59 それこそが、真実/謎のプリンス

会場からいったん離れてしまえば、廊下はまったく人気がなかったので、ポケットから透明マントを出して身につけることなんてたやすい。
むしろあの二人を見つけることのほうが難しかった

ハリーは廊下を走った。足音は背後のスラグホーンの部屋から流れてくる音楽や声高な話し声にかき消された。
スネイプは地下にある自分の部屋にマルフォイを連れていったのかもしれない……それともスリザリンの談話室まで付き添っていったのか――――
いずれにせよ、ハリーはドアというドアに耳を押し付けながら廊下を疾走した

…名前はやはりヴォルデモートに気に入られている……マルフォイはそれに嫉妬しているんだ…
先ほどの出来事を思い出しているとき、とある部屋で足が止まった。

「……ミスは許されないぞ、ドラコ。なぜなら、君が退学になれば―――」

「僕はあれにいっさい関係ない、わかったか?」

「君が我輩に本当のことを話しているのならいいのだが。なにしろあれは、お粗末で愚かしいものだった。すでに君がかかわっているという嫌疑がかかっている。」

「誰が疑っているんだ?」

ドラコが怒ったようにいう

「もう一度だけいう。僕はやってない。いいか?あのベルのやつ、誰も知らない敵がいるに違いない――――そんな目で僕を見るな!おまえが今何をしているのか、僕にはわかっている。馬鹿じゃないんだから。だけどその手は聞かない――――僕はおまえたちを阻止できるんだ!」

一瞬黙ったのち、セブルスが静かに言った

「あぁ…ベラトリックス伯母さんが君に『閉心術』を教えているのか、なるほど。ドラコ、君は自分の主君に対して、どんな考えを隠そうとしているのかね?」

「僕はあの人に対して何も隠そうとしちゃいない。ただ、おまえがしゃしゃり出るのが嫌なんだ!いや、お前たち親子が!」

ハリーは一段と強く鍵穴に耳を押し付けた。これまで常に尊敬を示し、行為まで示していたスネイプに対してマルフォイがこんな口のきき方をするなんて……それに、先ほどのことといい、名前への態度…
今まで二人が喧嘩なんかした話も聞いたことはなかったし、何があっての常に仲がよかった。親友だとか名前は言っていたけど・・・

「なれば、そういう理由で今学期は我輩を避けてきたというわけか?それに先ほどの言動、あれはいただけない。君はあの一瞬で今まで築き上げてきたものを無駄にするところだった、名前が君を止めていなければ、君は余計なこともしゃべっていただろう」

「―――うるさい!事実じゃないか!それに今は少し反省している……名前は何もやっちゃいないのに、ただ、家の呪いと闘ってるだけ…なのにあの人に気に入られている!」

「…あの家の呪いの痛みを君が知っているのかね?知らないのならば軽々しくそのようなことは言わないことだ。いいか、我輩達は今君を助けようとしているのだ。君を護ると、君の母親に誓った。ドラコ、我輩は『破れぬ誓い』をした―――」

「それじゃ、それを破らないといけないみたいだな。何しろ僕は、お前の保護なんかいらない!」

「ならば、名前の助力なら受ける、のか」

「名前の助力もいらない!呪いで大層お疲れ気味のようだからね、僕は仕事で忙しい―――あの人が僕に与えたんだ、僕がやる。計略があるし、うまくいくんだ、ただ…考えていたより時間がかかっているだけだ!」

「どういう計略だ?名前の助力もなしでか?」

「今までだって僕一人でやってこれた!お前の知ったことじゃない!」

「何をしようとしているのか話してくれれば、我輩が手助けをすることも―――」

「必要な手助けは全部ある。余計なお世話だ、僕は一人じゃない!」

「そうだ、君にはいつも名前がいる・・・しかし今夜は明らかに一人だったな。見張りも援軍もなしに廊下をうろつくとは、愚の骨頂だ。下らぬ意地など捨て、素直に友に頼れ」

「お前がクラッブとゴイルに罰則を科さなければ僕と一緒にいるはずだった!ああそうだよ、どうせレーガン家の血には叶わないさ!名前はいつだって1番だ、頭も僕よりずっといいし、頼りになる。そりゃぁあの人たちも気に入る訳だ!」

「声を落とせ!」

セブルスが吐き捨てるように言った。もはやドラコは興奮していて声が高くなってしまっているようだ

「君の友達のクラッブとゴイルが防衛術のOWLに今度こそパスするつもりなら、現在より多少まじめに勉強する必要が―――」

「それがどうした?防衛術、そんなもの全部茶番じゃないか。見せかけの芝居だろ?まるで我々が闇の魔術から身を護る必要があるみたいに―――」

「成功のためには不可欠な芝居だぞドラコ!」

セブルスが静かに唸った

「我輩が演じ方を心得ていなかったら、この長の年月、我輩がどんなに大変なことになっていたと思うのだ?もちろん名前もだ。よく聞け、君は慎重さを欠き、夜間うろついて捕まった。クラッブやゴイルごときの援助を頼りにしているのなら、素直に名前に援助を求めたほうが確実だろう」

「あいつらだけじゃない、僕にはほかの者もついている。もっと上等なのが!それに僕にはあの人がついている―――あの人がおっしゃっていたんだ、僕が成功したら―――」

「あの人物が闇の帝王の次に恐ろしい人物なんだぞ!君は頼るべき人を誤っている。我輩を・・・せめて名前を信用するのだ。さすれば―――」

「おまえたちが何を狙っているか、知っているぞ!僕の栄光を横取りしたいんだ!」

三度目の沈黙のあと、セブルスが冷やかに言う

「君は子供のようなことばかり言う。父親が逮捕され収監されたことが、君を動揺させたことはわかる、しかし―――」

ハリーは不意を衝かれた。ドラコの足音がドアの向こう側に聞こえ、ハリーは飛びのいた。そのとたんにドアがぱっと開いた。ドラコが荒々しく廊下に出て、大股にスラグホーンの部屋の前を通り過ぎ、廊下の向こうは詩を曲がって見えなくなった。
セブルスがゆっくりと中から現れた。底のうかがい知れない表情で、セブルスはパーティーに戻っていった。ハリーはマントに隠れてその場に座り込み、激しく考えをめぐらしていた。
「はぁ……かえって来ないか」

その日からドラコは部屋に帰ってこなかった。たぶん別の部屋にいるのだろう
名前は複雑な気持ちになった。突然のドラコの変貌…彼をそこまでせめぎたてるのはやはりヴォルデモート卿のほかいないのだろう
もしかしたらこのままずっとこの部屋に戻ってきてくれないのかもしれない。ドラコを守りたいのに、これでは守ることも話をすることもできない
あれからずっと名前はドラコに避け続けられた。ハリーにも、だ
恐らくあのとき、何か話を聞いてしまったのだろう。なんせ彼には透明マントがある
廊下には人がいなかったはずだから、たやすく二人の話を盗み聞くことはできるだろう。

「名前、最近ドラコ・マルフォイといないね」

廊下でばったりとルーナに遭遇した。

「ああ・・・ドラコもいろいろあるんだろう。僕はただドラコが話をさせてくれるまで待つ」

「…時には無理やりにでも話しかけるのが必要だったりするよ、うん。だけどあんときは驚いたね、名前ってあんなに大きな声が出るんだ」

あのパーティのときか…名前は今さらだが、少し恥ずかしそうに眼を伏せた

「助言ありがとう…」

ルーナは変わった女の子だ。だが、嫌いではなくむしろ好きなほうだった
今までに付き合ったことのないようなタイプなので、名前にとっては彼女と話をしているだけでも楽しかった。

ようやく17歳になれた名前は、これから行われる姿あらわしの練習を受けることができる
しかし今魔力が不安定なので控えたほうがよい、と父親にきつく言われているのでそれを守らなくてはならなかった。
姿現わしはクライヴいわく、適当にやればできるらしい。それはクライヴだからこそなのでは、と疑問に思った

「姿現わしだってさ…名前ならすぐできそうだね」

「完璧な人間はいないからな・・・それに、僕は今ドクターストップがかかっていてあまり魔法が使えないんだ」

「そうなんだ、あ、そうそう、ロンが入院したの知ってる?」

「―――入院?何かあったのか?」

ルーナの話だとハリーへのプレゼント(愛の妙薬入り)をロンが食べてしまい、解毒剤をもらうためにスラグホーンの部屋へ行ったらしい。
そこでもらった飲み物に毒薬が入っていたんだとか

季節は淡々と過ぎ去り、もう3月だというのにいまだにドラコと会話をできていない
近くへ寄ろうとすると何かしら理由づけて行ってしまうのだ。もちろん周りの生徒は不思議に思いながらも過ぎ去ってゆく名前に挨拶をする
そんな毎日がずっと続いていて、そろそろやばいなと感じ始めた。

このままドラコひとりでことをやらせれば…彼は壊れる
それに、ドラコには絶対ダンブルドアは殺せない。と、なると必然的に他の者がやらなくてはならなくなる。
ならば自分が―――自分ならばあとこの先長くない、自分がやるしかないか

しかしそんな覚悟…こんな状態の自分ができるのだろうか…
今年に入ってからというもの、さらに魔法は使いづらくなったしもしかしたらネビルよりも魔法が下手になったかもしれない
いや、いまのはちょっと本人に失礼か

ある日、名前の部屋にスネイプ家の屋敷僕スティンギーが現れた

「―――坊ちゃま、お久しぶりです…」

「スティンギー…!」

スティンギーは周りをきょろきょろしながら、小さい箱を名前に渡す

「…これはとある方からお預かりしている物です…クライヴ様から、誰もいない時に使用するようにと、それと誰にも見せてはいけないと―――」

用件を済ませるとすぐさまスティンギーは姿くらましをし、屋敷へ戻って行った
受け取った箱の中には銀色の液体の入った小瓶がひとつ。
箱の底には小さな紙切れが入っており、「真実を飲み干せ」という走り書きがあるだけ

真実を飲み干す…?
名前はクライヴが何を言いたいのか分からず、ベッドに横たわり小瓶を見つめた

「―――真実?飲み干せ…?もしかして、これを飲めということなのだろうか……」

父親からはわけのわからない薬は絶対に口にするな、といわれていたが…いいのだろうか…飲んでしまっても
だが箱を調べても何もなかったし、やはり走り書きの通りこれを飲み干すしかないのだろう。それにスティンギーに頼むほどだ…ダンブルドアにも黙っておいてほしいことに違いない。
と、なると確実にレーガン家関連のものになる

…この時期に、この時間に…ということは、今すぐに、ということか?

名前は小瓶のコルクを引き抜き、液体を一気に飲み干す
すると不思議なことに体がぽかぽか暖かくなってきた。それに…なんだか心地よい
そのまま名前は眠ってしまった。
『―――なぁ、あいつ、そこまですることないんじゃないかな』

『…兄さんはわからないだろうね、オリオン兄さんがやってしまった罪』

レーガン家の屋敷で幼いクライヴと弟らしき少年が話をしていた

『オリオン……殺すことはないだろ…この家はおかしい』

『仕方がないよ……代々親族同士で結婚してるんだから…』

『お前に言われなくたってわかってる。でも、さ――――』

クライヴは憎々しげに壁を殴った

『実の――――息子を殺すかよ』

『…オリオン兄さんはレーガン家の呪いで死んだんだ』

『ポエフニー、お前まだそんなこと言ってるのかよ!あいつは、母上と父上に殺されたんだ――――一人で寂しかっただろうな』

『オリオン兄さんには天罰が当たったんだ……だって、家宝を盗み出そうとした―――』

『あれは違う、俺が――――俺がアレの話をしなければ…あいつは興味を持たなかった…俺のせいでもあるのに―――』

『…クライヴ兄さん、お母様が呼んでます』

ポエフニーと呼ばれた少年は嫌がる兄を引き連れ、下へ降りて行った

『何故オリオンを殺したんです…!!』

『オリオンは時渡り人だったのよ・・・・・私たちの一族が滅んでもよろしいの?』

プラチナロンドで鼻の高い女性だ。気品に満ちているが瞳は冷たい

『時渡り人だからって…!あいつは好奇心が旺盛なだけだった!』

『そうね、あなたたち…とっても仲がよかったものね、双子の兄弟だものね………わたくしもオリオンの死には反対しましたのよ…でもね、死を享受することも必要な時があるのです』

淡々と言うその女性に、愛というものはみじんも感じられなかった。ただ、事務的に返って来る言葉、言葉、言葉
クライヴは屋敷を飛び出した。

何で、何で、何であいつらはあんな状態でいられるんだ
実の兄が―――実の息子が死んだっていうのに……もはや人間じゃない、化けものだ

『うわあああああああああああああ!』

庭にある広大な薔薇園の真ん中で叫ぶ。周りに美しく咲き誇る赤い薔薇がふわりと揺れ、クライヴの頬を撫でた
まるで優しく見守ってくれているかのように

『…オリオンは、もうこの世にいない…んだよな』

現実は彼に優しくはなく、無情にもぽたりぽたりと涙が流れてゆく

『ごめんな、全部俺のせいだ……ごめんな、ごめんな―――』

だから俺はこの家が嫌いなんだ
古くから継承されているこの血が

血がなんだっていうんだ

俺は俺なのに

どうして、どうして周りの大人たちは血を尊重するんだ

わからない、わからない・・・・・・!

場面は変わって、ホグワーツの大イカのいる湖が現れた
そこで黒髪の少女とクライヴがなにやら話をしていた。

「それでなー」

「はあ…そんなに気に入らないんなら殺しちゃえばいいでしょ、あんた初代当主以来の魔力の高さって言われてるんでしょ?家では嫌われているようだけど」

「・・・皮肉るなよ。それに殺すなんて、そんな非道なことしないね」

「あらそう?あんたがこの間、薄汚いマグルに殺すって言ってたの・・・覚えてるわよ」

「マグルとかそういうのは関係ねぇ、あいつが・・・・・・家のことを、知ったような口で言ってたからついカッとなっちまっただけだよ」

クライヴは手に持っていた本をぼちゃんと湖に落としてしまった。

「俺は何かに縛られることは嫌なんだよ、俺は、俺でありたい」

「相変わらずアンタ意味わかんない。兄貴がホグワーツ出たら本格的に動き出すって言ってたけど、あんた加担すんの?」

「・・・・・・そういうのはお断りだ」

「なんでぇ?まぁ別にいいけど」

「俺は俺でありたいっていっただろ、俺は俺の命令でしか動かない、それにお前たち純血思想を別に今までどうとも思ったことなかったけど、突然馬鹿らしくなった」

「馬鹿らしくなったの?それでもいいんじゃない、アンタなんだから。まぁ一応忠告だけはしとくよ・・・・・兄貴は、例え親友だったあんたでも、敵だったら容赦しないよ」

少女は湖に落ちた本を魔法で拾い上げ、クライヴによこした

「宣戦布告、終了っと」

少女が去ってゆく中、クライヴはただ一人なんともいえない表情で少女の背中を眺めていた
ああそうか、これが恋なのか

君はどうやったら俺のところに来てくれるんだい
そんなにトムが大切なのかい

・・・そりゃあそうだよな、俺だって、オリオンがすごく大切だった――――

絶対、オリオンの敵はとってやる・・・・・・オリオンを処刑したのは確か執事の・・・・・・・・