朝食も終わりアリスに引きずられるセブルスを見送り、次の授業へ向かおうとしているときだった
「名前」
「―――ルシウス先輩」
この人は一体いつ頃から闇に染まり始めてしまったのだろう・・・・・・
「今度のクリスマスパーティーにかの方がわざわざおいでになさるようだ・・・では」
ルシウスはそう言い残すと地下へと消えていった。
かの方・・・ヴォルデモート卿の事だろうか・・・・・・僕に一体、どうしろと言うんだ
ヴォルデモート卿への恐怖より今は別の不安で頭がいっぱいだった。
―――ルシウス先輩も、やはり印をつけられてしまうのだろうか・・・
あの印はつけられたら最後だと父親から聞いていたし、今も闇を感じると闇の印が猛烈な熱を持ち身体へ苦痛を与える――――
そして永久的に闇の僕、『死喰い人』という名を背負うこととなる。僕は不本意につけられてしまったが『死喰い人』に何ら変わりもないのだろう・・・・・・
「あら・・・名前?」
「―――リリー」
リリー・エンバスは通称ジェームズの未来の奥さん・・・・・・だそうだ。赤毛で美人のグリフィンドールの4年生だ
「どうしたの?そんなところで・・・授業は?」
「・・・いや、何でも無い。」
「そう・・・早く行った方がいいわよ」
「そうする・・・・・・今日はジェームズと一緒じゃないんだな」
「なっ・・・なんであんな奴と一緒じゃないといけないのよ!」
ムキになる所がまた微笑ましい・・・そんな僕の思想は老けているのだろうか。リリーと別れた後、ふと思ってしまった
「リリーって確か、ハリーの母君だよな・・・・・・」
あんな眩しい笑顔をしているのに・・・ハリーを生んだ後ヴォルデモート卿に殺されてしまうのか――――――
ハリーは辛いな、母君の名を呼ぶ前に――――
名前は今どうしても未来を変えたかった。あんな悲しい未来・・・胸が苦しい。何故ヴォルデモート卿は闇に染まってしまったのだろうか・・・ふと名前はヴォルデモートのことを哀れんだ。
きっと誰にも愛されなかったのだろう・・・僕は父上や母上が愛してくださっているから幸せだが誰にも愛されず孤独だったヴォルデモート卿を救うのは誰だ?
名前は、ヴォルデモートはずっと孤独で愛の無い人生を歩んだ人なんだと思った。だから闇に染まったのだろうか・・・はたまたそれだけなのだろうか――――
名前もホグワーツに通うまで、働いている父親と滅多に会えない生活をしていて食事も1人、何をするのも1人でやってきた。母親がいないのを一度も不幸だと思った事は無かったが、切なさと寂しさと、孤独の中葛藤していたのだった。
愛されていないとは思った事は無かったがどうしても孤独が何よりも勝ってしまうのだ。一人でいることは何よりも辛いということを名前は知っていた
「・・・フォッフォッフォ、名前・・・・・・何を葛藤しておるのかね」
「―――校長・・・」
ダンブルドアが廊下の隅でたたずんでいる名前にそっと声をかけた。
「未来を変えたいと思ってしまいました」
「―――名前、それは」
「分かっています、禁忌だということは―――しません、そんなこと」
そう―――未来を変えるということは何よりの禁忌。一番犯してはいけないことだ
名前がここにいる時点で少なくとも未来は変わっているのだ。これ以上禁忌を犯してはいけない――――だけどそんな禁忌のひと時が名前にとってはいつまでも続いてほしいものだった。そうすれば彼らは哀しまなくても済むし、死ぬ必要も無い―――――――
「すまんの、わしが奴を引き止めておけばよかったんじゃ・・・」
ダンブルドアの言う”奴”とは恐らくヴォルデモート・・・なんとなくそう思った。ダンブルドアは後悔の念と悔しさと悲しさがどこか入り混じった表情をしていた―――――
「ダンブルドア校長、あなたの責任ではありません」
「・・・今更悔やんでも仕方なし、じゃ。」
過ぎ去った時は二度と戻ってこないのだ――――――――ダンブルドアが一番実感していることだろう。名前はそんなダンブルドアの後ろを優しく見守った
「やぁ、おはようMr.名前」
「・・・あぁ」
名前は過去のホグワーツに来てから3ヶ月、色々あったが今ではだいぶ落ち着き名前も未来とあまり変わらない生活を送っていた。いつも隣には父親でもあり友人でもあるセブルスと母親でもあり友人でもあるアリスがいた。
いつも無表情気味だった名前は以前よりも笑うようになったし、表情も豊になったと思う。
「おっ・・・おはようっ、名前」
「・・・おはよう」
今日も朝から賑やかだった。先ほどの女子も名前から挨拶を返されただけできゃーきゃーと黄色い声を上げて騒いでいる。名前は一体何がそんなにも喜ばしい事なのか訳がわからずその黄色い声を不思議そうに聞いているだけだった。
「もう、私たちの名前ちゃんに勝手に声をかけて・・・!」
「相変わらず親ばかだな、アリス」
「あら!親ばかならセブルスもでしょ」
「僕を巻き込むな」
昔から本当にこの2人は夫婦だったんだなぁと最近はよく思う。名前はそんな2人をいつも微笑ましく見守っていた。
「相変わらず仲睦まじいようだね」
「ルシウス先輩・・・」
ルシウスがどこからともなく現れた。名前は本当にそうですよ、とため息をつく
「今年のクリスマス・・・セブルス達も無論来るようだが、君はどうだね・・・?」
“どうだね”の部分に深い何かが含まれている事ぐらいはっきりとわかる。行ってはいけないと警告さえ頭に鳴り響いている。彼らがヴォルデモート卿に襲われるとは思わないがもしかしたら接触を防ぐ事が出来るかもしれない。そしてセブルスが闇に染まらなくても済むかもしれない・・・・
「・・・行かせて頂きます、先輩」
「うん、期待通りの返事が返ってきて嬉しく思うよ」
2人はまだルシウスの不敵に笑う表情に気付いていない。なぜなら未だに言い合っているから・・・・・・でもこれは幸運なのかもしれない。彼らに余計な心配事をかかせなくて済みそうだからだ
「では新婚さんにもよろしく」
「・・・はい」
あの人はいつから闇に染まってしまったのだろう、なんらかの理由があるにせよ・・・・・・
―――ドラコも、闇に染められてしまうのか?
名前は親友の身が心配でならなかった。そして誓うのだ、どんな事があろうとも親友を支えて行こうと
そろそろ広間へ行かないと朝食が終わってしまうぞ、と声をかけようと振り向いたが肝心な彼らの姿が見つからなかった。
・・・置いていかれたのか?
最近はよく置いてけぼりになることが多かった。別に寂しくもないが胸の中にどこか虚しさは感じていた。そして改めて実感するのだ。
自分は此処の時代の人間ではないこと――――そしていずれかはこの時代から、大好きな人たちから、夢のような日々とお別れをしなくてはならないことを
自分はちゃんとお別れできるのだろうか・・・
「・・・もうクイディッチシーズンか・・・」
あの時を懐かしく思う。ハリーがシーカーに選ばれ、生まれて初めて試合を終えた時のハリーの表情・・・クィレル教授がヴォルデモート卿と繋がっていたり自分の父親が疑われたりで慌しい時期だったがそれもまたいい思い出である。
「おーい名前ー!」
「・・・アル」
ジェームズ達ど同様、仲のいい友達であるアルとは随分久方ぶりに会話を交わしたような気がする。最近アルはジェームズたちとなにやら作戦を立てているらしく、なかなか遭遇する事がなかった
「久しぶりだな」
「・・・本当だな、いつも忙しそうだが・・・・・・一体何をやってるんだ?」
「それは―――・・・僕の口からは言えないんだ、ごめんよ。直接ジェームズたちに聞くといいよ」
「・・・ジェームズたちともアル同様、ホグワーツ中あちらこちらと動き回ってる様だからな・・・・・・最近は特にめっきり会う機会が無くなった」
「まぁジェームズは特にクイディッチの選手だからねぇ・・・それより、リーマス知らない?」
「・・・リーマスか?」
いいや見ていないと答えるとアルはそっかとつぶやき名前と別れた。ジェームズたちと一緒ではないのだろうか・・・格別仲がいい彼らがバラバラに行動してるところなんて見たことが無い・・・・・・リーマスは一体どうしたんだ?
名前はふらふらとマクゴナガルのいる教室へと向かっていった。ただなんとなくだったが、そこに行けばリーマスと会える気がしたからだ。
「―――Mr.ルーピン、話があります」
「はい」
予感は的中したようだ。教室でリーマスとマクゴナガルが話し合っていた
しかし今この場で名前がのこのこと登場するには気まずいと思った。なぜなら―――
「貴方のお母様がお倒れになったようです・・・今は病院で入院しているので大丈夫のようですが・・・・・・」
――――ズキン
名前はこの胸の痛みの意味を知っている
「・・・貴方と会いたい、とおっしゃっていたそうです」
ズキン
リーマスの心境があまりにも苦しいのか名前にまで伝わってくる。そして名前はこの胸の痛みの意味を知っている――――――以前、体験した事があった
「・・・それでは聖マンゴへ向かいます――――校長や先生方には話をつけておいてあります・・・・・・」
名前は急いで廊下の隅に隠れると、教室を出て行く二人を影からのぞき見た。
――――リーマス・・・
リーマスは悲痛で顔を歪ませ、ただ下をうつむいていた。あれから一言も発していない・・・あの苦しそうに閉じられた口を開けばどんな叫びが爆発するのだろうか
マクゴナガルはただ優しく、母のようにリーマスの肩を抱き出口へと向かっていった。リーマスは馬車に乗り、付き添いの魔法使いと共に生マンゴへと向かっていった。
名前はただ見つめるだけしかできなくて、リーマスの消えていった空を見守った。そして名前は肝心なことに気付いていなかった・・・・・・
「何をしているのですMr.ダンブルドア!」
「・・・!」
自分が影から追跡してきたことがばれてしまったのだ。名前は申し訳無さそうにマクゴナガルの顔をうかがう
「・・・Mr.ダンブルドア、貴方なら今の彼の気持ちを何よりも理解できることでしょう・・・今回のことは忘れておいてさしあげます。ですがお咎めの代わりに、帰ってきた彼と一緒にいてあげなさい。これでお咎めはなしです」
「すみませんでした・・・。」
「貴方も辛かったでしょう。」
「・・・」
名前は最後まで何も言わなかった。
マクゴナガルもまた、沈黙の中で名前がどんな悲しみに浸っていたのかを十分承知していたので、優しく背中を押して広間へと向かわせた。
朝食の時間まではどうやらギリギリ間に合ったようだが、今の名前にとっては新鮮なサラダも無味だった。
クイディッチのお陰で生徒たちはレポートも忘れ、活気に満ち溢れていた。
――――一部を除けば
「名前ちゃんたら、あの時以来無口になっちゃったわね・・・どうしたのかしら」
活気に満ち溢れた寮内で1人ぽつんとレポートに没頭する名前を、アリスは不安そうに見つめていた。セブルスも同様、机にココアを置いたりと心遣いをしているのだが名前が手を止める事は無かった
「名前・・・」
「もう、きっと私たちがいけないんだわ・・・最近置いてけぼりばっかりしちゃってたから・・・」
「・・・」
セブルスだって名前といたくないわけではない、ただ恋人と2人きりでいたいときもあるし、恋人の気持ちを独占したい時だってある。名前が来てからと言うもの、学年は違えど3人でいつも一緒にいるようになったし、何よりも名前がセブルス達にとってかけがえのない存在になっていったのは確かだ。
しかし”嫉妬”とは恐ろしいもので、こうして名前ばかりに気を止めている恋人を見ているのはいい気がしないものだ。だがその感情が非常に哀れな感情なのだとすぐに気付かされる・・・
だが、”嫉妬”してしまうのだ――――名前に。
セブルスはこのくだらない感情を抑えるためか、頭を冷やしに真冬のホグワーツの庭へと向かっていった。アリスはそんなセブルスに気付く事も無く名前に付き添い、ただ見守っていた。