17 それこそが、真実/在りし日々

―――僕はなんて大馬鹿者なんだ、こんな感情を抑えることができないなんて・・・自分が哀れで仕方が無い。名前は年下だ・・・・・・だが同じ男――――――いやいや、名前は弟のような存在なのだ、僕やアリスにとっても――――・・・

セブルスは寒空の中1人、恋愛という名の渦で葛藤していた。

「君に、何が分かるっていうんだ!」

―――なんだ?

こんな寒空の中、誰が外にいるのだろう・・・セブルスはふと向こう側を見る。そこには1人のグリフィンドール生とスリザリン生・・・・・・・名前がいた。
セブルスは名前が急にそんな場所にいるとは思ってもみなかったようで、たじろいだが相手があのリーマスだと知ると先ほどの感情はどこへやら、最愛の弟を守るべく彼らのもとへと行こうとしたのだが猛風によって遮られてしまった
風がセブルスの身体を叩きつけるかのように吹く。風から逃れるべく、木の陰から彼らを見守る事にした

「・・・リーマス」

「君に何がわかるっていうんだい!?知ったような事をぬかさないでくれ!」

―――あのルーピンが怒鳴っている?
それだけでこれがただ事では無いという事はわかった。

「僕の母さんは病気で今死にそうなんだ!そんな気休めの言葉、いらない!」

「・・・」

―――なんだと?
最近憎き彼らを見かけることが無くて清々していたが、まさかそんなことがあったとは思っても見なかった。

「母さんは今聖マンゴの重症患者病棟で寝たきり・・・・・・君に、なにが分かるって言うんだ!君はさぞかし幸せなんだろうね、家族に囲まれて――――」

それ以上はセブルスでも禁句だなと思った。名前がリーマスを殴ると思っていた―――が

「・・・すまない」

驚いた事に、彼の口からはか細く『すまない』という言葉が出てきた。リーマスは肩を震わせ城へと戻っていく――――――今にも崩れ落ちそうな名前に見向きもせず。

「―――名前!」

セブルスは地面に座り込む名前に駆け寄った。名前はそんなセブルスに気付いていたのか気付いていなかったのか、虚ろな瞳で見上げる

「セブ・・・ルス」

「・・・なんでっ―――――なんでだ」

何で言い返さなかったと言いたかったのだろう、しかし口からは空気はヒューヒューと出るだけ

「・・・何故セブルスが泣く」

「・・・!」

自分の目をこすってみると、なにやら暖かいものが流れていた。
――――涙だった

「・・・お前のッ・・・・・・・お前の方が――――」

自分でも何故泣いているのか分からなかった。この目の前にいる、今にも崩れ落ちそうな少年の代わりに泣いているのだろうか―――この少年はこんなにも泣きそうな顔をしているのに、涙がすでに絞りきって出ないのか――――虚ろな表情でセブルスを見上げていた

「―――馬鹿者」

その言葉を聞いた瞬間、父の顔が蘇った。この言葉は……父上の、口癖だ。

「…」

セブルスは崩れ落ちそうな名前の身体を力強く抱きしめる。男だろうとかまうものか・・・セブルスにとって彼は大切な”弟”なのだ。
抱きしめてから気付いた。こんなにも寒いのに名前の体温だけはものすごく高かった。単に身体が小さいから熱いのではなく―――――

「お前、熱があるんじゃないか!?」

急いで額に手を当てると案の定熱があった。

「何故こんな寒いところに――――ッ!医務室へ行くぞ!」

「・・・リーマスが・・・・・・」

「あんな愚か者、どうだっていい!今は自分の事だけを考えろ!」

セブルスは高熱の名前を背中におぶり医務室まで駆けた。背中では名前が苦しそうに息をしていた――――

「セブ・・・・・・ルス、」

「―――しゃべるな」

「あり・・・が・・・とう」

「――――ふん、お前は僕の大切な”弟”なんだからな」

心の中の氷が溶けてゆくような感覚だ。あの時セブルスが来ていなければ自分の精神はどうにかしていただろう――――もう涙さえも流れて出てこなかった名前の代わりにセブルスが泣いてくれたのだ。それだけでも嬉しかった・・・

“馬鹿者”

その言葉をかけられたとたん、胸の中にしまっていた何かが飛び出しそうになった。父上と呼び、セブルスに縋りつきそうになった。今までずっと待っていた言葉――――父親である彼がよく名前に言った言葉――――――――。名前は必死に心を抑えていた。
おぶられたとき、この何時の時代も変わらない懐かしい匂いがしたとき、今まで心の痛みのあまり気付かなかったことにようやく気付いた――――そう、自分は今高熱に見舞われているのだ・・・

この魔法薬の匂いとセブルスの体温に安心したのか、何時の間にかにセブルスの背中で眠ってしまった――――。

名前は1人、夢の中にいた。先ほどの出来事の回想のようだ―――――――

ジェームズたちとリーマスがなにやら言い合いをしていた。リーマスはいつもより気も立っていたし様子もどことなく落ち着きが無かった――――そりゃあ、落ち着けというほうが無理かもしれない。病状が昨晩で急に悪化したようだ。リーマスはいつもより隈を深くし青白い顔をしていた

リーマスの胸の痛みを経験したことのある名前は、マクゴナガルの話を思い出しリーマスが駆けていった後を追っていった。

リーマスは1人寒空の中、灰色の空を見つめていた。涙をこらえているのだろう――――ジェームズたちに当たってしまい、自己険嫌に陥ってしまったのだろう・・・
こんな時はそっとしておくのが得策なのだが、悲痛そうなリーマスを見ていられなくてついつい声をかけてしまったのだった。

「君・・・見ていたんだね。面白かったかい?他人の不幸は」

「違う―――リーマス、僕は」

「何が違うんだい?何故あのとき引き返さなかったんだい?面白かったから見ていたんだろ――――」

「・・・すまなかった」

「そんな僕に、今度は気休めの言葉かい?」

「違う、リーマス・・・ただ僕は」

「知ったようなことをぬかすのはよしてくれ!」

「・・・」

リーマスは怒りの矛先を名前へと向けた。リーマスが怒って仕方がないだろう・・・名前も今回は悪かった。あの時引き返せばよかったのだ――――

「君に何が分かるって言うんだ!?」

名前は何も返せなかった。ただリーマスの怒りと11月の冷たい風を全身に受けていた

「僕の母さんは病気で今死にそうなんだ!そんな気休めの言葉、いらない!!」

リーマス、お前は失う事を恐れているんだな・・・
僕もわかる、その気持ち。誰だってかけがえの無い人を失うのは辛い
覗き見をした分際が言えるようなことではないが―――――

名前は口から出そうになった言葉を急に飲み込んだ。それを言ってしまったらまるで自分達の不幸の言い合いになってしまいそうだったから。
―――不幸の言い合い、なんて哀れな言い合いなのだろう

自分が世界で一番不幸だとは一度も思った事は無いが、この言葉を放ってしまったらそれを自分が認めてしまうこととなる―――自分があらゆるものから負けてしまった瞬間になるのだ。
それだけは嫌だった。口から出そうになる言葉を飲み込み、リーマスの叫びと冷たい風を身に受けることしか出来なかった。そしてリーマスが城へと戻るとタイミングよくセブルスが駆けつけてきたのだった。

何故ここにセブルスがいるのだろうと思ったがそんなことはともかくだ・・・今は何かがほしかった。それに気付いたのはそれから少し先のことだった。

セブルスの涙をみてようやく気付いた、自分が泣きたかったことを――――セブルスが代わりに泣いてくれたのだろう。そして呟くのだ、”馬鹿者”と――――

今までほしかった言葉、どんな言葉よりも暖かい言葉・・・

そして気付けば医務室のベッドの中だった。

「おやおや、ようやく目覚めましたか」

マダムポンフリーが名前が目覚めたことに気付き、駆け寄ってきた

「・・・ありがとうございます」

「お礼ならMr.スネイプに言うべきですよ。40度もあったあなたを担ぎこんできて、入院してた時の分のレポートの資料をわざわざまとめ上げ持ってきて、Ms.レーガンと一緒にいつも見舞いに来ていたんですからね」

横を見ると資料らしき羊皮紙が積み上げられ、新鮮な花が飾られていた。お見舞いの品々も積み重なっておいてあり、手紙もたくさん来ていた。

「・・・みんな」

「皆、貴方が心配だったんですよ。特にMr.スネイプとMs.レーガンはね」

僕は・・・・・・1人なんかじゃ、ないんだ

改めてそう感じた。胸の中から暖かいものがじわじわと染み出てくる・・・

「これで涙をお拭きなさい」

「・・・!」

マダムポンフリーに清潔そうなハンカチを手渡される。目じりを触って見ると暖かいものが手に触れた―――――そう、ようやく湧き出てきた涙だった。

「・・・ありがとうございます」

「貴方はこんなにも愛されているのですよ・・・・・・愛されている分、自分の身体は大切にしなくてはいけませんよ。その身体は貴方1人の身体ではないのだから」

そう言うとマダムポンフリーは優しく名前の頭を撫でた。

「さてさて、他のお見舞いの品々は貴方の部屋に送られていますよ。まだ様子を見るために一晩は入院していなくてはいけません・・・何せ貴方は1週間も寝込んでいたのですからね」

「1週間・・・!?」

名前はその入院のあまりの長さに驚いた。確かに長らく入院していたのも起き上がったときの身体の軋み方で分かったし、横に置いてある資料の量がどれぐらいの授業の量だったのかを物語っていた

「・・・お礼を言わないとな―――」

特にセブルスには――――・・・

「・・・名前!」

「名前ちゃん!目覚めたって本当!?」

何処からともなくセブルスとアリスが血相を変えてやってきた。マダムポンフリーは今日とばかりは仕方ないのか、煩くしても何も咎めなかった

「―――よかった無事で」

「もう、心配したんだから!!名前ちゃんがいなくてすごく寂しかったんだから・・・」

「お前は人を心配させることばかりは一人前なんだな」

「なんで具合が悪いのに医務室へいかなかったの!?」

「何故1人で色々と抱え込んでいたんだ」

「「まったく、心配ばかりさせて!!」」

「・・・す、すまない――――」

2人の迫力に何も言い返すことができなかった。二人とも相当心配をしていたようで顔がどこかやつれていた

「フフフフ、Mr.スネイプとMs.レーガンはこの子の親ですか」

マダムポンフリーはフフフと笑う。それを聞いたとたん2人は顔を真っ赤にさせた
「マダム!」

「フフフ、幸せ者ですね・・・Mr.ダンブルドアは」

「・・・はい」

名前は幸せのひと時を惜しみなくかみ締めた。
―――お別れの日がいつやってくるか分からなかったから・・・・・・・・・

退院してからというもの、広間を歩けばいろいろな人に声はかけられたし、お見舞いの品もたくさん渡された。特に女子達は名前の姿を見るなり安心したのか泣き出す人たちまで現れた。

そしてあの日以来、リーマスと出逢う事は無かった。どうやらリーマスは今母親の面倒を見るために休学しているという。いつものメンバーがいない悪戯仕掛け人たちはどこかぬけた表情をしていた。やはり彼らにはリーマスがいないと駄目なのだ・・・自分にセブルスやアリスが必要なのと同じく――――

「よう名前・・・退院おめでとう」

「・・・ありがとうシリウス。それと、お見舞いの品・・・ありがとうな」

「おう、気に入ってくれれば何よりだ」
シリウス達からは”元気の出る本”というタイトルの本をもらった。本を本来あまり読まないシリウスが本屋で本を選んでいる姿を想像するだけで笑える。
彼の弟でもあり友でもあるレギュラスや、実の姉達であるベラトリックスやナルシッサ達、ルシウス達からはいかにも高級感漂わす品々が贈られてきた。一足早くクリスマスがやってきた気分だ。

気持ちのこもったプレゼントとはどんなものでも嬉しいものだ。知らない女子生徒たちからは手紙やお菓子がつまった袋、怪しそうな飴などがつまった箱・・・。
嬉しかったのだが、そのプレゼントの中身を見てアリスは絶句した。そしてセブルスはそのプレゼントを潔く燃やしたのだった。手紙のみを残して――――
後からその飴は”愛の妙薬”で出来ている飴だったと知らされた時は驚きのあまり眼球が飛び出しそうになった。そして改めて彼らに感謝したのだった

名前は久方ぶりに授業に出た。レポートなどはセブルスが作ってくれた資料のお陰で難なく終えた。授業も普段から予習復習をきちんとしていたので何の落ち度も無く受ける事ができたし呪文だって相変わらず完璧だった。

そして名前は難しい魔法薬の調合で唸っているアルを苦笑しながら見つめるのだった。アルは最初の授業の時、魔法薬が苦手だと言っていたがまさかここまで苦手だったとは思っても見なかった。比較的苦手教科の無い名前は珍しい部類に入るのだろうか・・・・・・
苦手なものがあったほうがどこか人間らしい。名前はそんなアルがどこか羨ましかった。

「うーん・・・、名前・・・・・・これでいいんだよね?」

「・・・あぁ、心配しなくても大丈夫だぞ」

「ごめんよ、僕の調合が遅いせいで君まで・・・」

「平気だ、むしろ立ち止まっていたりしたほうが楽しい」

「―――そんな君が羨ましいよ」

名前にはアルが羨ましがる理由が分からず、眉間にしわを寄せた。12月もあっという間に真中辺りまでやってきた。冬の寒さはどんどん増すばかり、ホグワーツは銀世界で覆われていた。そしてまた、クリスマスという日が近づいているのも確かだった―――――
女子生徒たちは冬の寒さにせかされたように恋愛ムードに走っていた。名前はそんな女子生徒の気持ちなんて理解できるわけも無く、告白してくる女子生徒を断っては泣き去っていく女子生徒が消えていった廊下を見つめるだけだった。

ダンブルドアから闇の力を抑える薬を毎日服用しているが、おいしいと言えるものではなかった。しかし飲まなければ闇の力にすぐ反応し、印のついている腕が焼けるように痛み出してしまうのだ。発作の薬は父親オリジナルなので誰も作れないのだ。だが運がいいことにここに来てからと言うもの、発作で左眼が赤くなる事は無かった。少し痛む事はあるがそんなの未来に比べたら比べ物にならないくらいに軽い痛みだ。

クリスマス、マルフォイ邸のクリスマスパーティーでヴォルデモート卿がやってくるそうだ。名前はそれが心配でならなかった――――・・・彼の魔力を感じれば左眼も赤くなるだろうし闇の印は痛み出すだろう・・・・・・・・・それをどうやって抑えるかが問題なのだ。闇の力を抑える薬は服用してから効くまで2時間はかかる。2時間は安静にしていなければならないのだ。つまりクリスマスパーティーの3時間前には薬を服用していないといけないということだ、しかも普段の2倍の量を。

「クリスマスか―――」

「どうした名前、独り言か?」

「・・・レギュラス・・・・・・久しいな」

レギュラスがやってきた。久々にレギュラスと会話する。しかし久しぶりなのは仕方が無い事だ、彼の周りには取り巻きが沢山いる上に学年も違うので時間帯がなかなか合わない。1年生は1年生でスケジュールがみちみちなのだ。

「君も来るんだろ?クリスマスパーティー」

「・・・あぁ」

正直、出来る限り避けたかったんだがな――――本心では。

「父上と母上は君を見たらすぐ気に入るだろうな。手紙でも君の事を教えてさしあげたんだ―――そしたら君の事にすぐ興味を示したんだ」

「・・・そうか、では父君と母君によろしくと伝えておいてくれ」

「クリスマスパーティーにご出席なさるからそのときにでも直接言うといいさ」

「・・・あぁ、分かった」

レギュラスの両親はどんな人なのだろうか・・・なんとなく予想はつくが。

「――――祖父上は来られないのだろうな・・・」

祖父上とは勿論ダンブルドアのことだ。此方の時代では名前はダンブルドアの孫となっているのだ。致し方が無い

「・・・申し訳ないけどそれだけは、な」

純血主義者はアルバス・ダンブルドアを毛嫌いしている。まぁ考え方も合わないのだから無理も無いだろう

「クリスマスパーティー、楽しみだな」

「・・・あぁ」

名前はひたすら、クリスマスが来ない事を祈った。