14 それこそが、真実/在りし日々

プレゼントはアリスの大好きな東洋の“お香”とやらにするかアロマキャンドルにするか迷っていた。ちょうど部屋に戻ろうとしていたセブルスと目が合った

「・・・セブルス、アリスの誕生日プレゼントは決めたか?」

「・・・まだだ」

セブルスは回りにアリスがいないことを確認して答えた。

「お前もアリスの誕生日プレゼントのことを考えていたのか・・・?」
お前“も”というのだからセブルスも同じ事を考えていたのだろう――――親子とはつくづく面白いものだ

「「アロマキャンドルかお香にしようかと考えていたんだ」」

再びハモってしまった・・・・・・
恥ずかしさにごほんと咳払いをすると近くにいたルシウスとベラトリックスのクスクスという笑い声が聞こえてきた。2人はそれでさらに気恥ずかしそうにした

「・・・双子を見ているみたいだな」

「名前、あなたって本当にあのダンブルドアの孫なの?性格も大違いだし・・・全然ダンブルドアの血を引いてるようにも見えないわ」

一瞬嘘がばれたのかとドキっとしたがどうやらばれていないようだ。しかもいつからファーストネームで呼ばれるようになったのかは知らないが、随分ベラトリックスにも気に入られてしまったみたいだ

「・・・あなたをダンブルドアにしておくのは勿体無いわ・・・・・・・・」

「君をマルフォイ家の養子にしたいくらいだよ」

ルシウスは冗談なのか本気なのかよく分からない発言をする。ドラコの父君は冗談で言っていそうで実は本気だったりするから侮れないのだそして彼にも、ファーストネームで呼ぶようにと言われてしまったのだ。流石にセブルスのように気軽に呼ぶことは無理があるので“ルシウス先輩”と呼ぶようにしている。

「ルシウス先輩・・・ベラトリックス先輩・・・・・・ご冗談を」

「冗談じゃないわよ?ねぇ、ルシウス」

「えぇ」

2人はにっこりと笑うと背筋から嫌な汗が流れ出した。2人ならやりかねない・・・名前はそんな危機を感じ、逃れるべくセブルス達と別れを言い部屋へと戻っていった。セブルスも2人に「では失礼します」と言うと逃げるようにして部屋へと戻った

スリザリン談話室では不気味な笑みを浮かべた2人がいたという・・・

あのお茶会の日から随分日が過ぎた頃である・・・
名前はいつも通り寝る支度をしていた時、めずらしく左眼が痛んだので手鏡で見ることにしてみたのだった。

「・・・赤い」

時々不安には思っていたのだが、いつかは再び発作するのではないかと思っていたがまさか今なるとは思っても見なかった
闇の力を抑える薬はダンブルドアから定期的にもらっているからどうにかなるとして、やはり父親オリジナルのあの薬は父親意外誰も作れるはずがなかった。
それに今のセブルスがあの薬の調合法を知っているはずが無い――――

ルームメイトでもあるアルがかなりの早寝だったおかげか、名前の変化に気付かれることはなかった。この左眼は出来る限り秘密にしていたかったし・・・

―――仕方が無い、ダンブルドアの元へ行こう

消灯時間ぎりぎりだったが仕方が無いだろう・・・・・・ダンブルドアには事前にこの左眼の話もしてあった。あの薬は調合できないだろうが別の対処法をあの人なら考えてくれるだろう・・・・そう思い校長室に向かうために走った

談話室のほうへと足を進めるとルシウスが本を読んでいた。

―――会いたくない相手と遭遇してしまった

今ルシウスにこの左眼を見られるのが嫌だった。左眼が赤くなっている時は薬を飲んでいるからといっても少なからず闇の力が働いているということだ。
―――恐らくこの人ならこの闇の力にすぐさま反応するだろう

「・・・おや、名前・・・・・・・消灯時間はすぐだよ」

「・・・校長に急用を思い出したので」

適当に流そうと思ったがやはり簡単にはいかなかった。案の定闇の力にも気付いているようだし・・・・・・名前は厄介な事になりそうだと薄々感じていた

「・・・名前、君は以前から左腕に包帯を巻いているね・・・・・・病気のためと聞いているが私はそこから闇の力を感じ取る事が出来る―――」

やはりこの人には隠し事は出来ないようだ。心は読まれないとしても体の表面に出ているものは隠せなかった

「・・・・・・君もやはり、私が期待していた通り―――あの人は偉大な方だ」

“あの人”とはヴォルデモート卿のことだろう・・・・・・この人も闇なんだなと改めて思った。名前は再び闇に捕らわれてしまったのだ――――――

「君はその年齢ですでにあの方から印を授かったようだね――――私はここを今年卒業する・・・・卒業した時に授けていただく予定だ」

クックックと不敵に笑いながら言うルシウスの顔は恐ろしい程に冷酷だった

「―――私も君の仲間だ、だから安心しなさい・・・」

ルシウスは名前の肩をぽんと手を置くと耳元で囁く。もうすぐであの方が偉大なことを成し遂げるだろう・・・・・・そして我々も、と。

――――背筋が凍るような思いだ。
改めて、この人が死喰い人であることを思い知った。
いつもドラコと一緒の時に向ける笑顔からは到底想像できないこの姿。だが、元々こういう人なのかもしれない・・・仮面をつけた人生を歩んでいるのだ、この人は――――

名前は冷酷な笑みを浮かべるルシウスに向けて言葉を発する事ができなかった。
恐怖とはまさにこういう事なのだろう。体がまるで冷凍庫に何十時間も入れられたように凍え、心は冷たい何かに鷲づかみされたような感覚――――闇という足かせが体の自由を奪い、そしてじわじわと侵食してゆくのだ・・・・・・・・心に

閉心術をひたすらしていた・・・心を読まれないように、と・・・・・・ひたすら
ルシウスの瞳を見ていると心が全て見抜かれそうな気分になる。まさに恐怖だ

「では、名前・・・よい夢を」

そう言うとルシウスは自室へと戻っていった。
談話室では未だに体温を取り戻してない名前が体温を取り戻すかのようにして肩をさすり、その場に座り込んでしまった。

――――恐ろしい人、だ・・・・・・

急にダンブルドアのぬくもりがほしくなった名前は凍える心をさすりながら校長室へと駆け込んでいった。

「―――ダンブルドア校長!」

校長室に入ったとたん、ようやく肺に暖かい空気が流れたような気がした。身体も不思議に温度を取り戻しつつあった・・・・・・

「フォッフォッフォ・・・一体どうしたんじゃ?そんな青白い顔をして・・・」

名前の顔は確かに青白かった・・・いつも以上に。それも先ほどの恐怖のせいだったし、すでに消灯時間を過ぎているのもそのせいだった。しかしそんな名前にダンブルドアは優しく微笑み消灯時間のことは言わなかった

「・・・ダンブルドア校長、僕・・・・・・発作が」

「―――ふむ、ずっと前に聞いたあの発作のことかね?何か代わりになるものをずっと探しておったんじゃが・・・・・・痛みを抑える薬を飲んで、いつも通りにしてもらうしか方法が無いんじゃ・・・」

ダンブルドアはビンを名前に手渡した

「・・・左眼はいつも前髪で隠れているので平気だと思います・・・・・・・この痛み止めは・・・・・・・・」

「その薬はとても貴重なものじゃ―――東洋の薬で“天女の涙”と呼ばれるものじゃ・・・どんな痛みでも取り除いてくれるという薬なのじゃが・・・・・・・・・これを乱用するとあまり身体に良くないのじゃ、副作用が強くてのう」

どんな薬にせよ、こんな珍しいものを手に入れてしまうのも流石はアルバス・ダンブルドアといったところだ。ましてや東洋の薬なんて滅多に手に入らない・・・本当にこれを使っていいのだろうかと目を配らせるとそれに察したダンブルドアはにこりと微笑み頷いた

「・・・ありがとうございます」

「この薬は本当に痛みで苦しくなったら飲みなさい・・・自力で耐えられる時は頑張って痛みを乗り越えて、自力では耐えられなかった場合のみこれを数滴水に垂らして薄めてから飲みなさい。」

この薬は相当効果が強いらしく、東洋でも滅多に出回る事はないという。そんな薬を名前に簡単に渡してしまう寛大なダンブルドアに尊敬の眼差しを向けながら校長室を後にした。

自室に戻り、久々に左腕の包帯を解いてみた。

――――蛇が・・・蠢いている

蛇は不気味に腕の上でおよいでいた。これは一体何を示すものなのだろう――――さっきルシウス先輩が言っていた・・・“偉大な事”が関係しているのだろうか

これ以上印を見ていたくなかった名前はすぐさま新しい包帯を巻き、蠢く闇を覆い隠した。

「・・・闇、か」

父親も結局は闇に染まってしまったのだろうか・・・どんな気持ちで染まってしまったのだろうか――――そして母親は・・・闇には染まらなかったのだろうか

闇という存在がこんなにも身近にあるなんて考えてもみなかった。まさかこんな身近にあるとは――――

「・・・ドラコ」

闇とは不思議なものだ
ふと心を落ち着かせるとおもいきや人をいとも簡単に孤独にすることができる
今、名前の心の中では親友の顔が思い浮かばれていた。いつもの日常・・・一緒に朝食をとり、レポートを書き・・・・・・愚痴を言い――――
今はそんなことをしたくても出来ないのだ。親友と話す事さえできずにいる・・・

ただの平凡な日常がどれほど大切なものなのだと初めて思った――――――
こんな事、この時代に来なければ感じる事も考えることも無かっただろう。

「父上・・・」

ドラコとも会いたかったが今は何よりも――――――父上の暖かさがほしかった

あのセブルスはセブルス・スネイプであって“今”の父親では無いのだから――――
ふとトランクの中を見るとあの時返しそびれたハンカチが無造作に置いてあった。洗濯をして返そうと思ったが何故だか返したくなかった・・・・・・ここには確かに今も変わらない父親の“匂い”があったから――――

あの独特な魔法薬の匂いは今の名前にとってはどれだけ心を安心にさせてくれるか・・・ある意味、命綱みたいなものだ。胸が苦しくなった時はそのハンカチに顔を埋めていては父親を感じ取っていた

洗ったには洗ったのだが嬉しい事に匂いだけは染み付いていて落ちないのだ。名前にとってこのハンカチはお守りでもあった。

「――――――父上、お元気にしていますか、僕は・・・・・」

もう一つのベッドに眠る友はその後姿を悲しそうに見つめていた。

あれから1週間が経つと不思議に目の色も真っ赤からいつもの色へと戻っていったし、痛みもさほど感じることは無かった

「今日は飛行術があるね・・・ぼく、飛ぶのも苦手なんだ」

「・・・僕もあまり好きではない」

名前もアルも飛行術はあまり好きではなかった。

「やぁアル!今日は飛行術なんだって?頑張れよ」

「ジェームズ~!それ、わざと言ってるでしょ!」

「もちろんさ!」

面倒な奴らが来た・・・・・・と言っても名前はすでに彼らからの悪戯はなれていたし、周りもそれを日常の光景だと受け止めていたのもあって最初のような事はなくなっていた
アリスもあきれかえって言葉も無いようで、シリウスたちに会わないように過ごしなさいと言われていたのだった

「やぁやぁやぁ」

「・・・どうも」

にこにこと微笑んでいるが裏ではどんな悪戯を仕掛けてやろう―――そんなことでいっぱいなのだろう。レパートリーもそろそろ限界が近づいてきたのか同じ悪戯が続く日が多くなった。それに耐久性もついてしまったのか事前に避けたりすることも難しくはなくなっていた。

「ジェームズ、シリウスにさ・・・例の件について―――聞いてみた?」

「・・・あぁ!例のね!OKだってさ」

「そっか・・・・・・じゃぁ次のアレでね」

「そうだね」

2人が話している間、名前は1人空を眺めていた。あさっては満月だ・・・・・・そしてリーマス・ルーピンが狼へと姿を変える苦痛の日でもあり、名前にとっても苦痛の日・・・・・・勝手に動物もどきへと変身してしまう日でもあった――――

変身するものは何故か巨大な蛇・・・理由はわからないのだが。
全長はおよそ10メートル、表面が不思議なほどに真っ白で瞳はルビーのように真っ赤な大蛇に変身するらしい。
はじめてそれを目の当たりにした父親はさすがに驚いたようだが、それが名前だとすぐに気付き冷静な対処をしてくれたのだった

去年の満月は発作のため意識を失っていたのもあるし、薬を服用していたのもあって変身することは無かったが今は違うのだ・・・・・・・・・・・・変身を抑える薬が無いのだ
その薬も無論父親オリジナルのもので、世界にひとつしかないものだ。調合できるのも未来の父親だけ―――

こんな体質になってしまったのも母親の“死”が原因だった――――
しかしそれだけでは無い気がしてならない・・・。もっと恐ろしい真実が眠っているような気がするのだ

「・・・名前、どうしたの?」

そんな気持ちでいる事を知らない名前の顔をアルがうかがう。

「・・・いや、明後日は満月だな――――と思ってな」

2人はその言葉にぎくりとした。明らかに“満月”という言葉に動揺していた
そうだ、彼らはリーマス・ルーピンの友人なのだ・・・・・・動揺もするだろう

「一体急にどうしたんだい?名前」

「満月なんて、消えればいいのにな―――」

苦々しげに太陽を睨みながら言う名前の言葉に2人は驚いた。

「あんなもの・・・・・・・・・いらない」

月が憎たらしい、太陽よ・・・どうか沈まないでくれ。闇は寒くて、怖いから。