクロー”

“谷間から来たハッフルパフ 温厚柔和なハッフルパフ”

“湿原から来たスリザリン 俊敏狡猾スリザリン”

“ともに語らう夢、希望 ともに計らう大事業 魔法使いの卵をば、教えて育てん学び舎で かくしてできたホグワーツ”

“四天王のそれぞれが 四つの寮を創立し 各自異なる徳目を 各自の寮で教え込む”

“グリフィンドールは勇気をば 何よりもよき徳とせり”

“レイブンクローは賢きを だれよりも高く評価せり”

“ハッフルパフは勤勉を 資格あるものとして選び取る”

“力に飢えしスリザリン 野望を何より好みけり”

“四天王の生きしとき 自らが選びし寮生を 四天王亡きその後は いかに選ばんその資質?”

“グリフィンドールその人が すばやく脱いだその帽子 四天王たちそれぞれが 帽子に知能を吹き込んだ 代わりに帽子が選ぶよう!”

“被ってごらん。すっぽりと 私がまちがえたことはない 私が見よう。みなの頭 そして教えん。寮の名を!”

組み分け帽子が歌い終わると大広間からは割れるような拍手が沸き起こった。

“力に飢えしスリザリン 野望を何より好みけり”

――――野望、か

名前が何故スリザリンに選ばれたかなんて言うまでも無かった。スリザリンの血を引く者だから当たり前だろう。

・・・野望か・・・・・・・・・・なんて響きの悪い言葉だ
スリザリンが悪いというイメージを与えてしまうのも無理は無い。でも彼らの四天王の中で一番人間らしいのがスリザリンなのではないかと思う。人は必ずしも何かを犠牲にして何かを得ている。ピーターだって、ジェームズ達を犠牲にして命を得たのだから―――・・・