クリスマスの夜中、名前は突然目覚めた。
何故だか分からないが寝苦しかった。医務室の中を歩くぐらいなら許されるだろう・・・そう思いパジャマ姿で医務室の中を歩き出した。
廊下から誰かが歩いてくるような気がした・・・気のせいだろうか。だが次の瞬間、何かにぶつかった。ぶつかったと同時に「痛っ」と誰かの声が聞こえたような気がした・・・・・・ここには名前以外誰も居ないはずなのだが――――
不思議に思い再び声のしたほうに行くと・・・
「やぁ、名前」
急にハリーが現れた。少しは驚いたが恐らく透明マントを使用したのだろうと思うと急に冷静になれた
「・・・ハリーか、透明マントを使ったのか?」
「そうだよ、って何でわかったんだい?」
「大体は予想できる・・・。だがハリー、今の時間は生徒が出歩いてはいけない時間ではないか?」
「うん・・・だけどこのマントを使ってみたくてつい・・・」
つい、名前の眠る医務室まできてしまったという訳であった。だがちょうど名前も寝付けずにいたのでまぁいいかなどと考えてしまった。後でまたこっそりと寮へ戻れば良いのだし・・・
「・・・僕もマントに入ってホグワーツを散策したい」
「えっでも名前・・・」
「大丈夫だ、薬も飲んでいるし・・・それに何故だか寝つけなくて、な」
懇願するとハリーはため息をつき名前も一緒に連れて行くことにした。
「僕、面白い所を見つけたんだ・・・さっきフィルチから逃げる時に見つけた部屋なんだけど・・・・」
ハリーはどうやら抜け出した時に図書館の閲覧禁止の所へもぐりこんだらしい。本を開いたとたん本の中から大きな悲鳴が聞こえてきて――――案の定フィルチがやってきたという事だった。だが運良く逃げ切る事ができ、医務室へ駆け込んできたという訳であった。
・・・ハリーの人生は冒険とでも言い切れるだろうな
名前はそんなことを思い浮かべてしまった。気付けばハリーが連れてきたい部屋にたどり着いていた。マントを脱ぎ空気を吸うと横に大きな鏡があることに気が付いた。
「この鏡を見て!ほら、僕のパパとママが写ってるんだ!」
「・・・」
名前は言われたとおり、鏡の中をのぞいてみた―――――が、写っていたのは・・・
「ハリー、外から音が聞こえてきた・・・ここを出たほうがいい」
「!そっか・・・またくるね」
ハリーは鏡のほうを見て切なそうに顔を歪め、名残惜しそうにマントをかぶり部屋を後にした。
―――――あの鏡は、『みぞの鏡』
自分が一番願うことが映し出される、まさに幻想を見させる鏡
ハリーの一番の願いは家族・・・そして僕の願いは――――――
医務室でハリーと別れた名前はベッドにもぐり、鏡に映った自分の母親の笑顔を思い出しては苦しそうに息を吐いたのであった。
翌朝、ハリーの様子はおかしかった。昨晩からおかしいのだ・・・あの幻想を見たときから。
名前はハリーのことが不安でならなかった。名前自身も鏡に心を奪われそうになったがどうにか自我を保つ事ができた。あれはもう見てはいけない・・・それをハリーに伝えたかったが残念なことに今日はハリー達が朝に来てくれたっきり医務室には誰一人として人が来なかったのである。
3日目の夜がやってきた。名前は嫌な予感がしてこっそりと医務室を抜け出しあの部屋へと向かっていった。
・・・案の定ハリーは鏡をずっと見つめていた
「ハリー、もう止めたほうがいい。この鏡は『みぞの鏡』と言って相手が一番願う事を見せる幻想の鏡だ・・・・・・」
「・・・名前!幻想なんかじゃない、だって・・・パパとママが僕をみて微笑んでいるんだ・・・・・・僕、とても幸せそうなんだ」
「ハリー・・・」
部屋にハリーの悲痛な叫びが響く。名前の心にももちろん響いて・・・・・・
「君だって、見えただろう?」
「――――僕は違った」
――――母上が見えた
「ハリー、また来たのかい?」
ハリーと名前はびっくりして後ろを振り返る。
するとそこにはアルバス・ダンブルドアが腰掛けていた。名前もハリーもそこにいるとは気付かなかったらしい・・・
「ぼ、僕気がつきませんでした!」
「・・・僕もです」
「透明になると、不思議にずいぶん近眼になるんじゃのう」
とダンブルドアが微笑んでいるのを見てハリーと名前は正直ほっとした。
「君だけじゃない・・・何百人も君と同じように『みぞの鏡』の虜になった」
「先生、僕・・・」
「名前が言う通り、この鏡は幻想を映し出すもの・・・ハリー、この鏡は明日よそに移す。もうこの鏡を探してはいかんよ?たとえ再びこの鏡に出逢う事があってももう大丈夫じゃろう・・・。夢に耽ったり生きる事を忘れてしまうのはよくない、よく覚えておきなさい。さぁて、そのすばらしいマントを着てベッドに戻ってはいかがかね」
「あの・・・ダンブルドア先生、質問してもよろしいですか?」
「いいとも」
ダンブルドアは微笑む
「先生なら――――この鏡で何が見えるんですか」
ハリーの質問に、ダンブルドアは一瞬表情を曇らせた。だがそれは一瞬のこと・・・恐らくハリーは見逃してしまったのだろう。名前にはしっかりとその表情を読み取ることが出来た。
「わしかね?厚手のウールの靴下を一足、手に持っておるのが見える」
嘘だ。そんなはずない――――だって、ダンブルドアの瞳はそんなにも平凡な願いを見たのではない――――・・・・・・
もっと悲痛で、切なく、儚い願い・・・・・・・・・
「靴下はいくつあってもいいものじゃ。なのに今年のクリスマスにも靴下は一足ももらえなかった。わしにプレゼントしてくれる人は本ばかり贈りたがるんじゃ」
最後まで嘘を言うダンブルドアの言葉を、名前は忘れる事ができなかった。ハリーはマンとを着て寮へ戻った頃、その部屋にはダンブルドアと名前だけが残った
「・・・ダンブルドア先生、僕・・・ハリーを傷つけましたか」
「いいや、君は友として誠の事をしたまでじゃ・・・何を間違えようか」
「・・・・・・幻想と言った時のハリーの表情、見ているのが辛かった」
あの表情を知っているから。かつては自分もあのような表情をしていたから――――
「ハリーも誠の友を持てて幸せじゃろう・・・。名前、君は本当に優しい心を持っておる。それを大切にしなさい」
「・・・ありがとうございます。」
「・・・それと、君もハリーと同じく辛い思いをしている子じゃ。よくぞ鏡の誘惑に耐えぬいたの・・・・・・いい子じゃ、いい子」
ダンブルドアは優しく名前の頭を撫でた。すると目から熱いものがぼとぼととあふれ出てきた・・・
「・・・・ッ」
「今までよく我慢してきたのう、いい子じゃいい子じゃ・・・」
ただダンブルドアは優しく頭を撫で、名前を抱きしめた。
「・・・・っ!」
「いい子じゃいい子じゃ・・・もう我慢しなくてもいいんじゃぞ、思いっきり泣きなさい」
涙はとどまる事を知らず・・・とめどなく名前の頬に流れ出た。
今はただひたすらにダンブルドアの優しさに甘えていよう。ダンブルドアも幾とも悲しい思いをしているのにそれを表に出さず、ひたすら名前を優しく抱きしめる・・・
そんなダンブルドアの事を思うと名前の瞳からは尚更涙があふれ出ててきた
―――まるで、感情の洪水のように・・・
その夜、泣きつかれた名前は意識をぷつりと引き離してしまいダンブルドアが医務室へ連れて行くはめになってしまったのだった。
朝起きてみると医務室のベッドにちゃんと眠っていたのでびっくりした。恐らくダンブルドアが運んでくれたのだろう・・・次のクリスマスのプレゼントは奮発しなくては。
クリスマス休暇は慌しくも幕を閉じ、名前はようやく退院でき部屋にクリスマスからそのままの状態になっているプレゼントをようやく確認することができた。
運がいい事に腐りそうな食べ物などを送ってきた人は1人もおらず、あっても腐らないようなものばかりだった。
ハリーからはペンとインクのセット、ロンからは蛙チョコがつまった箱、ハーマイオニーからは小難しそうな魔法薬学の本、クラッブとゴイルからは高級そうな魔法薬学の鍋とその備品などだった。そして黒い箱に綺麗にラッピングされた高級そうなローブはもちろんドラコからだった。横に置いてあった小さくて高級そうな箱の中にはやはり高級そうな時計が入っていた・・・・・・これはルシウス・マルフォイとナルシッサ・マルフォイからであった。
やはりか、とどこかため息をしつつも嬉しさを隠し切れず顔が少しにやけてしまった名前であった。
「退院おめでとう名前、父上と母上から退院祝いをあずかってきた」
とドラコが言うと小さな小包を名前に渡した。
「・・・なんだか貰いすぎで申し訳ないな。おふた方には僕からちゃんと手紙を送りますと伝えておいてくれないか?」
「あぁ、お安い御用さ。」
いつもの日常が戻ってきた。授業も普段どおりに受け、普段どおりの毎日だ・・・ただ、防衛術の授業だけを除けば。相変わらずクィレルを見ると左眼が疼く。だがそれも数分間のことなのだ・・・最初見たときに痛み、それ以降は授業の妨げになるような事は無いのだ。ハリー談ではクイディッチの練習が以前よりも厳しくなり大変だそうだ。魔法薬学の授業の後、ドラコがスネイプのもとへとやってきた。
「スネイプ先生、次のクイディッチの審判をするとは本当のことですか?」
「あぁ、そうだが・・・何処で知ったのかねMr.マルフォイ」
「いえいえ風の噂ですよ・・・」
にんまりとお互い嫌な笑い方をすると次の視線は名前へと行った。
「・・・左眼は平気か?」
「はい。」
「・・・そうか、ならいい。では次の授業へと向かいなさい」
スネイプはそう言うと名前とドラコに授業へ向かうようにと促した。
父親と息子の会話は恐らくドラコ以外の前でさらけだすことは断じてないだろう・・・近くにいたのがドラコだから父親と息子の会話をするのであって、他の生徒だったらまったくもってありえない話であろう
「おいドラコ、父上が審判をするなんて初耳だぞ?」
「君知らなかったのかい!?僕はてっきり知ってるのかと―――ま、君と君のお父上のことだろうから・・・そういう事は言わないんだろうけど」
「グリフィンドールでは恐らく愚痴の嵐だろうな」
「なんだい名前、分かっているじゃないか」
ドラコは嬉しそうににやにやと笑った。
「・・・ドラコって、分かりやすいよな」
名前のそんな発言もドラコの耳に入ることは無かった。 その夜、名前がレポートをしているとふと思い出したことがあった。
―――ニコラス・フラメルって、あの賢者の石を造った人の事か?あの有名な錬金術師のことだよな・・・どうして今まで思い出せなかったんだろうな。ようやく思い出したのだった。翌朝ドラコの目を盗んでハリー達の元へとやってきてそのことを教えると、もう知ってるよといわれてしまった名前であった。
そしてついにグリフィンドール対ハッフルパフの試合はやってきた。ドラコはすこし遊んでくると言いどこかへ行ってしまったが恐らくはグリフィンドール席へ行ってわざわざロン達の所へおちょくりに行ったんだろう。
・・・まったく、懲りないなドラコも。
試合はハリーの手によってグリフィンドールの勝利に決まった。ドラコはロン達といざこざを起こしたらしく顔に痣を作って戻ってきた。
「・・・ドラコ、おかえり」
「―――――」
その日一日中ドラコは不機嫌だったとか。
その日、ハリーはとんでもない光景を目の当たりにしてしまった。
ちょうど試合が終わりニンバス2000を箒置き場に戻すために1人で更衣室を出た時である。箒置き場へやってきた時に城の正面の階段をフードをかぶった人物が急ぎ足で降りてきたのだ・・・・・・
そして何故か急ぎ足で、しかも人目につかぬように気をつけて禁じられた森へと向かって行っていた―――――スネイプが
ハリーはスネイプの動きを慎重に確認することにした。
クィレル先生が何でここに?
森にはもう1人、クィレルがいつもよりどもりながらも立っていたのだった。
「な・・・なんでよりによって・・・こ、ここんな場所で・・・・セブルス、君にあ、会わなくちゃいけないんだ」
「―――このことは2人だけの問題にしようと思いましてね」
スネイプは氷のような声を出す。
「生徒諸君に“賢者の石”のことを知られてはまずいのでね・・・・・・」
―――なんだって!?賢者の石だって!?
ハリーはさらに身を乗り出した
「あのハグリットの野獣をどう出し抜くか、もう分かったのかね?」
「で、でもセブルス・・・私は・・・・・・・っ」
「クィレル、私を敵に回したくなかったら」
スネイプはクィレルを冷たく睨むと一歩前に出た。
「っど、どういうことなのか・・・私には」
「―――何を言いたいかよくわかってるはずだ、そうだね?」
「・・・・ッ」
「あなたの怪しげなまやかしについて聞かせていただきましょうか」
クィレルはまるで追い詰められたネズミのように怯える。ハリーは確信に近づいているような気がしてならなかった・・・
「―――それと、今後一切我輩の息子に近づかないでいただきたいのだが。もし貴様が、無駄なことを名前に吹き込めば――――・・・どうなるかはご存知のとおりだ」
「セ、セブルス、一体なんのことだね・・・」
「それでは、近々またお話する事になりますな。もう一度よく考えて、どちらに忠誠を尽くすのかを決めておいていただきましょう」
スネイプは地獄の亡者のような瞳をギラギラと光らせ、そう言うと踵を返してホグワーツへと戻っていった。ハリーはどうしても最後の言葉が妙に気になってうずうずしていた
――――これは大変だ、ロン達に知らせなくちゃ・・・名前にも教えなくちゃ。父親の過ちを正すのもきっと名前にしかできないだろうから・・・・・・・
ハリーはそう思うと誰にも見つからないようにしてホグワーツへと戻っていった。ハリーは気付かなかった・・・スネイプが去った後、クィレルが怪しい者と話をしているところを―――
「・・・ご主人様、如何にしましょうか」
『ッフ・・・俺様はもう決めておるのだ・・・・・・俺様の計画には奴の息子が必要だ。』
「ご主人様、いつ決行なさいますか」
『―――ポッターを始末する時にだ』
「・・・・御意!」
男の高笑いはホグワーツの夜空へと飲み込まれていった。
一方、ハリーはかと言うとこの事実をいち早く伝えるために猛ダッシュでグリフィンドール寮へと戻ってきた。なにやらお祭り騒ぎのようでいつも以上に賑やかだった。
「ハリー、おかえりなさい。まったくどこへ行っていたのよ?」
「僕らが勝った!君が勝った!僕らの勝ちだ!」
ロンはひたすら叫んでいた。ハリーが息もつかずにそれどころではないと言うと2人にピーブスがいないことを確かめてから部屋のドアをぴたりと閉めて先ほどの話を話し始めた。
「僕らは正しかった。“賢者の石”だったんだ。それを手に入れるのを手伝えってスネイプがクィレルを脅していたんだ。スネイプはフラッフィーを出し抜く方法を知ってるかって聞いていた・・・それと、クィレルの“怪しげなまやかし”のことも何か話していた・・・フラッフィー以外にも何か別なものが石を守っているんだと思う。きっと人を惑わすような魔法がいっぱいかけてあるんだよ。クィレルが闇の魔術に対抗する呪文をかけて、スネイプがそれを破らなくちゃいけないのかもしれない・・・」
ハリーは息もつかずに話す。
「それじゃ“賢者の石”が安全なのはクィレルがスネイプに抵抗している間だけだということになるわね」
「それじゃ3日ともたないな、石はすぐなくなっちまうよ!」
ロンは悲鳴のように言う。そしてまだ話はあるんだとハリーが続ける
「・・・実は、スネイプは名前の事も言っていたんだ。名前に無駄な事を吹き込めばどうなるか分かっているかって・・・・・・・まるでクィレルから名前を遠ざけようとしているみたいだった」
「まぁ・・・!なんてこと!自分の息子をだましつづけるなんて・・・・!」
「それでも父親なのかよ!名前はあんなにもスネイプを信じているのに・・・・・・この事って名前に伝えるべきかなぁ・・・」
「ちゃんと伝えなくちゃ・・・そして真実を教えなくちゃ駄目だよ!」
ハリーはそう抗議するのだが、ハーマイオニーだけは複雑な表情をして首を横に振った
「・・・駄目よハリー。名前は勿論の事だけどスネイプを信じているわ・・・・・・それにこれ以上名前に辛い思いをさせるのはあまりにも可哀想な話よ・・・・・・・・・名前のことを思うのならここは黙っておいたほうがいいわ」
ハリーもロンもこのことを聞いて名前がいい顔をするはずが無いだろう、それにあまりにも可哀想すぎる・・・
「―――分かったよ、名前には黙っておこう」
ハリーとロンは仕方なく了承した
その晩、名前は左眼に妙な痛みを感じて体を起こした
何故だ?・・・薬で抑えていたはずなのに・・・・・・・・・・・
「名前、どうしたんだ?」
ドラコが心配そうに声をかけてくると名前は大丈夫だという仕草をした
「・・・君が厄介な持病を抱えているのは前から聞いていたが、こうも大変だとは・・・急に入院して驚いたんだぞ」
マルフォイ家の者は名前の左目の事は一応知っていた。ただ詳しいことは説明せず、“遺伝子の病気”だと伝えてあるだけだった。だからドラコは左眼の痛みの意味も知らないのだ。
「・・・すまない、心配をかけて」
「まったく、本当だよ・・・・・・無理そうなら父君の所へ行った方がいいんじゃないか?」
「大丈夫だ。本当に」
「君の大丈夫は大丈夫ではないと受け取ってもいいのかね?」
ドラコはため息をつきながらふとんのなかへと再びもぐっていった。
名前はそれを確認するや否や手鏡で左眼を見てみた・・・・
・・・前よりも赤みが増した――――様だな
今までは光にかざすとすこし赤い程度だったのだが今は違った。赤みが前よりも深くなりランプの光で不気味に照らされていた。
やはりドラコが言う通り、父上から薬を新たにもらったほうがいいのかもしれない・・・
だが眠気には勝てず、薬を貰わずにそのまま眠りの世界へと入っていってしまった。