「…ようやく目覚めたか………事情はクライヴから事前に聞いている」
医務室で数ヶ月眠り過ごすのは日常茶飯事的なものになっているような気がしてならない。名前は軋む体を持ち上げ、父であるセブルスを見上げた。表情は相変わらずわからない
「・・・父上、クライヴから聞いている・・・とは?」
「・・・お前が倒れてすぐ、落ちていた手紙に魔法がかかっていたことに気づいてな・・・。そこにはお前が飲んだ薬のことなどが書かれていた、それ以外は何も記されてはいなかった」
つまり、現在のクライヴのことが一切記されていなかったということ。
もしかしたらクライヴは自分たちを巻き込まないようにしてるのかもしれない・・・
「お前が眠っている間、ポッターがドラコに魔法をふっかけた。ついこの間退院したばかりだ・・・」
ドラコに・・・ハリーが魔法をかけた?そんなの日常茶飯事ではないか、父上は何をそんなに腹立たしげにおっしゃっているのだろうか・・・
「・・・お前は早く寮に戻りなさい」
結局あの薬のことを詳しく聞けないまま寮に戻ると、いつものさびしい部屋が広がっていた。まさか、あのドラコとこんなことになるなんて思いもしなかった。急に胸の奥が締め付けられ、名前は唇を噛んだ
いつかは一人にならなければならないときがやってくる・・・・・そう、死だ
死に比べたら今の状況なんてやさしいものだ。名前はもう5月なのに、何故か肌寒さを感じた。
クィディッチの試合だというのに、名前はセブルスのいる地下室へと向かっていた。地下室は地上の熱気とは違って冷たいものを纏い、ホグワーツの中でぽつりと取り残されている
「あ、名前・・・?」
今日は確かクィディッチの試合だったよな・・・ハリーは確かキャプテンで・・・・・・
名前は目の前からやってくるハリーの姿を不思議そうに見つめた。ハリーは名前をどこかおびえたような表情で見て、小さく久し振り、と声をあげた
「・・・久しぶりだな」
「また、入院してたんだよね・・・?もう大丈夫なの?」
「あぁ・・・多分。ハリーはこれからどこへ行くんだ?」
「はぁ・・・君の父親の所だよ・・・・罰則だよ――――名前は怒らないのかい・・・?」
何が、なんてそんなこと明白だった。きっとハリーは親友であるドラコを傷つけた自分自身が憎いのではないか、と心配しているのだ。
名前は首を横に振り、よくわからない表情を浮かべた
「・・・そうだったのか、僕も用事があったんだ」
その答えに安心したのか、ハリーは小さくごめん、と呟いた。
「一緒に行くか?」
「うん・・・・。その、名前も一緒に来てくれるとありがたいな・・・」
罰則・・・ということは、つまりこの間ドラコに魔法をかけたときのやつだろう。しかしまさか罰則についてきてほしいと言われるとは思わず、少し驚いた
「あぁ・・・別に構わない」
長い廊下を二人で静かに歩く・・・ずいぶんと不思議な光景だ。
「あの・・・クライヴは今何しているの?」
ハリーが沈黙を破った
「・・・わからないんだ、ダンブルドアも、父上も、僕も・・・」
「そう、なんだ――――あのさ、時にヴォルデモートとクライヴって繋がってたりする・・・?教えてくれないとは思うけど」
―――ハリーはそこまで知っていたのか。
そもそもハリーはどこまでヴォルデモート関連の情報を知っているのだろうか・・・
「―――さぁな」
「・・・最近、入院してたのもあるけど・・・マルフォイと一緒にいないんだね?」
「―――・・・」
名前の反応に、ハリーは口に手を当てしまったというばかりに息をのんだ。
そうしているうちに地下室の扉は目の前までやってきた。
「ああ、ポッター」
ハリーの続きに名前がやってくると、その姿を見たセブルスは顔をしかめた
「Mr.スネイプ、用があるならば明日来るように」
「いいえ、すぐ終わります」
そう言いハリーがいるのにもかかわらずセブルスの私室へ入り、何やらがさごそと始めた
一体どうしたんだろう、とも言いたげなハリーの視線を、セブルスは一喝する
「フィルチさんが、この古い書類の整理をする者を探していた」
セブルスは猫なで声で言い放つと、薄汚れた羊皮紙を持ち上げた
「ご同類のホグワーツの悪行に関する記録だ、インクが薄くなっていたり、カードが鼠の害を被っている場合、犯罪と刑罰を新たに書き写していただこう。さらに、アルファベット順に並べて、元の箱に収めるのだ。魔法は使うな」
「わかりました。先生」
ハリーは先生という言葉に、できる限り軽蔑の意を込めて言った
「最初に取り掛かるのは…ジェームズ・ポッターとシリウス・ブラック。バートラム・オーブリーに対し、不法な呪いをかけた廉で捕まる。オーブリーの頭は通常の2倍、2倍の罰則。」
セブルスがにやりと笑った。
「死んでも偉業の記録を残す・・・・そう考えると、大いに慰めになるだろうねえ」
ハリーの鳩尾に、いつもの煮えくりかえるような感覚が走った。喉まで出かかった応酬の言葉をかみ殺し、ハリーは箱の山の前に腰かけ、箱を一つ手元に引き寄せた。
そのころ、名前は父の私室でとあるものを探していた。確か、父上ならば持っていたはず……
「…名前、何をしているのだ」
「―――父上、銀ねずみのしっぽを探しているのですが……確か、父上の部屋で見かけたような気がして――――」
銀ねずみのしっぽがあれば、毛穴を小さくする薬が作れる。かなり前だがロンの妹、ジニー・ウィーズリーに作ってくれと頼まれたことをすっかり忘れていた
目が覚めてから突然そのことを思い出し、薬を作り始めたのはいいのだが銀ねずみのしっぽを買い忘れてしまったらしく、すぐ調合しないといけないのでホグワーツでありそうな場所を探したところ、セブルスの私室に確かあったことを思い出して今こうしてやってきたのだった。
「…銀ねずみのしっぽは倉庫に移動してしまった。銀ねずみのしっぽの代わりにヤマアラシの爪を使うといい…銀ねずみのしっぽほどではないが、似たようなものだ」
セブルスから小瓶を受け取ると、まじまじと顔を見詰めた
「・・・ありがとうございます」
「何があった」
「いえ……なんとなく、いや、もしかしたら…そうかもしれない」
「・・・何か感じたらすぐ来なさい」
名前はあの眠ったときの感覚を思い出し、もしや・・・と思ったのだ。今までも幾度もなく入院をしたりしているがヒトの記憶をのぞいたり、過去の世界へいったりと……まさか、これはすべてヴォルデモートの妹、彼女の力のせいなのかもしれない
でもまだ確信は持てない。それに最近感じていた自分の中の別の気配のこともまだ……
「では、失礼します」
部屋を出る時、何か言いたそうな目でこちらを見ていたがあまり気にしなかった。
そういえばクライヴの事をずいぶんハリーは気にしていたが、やはりヴォルデモートと一部がつながりあっているハリーなだけあって、特別な何かを感じているに違いない
寮に戻りしばらく談話室で本を読んでいると同級生の一人がクィディッチでグリフィンドールが勝利してしまったことを呟いたのが聞こえてきた
それから寮はいつもの物静かな空気に包まれた。
図書室で勉強をしているとき、見慣れたふわふわの髪の毛が目に入った
ハーマイオニーだ
ずいぶん高いところの本を取ろうとしているのか、背伸びをしていて苦しそうだ
そっと本を抜き取ってハーマイオニーに渡すと、突然の名前の登場に驚いた表情を浮かべた
「ありがとう―――もう体のほうは平気なの?入院したって聞いたから・・・」
「あぁ・・・」
「そう、ならいいの……あ、そうそう名前は半純血のプリンスって何か聞いたことないかしら」
「―――半純血?」
「そうなの、今回ハリーがマルフォイに向けて放った魔法がその人の本に記されててね・・・名前ならもしかして知っているかも、と思って」
「・・・申し訳ないが、僕は知らない。それは何の本なんだ?」
「魔法薬学の本よ。そう、ちょうど名前が持ってる本と同じ―――――」
ハーマイオニーは名前が持っている本を見て目を見開いた
「名前、あなたもしかして――――ちょっと中身を見せてもらってもいいかしら」
「あぁ…構わない」
「―――もしかして名前、あなた女子生徒にプリンスとかって言われてたりする?」
「・・・・まさか、ジョークかハーマイオニー?」
「―――そうよね、ごめんなさい。」
本を返すとハーマイオニーはなにかぶつくさと呟きながら去っていった。手元には名前が長年使い込んだ魔法薬学の教科書があった。
「・・・半純血のプリンス?」
女の子というものは、どこから情報を集めてくるのか知らないが恋の話が大好きである
ジニーにどうやってこの毛穴を小さくする薬を渡そうかとなやんでいるとき、女子の集団が何やら興奮しながら話しているのを目の当たりにした
「――え、ハリーとジニーは付き合ってるの?!」
「そうそう、だってこの間、二人は――――――」
そう、だったのか?
いやいや、大抵女の子の噂とは嘘と真実が五分五分だ。だからあながち外れてはいないのだろう
ならばこの薬はハリーに手渡したほうが確実に彼女の手へいく。しかし、誰か男に毛穴を小さくする薬をもらって嬉しいだろうか・・・
名前は作った本人なのだからまだしも、噂されているハリーに薬をもらって恥ずかしくはないだろうか・・・
要はどんな薬か、などと述べなければよいのだ。
グッドタイミングでハリーが通りかかる。
「ハリー、少しいいか」
「ん、何だい?」
「これはジニー・ウィーズリーに頼まれていた薬だ、これを渡してもらってもいいだろうか?」
一瞬ハリーはなんともいえぬ表情で名前を見るが、どうにか薬を受け取った。
名前はまだ、ハリーの嫉妬に満ちた視線に気がついてはいない
「じゃあな、よろしく頼んだぞ」
「・・・うん」
名前はこういうことになると無頓着になる。いや、鈍感というのだろうか・・・
それゆえに女子には人気だ。
突然の出来事だった
頭の隅からあの女の声が聞こえてきた―――――どんどん、どんどん大きくなってくる
『よーっす』
「・・・・。」
気がつけば、半透明だが目の前にはその女の姿・・・
『何よそのしけた顔は』
「・・・あ、あの・・・」
『ちょっとあんたの魔力借りたからね、時間はあまりないから手短に話す。クライヴは今は生きてる』
「い、今は―――?」
嫌な汗が背筋を通る
『うん、あいつは命をかけて、最強の魔法で兄貴に立ち向かう。』
つまり――――クライヴは死ぬ、ということになる。何を勝手な事を言っているのだ
名前は反論しそうになったが、半透明の指が口を押さえる
『同じ血の者ならば、いつでも君の呪を強めることができる。君の魔力の押さえ方も――――だから、気をつけて』
それを言うと彼女の姿は再び見えなくなり、声も聞こえなくなってしまった。
同じ血の者?つまりヴォルデモートが僕の呪を強める・・・?しかし僕を死に追いやっては妹を蘇生させることはできないだろう・・・蘇生させるには他者の魂も必要になるのだから。
同族なら知っている――――ヴォルデモートのほかに、血のつながった者がいるとすれば・・・・誰だろうか
―――父上がそんなことをするはずもないし、では誰が…?
頭の中では様々な思考がぐるぐると廻りゆく。だが一向に答えは出てこない
「・・・わからない」
名前はその日、再び夢を見た…
幸せだった、あの日の夢を―――――