19 それこそが、真実/在りし日々

隣のベッドで眠っているセブルスはすやすやと眠っている。心配になりアリスの部屋へ行ってみたがこちらもすやすやと眠っていた。それに安心すると急に肩の力が抜けてしまった。

―――良かった・・・

自分の部屋に戻る途中、廊下から足音が聞こえてきた。一体こんな真夜中に誰なのだろう――――行ってはいけないと警告が鳴り響く、しかしその意志とは正反対に身体はどんどん前に前進してゆく。ヴォルデモート卿に捕まった時のように――――・・・

――――お前は、俺様から逃れられぬ。

暗闇がそう語った気がした。
ずんずんと身体は暗闇の奥へと進んで行く。意志ではないのに勝手に動く。
闇が深くなっていくたびに心臓の音が大きくなってくる。名前の心臓の音は煩くなってゆく。

―――よせ、止まるんだ・・・・それ以上行ってはいけない

名前はこの先に誰がいるのかよく知っていた。この感覚は前にも味わったことがある―――そう、ヴォルデモート卿に違いないだろう。
ダンブルドアは絶対奴に近づくなと言っていたが約束は守れそうになさそうだ。自分の意志とは関係なく身体が動く・・・。

「ほう、お前がダンブルドアの孫か?似てないな」

「・・・ヴォルデモート卿」

1年前見たヴォルデモート卿とは違い、随分若若しかった。青年とは言えないが立派な大人の男性だった。赤い瞳が弧を描く。

「俺様の名前を知っているようだな、ま・・・知らない奴はいないと思うが。何故お前はここにきた?」

「・・・身体が勝手に・・・・・・動いたんです」

「ほぅ、それは面白い・・・俺様は印のある者しか呼び寄せてはいないのだが―――?」
「・・・」

今度こそやばいと思い、ここの部屋から出ようとした。しかし扉が音を立てて閉じてしまった。ついにヴォルデモート卿と名前の2人っきりとなってしまった。

「そこの扉には闇の魔術がかかっている、貴様は逃げられん」

「・・・何故」

「何故だと?それは至極簡単な質問だ、名前・ダンブルドア」

「・・・」

「貴様が気になったから。ただそれだけのこと・・・」

このままでは闇の印をもうひとつ増やされかねないと思った。今度は両手につけられそうだ・・・。

「貴様からは何故か闇の香りが漂ってくる・・・それは何故だ?」

「・・・」

「貴様は本当にダンブルドアの孫なのか?――――はたまた・・・」

ヴォルデモート卿は不敵に笑うと一歩一歩確実に近づいてくる。

「―――僕を、どうする気ですか」

「俺様にはそんな幼児趣味は無い、安心しろ。」

こんな状況で誰がどう安心できるのだと言いたい。しかし次の瞬間、天の助けのような言葉が聞こえてきた。

「・・・ヴォルデモート様、この坊主ではありません。”アレの所持者”は・・・」

別の男の声が聞こえてきた。何時の間にかにいたのだろう・・・声のするほうを振り向けば真っ黒のローブのフードを深くかぶった男が立っていた。

「・・・モティマー、この小僧じゃないと?」

「・・・そうです、我が君。分かった事は、名前・ダンブルドアではないことと”アレの所持者”がこの坊主と同い年で同じ学校に通っているという事だけです――――」

「ほう・・・そうか」

モティマーと呼ばれた男は淡々と話す。”アレの所持者”とは一体なんのことなのだろう・・・そんなことを思いつつもどこか逃げ道が無いかと探していると運がいい事に開いている窓を見つけることが出来た。
2人はなにやら深刻な話をしているらしく、名前が窓によじ登っている事すら気付いていない。勇気を振り絞って窓から出ると近くの木の枝に捕まり、難を逃れた。
その後名前は大急ぎで自分の部屋へと戻っていった。しばらくしてからヴォルデモートは名前がこの場にいないことに気付いた

「―――申し訳ございません、我が君・・・いい人材を逃してしまいました」

「ふん、あの小僧は再び俺様の元へと嫌でもやってくることになるだろう・・・。あの小僧には何故か闇の印がついていた。俺様がつけた記憶は無いが俺様の魔力を感じた―――まったく不思議な事だ」

「ヴォルデモート様の・・・印で?」

「あぁ、何度も言わせるな。あの小僧には既にルシウスがついている。いつだって連れてくる事は可能だ――――しかし”アレの所持者”は早急に捕まえなければならぬ」

「っは、我が君」

モティマーは闇へと再び消えていった。ヴォルデモートは窓の外からみえる夜空を無表情で見つめ、呟いた

「・・・まさかな、アリス・S・レーガン・・・・・・貴様に弟がいたりはする事はまいな?」

マルフォイ邸で朝を迎えた3人は食事をすべく食堂へと向かっていった。名前は昨晩起きた事もどうにか頭の墨に追いやり、平素を保っていた。ブラック家とマルフォイ家と顔を合わせることとなったが、難なく食事を終えることが出来た。シリウスは終始不機嫌だったとか―――

「時にセブルス、何時アリスと婚約をするんだ?」

ルシウスが聞いてきた

「・・・ル、ルシウス先輩!」

「ははは、アリスはいつまでたってもウブだな」

「・・・」

アリスは照れくさそうに下にうつむく

「・・・来年のクリスマスには、と思いまして」

「ほほう、それはそれは―――盛大に祝わなくてはな」

「そうですわね・・・」

おととし、ルシウスとナルシッサは婚約を交わしたそうだ。純血魔法使いの家とはそういうものなのである・・・

「名前・・・あなたも婚約を交わしたらどう?」

今度はベラトリックスが面白半分で聞いてきた。

「いえ・・・僕はまだ結構です」

「あらそう・・・貴方ならすぐ見つかるのに」

「・・・自分がもっと強くなってからしたいと思います」

「まぁ・・・頑張ってちょうだいな」

「ありがとうございます、先輩」

話を聞く限りでは名前にはなんの欠点も見当たらないらしく、ようやくブラック家の当主、マルフォイ家の当主面々は名前のことを気に入ったようだ。

「・・・君は本当にあのダンブルドアの息子なのかね―――――あ、いや失礼」

「―――いいえ、平気です。もう慣れています」

そういわれるのはもう慣れた。それは事実だった
彼らがダンブルドアを好きになるなんて地球が破滅したって無理だろう。それぐらい十分承知していた。ドラコといる時だって彼の口からダンブルドアとハリーの愚痴がおさまることは無いのだ

「君の両親はお亡くなりになったと聞いている―――名前すら分からないのかね?」

ルシウスの父親らしき人物が尋ねてきた
「・・・はい」

「そうか、君の役に立てる情報があれば、と思ったのだが・・・」

「お気遣いだけで十分です・・・ありがとうございます」

彼らは名前の物静かな所も気に入ったようだ。婦人方も名前のことを気に入ったらしくひたすら質問攻めしてきた。気に入ったのもあるしなによりもアルバス・ダンブルドアの弱点を知りたかったのだろう――――まさに腐ってもキノコだった。

「食事も終わり、ブラック夫妻とマルフォイ夫妻は話をしていた。子供達も自由に屋敷内を歩き回っていた
「よ」

「・・・シリウスか」

「大丈夫か?お前」

一瞬どきっとした。シリウスが昨晩の事を知っているはずがない――――

「あんなに質問攻めにあってたけどよ・・・その、亡くなった両親の話は辛かったろ・・・?」

シリウスの一言でほっと一安心した。よかった・・・あのことじゃない、と

「―――辛かった。だが平気だ・・・・・・」

「・・・悪ぃな」

「何故シリウスが謝る・・・?」

「あいつらの代わりに、さ」

ブラック夫妻をひと睨みし、視線を再び名前へと戻す。

「・・・ありがとう。その気持ちだけで嬉しい・・・だけどあまり家族を嫌いにならないでほしい・・・・・・」

「それは難しい願いだな・・・。じゃぁ俺そろそろ帰らないといけないみたいだから――――じゃあな、またホグワーツでな」

シリウスはにかっと笑うとブラック家の車に乗りマルフォイ家を後にした。名前たちも同様、スネイプ家の車に乗り色々あったマルフォイ家を後にした

名前は自分の部屋に着くや否や、プレゼントの山で埋もれ死にそうになった。そんな名前に感づいたのかセブルスが駆けつけてきてくれて一命を取り留めた。

「・・・人気者だな、お前」

「・・・どうで、上辺だけで寄ってくる奴らだけだ。僕が”あの”ダンブルドアの孫だからってな――――」

「流石にそれだけではないと思うがな。」

「??」

セブルスはそれに気付いていない名前にため息をついた。そしてしばらくプレゼントを開けていると驚くべき事実が判明した。

「―――何故僕のプレゼントには異様に愛の妙薬が使われているものが多いんだ?」

「・・・お前も大変だな」

名前のプレゼントの数々には女子達が必ずお菓子や飴玉をプレゼントにしていたりプレゼントのおまけにつけていたりしていた。魔法薬学で天才的な才能を持つセブルスが側にいるおかげでどれが愛の妙薬入りか、どれが普通のお菓子かなどと識別が出来た。セブルスはお菓子を識別しながらも名前を少しかわいそうだと思った。

「・・・セブルス、ありがとう」

「いや、此方こそ」

「丁度この本が欲しかったんだ・・・」

セブルスは名前に『1000種類の生き物の1000の言語』という本を貰った。前前から色々な言葉には興味があったし、勉強しておけば何かの役にたつと思っていたのだ。

「これは絶版だったはず・・・」

「お前がくれたあの本も絶版だったはずだぞ」

名前がセブルスに贈ったものは『古代の魔法薬学創世記』という本だ。これもまた数百年前に出版されたが今では世の中に数えるだけしかないという貴重な本だった。そしてセブルスが贈った本も同様だ

「・・・まぁ、お互い同じだということだな」

「そのようだな・・・アリスのプレゼントは見たか?」

「いや、まだ見ていない・・・もしかしてこれか?」

白くて上品な箱を見つけた。箱には”アリス・レーガン”と記されていた

「・・・アリスのだな。僕にはドレスローブが来た」

「ドレスローブ・・・?」

「あぁ・・・僕もアリスにドレスローブを贈ったんだ・・・・・・つまり――――」

セブルスはそれ以上何も言わなかった。喋りかけたのだが言葉を急に飲み込んでしまった。

――――――恥ずかしい

お互いがお互いのパーティー用のドレスローブを贈ったのだ。それの深い意味を名前は察する事ができず、そうなのかと頷いただけだった

「ゴホン!――――名前のは何だったんだ?」

「・・・僕のはこれだ――――」

と、取り出したものは一冊のアルバムだった・・・・・・しかしこれには随分見覚えがあった――――

「これは―――!」

「何どうした」

これは・・・過去の世界へ来る前に見たアルバムだった。あのアルバムとは違い新品で埃一つとついておらず、当たり前だが写真は何も貼ってない。

「・・・アルバムがどうかしたのか?」

「いや・・・すまない、何でも無い」

「・・・そうか、ならいいが――――。そうだ、せっかくアルバムをもらったのだから何も入れないのは随分失礼なことだと思わないか」

「・・・まぁ、そうだろうな」

「・・・・・・写真を撮るぞ」

「―――は?」

「写真だ。どうしても撮りたいんだ・・・皆と。お願いだセブルス・・・・・・」

セブルスが写真を撮る事を嫌っている事も、みんなの中に”彼ら”が含まれている事に対して物凄い嫌な顔をしているのも知っている。だけれども今撮らなくてはならないような気がしたのだ――――そう、恐らく今しかないのだ

「・・・」

「―――お願いだ」

「・・・お前がわがままをいう事なんて滅多にないからな・・・・・・そんなに写真が撮りたいのならいいだろう。」

「―――ありがとう、セブルス」

そしてセブルスと名前は写真撮影をすべくアリスと合流した。

「名前ちゃんにしては珍しいわね・・・アルバム気に入ってくれたようで嬉しいわ!早速撮りましょう!シリウス達も一緒に!」
「・・・」

セブルスは写真を撮っている間、終始不機嫌な表情だったがそれはシリウス達も同じといえるのだろう・・・・・・唯一、真中で名前とアリスとアルだけはにこにこしていたとか。
そうそう、実はクリスマスの夜、リーマスから30枚にも及ぶ謝罪の手紙が名前の元へと届いたのであった。その日から、名前とリーマスの友好関係は修復され無事平和な生活を取り戻す事の出来た名前であった。