13 それこそが、真実/在りし日々

落ち着きを取り戻した頃、いまさらになって自分のやったことがとても恥ずかしいことだということに気づき顔を真っ赤にして二人を見た

「・・・先輩方、すっすみませんでした!恥ずかしいところをお見せしてしまって・・・・・」

本当に恥ずかしい。今まで抱えていた不安が一気にはじけたせいもあって自分を制御することが出来なかった己が恥ずかしい。もう12歳だというのに、男だというのに・・・・・・・・赤ん坊のように泣いて。

「ふふふ、普通の生徒だったら気にも留めなかったんだけど・・・・何故かしら、あなたを見ていると不思議な気持ちになるの」

「僕もだ」

「あら?セブルスも?ふふ」

「・・・妙に僕に似ていてな・・・・・中身が」

父上と母上はいつの時代も父上と母上なんだ・・・・・・・・・・

名前は改めてそう感じた。そして孤独じゃないんだと思えるような気がした

「私たちのこと、お姉さんとお兄さんっておもってもいいわよ?くすくす」

「---せ、先輩方・・・!」

まるで自分は幼稚園の子供のようだ・・・・実に気恥ずかしかった。だけど、どこか幸せをかみ締めている自分がいるのは事実だった

「・・・先輩、できれば今日起きた出来事は内密にお願いできますか・・・・・・」

こんなこと、絶対に知られたくない・・・・特にあの仕掛け人たちだけには・・・・・・・・

恐らく1年間は笑いのネタにされるだろう。ネタにされるのはいいのだがそれによって周りが騒がしくなることがいやだった。名前は常に静かな空間にいたいのだ。

「わかったわ黙っておくわ、名前ちゃん」

「黙っておく」

二人はいつか赤ん坊のとき見たあの優しい微笑を名前に浮かべ寮へと戻っていった。あの懐かしい微笑み・・・・父上の微笑む姿を見るのはずいぶん久しぶりのような気がする・・・・・母上が------死んでしまったときからスネイプ家からは笑顔が消えたような気がする・・・心から笑ったことなんて、母上が生きているときぐらいだったかもしれない。
二人の後姿はまるで夫婦そのもの・・・・改めてお似合いだな、とおもった

「あ・・・ハンカチ」

左手に握られているあの薬品の匂いがする・・・・とても心が落ち着く匂いのハンカチの存在をすっかり忘れていた。

あれ以来、セブルスとアリスとは特に親密となった。あの2人はどうやら名前のことを実の弟のように可愛がり、次第にどんどんその話が広まりつつあった。無論あの悪戯仕掛け人が耳にしないはずは無いだろう・・・

「名前、君・・・あの2人の隠し子なんだって?」

「――――は?」

アルはなにやら瞳を輝かせながら名前に聞いてきた。アルはどうやら悪い噂のほうを聞いてしまったようだった

「・・・またデマか」

「仕方ないよ、名前は編入してきたばかりだっていうのに学年トップなんだもん・・・・・・妬む人は少なくはないだろうね」

「まったくもって迷惑な話だ・・・僕は普通に授業を聞いているだけなんだがな」

「君の普通ってどれくらいなんだい!?」

名前の成績は日ごろの小テストにも発揮されていたし、何よりも魔法薬学ではセブルス・スネイプに負けず劣らずとまで謳われている
どうやら父親の遺伝子をしっかりと受け継いでいるようだ。

「流石はダンブルドアを名乗っているだけあるよね」

「ははは」

「何だよその乾いた笑い声は!」

本当は『スネイプ』なんだけどな―――――
胸が少しチクリとした

「―――名前、君って変わったね。なんか明るくなったというか・・・・・・」

「・・・そうか?」

確かに大泣きしたあの時から・・・何かが吹っ切れたような気がした。気持ちもだいぶ軽くなったし何よりも家族と一緒に居られて幸せだからかもしれない。あの事件から随分経ったが、大泣きした事実は未だに広がることは無かったが妙なデマが流れるようになったのは確かだ

「・・・で、何個目だ?そのデマで・・・・・・」

「うーん、確か10個めくらいじゃないかな?」

「違う、24だ」

「懲りないよねぇ・・・みんなも」

「暇人なんだな」

名前とセブルスとアリスの3人の噂はホグワーツのあちこちで話されていた。中にはありえないことまで噂されていたり・・・

「名前とスネイプ先輩とアリス先輩は実はどろどろの三角関係で・・・名前とスネイプ先輩はアリス先輩を奪い合うために日々めらめらと赤い愛憎の火花を散らし・・・」

「―――すごいな、妄想って」

「しかもこの話・・・大半は女子が考えたものだよ。君、今度スリザリン談話室恒例のお茶会に誘われたんだって?すごいね、あのお茶会に誘われるなんて・・・」

「あぁ・・・嫌々だが行くしかないだろ」

噂好きのスリザリン上級生が名前とセブルスとアリスをスリザリンお茶会に招待したのだった。招待と言うより“脅迫”と言った方が正しいのかもしれない・・・恐らく洗いざらい聞かれるのだろうなと遠い眼をしながらレポートに移った

「ジェームズたちにとっては君は格好の餌なんだろうね・・・悪戯が日に日に激しくなってくるね。可哀想だけど助けてあげられないよ・・・・・・」

「・・・もう慣れた」

周りが名前たちに視線を集中させているのだから、いつも以上に名前とセブルスへの悪戯効果を悪化させる一方だった。セブルスは仕掛けられてはわなわなと肩を震わし怒りをあらわにしていたが名前はまた違った反応で、冷静に対処していた。それが気に食わないのか特に名前への悪戯は悪化していった。しかし女性なのもあってアリスが悪戯の被害者になったということは聞いた事は無かった。名前はそれが非常に羨ましく思った

「・・・静かな暮らしは程遠いのか」

「仕方ないね、だって君は名前・ダンブルドアだもん」

―――本名でも十分に騒がれたがな、と心の中でぼそっと呟いた

「それと・・・その赤い髪の毛と赤いメガネ、君すごく目立つもん」

「・・・どういたしまして」

今更メガネの色を変えるのも面倒だったし、髪の一部が赤いのは仕方の無いことだった。ダンブルドアの魔法ですら赤を消す事は出来なかったのだから、この魔法界の誰しもが名前の一部の髪を赤から黒へと戻す事は出来ないだろう。

「・・・名前、お前がほしがっていた本だ」

噂をすればセブルス・スネイプが古ぼけた本を一冊抱え名前達の所へとやってきた。

「・・・セブルス、ありがとう」

ある日、セブルスからファーストネームで呼べといわれてしまったのだった。自分の父親を名前で呼ぶのは非常に緊張したが、今は父親であって父親ではないのだ・・・名前はどうにかして割り切る事ができた。だがむずがゆいのには変わりない

「きみ・・・いつから・・・・?!」

アルは先輩をファーストネーム呼ばわりした名前に驚いたがさらに、それを普通に受け止めるセブルスにびっくりした様子だ
ふたりを間抜けな顔をして見ているとセブルスが不思議に思ったのかアルを睨むとはっと我に返った。
「・・・先輩と名前って・・・・・・本当に兄弟みたいですね」

「「・・・そうか?」」

ついついはもってしまった。息もぴったし・・・・・・アルには2人が本当の兄弟のようにみえた

「「・・・・・・」」

アルは心の中でつぶやいた

――――2人って本当にそっくりだね

「どうしたの名前ちゃん!また悪戯されたのね・・・!シリウス達、許さないんだから!」

アリスは純血で旧家でもあったのでブラック家とも親交が深かった。そんなのもあって悪戯仕掛け人のうちの1人、シリウス・ブラックと仲が良かった。アリスはもともと寮隔てなく仲良くするので無論ジェームズなどとも仲が良かった。
もしかしたら仲がいいから彼女だけ悪戯されないのかもしれない・・・もしくはアリスなら倍返ししかねないからなのだろうか・・・・・・

―――確かに、彼女はやられたら何倍にもして返す。しかも末恐ろしい方法で・・・
流石はスリザリンといったところだろう。ジェームズたちがアリスに悪戯をはじめて仕掛けたときの話をセブルスが教えてくれたのだった

「・・・アリス、頼むから“ちゃん”付けはやめてくれないか―――」

「だって可愛い弟ですもの!あぁ許さないわ・・・・・・どんな方法で返してやろうかしら・・・・・・クスクス」

美人が怒ると恐ろしいと聞くがまさにそうであろう――――アリスは黒笑を浮かべ不気味に微笑んでいた。

「・・・アリス、目が据わっているぞ」

アリスはホグワーツでも有名な美人でもあった。
そしておまけに美人で純血でさらに寮隔てなく仲良くするところもあって人気者だった。さらに驚く事に、セブルスとアリスの仲は公認らしく・・・・・・現在も付き合っているとの事だ。名前は改めて2人の愛の深さを感じたと同時に嬉しさがこみ上げてくる

「こんにちは、アリス・・・」

「こんにちはベラ先輩」

アリスは上品にお辞儀をするとスリザリンの上級生、ベラトリックス・ブラックも上品そうに微笑み返し視線を名前に移す

「・・・あら、貴方が噂の――――確かに、似ていらっしゃるわね」

「・・・はじめまして先輩。」

「可愛い子ね、アリス」

「ふふふ・・・先輩も思いますか?」

「この赤い髪は魔法で染めたのかしら・・・?校則では髪染めは禁止されてるけれど・・・・・・ダンブルドアが許可したのかしら?」

校長の孫ですものね、さぞかし贔屓されてるのでしょうね?といかにも言ってるような笑みを浮かべ「では、お茶会で」と短く言い階段を登って行った

「・・・ベラ先輩はスリザリンの7年生で――――アルバス・ダンブルドアが大嫌いなのよ」

小声でこっそりと教えてくれた。純血主義者の旧家でアルバス・ダンブルドアの事が好きな人は少ないだろう・・・・・・

「・・・そういうことか」

「・・・ごめんね、名前ちゃん」

「・・・何故謝る?」

「・・・・・・・・さっき、傷ついたでしょう?」

「・・・アリスが悪いんじゃない。それに別にそんなこと気にしていない」

これは事実だ。ダンブルドアがどう悪く言われようが自分はダンブルドアを信じている―――他人にどう言われようが自分がダンブルドアを信じている事実は変わらないのだから
それに何だかアリスのいつでも変わらぬ優しさがとても嬉しかった・・・

「ベラ先輩を悪く思わないであげてね・・・・・・ああ見えても実はとても面倒見がいい人なのよ」

「・・・分かった」

アリスはベラトリックス・ブラックのことが大好きだという。ベラトリックスもアリスを実の妹のように可愛がっていた今の自分の状態と同じようなものなのだろうか・・・

「お茶会はそろそろね・・・じゃあ行きましょうか」

「・・・あぁ」

2人は恐怖、スリザリンお茶会の会場スリザリン談話室へと向かっていった。

「・・・遅いな」

「ごめんセブルス」

セブルスはルシウス・マルフォイとロドルファス・レストレンジの間にはさまれており身動きできない状態だった。・・・まるで犯人のような扱いだ

「名前、久しぶりだな」

「・・・レギュラスか」

どうやらレギュラス・ブラックもいつもお茶会に呼ばれているらしく、名前を隣に手招きした。アリスは大好きなベラトリックス・ブラックの隣に座るとお茶会は始まった。
お茶会には他に、ナルシッサ・ブラック、アンドロメダ・ブラックetc・・・・などといった旧家の者達が勢ぞろいだった。中でもブラック家はお茶会の中心的存在だった
他の旧家はブラック家をひたすら称え、その姿を見ていつになっても人間は変わらないのだと改めて実感した名前であった

「・・・時にMr.ダンブルドア?何故今まで入学できなかったのかしら?」

ナルシッサが優雅にお茶を飲みながら聞いてきた。他の人もこの質問の答えが気になるらしく一斉に名前を見た

「・・・僕が生まれた後、母上はすぐに亡くなってしまったようです。高齢出産だったからだと聞いています・・・・・・父上はそれ以前にすでに亡くなっていたそうです。それに僕は病弱で・・・祖父のダンブルドアが引き取ってくれた後も病気は一向に治らず・・・・・・聖マンゴでしばらくずっと入院していたんです。去年ようやく病気が治ったんですが・・・・・体力も全然無かったので1年間はずっと今までの補いをしていました。それで今年になってようやく体調も整ったんで2年に編入・・・・・・ということになったんです」

病弱なのは当たっているがその他はまるっきし嘘だ。嘘を何事も無く言ってのける自分に拍手喝采だ。閉心術には長けているから心をダンブルドアですら読み取ることは出来ないだろう・・・・・・自分の特技が今更になってすごいものなのだと感じた

「まぁ・・・そうでしたの・・・・・・それは失礼な質問でしたわ、ごめんなさい」

「・・・いいえ、気になさらないでください」

ナルシッサ同様、他のスリザリン生も名前を哀れみの表情で見つめる。

「それで、お父様とお母様はどんな方なのかしら」

これはベラトリックス・ブラックからの質問だった。

「・・・祖父上は僕に母上と父上の名前を教えてはくれません・・・・・・僕もそのほうが良いと思ってます」

「まぁ・・・!」

そう声を上げると急に名前の手を握り力をこめていった

「・・・私の名前はナルシッサ・ブラック・・・・・・何か困ったら私に言って頂戴」

「・・・あ、ありがとうございます」

あまりにも顔が近くてびっくりしたがもっとびっくりしたのはこの人がドラコの未来の母君だという事だった―――――

「ありがとうございます、ナルシッサ先輩」

ブラック家が多いからブラック先輩と呼ぶのは少しまどろっこしい気がしたのでファーストネームで呼ぶことにした。それを聞くとナルシッサは満足そうに微笑み自分の位置へと戻っていった。

「―――時にアリス、セブルスと結婚するって本当?」

「・・・え!?」

アリスは飲んでいたお茶を噴出しそうになった。そんなアリスをベラトリックスは微笑ましく見つめていた。それを聞きセブルスも飲んでいたお茶が器官に入りむせていた

「あらアリスにセブルス・・・それは認めたと読み取ってもいいのかしら?」

「も、も・・・もう!ベラ先輩・・・!やめてくださいよ!」

「あらあら、顔を赤くしながら言われても説得力が無くってよ?」

回りもそんな様子が微笑ましいのか2人をみてクスクスと笑い始めた

「・・・先輩、笑わないでください・・・・・・」

セブルスも恥ずかしそうに顔を下に向けた。隣ではルシウスとロドルファスがにやにやと意味ありげに笑っていた

ついつい微笑ましくて名前も顔の筋肉が緩みそうになる。2人はこんなにも幸せそうで―――――そして結婚して、自分を生んだのか・・・

歓喜が胸からこみ上げてくる。そしてふっと思い出した――――――自分が7歳の頃、母親は原因不明の病で死んでしまう事を・・・・・・

今の様子を見るに病気をしていそうな雰囲気はアリスには無かったが、何故だか急に胸が苦しくなった。今の父上の笑顔も――――母上の笑顔も――――――――見れなくなってしまうのだと思うと切なさや儚さで息が出来なくなってしまいそうになる
ここで暗い表情になっては駄目だ・・・そう思いいつものポーカーフェイスで全てを覆い尽くすと自分の卑怯さに苦笑したくなってきた

「名前・・・今年のクリスマスはブラック家で開かれるの、是非あなたもいらして?」

ナルシッサが優しく微笑みながら言う。この人が微笑むと本当に天使のようだ・・・・・・マグルに向けるあの眼差しとは180度違う

「えぇ、是非行かせていただきます」

こんな事言うんじゃなかったと後々後悔する事になろうとは思いもしなかっただろう。
華やかなお茶会も終わり、各自部屋へ戻ろうとしたときにふとレギュラスに呼び止められた。

「名前・・・君の誕生日っていつなんだい?」

「・・・12月31日」

「31日とは・・・・・・すごい日に生まれたね、君も」

「・・・よく言われる。」

レギュラスは名前の誕生日がずっと気になっていたらしい。12月31日・・・・・・しかもあと数時間遅かったら1月1日になってたというのだから相当ぎりぎりだったようだ

「教えてくれてありがとう、じゃあな」

そう言うとレギュラスは自分の部屋へと戻っていってしまった。

―――レギュラスの誕生日も聞こうと思ったのにな・・・ま、今度聞けばいいか 。
誕生日ではっと思い出した。思えば――――アリスの誕生日が来月だという事に。