29 それこそが、真実/アズカバンの囚人

残された部屋では、リーマスとセブルスの2人だけだった。珍しくセブルスのほうから口を開いた

「・・・ルーピン、我輩は貴様を少し羨ましいと思った」

「―――君は今彼の”父親”であって”友”ではないからね・・・。」

リーマスと以前のように仲良くできても、セブルスとはやはり違うのだ。名前 にとってセブルスは父親であって友ではないのだ。しかし友よりももっと大きな存在のセブルスがリーマスは羨ましかった

「僕は彼を友として見守る。セブルスは彼を息子として――――。僕はセブルスのほうが羨ましいよ。だっていくら僕らを大切に思ってくれているとしても、かけがえの無い存在――――いわば彼の支えのとも言うべき人は君なのだから。」

「―――父親、か」

「君の存在は名前 にとって必要不可欠なものだろう。彼は色々と我慢をしすぎているから――――君がここでいなくなってしまえば、彼は壊れてしまう」

「・・・・」

「唯一の家族なんだ、セブルスは。だから身体を大切にしなくちゃ駄目だよ」

「・・・貴様に言われなくとも分かっている」

名前 が去った後こんな会話をしていたのも、ここだけの話。
「シリウス、チキンを持ってきたぞ」

シリウスと約束した通り、バスケットいっぱいにチキンを入れて森の深いところまでやってきた。今はようやく名前 の知りうるシリウス達と出会えたことの喜びが大きくてその後の不安など一切無かった。

「おう、サンキュー名前 !」

シリウスは周りを警戒しつつも、バスケットを受け取るとすぐさまチキンにむさぼりついた。チキンにむさぼりつくシリウスの姿は学生時代とまるで変わっていなかった。

「・・・っふ」

「―――あぁん?鼻で笑うなよ名前 」

「・・・だって、こんな殺人犯がいたら面白いなと思ってな」

「楽しまんでいい」

今までろくな食事ができなかったのか、一切会話せず食事に貪りついているシリウスを見て、名前 は心に決めるのであった―――――――シリウスの無罪を証明すると

「・・・一週間に4回は来る。今度はラム酒でもつけておく」

シリウスはラム酒という言葉に目を輝かせた。耳をを立てて尻尾を振っているように見えるのは気のせいなのだろうか

「さっきは悪かった・・・お前に杖なんか突きつけて」

「いや気にしてない。警戒していたのだから仕方が無い」

「でも・・・」

「・・・それよりも、シリウスが無事で何よりだ。何故ホグワーツにやってきた?ハリーが心配なのか?」

ハリーという言葉にシリウスはびくっと反応した。恐らく理由はそれだけではないと思うが―――

「・・・名前 、ハリーとは友達なのか?」

「あぁ。」

「―――そうなのか・・・まぁ、名前 なら誰とでも友達にはなれるだろうな。俺、前々から思っていたんだけどさ、名前 ってスリザリンに向いていないよな」

「――――そうか?」

これも確かフレッドとジョージに言われた事があるセリフだった。シリウス達が想像するスリザリン生が最悪な見本すぎるのだ。スリザリンにもセオドール・ ノットやいい奴はたくさんいる。特にセオドールはスリザリン生ではドラコの次に仲がいいかもしれない。ただ彼の場合は一匹狼気質なので取り巻きのたくさん いるドラコをあまり好いてはいないようだ。

「・・・とりあえず、そろそろ戻ったほうがいいだろうな。明日、詳しく話してくれないか・・・ポッター夫妻の出来事を」
そう言ったとたん、シリウスは急に黙りこくってしまった。

「―――裏切り者が出たのか」

「―――!」

シリウスは名前 のこの一言で衝撃を受けた。何故この少年が知っているのかと・・・

「・・・勘だけはいいんだ。とりあえず続きは明日――――どんな手段を使ってでも聞き出すからな」

このとき、ようやく名前 がスリザリンな理由がわかったシリウスであった。森を出て行く際、再びシリウスに向かって言った

「―――安心しろ、僕はお前を信じている。どんな事があろうとも僕はお前の味方だ―――――」

名前 が去った後、シリウスは久しぶりの人間の暖かさをかみ締めるように胸元を掴んだ。さっきの言葉で、シリウスがどれほど救われたのか名前 は知らない。
休暇1日目の朝、ドラコは家に帰っており、名前 一人で朝食を食べようと広間へ行ったとき、セオドール・ノットとであった。

「・・・なんだ、名前 か」

「・・・なんだは無いだろう」

「ははは、今日はいないんだな・・・マルフォイ達」

「あぁ・・・家に帰った。」

「ふーん。俺、朝食これからなんだ」

「そうなのか、丁度僕もそうだ」

今日は珍しい組み合わせで朝食を取ることとなった。特に会話もする事も無く、黙々と朝食を済ませセオドールと別れると、ハグリッドの小屋へと向かっていった

そう、ノミ取りシャンプーを借りるために・・・
何に使うかなんて、言わなくても分かるだろう。

「―――ハグリッド」

「おぉ、名前 か!丁度ハリー達もきちょる」

ハリー達と会話するのはいつぶりだろうか・・・。そんなことを考えているとハリーのほうから口を開いた

「名前 ・・・僕、君に悪いことをした―――ごめん」

「・・・?」

名前 は何故ハリーが謝っているのか理解できず、首をかしげた。ロン達も首をかしげて2人の様子を見守っている

「・・・名前 、喋れなくなっちゃったのって・・・・・・たぶん、僕が」

「―――気にするなハリー。精神が少しおかしくなっただけだ。もう平気だ・・・だから謝罪の言葉なんか言うな」

そしてようやく分かった。なぜハリーが名前 に謝罪を述べているのかを・・・
ハリーは自分がスネイプのことをリーマスに言ったことに対して謝罪しているのだと。名前 にとっては父親なのだ、父親の悪口を言われていい気分なはずはない。

「・・・でも」

「・・・僕が現実から逃げていただけだ。気にすることではない」

「・・・うん、ごめんね」

ハリーはようやく安心したのか、にこりと笑った。名前 も笑い返してやるとなぜか4人に驚かれた

「・・・名前 、あなたって――――」

「あぁ・・・君って」

「―――――笑うんだね」

「こりゃぁ驚いた・・・」

さり気に失礼なことを言う4人に思わず苦笑した。確かに自分はあまり笑わないかもしれない・・・というより、最近は笑う余裕すらなかったともいえるだろう。
ホグワーツに入学してからというもの、感情表現が豊になったとか、やわらかくなったと言われるが確かにそうかもしれない。母親が死んでから失われてしまった感情・・・・・・それがようやく蘇ってきたのだ

「・・・僕が笑ってはいけないのか」

「「「「いいえっ!むしろ笑ってください!」」」」

「名前 は笑顔のほうが素敵よ!」

ハーマイオニーが名前 の手をぶんぶんと振って言う。

「・・・あぁ、努力する」

久々にハリー達と話をした気がする。最近は一気に嬉しい出来事がやってきたので、ついついあのことを忘れてしまうのだ。

―――ルシウス・マルフォイに気付かれてしまったということを

早速昨晩、ルシウスから名前 宛に手紙が来たのだ。内容は・・・まぁ言わなくても分かるだろう。何故いきなり消えたのか、やはり君はセブルスの息子だった・・・などなどだ。そして予想していた通り、闇の印についてのことに触れていた。最後に早く返事が欲しいと書かれていた。
正直返事をしたくはなかったしこのまま忘れ去っていたかったが、そうはいかないだろう。あのルシウス・マルフォイだ・・・・・・失礼だろうが、きっとしつ こく手紙を送ってくるだろう。終いにはホグワーツにまでわざわざ現れるだろう。父親に迷惑をかけたくないのでここは早く手紙の返事をしなければならないだ ろう―――・・・
そう思うとハリー達と久々に会話した喜びも薄れていってしまう。さらには最悪なことに、ヴォルデモート卿にも気付かれてしまったということだ。

「・・・憂鬱だ」

「どうしたんだ?名前 」

はぁ、とため息を漏らす名前 の顔を不思議そうにロンが覗き込む

「いや、何でも無い」

なぜかロンを見て急に此処にきた理由を思い出した。

「そうだ・・・ハグリッド、犬用のノミ取りシャンプーは無いか?できればブラシも・・・」

「おう、あるぞ。お前さん、犬なんか飼っておったっけ?」

「あぁ。」

そこは適当に誤魔化しておいた。隣でハーマイオニーがホグワーツでは犬は禁止なのでは?と首をかしげていたのを無視して

「ほれ・・・シャンプーにブラシだ。ついでに爪きりもつけておいた」

「・・・ありがとう」

机のほうを見ると、ハーマイオニーが一枚の手紙を見て眉間に皺を寄せているのに気付いた。

「・・・どうした?」

「嗚呼名前 ・・・貴方の知恵を貸して欲しいの。」

ハーマイオニー達は名前 とドラコを結果的に怪我をさせてしまったバックビークが『危険生物処理委員会』に処刑されてしまうという話を聞いた。
正直、あの怪我は辛いものだった。処罰を受けて当然だ・・・名前 はそう思ってしまった

「怪我を負った貴方に助けてもらうのは申し訳ないと思っているわ・・・」

「・・・すまねぇ名前 。」

「・・・わかった。出来る限りのことはする」

ルシウス・マルフォイの権限を押しのけられる人物なんてそういないだろう・・・だから恐らくバックビークは処刑される。名前 はそう確信していた。だが一応手助けはするつもりだ・・・最低限度は

ハグリッドの小屋を後にした名前 は、早速シャンプーとブラシを抱えて誰かに見られないようにして森に入っていった。
シリウスには来たら鈴を鳴らすと言ってあるので、ポケットに入れてある小さな鈴を僅かに鳴らすと早速黒い犬がやってきた。

「・・・おはよう、パッドフット。ちなみに犬の姿のままでいい」

シリウスは首をかしげた。

魔法でシリウスの真上から水をどばっとかけると何が起きたのか分からず、シリウスはびっくりして名前 をみていた。

「・・・ノミ取りシャンプーをしてやる。シリウスと会った後に痒くなってな・・・」

シリウスにノミがついているのも無理は無い。なんせ自分の衛生管理なんてしているどころの問題ではないのだ。ディメンターから逃げているのだから・・・

「・・・なんだその目は。お前は犬なんだ、文句は言わせない」

シリウスは文句を言いたそうな目を名前 へ向けるがことごとく無視し、シャンプーをしていく。ブラシでごしごししてやると気持ちいいのか、しっぽを振って舌をヘッヘと出して喜んでいた。
――――シリウスの犬化について今後触れないようにしておこう(3回目)
「シリウス・・・話してくれないか」

「・・・あぁ、分かったよ。」

ノミのいなくなったシリウスはポッター夫妻に起きた悲劇を話し始めた。秘密の守人が実はピーターで、ポッター夫妻をヴォルデモートに売ったのもピーター で、追いかけたときに指一本残して消えたため、その場にいたシリウスが犯人にされてしまったことなど。そしてシリウスはジェームズたちの復讐をすべく、自 分のみをかえりみずホグワーツへ来ているのだという。

「・・・それにしても、ピーター・ペティグリューが裏切り者だとはな。」

ピーターの感情はいかにも人間らしい感情だった。ヴォルデモートに脅迫されていたに違いない・・・・・・どんな事があろうとも人間一部を除いては自分が一番可愛い。シリウスがその稀な人間のうちの1人なのだろう。
「あいつ・・・切り刻んで、骨も砕いて――――ただじゃおかねぇ・・・」

「・・・今度こそアズカバンだな。」

「何を今更!ジェームズたちの復讐・・・・・・そのためなら命すら惜しくねぇ」

「・・・そうか」

人間という生物がとても悲しいと名前 は思った。そして人間だからこその感情なのだと悟った。
復讐しても何も残らない。ジェームズたちは帰ってこないのだ・・・
そんなこと、分かってはいるのだろうけれども、人間とはそう簡単にはいかないものなのだ。

「シリウス、僕はお前の身を心配している。だから無茶だけはしないでくれ」

「・・・お、おう」

絶対嘘だな――――
シリウスが今後、とんでもない無茶をするのは言うまでもなかった。話は暗い話から一気に明るい話へと移り変わった。

「明日はクリスマスだな・・・・・・食事を楽しみにしておけよ」

「おう!頼りにしてるぜ食事係・・・!」

「・・・(食事係?)ハリーへのプレゼント、決めたのか?」

「いや、まだだ・・・」

「なら、箒がいいと思う。ハリーの箒はこの前の試合で粉々に砕け散ったからな」

そう教えてやると、シリウスは嬉しそうに名前 の背中をばしばしと叩いた

「サンキュー名前 !名前 がいてほんとよかった!お前がいなかったら俺・・・今ごろ死んでいた」

「そうだな」

確かに名前 がいたおかげで今のシリウスの食事はどうにかなっているともいえるだろうし何よりも、今のシリウスの心の支えは名前 だった。

「・・・シリウス、お前の無罪・・・・・・僕が証明してやるからな」

「名前 にそこまでやらせたら・・・悪い。いいんだ、俺は。それよりも名前 ・・・ホグワーツでの生活楽しめよ?」

あの頃よりずっと大きくなったシリウスが名前 の頭をぽんぽんと優しく叩いた。
シリウスのこの暖かさが名前 をほっとさせる。名前 は恐れていた――――――シリウスが死ぬ事を。まだ平気だろうが、再来年は・・・・・・・・・
不吉な考えを頭から追い出すかのように、ぶんぶんと頭を振る

「どうした?名前 」

「・・・何でも無い。」

シリウスの笑顔を見ても不安が拭い去られる事はなかった。
クリスマスの朝、名前 は自分宛の相変わらずのプレゼント量に驚きを隠せなかった。とりあえずプレゼントをごそごそと開けてみるとやはりマルフォイ家など といった純血魔法使い家から来るプレゼントは格別に高級なものだった。有名な純血家へは、きちんと此方からも自動的にプレゼントを贈っていたのでスネイプ 家は安泰だろう。
スネイプ家次期当主として、名前 はこれから一生懸命にあらゆることを磨いていかなくてはならないのだ。クリスマスプレゼントもそれの一環である

「・・・シリウスからか」
ぼそりと呟いても今ホグワーツにいるスリザリン生は5年生の男子が1人、セオドールと名前 の3人だけなので聞かれる心配はない。セオドールに至っては一匹狼気質なので昨日のような奇跡はもうないだろう

名前 もまた、一匹狼とは言えないが自然と一人になる事が多いのでべつにさびしいとは思わなかった。ただ少しいつもより静かなだけだ
ちなみにシリウスからはセンスのいいドレスローブが贈られてきた。しかし残念なことに今の名前 には少し大きかった。とりあえず来年用だな・・・

名前 へのプレゼントには何故か愛の妙薬入りのお菓子や本などが多かった。後者は良しとして、前者が何故自分の元へと来るのか名前 は理解していなかった。嫌がらせなのだろう、そう認識していた

大広間へ向かうと、寮の机が端に寄せられており、中央に机が1つありそこに教師陣、生徒の順番で座っていた。とりあえずルシウス・マルフォイの対処法をどうしたらよいか、セブルスのところまでやってきた

「・・・おはようございます父上。」

「名前 か・・・何だ?」

生徒もハリー達を含め6人しかいないので、普通に親子の会話が出来るのだ。ただちょっと先の席でハリー達がこちらをあんぐりと見ていたぐらいだ

「・・・Mr.マルフォイから手紙が・・・。」

名前 はルシウスから来たクリスマスの手紙を早速セブルスに見せた。セブルスは眉間に皺を寄せ小難しそうな顔をする

「・・・わかった。我輩がどうにかしておこう。お前は席に―・・・」

「クラッカーを!」

急にダンブルドアがセブルスにクラッカーを持たせた。セブルスは嫌な顔をしたまま引いた―――――・・・

「・・・父上」

「―――お前は席に戻りなさい」

今、セブルスの頭にはハゲタカの剥製をてっぺんに載せた大きな魔女の三角帽子が乗っていた。ダンブルドアがやりそうなことである・・・流石はグリフィンドール出身といったところか

笑いをこらえているハリー達と目があったが、ハリー達は申し訳無さそうに目をそらした。まぁ・・・笑いたい気持ちはわかるが―――