18 それこそが、真実/在りし日々

名前の願いも切なく、クリスマス休暇はやってきてしまった。ダンブルドアには事前にこのことを話しておいてあるので心配はいらなかった。愛しい孫のためとダンブルドアは名前のパーティーローブを特注しておいてあったのだ。本当に彼には頭が上がらない

「楽しんでくるんじゃぞ・・・」

「ありがとうございます。薬も普段の倍は飲んでおきました・・・」

「そうか・・・わしも行きたかったのじゃが、彼らにはあまり歓迎されんでの」

ダンブルドアはお茶目に笑う。名前はこんな偉大な人を嫌う意味がわからなかった。もしかしたら偉大だからこそ、なのかもしれない―――

「帰ってきたらいろいろ話します」

「フォッフォッフォ、老人は愛しい孫の土産話でも楽しみに待つとしよう」

校長室を出ようとしたとき、ダンブルドアに呼び止められた。一体なんだろうとダンブルドアを見上げれば、いつものきらきらした瞳が一変し、ぎらりと光っていた。

「・・・名前、気をつけるのじゃぞ。闇に負けてはならん」

「・・・はい」

ダンブルドアは声を潜めた。これは忠告なのだろう・・・名前の両肩を持ち、腰をかがめて名前の身長に合わせると不安そうな名前の瞳を優しく見つめた

「君なら大丈夫じゃと思う・・・しかし絶対に奴に近づいてはならぬ・・・・・・」

「はい」

「それと・・・セブルスとアリスを守ってやってもらえんかの?」

「・・・はい」

「君も気付いておるはずじゃ・・・奴は彼らにも目をつけておる。特にアリスはのう・・・・・・」

セブルスが目をつけられてるのならまだしも、何故アリスまでもが目をつけられているのか不思議に思った。彼女は優秀な魔女であるがそれだけで目をつけられるきっかけになるのだろうか――――?

「名前―――君もいずれ知る事となるじゃろう・・・アリスの秘密を」
「・・・」

「彼女が言うまで待ってあげてもよいかのう?」

「はい」

そう言うとダンブルドアは名前を優しく抱きしめた。本当にこの人は暖かい人なんだな・・・名前はダンブルドアの温かみにしっかりと浸り、校長室を後にした。

一体何があるのだろうというのだ・・・自分の母上にはどんな秘密が―――?

母親のことと思えば去年ヴォルデモート卿がアリスのことを言っていた事を思い出した。確かにあの時ヴォルデモート卿はアリスの息子だからこそ名前が欲しいと言っていたような気がする。しかし何故――――?母親には一体どんな特別な事が隠されているのだというのだろう

―――まぁ、とりあえず出発するか

名前は考えをいったん中断し、自分の部屋からトランクを持ってきて談話室でセブルス達を待つ事にした。

「名前、君・・・マルフォイ先輩の家のクリスマスパーティーに行くんだって?」

それはアルの声だった。
アルも身支度を終えており、これから家に帰るのだという。

「・・・あぁ」

「アリスも行くんだって?噂の三角関係だな」

時々アルはこのネタで名前をおちょくる。しかしそれ以上にアルがアリスのことを呼び捨てで呼んだことに名前は驚いた。

「あれ、ポーカーフェイスが崩れてるよ名前。ちょっと間抜け」

「・・・煩い」

「まさか君・・・僕とアリスが姉弟だったってこと・・・・・・知らなかった?」
「――――は!?」

何だって・・・アリスと・・・・・・アルが、姉弟―――――――――!?

名前は衝撃的な新事実で開いた口がふさがらなかった。

「これは親友達にしか話さないことにしてあるんだ。名前はもちろん僕の親友だからね・・・ごめんよ、教えるのが遅くなって」

「・・・いや、教えてくれて嬉しい・・・・・・が、何故―――」

何故ファミリーネームが違うんだ?
そんな無遠慮な質問、出来るはずも無くいいとどまった。アルは何を言いたいのかすぐに分かったらしく、小さく笑う

「君って本当に優しいんだね。大丈夫だよ、ファミリーネームは違えど僕の姉さんであることは確かだし――――だけどグレイシア家の息子であることも事実なんだよね。人生って複雑だよね・・・詳しい事は姉さん、アリスのほうが詳しく知ってるから直接聞くといいよ。僕が君に教えたって言えば怒ることもないだろうし名前とアリス達はすごく仲がいいから色々と教えてくれると思う。――――もう少したてばアリスの秘密も教えてもらえるかもね」

「―――祖父上にも言われたんだ・・・その、アリスの秘密がどうとかって」

「・・・あー、そっか。君はあのマルフォイ家のパーティーに行くからね・・・・・・だから言われたんだと思う。アリスの秘密は親友と言えども僕の口からは言えないんだ、ごめん」

「いや、気にするな・・・・・・いつかアリスが話してくれるのを待つ」

「じゃぁ僕はこれで。良いクリスマスを!」

そう言うとアルはスリザリンの談話室から出て行った。それにしてもセブルス達は身支度に随分時間を食っているようだ。手際の早いあの2人がここまでもたもたしているなんて不思議で仕方ならなかった。噂をすればで2人が息を荒げながら談話室へと降りてきた。

「ごめ・・・なさい名前ちゃん・・・・ゼェ・・・ハァ・・・」

「・・・遅れてすまない・・・」

「大丈夫だ。それよりアリス・・・首元に虫刺されの跡があるが・・・・・・」

「「――――――!!!!」」

アリスの首元にはくっきりと赤い跡が見えた。名前はまだそのれ意味を”虫刺され”としか理解出来なかったお陰か、2人はこの跡のことをごまかす事ができた。

「もう!バカセブルス―――死ね!」

「・・・」

セブルスは不敵に笑っていた。何がそんなに面白いのだろう・・・名前は先ほどから顔を赤くさせたり不敵に笑ったりする彼らの行動を理解する事ができなかった。

「あれほど強請っていたじゃないか、セブルスがほし―――」

次の瞬間、セブルスはアリスの拳によってノックアウトされていた。名前はそっと殴られたセブルスの傍により大丈夫かと尋ねればよわい返事が返ってくるだけだった

「いいわよ、放っておきましょう名前ちゃん!行きましょ!」

「・・・セブルスはいいのか???」

アリスにずいずいと腕を引っ張られセブルスの元へと戻る事が出来なかった。後ろには放置されたセブルスが、前には顔を真っ赤にさせたアリスが。
名前にはまだまだ知らない世界が多いようだ――――――――

セブルスとアリスと名前は列車の中で着替えを終わらた。ロンドンの駅につくと、スネイプ家の車が駅前で待ち構えていた。名前たちはそれに乗り込み車の中で身だしなみを整えているとあっという間にマルフォイ家までついてしまった。
名前はこの日が嫌で嫌で仕方なかった――――とりあえず杖はいつでも取り出せるような場所にしまっておいた。

「いらっしゃいませ、お坊ちゃま、お嬢様――――」

執事に出迎えられ扉の中をくぐるとそこはもう上流社会の社交場だった。きらきらとライトアップされたクリスマスツリー、輝く装飾、窓ガラス、大きなシャンデリア――――
相変わらずここは華やかな場所だった。

「―――私、こういう雰囲気あまり好みじゃないわ」

「・・・僕もだ」

どうやら2人とも名前と同じような事を考えていたようだ。まぶしい照明が3人を照らす。

「―――ようこそ、マルフォイ邸へ」

声のするほうを見ればナルシッサを片手に、優雅にルシウスが歩いてきた。

「・・・ご招待、ありがとうございます」

3人はルシウスとナルシッサに挨拶する。ナルシッサは優雅に微笑む――――そう、未来のナルシッサ婦人とまるで変わらない笑顔で

「あら・・・今日はメガネをかけていらっしゃらないのね?」

「・・・はい。クリスマスパーティーなので」

「メガネ無いほうが素敵ですわ・・・ねぇ、ルシウス」

「そうだな。何故メガネをかけているんだ?」

「・・・目が悪いんです」

これは事実だ。年々視力が悪くなっていってるのだ・・・特に左眼は。

左眼は不思議な事に暗がりは驚くほどに明るく見えるのだが明るい場所では全てがかすんで見えてしまうのだ。元々左眼はいつ赤くなっても平気のように隠してあるのであまり気にならなかったが―――

「パーティーを楽しんでくれたまえ」

「ありがとうございます」

ルシウス達は他にやってきた人たちを出迎えるためにその場を後にした。セブルスとアリスは挨拶をしなくてはいけない人たちがまだ沢山いるらしく、1人残された名前に申し訳ないと思いつつどこかへ行ってしまった。
1人で食事でもしているか―――と、思ったのだがそうはいかなかった。まわりの女性が名前を1人にはしてくれなかったのだ――――

「名前、わたしスリザリンの3年生のキャロル・カーターって言うのよ。」

「・・・Ms.カーター?」

「キャロルでいいわ、キャロルと呼んでくれる・・・?」

「・・・あぁ」

このキャロル・カーターという女子生徒がいい例だった。名前の周りには知らないうちにたくさんの女性で囲まれていた

どうにかその渦から逃れると、喋りつかれた名前は1人テラスへと向かっていった。

「・・・先客がいるぜ、名前」

「―――シリウス」

本人は認めたくないようだが、ブラック家の長男であるシリウスなら無論このパーティーに出席せざる終えない立場なのだろう。名前同様疲れきったシリウスはテラスのベンチに座っていた

「お前も大変だな――・・・あの取り巻き」

「・・・はぁ」

シリウスはもっと大変だったようだ。まぁブラック家の長男ともあれば当たり前なのだろうが・・・それ以前にシリウスは絶世のハンサムだった。名前も同じくハンサムだったが、シリウスには敵わない・・・。だが彼らは自分達がハンサムだとは知らなかった―――

「どうせ家柄目的だろ?くだらねぇ」

「・・・一理あるな」

名前はシリウスの隣にどさりと座り込むと夜空を見上げた。

「・・・レギュラスも来てるのか?」

「―――あぁいるぜ、あっち」

指差された方向を向く。レギュラスも取り巻きに囲まれて大変そうだった

「・・・流石は兄弟だな」

「・・・・・・くだらねぇ」

シリウスはベンチから立ち上がり腕を伸ばす。

「・・・流れ星に願い事をかけると叶うらしいな」

「星はお前だろう」

「そういう意味じゃないって…」

「…なら、願いでもあるのか?」

「あぁ、願いっていうかさ、野望ってやつかな、俺は絶対にこの家を出る」

シリウスは憎らしげに家族を見ると一つため息をついた。

「・・・ため息をすると幸せが逃げるぞ」

「―――ここにつれてこられた時点で俺の幸せは逃げ切ったって・・・」

「・・・ジェームズたちはいないのか?」

ジェームズも純血魔法使いの家柄だ。いないわけが無いだろう・・・名前はそう思っていた。

「いねぇよアイツは。つか来れるわけねぇだろ?」

シリウスはそんな質問をする名前を面白そうに見た

「・・・来ないのか?」

「来ねぇよ・・・。純血の家にも色々あるんだよ――――好き嫌いがな」

「・・・そうか」

「俺はブラック家が大嫌いだ、今すぐにでも出て行きたいね」

「・・・あぁ、さっき聞いた」

名前はシリウスの家庭の愚痴をただ聞いて頷くだけだった。彼の口からは色々と愚痴がこぼれてきた――――

「だから俺、あいつらを家族とは思いたくもねぇ」

「・・・そうか」

「俺もダンブルドアの孫になりてーよ・・・」

その声はどこか・・・儚いものだった。
時間も大分経った頃だ。シリウスと色々話してるうちに大分夜も遅くなってしまったようだ。

「おい、シリウス」

シリウスの父親らしき人物がシリウスを迎えにきた。ブラック家もどうやらマルフォイ家に泊まっていくようだ。

「・・・君がダンブルドアの孫かね?」

シリウスの父親は名前を品定めするかのようにじろじろと見る。シリウスはそんな父親の姿が気に食わないのかため息をつく

「・・・名前・ダンブルドアです。Mr.ブラック」

するとシリウスの父親はふんと鼻を鳴らし、シリウスを連れて行ってしまった。別れ際にシリウスが口パクで『ごめんな』と謝って来たのを見逃さなかった

「名前ちゃん、迎えにきたわよ!ごめんなさいね・・・・・・貴方を1人にさせちゃって」

「悪かった、名前・・・」

「いや・・・さっきようやく1人になれたんだ。今までずっと回りに人がいてな・・・・」

名前の容姿を見てアリスはあぁと頷いた。

「まぁ・・・大変だったわね名前ちゃん。マルフォイ家のゲストルームに泊ることになってるの、鍵はここにあるわ・・・だから向かいましょう?」

「あぁ」

今日マルフォイ家に泊る家はブラック家と名前達だけだった。ゲストルームのある塔へと向かう・・・しかしそこは随分と見覚えのある場所だった

「―――・・・」

名前とセブルスが泊る部屋はよくドラコの家に泊りに来た時に使っていた部屋だった。急に親友のことを思い出し、胸が痛くなった。

「・・・どうした名前?」

「・・・なんでもない、セブルス」

そう、なんでもないのだ――――

ひたすら自分にそう言い聞かせ、ベッドに身を投げ込んだ。そしてシャワーも浴びパジャマに着替え眠りについた――――。

『お・は・よ・う!名前ちゃん!』
――――・・・ん?

アリスの声なのだろうが、今よりずっと大人っぽい声だ―――――母親の声だ
これは赤ん坊の頃の記憶なのだろうか・・・今のアリスよりもずっと大人になったアリスが赤ん坊の名前に微笑みかけていた。隣ではセブルスが名前を暖かく見守っていた

『セブルス・・・ほっぺたつねりすぎよ、名前ちゃんが嫌がってるわ』

父親であるセブルスは赤ん坊である名前の頬をきゅっとつねり、ちょっかいを出していた。

『・・・いい子に育つんだぞ』

『まぁ、私の子だもの―――頭脳明解成績優秀モッテモテ美少年に育つんだから!』

『・・・楽しみだ』

赤ん坊の名前はきゃっきゃと笑っている。そして画面は急に変わり、名前が3歳の頃の記憶であろうものが広がった

『まーあ名前ちゃん、魔法薬学がすきなの?』

『はい、ははうえ!』

今の名前ではありえないほどの笑顔で答えている。昔の自分はこんなにも笑っていたのか――――名前はそんな自分の変化に驚いた

『真実薬の作り方はね―――』

『こらアリス!名前にはまだ早すぎる!』

『もうセブルスったら・・・早いほうがいいでしょ』

『それにしても早すぎるぞ・・・』

『ふふふ』

なんとも懐かしい記憶だ―――まだ2人をみていたかった。甘い思い出に浸っていたかった・・・・・・しかしそれは5年前の悪夢によって醒まされてしまった

『・・・ご婦人は・・・・・・残念ながら――――』

癒師の診断は絶望的なものだった。アリスは洗濯物を干している最中に急死してしまったのだ・・・。原因は未だに不明なのだが何時の時からか、アリスの身体は確実に弱っていったのは確かだ。それが何時からなのかが分からない――――

『・・・そんな・・・・・・・・アリス――――――ッ』

セブルスは絶望に打ちひしがれた。当時7歳だった名前は事実を飲み込めず、冷たい抜け殻の手を握り虚ろな目でいた

『・・・はは・・・・・・うえ』

――――止めろ!!見たくない・・・こんな記憶――――――――!!

『どうしてうごかないのですか?お疲れになったのですか・・・?』

やめろやめろ、やめるんだ――――――――やめてくれ!

『何故我輩を置いていくのだ――――アリス、アリス―――――ッ!』

『ねぇ母上・・・・・・』

ッヤメテクレ――――――――――――!!

悪夢から逃れるように名前は目覚めた。窓を覗けばまだ日は昇っておらず、時計を見てまだ深夜だということがわかった。背中は汗だくで心臓は未だにドクドクと脈打つ。