08 それこそが、真実/賢者の石

翌朝目をさますと昨晩の痛みは何処吹く風やら。
手鏡で前髪を掻き分けて左眼を見るとうっすらと赤いものの、昨晩ほどではなかった。それに安心したのかローブに着替えめがねをかけいつも通りドラコと広間へ向かっていった。

それから不思議な事に自分の父親の悪口も聞く事も無くなったし、名前の前で賢者の石の話も一切しなくなった。

「・・・なぁ名前、ポッターどもが非常に興味深い話をしていたのを聞いたんだ・・・・・・ドラゴンがな」

「またその話か。僕はレポートで忙しい・・・・・・また今度にしてくれないか」

最近ドラコがずっとドラゴンの話をしてくる。どうやらあのハグリットがドラゴンを飼っているらしくハリー達も関与しているらしい。
名前にとってはどうでもいい話でもあったし、何よりもレポートのほうが重要だ。名前はレポートをしている時だけはやけに神経質になっていた。ドラコもそろそろ名前がキレてしまうだろうと思い、別のスリザリン生に家自慢をし始めた。
それからあくる日、ドラコが例の如くドラゴンの話をしてきた。名前はやれやれといった表情で仕方なしに話を聞く事にした。

「・・・あのウドの大木がドラゴンの卵を孵らせてたんだ!はっきり僕はこの目で見た!ポッター達もその場にいた!これはやったぞ!」

なにがやったのだ・・・と言わなくても分かったがつくづくドラコは幸せそうで羨ましいと思った。レポートがこんなにも出されているというのに、本当に幸せそうだ・・・・・・
しかもハリー達と出会えば薄ら笑いを浮かべていた。ハリー達はそれが気持ち悪いのか気になるのか分からなかったがひっきりなしにこちらを見ていた。
そしてついに事は起きた。ロンがなにやら右手を包帯で包みながら名前の所へとやってきた。これもだいぶめずらしいことだ・・・

「名前・・・その、詳しくはいえないんだけどこの腫れを抑える薬は作れる?」

「ロン・・・一体どうしたんだ?すごいぞその右手・・・・・・」

そう言うとロンは苦笑する。ラッキーなことに今はドラコがいなかったので助かった。名前はとりあえず鎮痛剤の入ったビンをロンに手渡した。

それを受け取るとロンは心から助かるよ、と言いハリー達の元へと戻っていった。
僕のところへ来たという事は、マダムに見せたら何かがバレてしまうから・・・という事か?まさかドラゴンに噛まれたって事は無いだろうな・・・・・・・・・

そんな予感が的中しているとは知らず、とある朝に寮の砂時計を見て驚かされる。

「・・・ドラコ、20点も減点されたのか」

隣のドラコはこっぱずかしそうに顔をそらす。
説明するとこうなのだ、ハリー達がドラゴンを何らかの形で逃がそうとした時にマクゴナガルに見つけられてしまったのだった。運良くドラゴンのことは気付かれなかったようだがグリフィンドールもやはり減点されていたのだった・・・・・・・150点も

ドラコはつまり、自らの剣に射貫かれてしまったのだ。
その事でハリー達を捕まえようと夜中に寮を抜け出さなければこんな事にはならなかったのだろうに・・・・・・流石の名前でもこれはため息しか出なかった。

「それにしてもグリフィンドールはすごいな、150点も・・・」

普段ならにやにやと薄ら笑いを浮かべるドラコであったが流石に今は喜べる気分ではなかったようだ。ハリー達への態度は日増しに酷くなっていった。ドラコはこの前のことをどうにか都合よく忘れる事ができたらしくハリー達を見つけるたびに「ありがとうポッター」と言う始末。他のスリザリン生もドラコと同じく「ポッター、ありがとうよ。借りができたぜ!」などと言い拍手や口笛を吹いたりしていた。名前はそれに参加するどころかハリー達とは普段どおりの関係だった。名前はおまえ達も大変だなというと3人は苦笑するだけだった。

「クイディッチ・・・辞めようかな」

「ハリー、それは責任ある言動とは言えない・・・試合で挽回すればいいじゃないか」

名前はどうにかしてハリーを元気付けさせたかったのだが、それも効をなさずハリーはただため息を吐くだけだった。テスト前だったことが何よりの救いだったらしく、周りの目を気にせずにいられるから嬉しいとハリーが語っていたような気がする。

「名前・・・天文学はどうだった?」

「あぁ・・・まぁまぁだった」

名前がそう答えるとドラコはふーんと短く答え、試験中に分からなかった問題を名前に教えてもらっていた。

「・・・例の罰則はいつ頃するんだ?」

「・・・・・・恐らくもうすぐだろうね」

ドラコはぶるぶると体を震わせた。それも虚しく処罰の日がやってきた・・・
ドラコはどうにかして処罰を免れないかあれこれ考えていたのだがやはり何も考えつかず、入り口で立ち往生していた。名前は早く行かないともっと本当に学校を追い出されるぞと脅しどうにかドラコを向かわせる事に成功した。
名前は一応親友の帰りを談話室で本を読みふけて待つ事にした。
どれくらい時間が経ったのだろうか・・・あれから少なくとも1時間は経っていた頃だった。

「・・・・ッ!!!!」

左眼が激しく痛み出した――――発作が再発したのだった。胸は締め付けられるように苦しくなり息をするのもままならなくなった

「ぐっ・・・・あっ・・・・・・・・!」

胸の締め付けられるような息苦しさと、激しい左眼の痛みに悶えながら頭の隅から聞こえてくる声を聞いていた。

――――いい子ね、名前・・・いい子ね。

これは・・・聞き覚えのある声だった。いつも優しくてその触れる手はまるで恐怖というものを取り除いてくれるかのような・・・

そう―――――母親、アリス・スネイプの声だった。

――――いい子ね、いい子・・・私の可愛い名前

それが母上の口癖だった。
僕はそう言いながら優しく頭を撫でてくれていた母上の手が大好きだった。ちょっとしたことでもすぐ褒めてくれる母上が大好きだった。

――――いい子ね・・・いい子

胸が締め付けられる。何だか物凄く儚い夢を見ているような気分だ――――左眼の痛みが治まるにつれて声はどんどん遠のいていく。掴めるようなものではないのに、どこか切なげに空気を掴む・・・・・・まるで遠のいていく母親の声を掴むかのように―――

「―――い!」

「大丈夫か――!」

「名前!」

誰かの蒼白そうな声が聞こえてくる。前もよくぼやけてて見えないのだが何だかとても心を落ち着かせるような声だった・・・・・・それに安心したのか、名前は意識を突き放した

名前が倒れた夜、森ではハリーがヴォルデモートと遭遇している時だった。だがフィレンツェが駆けつけたおかげでハリーは守られた。

「・・・名前?」

「どうしたの、ハリー?」

ハリーが何か不安そうに森を見ていた。ハーマイオニーは急に“名前”と呟いたハリーを不思議に思い表情を伺ってみるものの、何でも無いよといわれてしまったので気に止めるのをやめた。一方、ハリーは何故急に名前の名前が頭に浮かんだのかはわからないが、なんだか嫌な予感がしてならなかった。
名前の声が聞こえたような気がしたけど・・・気のせいかな?何だか痛みに苦しんでいたような声だった気がする・・・・・・・・・それにしてもあの黒い影は・・・

ハリーは先ほどの出来事を急に思い出して身震いをした。あれほどの恐怖は・・・・・・初めてかもしれない。スネイプに睨まれてもあそこまで恐怖に駆られることは無いだろう。
それにフィレンツェが言っていたこと・・・・・・まさか、のろわれながらも生にしがみつきたい者・・・・・・・・・あれはヴォルデモートだったのだろうか
心臓がまるで凍りの中に投げ出されたかのような感覚だ。このことを一刻も早くロン達に知らせなくては――――
今のハリーはどうしても暖かい空気に浸りたかった。ロン達にこのことを話したい一心でグリフィンドールの談話室へと向かっていった。

朝目覚めるとそこはスネイプの私室・・・・・・紛れもなく父親の私室だった。何故自分がこのような所にいるのだろうと考えつつもどこかこの匂いに安心感を覚えた。魔法薬の独特の匂いが安心する匂いだなんてずいぶん変わった話だろうが、名前にとっては父親の匂いでもあり自分の家の匂いでもあるからなのだろう。

「―――ようやく目覚めたか、馬鹿者」

「・・・父上」

目の下に隈を作ったスネイプがベッドに腰掛けた。
恐らく一晩中、名前のことが心配で一睡もしてなかったのだろう。そう思うと何だか急に胸が締め付けられる

「馬鹿者」

「・・・すみません」

「馬鹿者」

「すみません、父上・・・心配ばかり」

「馬鹿者、馬鹿者、大馬鹿者ッ」

名前はこれ以上、父親の苦しそうな表情を見ていられなかった。見ていると・・・胸が張り裂けそうになる。苦しくなって・・・なんだかいろんなものが溢れ出そうになる。
こんなにも苦しい表情をさせたのはあの日以来かもしれない・・・・・・

「お前は、心配ばかりかけさせる・・・・我輩がどれほど―――どれほど心配したか」

苦しそうに一言一言を搾り出すかのように言う父親の姿を、名前は見上げる。
馬鹿者という言葉の意味に、名前は胸を締め付けられる。この表情を見ただけで自分がどれほど父親に心配をかけたか――――どれほど苦しい思いをさせたかは一目瞭然だ。

「だが、名前が無事で何よりだ――――」

がくっと力なく倒れる父親に名前はびっくりした。どうにかベッドから落ちないようにスネイプを支えるが名前は動揺を抑えきれなかった。

「父上・・・!父上!」

起こそうと思ったが父親のやつれた顔を見た瞬間、ここは起こすべきではないと思った。

・・・僕のせいで父上が―――――

こんなにもこの左眼を呪った事はなかった。この左眼が憎たらしい。こんな左眼がなければこんな事にはならずに済むのに―――――
名前は左眼を憎憎しげに見る。そして緊張の糸がプツリと切れたかのように爆睡している父親の姿を見て再び胸を痛めた。
隈は酷いものだった・・・こんなにも酷い隈を作った父親を見るのは初めてかもしれない。名前はそっとふとんをスネイプにかけると小さく「いつも・・・ありがとうございます」と呟き私室を後にした。
恐らく最後に聞こえた蒼白そうな声の主は父上だったのだろう――――

名前はそんなことを思いながら先ほどから歩いてきた道をちらっと振り返り、父親の疲れきった表情を思い起こした。

「―――父上」

前に向き直り、スリザリン寮へと向かっていく。運がいいことにまだどの生徒も目覚めてはいない頃だったのか誰一人として廊下で会うこともなかったし談話室で会うことも無かった。自分の部屋へ戻るとドラコもまだ夢の世界のようで、静かに寝息を立てている。暢気なやつだ。
時間を見てみると朝食まであと2時間もあったのだ。

「本でも読むか」

名前は“アニメーガス新書”という名のタイトルを取り出し読み始めた。何故動物もどきに興味があるのかは分からないが、何故だかそろそろ必要になるかもしれないと思っていた。
そして1時間が経った頃だろうか、もぞもぞと動く音が聞こえドラコのベッドを見てみるとドラコがちょうどおきだす所だった。

「・・・おはよう、ドラコ」

「――――」

ドラコはどうやらまだ頭が目覚めていないらしく、ぼーっとしていたのだが寝起きはあまり悪くないのですぐ現状を掴む事が出来た。

「名前!君、一体いままでどこに――――!」

「・・・また発作で父上のところで厄介になっていた」

名前がそう言うとドラコは心配そうに此方を見てくる

「君の病気・・・いつになったら治るんだろうね」

「本当だよ」

名前は憎憎しげに言うとドラコは急に昨晩の罰則での話をしてくれた。だがあまり触れてほしくないのか、罰則で起きた出来事は全然話してくれなかった。

「まぁ罰則だからな」

「あんなの、召使にやらせるようなことだった―――!あんな真夜中に森に行かせるなんて・・・やっぱりダンブルドアの頭はイカレてる」

着替えをしつつ散々ダンブルドアの悪口を言った後は、恒例の「ポッターの奴は~」から始まる悪口大会が始まった。名前はそんなドラコの話を適当に聞き流しつつも脳裏に焼きつくあの隈を作った父親の姿を思い出し、複雑な心境になる。

あれから日は経って、スネイプも普段と変わらない授業をしていた。ただ名前を見る目が少し前より鋭くなったような気がする。
ハリーと話しているだけで鋭い目を向けられるし(これはいつもの事かもしれないが)、食事をあまり取らない日にはわざわざ席までやってきてお皿いっぱい食事を盛ったのを持ってくる始末。確かに少食で栄養失調と見られがちだがそこまでひどいという訳ではなかったが、スネイプはほんの些細な動作までもを見逃さずまるで名前を監視しているかのようだった。
・・・・・・実際はそうなのだが

これも親心なのだと名前は勿論わかっていたし、ドラコもなんとなく察しがついていた。周りの生徒も改めてこの2人は親子なんだなぁと実感していたりもした

食事も終わりドラコがハリーいびりをしに行ったときだった。名前は誘われたのだがもちろん盛大に尚且つ丁重に断った。そして1人で寮へ戻ろうとしている時だった。

「ご主人様・・・どうか、どうか・・・・」

『うるさい』

「ヒィっ」

人気の無いホグワーツの廊下を歩いていると誰かの話し声が聞こえてきた。名前は聞いてはならないものを聞いてしまったと思った・・・・・・が、今更遅かった

警告が好奇心に負けてしまったのだ。名前はその声のするもとへと近づく

「ご主人様――――きょ、今日なのですか」

『あぁ・・・そして必ず手に入れろ―――賢者の石と名前・スネイプを』

名前は背筋がぞっとした。この声の主が賢者の石を欲している者―――――そしてセブルス・スネイプが犯人だと勘違いされてしまった原因・・・・・・
すべては一つに繋がった。やはり父親は犯人なんかじゃない。名前はこのことを急いでハリー達に伝えなければならない・・・だが誰がそれを言っているのかが分からなければ話にならないだろう。
しかしこの時点で、自分も狙われている事をすっかり忘れてしまっていたのだった。