01 それこそが、真実/賢者の石

「父上、どこへ行くのですか」

「・・・お前の教科書や杖を買いにダイアゴン横丁だ。我輩は他に用事がある・・・だから、買い物はお前1人で済ませておけ。金庫の鍵は渡しておく」

名前・スネイプの父親、セブルス・スネイプが息子に鍵を渡すと暖炉へ進みフルーパウダーを掴んだ。

「―――言うのを忘れたが、1人で帰れるな?」

黒髪の少年は無言で頷く。いつもそうだった。この家には会話と言う会話がない。それがつい最近ではあたりまえとなっていたので、名前は特に気にすることもなかった。セブルスはそれを確認するや否や緑色の炎の中へと包まれていった。1人、鍵を握ったままの名前はその鍵を鞄にしまうとフルーパウダーを右手につかみ、ダイアゴン横丁に向かう。

今日は7月31日。新学期間際でダイアゴン横丁は普段より一層にぎわっていた。とりあえずは教科書をそろえることにしよう。書店へ向かうと、店の者に教科書のリストを見せ、これを自宅に送るようにと託、ローブを買いにマダムマルキンの洋装店へと入った。
どうやら先客がいるようで、少年二人が寸法待ちしていた。恐らく自分と同じ新入生だろう・・・

「やぁ、君もホグワーツって・・・・・・名前じゃないか!久しぶりだな」

オールバックの少年が驚いた顔をしてやってきた。 彼の顔には見覚えがある。なんたって幼い頃はよく遊んだ仲だ。ある日ぱったりと会わなくなったのには複雑な事情があるのだ。

「・・・ドラコ、久しぶりだな。五年ぶりくらいか?」

「そうだな、君の父上はいつも忙しいからね・・・クリスマスに何度も家に呼んでいたのに、どうして来なかったんだ?」

「・・・ちょっと、な」

名前は少し苦い顔をしながら言うと、ドラコもこれ以上聞くのも悪いと思い、別の少年に話し始めた。話している内容はなんともいえない・・・家の自慢から純血の自慢。よく飽きないなぁと関心しつつも寸法が終わったドラコは名前にじゃぁな、と言うと店を後にした。店に残るは、さっきから自慢話ばかりされ続けて疲れ果てたクセッ毛でめがねをかけた少年と名前だけだった。名前はその少年に同情の眼差しを送ると少年も何を言いたいのか気付いたのか、小さくため息。

「・・・お疲れ様、って所だな」

「うん―――ちょっと疲れちゃった。君も今年からホグワーツ?」

「ああ、お前も新入生か。僕の名前は・・・」

名前を言おうとしたとたん少年は寸法が終わったらしく、「今は人を待たせてるからごめんね・・・続きは新学期でね!」と言うと少年は店を出た。人を待たせているのならば、仕方がないだろう。名前は手を振るとそれが見えたのか、少年がにっこり微笑み大きな男と一緒にどこかへ向かっていったのが見えた。
そしてようやく名前の寸法も終わり、最後は杖のみとなった。名前の家では、学校の教材は教科書以外は全て揃っていた。父親がホグワーツの教員だからというものもあったりしたが、小さい頃から名前は勉強が好きでルーン文字から魔法薬学などとあらゆる分野の勉強をしていたためでもある。
店に入ると早速オリバンダーがにっこりと出迎えてくれた。

「利き腕はどちらでしたかな、スネイプさん」

「左です」

するとオリバンダーは杖を次々と出してきた。だが中々杖が決まらなかった・・・
花瓶を砕いてしまったり、棚を真っ二つにしてしまったりと大惨事だったがとある一本の杖を振ったとたん淡い光が体を包んだ。オリバンダーはそれに満足したのか、にっこりと微笑んだ。だけどなんとなくため息にも聞こえたり聞こえてなかったり・・・
「君はやはりお母様に似ている・・・魔力の質も・・・はたまた杖も」

“母”の話をし始めたとたん、名前の顔はとたんに苦しそうに歪んだ。

・・・ここ五年で、母親の死というものをずっと自分の中で否定し続けていた心が、ようやく母親の死を認められる所までに至っている訳だが・・・・・・やはり、その話を掘り起こされると胸が締め付けられる思いになるのだ。

名前はお金を払い、店を後にした。オリバンダーが言うにはこの杖はドラゴンの鱗、バジリスクの牙で出来ているらしく、母親アリスの杖と全く同じ物らしい。少し、自分の母親がいつも傍にいる感じがして嬉しかった。

家に帰る前に、魔法薬の材料を買いに店に立ち寄った。

「名前、また会ったな」

「ドラコ・・・さっきぶりだな。鍋を買いに来たのか?」

「ああ。それより君の寮も僕の寮も、決定的なものだね」
ドラコは鍋を持ちながらふふんと鼻を鳴らす

―――確かに、自分の寮は確実に“スリザリン”だろう。父親も母親もスリザリンだったのだから・・・ましてや自分の父親はスリザリンの寮監でもあるのだ。スリザリン以外の場所へ行ったらどんな顔をされるやら・・・

「おや・・・君は名前ではないか・・・久しぶりだね、父君は元気かね?」

奥からドラコの父、ルシウス・マルフォイがやってきた。

「Mr.マルフォイ、お久しぶりです・・・元気そうで何よりです。父上は相変わらず多忙な日々です・・・」

「その様だね・・・1人で買い物とは・・・・・・ドラコ、何故名前を今日誘わなかったんだね?」

ルシウスが威圧をかけた声を出すとドラコは少し怯えたように「申し訳ございませんでした父上」と謝罪する。ちょっと小動物みたいだ、と思ったのはここだけの話。

「いえ大丈夫です・・・その、お気遣いありがとうございます。父上は忙しいようですが僕は僕なりにダイアゴン横丁の買い物を楽しめましたから・・・それに、ドラコやMr.マルフォイにも久々に会えましたし」

「君はしっかり育っているようだね・・・うちの息子もそれくらいしっかり育ってほしいものだ」
ギロリと睨むとはたまたドラコが縮んでゆくのが見えた。名前は、この親子は相変わらずだなぁと少し微笑ましく思えた
「では、これにて失礼するよ。新学期・・・息子の事を頼むよ」このルシウスの“頼む”にはもちろん、2人ともスリザリンが決定的だという含みもあるのだ。名前はそこまで言われるとついつい苦笑してしまった父親の背中で恥ずかしそうに「新学期な」と言うドラコが妙に面白かった。

家に帰るとまた静かな生活が始まった。父親は常にホグワーツ勤務で新学期間際なのもあり、自宅に居ることなんて滅多に無かった。母親が五年前に他界してからというもの、一人っ子の名前にとってはこの屋敷の広さは更に名前を孤独にするものしかならなかった。だから、勉強が好きになったのかもしれない・・・勉強をしていれば、孤独から逃げ出せる。悲しみを忘れていられる。

「名前坊ちゃま、スティンギーめです。お食事が出来ました」

屋敷僕のスティンギーが名前の部屋のドアをノックした。今日買った教科書の書き写しの手を止めて食事へと向かった。食事も無論・・・1人なのだ。この生活を五年もやっていると慣れてくるものだ。だが、一方孤独な心を覆い尽くすかのように勉強する時間が増えに増えてゆくのだった
もうすぐ新学期だ、新学期にはどんなことが待ち受けているのやら・・・期待に胸を膨らませいつもとは違う、孤独な心に“希望”という光を詰め込んでベッドにもぐりこんだ。

そしてあっという間に新学期の朝がやってきた。やはり父親は家にはいなかった・・・いや、教師なのだから当たり前か。今年は何だか毎年以上に多忙な日々を送っていた父親だが、過労死してしまうのではないかと名前も気が気ではなかった。
9と4分の3番線に乗り込むと、はたまたマルフォイ親子と遭遇した。こんどはMrs.ナルシッサもいた。家族との最後の面会となるだろう・・・次会えるのはクリスマス、親元を離れたことが無いドラコにとっては少し寂しいものに違いない。だから声をかけるのはやめておいた。名前は後ろを振り向かないように列車に乗り込んだ。
・・・振り向いてしまったら、羨ましさに誰かに当たってしまいそうだったから

「ここ、空いてる?」

見覚えのある少年が同席を求めてきた。

「お前・・・あの時の」

「ああ、君は!あの時はごめんね、人を待たしてて・・・」

「いや、いいんだ。それにこうして再会もできたしな・・・もちろん、座ってくれよ」

名前は少年に席をすすめると、快く座ってくれた。

「僕の名前は名前・スネイプ」

「僕はハリー。ハリー・ポッター」

「あぁ、よろしくなハリー。僕の事は名前って呼んでくれ」

「・・・名前は、僕の名前を聞いても驚かないんだね」

ハリーは自分の名を聞いても驚かない名前が新鮮だと感じた。おまけに、額の傷もじろじろ見られることもない。

「驚いてほしいのか?」

「えっ、いいやそういう事じゃなくて!・・・なんだか、嬉しいなって」

「嬉しい・・・?どうしてだ?」

「何だか、ようやく“僕”のことを見てくれる人が現れた感じがして・・・」

ハリーは嬉しそうに微笑む。
確かに名前が大きいとどうしても名前ばかりを気にされ、自分を見てくれない・・・それは有名な者にしか分からないことなのだろうが、名前は少しハリーに同情してしまった。
しばらく楽しく会話を交わしていると新たに仲間が出来た。赤毛の少年はロナウド・ウィーズリーと言って、ロンと呼んでほしいと言われた。なんとも好印象な少年だろうか。ペットにスキャバーズというネズミを連れていた。ロンもハリーの名前を聞いては驚いたりしたが、それは最初だけでそれ以外は普通の態度で接してくれた。ハリーはそれが嬉しかったらしく、列車の販売でお菓子を大量に購入してしまった。3人でしばらく他愛の無い会話を交わしたり、お菓子を食べたりしてひと時を楽しんでいた。そんな時に1人のハーマイオニーという少女がヒキガエルを探しているようで、名前達のコンパーメントにやってきたのだ。ハリーの名前を聞くや否やすらすらとハリーのことが言い述べられた。ちょうど、ロンがスキャバーズにのろいをかけるところで、ハーマイオニーも気になったのかロンが魔法を失敗するまで見ていた。

「わたしの家は全員魔法使いじゃなかったけど、ちゃんと魔法つかえたわよ?」

そう言うとコンパーメントを後にしようとした。そして退場際に「鼻の横に泥がついてるわよ、知ってた?ここよ」と言い放ち颯爽と去っていった。 なんとも気の強そうな女の子だろうか。

「・・・僕、アイツ苦手だよ」

「賢そうな女の子だったな」

「うん・・・だけど僕も少し苦手だったかも」

ロンとハリーはどうやら同意見らしい。名前だけは違ったようだが・・・

「それより君のその髪型、不思議だね」

ロンとハリーが名前の左前髪を不思議そうに眺める

「なんか、髪の毛染めているのかい?」

「・・・昔、失敗した魔法薬を被って以来、色が落ちないんだ。髪を切っても切ってもな…」

「そうなんだ・・・僕、最初怖い人かなぁなんて思っちゃったよ」
ハリーがそう言うとロンも「僕もだよ」と続けた
名前の左髪の一部が赤に染まっているのは、本当に魔法薬の失敗からで、けしておしゃれをしている訳ではない。
校則では無論髪染めは禁止されているが名前だけは例外として許可が下りていた。これも教師を親に持つ特権と言ったところだろうか・・・
この髪色のせいか、第一印象が“怖そう”と言われるのは慣れっこだった。

「ねぇ、左前髪が長いけれども邪魔じゃないのかい?」

「あぁこれか…」

名前は左前髪を掻き分けてうっすらと赤みがさした目を見せた。

「うわぁ!すごい・・・綺麗な目だね・・・・・・どうしたの?」

「・・・5年前からちょっと」

その続きは決してしゃべらず列車から見える流れる風景を見つめているだけだった。
恐らく聞いてはいけない領域だったんだな・・・
ロンは非常に申し訳ない気分になり、謝罪の言葉を述べようとした。しかしその時コンパーメントの扉がオールバックの少年と図体のでかい少年らによって開かれた。

「ここにハリー・ポッターが居ると聞いてやってきたんだが・・・君か?」

ハリーは無言で頷くと少年は自己紹介からロンの悪口をすらすらと述べてきた。名前は憂鬱そうに、ため息を吐いた

「おや、名前!なんでこんな奴らの所にいるんだ!!僕らの所に来い!」

「ドラコ・・・懲りないなお前も」

「―――君、こいつの知り合いなの?」

ロンがぎょっとした顔で聞くと、名前は無言で頷いた。・・・明らかに嫌そうな顔をしている

「名前とは家族ぐるみの関係だからな・・・いずれおまえ達と名前は不釣合いだということが分かる時がくるだろう」

「ドラコ、僕の友人に対して失礼だ。」

名前がイライラしながら言う。しかしそんなの気付いてもいないらしく、ドラコはぐいっと名前の腕を引っ張ると、そのまま名前は引きずられる形で連れて行かれてしまった。

その後、ドラコのコンパーメントに無理やり押し込まれた名前は列車が到着するまで終始不機嫌だったとか・・・