人生、何が起こっても不思議ではない。あらゆる未来が無造作に散らばっている。誰が、どの未来に進むかなんてわからない。
父親が名前に“脱狼薬”の作り方を教えてくれるらしく、名前はワクワクした心持でその日を待っていた。脱狼薬は難しい代物で、事前に本を読み漁らないと調合はできないし、以前にもそれ関係を読んだことはあったがやはりかなり前のことなので忘れてしまっていることも多い。名前はスネイプ邸の地下にある書斎へと向かった。地下と言えどもそこは綺麗に掃除されており、埃一つ落ちていない。
早速資料を探すべく本を漁る事1時間、アルバムのようなものが棚から落ちてきた。
「・・・なんだ?」
とりあえず中を開けてみるか。名前はそう思い、思いのほか軽いそのアルバムを開く。
「・・・この少女と少年はまさか――――」
まさか、学生時代の父上と母上の写真なのか・・・?
アルバムの写真の中では此方に向かって母、アリスが手を振っている。横の父、スネイプはむすっとした表情で此方を睨んでいた。
気のせいだろうか、何だか父親の学生時代の頃と名前があまりにも似すぎているような・・・次のページを開くとスリザリン生と写真を撮ったのだろうか皆スリザリンカラーのネクタイをしていた。数人ほどいるのだが真中にアリスとスネイプの姿があり、2人にはさまれるようにして少し背の小さい少年がいた――――――――――
「・・・・・・そんな訳ないか」
父上に双子なんかいただろうか?あまりにも似すぎている・・・・・・まるで僕自身を見ているかのようで・・・―――――何だと?
名前は自分自身の考えにびっくりした。ありえない話だが何故だかそう思えてきてしまうのは何故だろう・・・・・・
いいや、今はこれをじっくり見ている場合ではない。アルバムをもとあった場所へと戻し古代の魔法薬というタイトルの本を読んでいたときだった。
「―――闇の力を抑える薬?」
右腕に付けられた不思議な印の力を抑えるために飲んだ薬のことなのだが、調合法が難しくて分かりづらかった。この薬の調合を難無くやってみせる父親は流石と言ったところだ。ただ、使われる材料自体は手に入れようと思えば手に入れられるのだが調合法があまりにも複雑すぎるのだ。父親の手を煩わせないためにも早く自分でこの薬の調合法をマスターしなくてはと思い、材料と調合法をメモに書き写す作業に取り掛かる。
『名前・・・名前・・・・・・』
―――誰だ?
『おいで』
誰だ・・・僕を呼ぶのは。
名前はきっと夢の中だろう、どうせ疲れて眠ってしまったのだろう・・・そう思っていた。今居る場所はホグワーツ城の中だった。そんなにもホグワーツに思いを馳せていたのか・・・?自問自答したのだが結局答えは見つからず、とりあえず声のするほうへとついていくことにした。
『こっち、こっちだ』
―――何処だ
『そう、ここ』
声が消えた場所は妙な扉の前だった。扉の下には不思議な陣が描かれている。昔、悪魔を呼びだす儀式という本でちらりと見た陣に似ているような気がした。
―――ここに入れということか?
声は返ってくることはない。恐らくこの中にいるのだろう・・・この中に入れば全てが分かる。頭の中ではそんな意味もわからないところへ行くべきではないとわかってはいたのだが、気がつけば体が勝手に動いていた。扉に手をかけたとたん、無数の光が名前を包んだ。
―――?!
あまりの眩しさに目を開く事さえできない。自分はどうなるのだろう・・・まさか、またヴォルデモート卿・・・・・・?
意識が遠のく瞬間、懐かしい香りがした。
…これは確か――――――
「・・・だいじょうぶかの?」
目を開くとスネイプ邸の地下図書室・・・ではなかった。ダンブルドアが不思議そうな目で名前をまじまじと見ていた。
「・・・・・・ダンブルドア校長」
「ほう、わしの名前がわかるのかのう?」
何を言っているんだ?僕はあなたの教え子だ・・・
「残念ながら君の心を覗こうと思ったのじゃが・・・閉心術に長けておるようじゃのう」
勝手に人の心を覗くな、と言ってやりたい。何故ホグワーツに来てしまったのだろうか、何故ダンブルドアはボケてしまったのだろうか―――
「君の名前を教えてもろうてもよいかの?」
ダンブルドアはいつものきらきらした瞳ではなく、どこか心を探るような目で名前を見つめてきた。
「・・・名前・スネイプ」
「ほほう、なんとスネイプとな?君の兄はセブルス・スネイプかね?」
―――今、何と?
名前は聞き間違えだろうかと本当に思った。ダンブルドアがついにボケた・・・魔法界ももう終わりだな。
「セブルス・スネイプはここの魔法薬学の教授ではないのですか?僕はセブルス・スネイプの息子ですが・・・・・・」
「ほほう!」
ダンブルドアは妙な声を上げた。
「ほう・・・セブルス・スネイプが魔法薬学の教授・・・ふむ、彼の才能ならありうることじゃろう・・・そして君は息子ときたか・・・・・・・わしはてっきり弟か双子かとおもっとってたわい。しかし君が息子じゃとセブルス・スネイプに言っても彼は信じないじゃろう・・・」
「―――今は何年ですか」
名前は嫌な予感がしてならなかった。あの扉に触れなければよかった・・・・・・あのまま現実に戻っていればよかった・・・戻れたかどうかは分からないが。
「―――1973年じゃ」
その答えに絶望する他なかった。1992年とでも言ってほしかった・・・ダンブルドアがボケているようにも見えないし、嘘を言っているようにもみえなかった。
「・・・ダンブルドア校長、僕・・・・・・・23年後の未来からやってきました」
換算すればそうなるだろう・・・まさか、タイムトリップしてしまうなんて・・・・・・名前は絶望に打ちのめされた。とりあえずここまで来た方法、状況を事細かに説明したらダンブルドアは納得してくれたようだ。
「ホッホッホ、君はやはり未来人じゃったか。どうりで匂いが違うと思ったわい」
「―――僕、どうしたら」
フームとダンブルドアは少しの間考え、ぽんと手を打った。何かがひらめいたようだ。
「そうじゃの、スネイプが2人もいると厄介じゃ―――疑われる。そうじゃのう・・・ならわしの孫にならんか?」
この人は唐突だなと思う。いつも唐突な行動に驚かされるが今回ばかりは驚くなんて一言で表現できなかった。こんなに簡単に人を信用していいものなのか?
「嫌ならよいのじゃが・・・いや、せめて君が元いた時代へと帰れる時まででよいのじゃが・・・駄目かの?」
そんな事をお茶目に言うダンブルドアもつくづく尊敬してしまう。こんな場合誰しもが疑って止まないだろうに・・・しかも少なくとも名前の闇の印に、この時代のダンブルドアは気付いているはずだ。
「お言葉に甘えさせていただきます・・・それよりダンブルドア校長、貴方は僕を怪しいとは思わないのですか・・・?」
「フォッフォッフォ、それはどういう意味かの?」
「・・・僕は一年前、ヴォルデモート卿に闇の印をつけられてしまいました。そんな僕を信用してくださるのですか・・・・・?」
そう言うとダンブルドアは難しそうな表情をし、名前の右腕を見た。
「・・・確かにこれはヴォルデモートの印じゃ。じゃが君はこれを望んでいたのかね・・・?」
「いいえ、無理やりつけられてしまいました。消す方法も無いのでこうして包帯を巻いてごまかしているのですが・・・・・・」
「そうかのう、ならいいのじゃ。」
その答えに名前は驚いた。こんなにも簡単に人を信じられるなんて――――やはりアルバス・ダンブルドアはとんでもない偉人だと思った。
「君の時代にもまだヴォルデモートがいるのかのう・・・・・・それは、とても悲しい事実じゃ」
悲しい表情を浮かべるダンブルドアに名前は声をかけることができなかった。あの時、鏡の中をみた時の表情とまったく同じものだ。
「さて、とりあえずは君をわしの孫だということを魔法省へ知らせねばならん」
するとダンブルドアは何時の間にかに書いた手紙をフォークスに持たせ、届けさせた。そしてこれからの生活はダンブルドアが全面的に面倒をみてくれるらしく、お金にも困る事は無いといってくれた。
「夏休みの間の寝泊りはわしの部屋から通じる部屋を一つ使うがよい」
「・・・ありがとうございます」
「そうじゃ、校長室の合言葉を知らなければその部屋にも無論行けないわけだがの・・・ここの合言葉は『レモンキャンディ―』」
ダンブルドアはお茶目に笑いながら言う。だけど今はそんなお茶目なダンブルドアが頼りの綱だった。父親は今頃4年生・・・・・・名前の2つ上にあたるわけだ。
「名前、君はこれからしばらくの間名前・ダンブルドアと名乗るが良い・・・ワシのことは良ければ【おじいちゃん】と呼んでも構わんよ。ほれほれ・・・魔法省から承諾の手紙がきたわい」
よくも簡単に魔法省が納得できたな・・・だが流石はアルバス・ダンブルドア。だがこの人を祖父上と呼ぶときがくるとは・・・
「7年生分の教材は全てあの部屋にそろえられておる・・・ローブも沢山あるから安心しなさい」
「・・・ありがとうございます、何から何まで」
「いやいや、寂しい老人の前に現れてくれてありがとう、名前。」
ふざけたように笑うダンブルドアにつられて名前も少し笑ってしまった。
「フォッフォッフォ、笑った顔がアリスそっくりじゃのう・・・母親はまさかアリスかのう?」
「――――はい」
アリスの名前を聞いたとたん、名前の表情は一気に曇る。それを見て察したのかダンブルドアは優しく名前の頭を・・・いつかのようにぽんぽんと撫でた。
この人はつくづくすごい人だ・・・。ちょっとした動作ですべてを読み取る・・・ダンブルドアはすべてを察したに違いない。
「・・・アリスを精一杯見ておくのじゃぞ」
ダンブルドアはただそう言うと名前をその部屋へと案内した。
「・・・すごい」
部屋の中は快適なもので、本も沢山貯蔵されていたし何よりも全ての備品がそこには揃っていたのだ。近くにはダンブルドアもいる・・・こんなにも贅沢な生活は無いだろう。
「あさってが新学期じゃ、一応2年生へ編入となる・・・未来では組み分けは一体何だったのかね?」
「―――スリザリンでした」
「ほほう、スリザリン・・・ふむ、一応もう一度組み分けをしてもらうがよいかの?」
「はい」
「グリフィンドールに入ってみる気はないかね?」
ふざけながら言うダンブルドアをどこか呆れ、だけど尊敬の眼差しで見つめた。
ダンブルドアの孫になり、早速新学期を向かえることとなった。名前のことはホグワーツの教員は皆知っていたし詳しい事までも知っている。最初は興味心身に見られたがそれも1日だけで、次の日からは普段どおりに接してくれた。
とりあえず帰り方をいち早く見つけたかった。自分がいなくなってさぞかし心配をしている頃だろう・・・・・・そう思うと胸が苦しくなる。