70 それこそが、真実/死の秘宝

再び場面が変わり、今度はどこかの屋敷の中にいた。
薔薇が咲き誇るその場所を、名前は知っていた。そうだ、この場所は―――・・・

「・・・アリス、何故、顔を逸らすんだ」

「―――もう、わたしをほうっておいてちょうだい。あなたとこれ以上、話なんかしていられないの・・・」

「・・・僕、決めたんだ」

「―――もうすぐで、卒業ね。卒業したら、わたしたち、お別れね」

「・・・そんなこと、いうな」

「なら、どうしろっていうの!ホグワーツにいた時は恋人ごっこができた・・・でも、卒業したら、わたし、ブラック家に嫁がないといけないのよ、この気持ちをずるずる引きずっていきたくないの」

もうすぐ卒業だということは、かれらは七年生ということになる。レギュラス・ブラックとの婚約がきまった彼女はここを出れば文字通り、ブラックと姓を変えることとなる。二度とセブルスと関わることはなくなるだろう。

「僕は、君を、アリスを攫いに来た!覚悟も決めた、この腕を見ればよく分かるはずだ・・・」

アリスはセブルスの左腕に刻まれたそれを見て息を飲んだ。悲しそうに眉を寄せ、セブルスを見る。

「・・・君には黙っていたが、この間、君の父君にお願いしにいったんだ・・・必死の覚悟で頼んだんだ。」

アリスの瞳からはぼろぼろと大粒の涙がこぼれおちる。崩れ落ちる彼女を腕で抱きかかえながら、セブルスは続ける。

「僕が、あの人の一番の僕となれば、君の家は安泰だ。父君にそれを条件で婚約を解消してもらったんだ・・・だから・・・つまり、君はもう自由なんだ、なんにも縛られることもなく、生きていけるんだ」

涙が次々にこぼれ落ちてゆく。

「―――セブルス、あなた・・・そこまでして・・・何故、わたしを自由にしてくれたの・・・・?」

「それは・・・・君を、愛しているからだ」

セブルスが死喰い人となった経由が今明らかとなった。
・・・父上は、母上のために死喰い人となったのだ・・・・愛を、貫き通すために・・・・。
かつての薔薇園は荒れ野原となり、かつてのレーガン家の威光などみじんも見えなくなったその場所で、アリスはセブルスと立っていた。

「・・・良かったのか、何もかも、消してしまって」

「・・・いいの、お父様もお母様も、アルも・・・いなくなったんですもの、住む者がいなくなった屋敷を誰が必要とするの?それに、この家は、もう栄えちゃ、いけないのよ・・・」

苦しそうにつぶやくアリスのかたをセブルスはそっと抱く。

「この子だけは・・・無事だと、いいんだけれども・・・」

それは、呪いのことか、とセブルスは呟いた。
大切そうに、でも、どこか儚げにさするそのお腹には名前という命が宿されているのだろう。母は時々、僕をこんな目でみていたな。
だから、そんな目をしていたのか・・・・。今になって、ようやく分かった。

「リリーに子供が出来たんですって。わたしたちの子よりも早くうまれるそうよ・・・」

「・・・リリーが!」

「うふふ、そうよ。とても嬉しいニュースよ、わたしにこっそり手紙を出してくれたの。もちろん、誰にもしられていないから安心して?」

嬉しそうに笑うアリスを、セブルスはみることができなかった。

場面が変わり、そこは丘の上だった。セブルスは盗みきいたトレローニーの予言をヴォルデモートに全てはなしてしまったようだ。だが、その予言には7月末に生まれる男の子がヴォルデモートを破滅へと導くとあった。
7月末に生まれる男の子―――それを、ヴォルデモートは混血であるハリーを選んだのだ。ハリーが危険となれば、リリー達も危険となる。セブルスはリリー達を隠してほしいがために、ここまでやってきたのだ。
ダンブルドアはセブルスの願を聞く代わりに求めたのだ、こちら側になることを。

「あなたなら・・・きっと・・・あのひとを・・・守ると・・・・」

丘の上の光景が消え、ダンブルドアの校長室にいた。セブルスは恐ろしいうめき声をあげ、ぐったりと前かがみになって椅子に腰かけていた。
ダンブルドアは立ったまま、暗い顔でその姿を見降ろしていた。やがてセブルスが顔をあげ、悲痛な声をあげる。

「あの人を・・・守ると思った・・・・」

「リリーもジェームズも、間違った人間を信頼してしまったのじゃ。おまえも同じじゃな、セブルス。ヴォルデモート卿がリリーを見逃すと期待しておったのではないかな?」

セブルスは苦しそうな息遣いだ。

「リリーの子は、生き残っておる・・・リリーの息子は、彼女の目を持っている。そっくり同じ目だ。リリー・エバンズの目の形も色も、おまえは覚えておるじゃろうな?」

「やめてくれ!」

セブルスが大声をあげる。そして、苦しそうにもう、死んでしまったと呟いた。

「後悔か?セブルス」

「・・・彼女と約束したんだ・・・・リリーを・・・親友を守ってほしいと・・・」

「ふむ、君が闇の陣営に入った理由も知っておるわい。じゃが、君はいつでも抜け出せたはずじゃ、彼女を連れて・・・・違うな?」

「・・・・そのとおりです・・・」

「じゃが、君は闇の陣営を抜けることなく、今までこうして生きてきた。じゃが、それは最愛の妻と息子を守るためじゃったかのう」

その時、大きな音を立てて大きなおなかを抱えた女性が校長室へ駆け込んできた。それがアリスだとわかり、セブルスは顔を上げ、彼女の元へと駆け寄った。

「アリス・・・からだは、平気なのか・・・!呪いで、三日三晩寝込んでいたんじゃ・・・」

「えぇ・・・そうよセブルス・・・わたしが、寝込んでいる間に、リリーが・・・リリー達が死んだって聞いて・・・・わたし、いてもたってもいられなくなって・・・・」

息も絶え絶えのアリスは、ゆっくりとソファに下ろされた。息を整え、ダンブルドアを見上げると、彼は優しく微笑んだ。

「君が無事でよかったと思う、君はヴォルデモート卿の秘密を知る一人じゃからのう・・・何かあれば、君は命を奪われたじゃろう」

「・・・先生・・・・わたしっ・・・・親友も・・・・救えなかったの・・・・ったった一人の、親友をっ・・・・・!」

泣き崩れる彼女の肩を、ダンブルドアはそっと抱きしめた。

「君はがんばった、がんばっておなかの子を守ったのじゃ。リリーの息子も、きっときみの息子も同じホグワーツに通うこととなるじゃろう」

セブルスは愛する妻の親友を死なせてしまったのも自分のせいだったと攻め立てた。あの時、あの方に言わなければよかったのだ・・・しかし、あの時言っていなければ、こうしてアリスとおなかの子を見守ることもできなかっただろう。
世の中とは残酷なものだ。嗚咽を漏らすアリスに、セブルスは何の言葉もかけてやることができなかった。

そして、セブルスはダンブルドアととある約束をした。闇の帝王が戻ってきたとき、そのときはハリーを守ると、かわりに、このことはここだけの秘密にしてほしいと。

場面はふたたび変わった。ここは名前がうまれ、育った家だ。まだ3歳ぐらいであろう名前はよちよちと部屋を歩いていた。手には重たそうな魔法薬学の本がにぎられている。

「父上が、これを、誕生日にくださいました」

「まぁ・・・こんなに難しい本を3歳児に普通あたえるかしら?」

「いいんだ、早ければ早いほうがいい」

「あらあら、うちのお父さんはスパルタなのね」

そう笑う一家は実に幸せそうだった。先ほどのことがまるでなかったかのように、アリスは息子である名前に微笑みかけていた。
日が暮れ、名前が寝静まった頃、居間ではアリスとセブルスがなにやら小声で会話をしていた。まるで、息子に聞かれないように、と。

「セブルス・・・ねぇ、最近わたし、おかしくはない?だいじょうぶ?」

「何を急に・・・」

「呪いの進行がね、早まったの」

その言葉にセブルスは頭がまっしろになった。時の流れとは残酷で、着実にアリスを死へ導いていたのだ。

「レーガン家の呪いは消えることは無いわ・・・何世代にも、続いていく・・・そして、一族が途絶えるまで、続くのよ・・・」

「・・・アリス・・・」

「うふふ、こんなに、しあわせなのに、どうしてかしらね、涙が出てくるの」

嗚咽を漏らすアリスの体を、セブルスは強く抱きしめた。
この時からアリスは痩せ細っていったのだろう。次の場面は、名前が一番見たくなかったであろう、アリスの最期の姿だった。腕はガリガリにやせ細り、顔の筋がくっきりと浮かんでいた。譫言のように死にたい、と呟かれる言葉にセブルスは涙を流した。
名前がベッドの脇で母の名を叫んでいる。その叫び声がどんどん離れていくと、いくらか成長した名前が現われた。
一人部屋には大量の本があり、インクの瓶が棚につみあげられている。

ベッドの脇には、家族3人で旅行をしたときにとった写真が飾られていた。
ベッドの上で、ふとんに埋もれるようにしている自分の姿を、名前はこれ以上みていたくなかった。

8歳の名前は、必死に声を押し殺していた。このとき、まだ母の死から立ち直れていなかった名前は、よくこうして泣いていたものだ。
だが、けして父親にみられるようなことはしなかった。これ以上父親の迷惑にはなりたくなかったからだ。名前は知っていたのだ、何故、父親がしごとに没頭するようになったかを。

だから、これ以上父親に負担をかけないように、泣くときは声がもれないよう、部屋の鍵をしっかりとしめてベッドに顔をおしつけて声を押し殺しながらないていたのだ。
セブルスは部屋の鍵をうっかりと閉め忘れた名前の部屋を通り過ぎたときに、それを見てしまったのだ。

手がドアノブにかかったが、すぐさまそれはひっこめられてしまった。そして、来る日も来る日も、その腕がドアノブを引くことはなかった。
そして一人部屋で呟くのだ、どうして、声をかけてやれないのだと。

場面が校長室になった。セブルスがダンブルドアの前を往ったり来たりしている。

「・・・凡庸、父親と同じく傲慢、規則破りの常習犯、有名であることをはなにかけ、目立ちたがりで、生意気で・・・」

「セブルス、そう思って見るからそう見えるんじゃよ」

ダンブルドアは変身現代という本から目をはなさず言った。

「ほかの先生方の報告では、あの子は控えめで人に好かれるし、ある程度の能力もある。わし個人としては、なかなか人を惹きつける子じゃと思うがのう」

「クィレルから目を離すでないぞ、よいな?」

「・・・はい」

今度は読んでいた本を置き、セブルスに向きなおった。

「あ、そうそう、わしはこんな話を聞いたがのう。君の息子、名前とハリーは友達だとか。彼らを見ていると、アリスとリリーを思い出すのう・・・」

ダンブルドアの眼は、どこか遠くを見ていた。

「・・・確かに、あの二人は親友同士でしたが・・・・」

「なんじゃ、名前がハリーと仲良くするのを気に食わんのか?」

「気に食わないとか、そういう問題ではありません、息子がポッターの真似をしたらどうするんです」

「なに、そんなこと問題ではないじゃろう。名前はアリスに似ておるのう、寮隔てなく友人関係を築けるようじゃ。組み分けとは少し急速すぎるのかもしれんのう・・・」

「何を言っているんです、我輩の息子はスリザリンに決まっています」

「それは、君の目の下に彼がいることによって、安心するからじゃな?」

「・・・失礼します」

色が渦巻き、こんどはすべてが暗くなった。セブルスとダンブルドアは玄関ホールですこし離れて立っていた。クリスマス・ダンスパーティの最後の門限やぶりたちが、二人の前を通り過ぎて寮にもどった。

「どうじゃな?」

「カルカロフの腕の刻印も濃くなってきました。あいつは慌てふためいています。制裁を恐れています。闇の帝王が凋落した後、あいつがどれほど魔法省の役に立ったか、ご存じでしょう」

セブルスは横を向いて、ダンブルドアの横顔を見た。

「カルカロフはもし刻印が熱くなったら、逃亡するつもりです」

「そうかの?」

ダンブルドアは静かに続ける。

「きみも一緒に逃亡したいのかな」

「いいえ、わたしはそんな臆病者ではない。それに、大切な息子がいる・・・今、むすこの左腕には、忌々しい印がつけられている・・・」

名前は不意に、自分のかつての左腕をみた。

「・・・そうじゃろうな、名前は君同様、きけんな立場に立たされるじゃろう。あの者が目をつけておるのじゃから・・・」

「校長は、何かご存じなのでは?」

「ふむ・・・これの答えを出してしまうには、ちと材料が少なすぎるのでな、じゃが、君とアリスの結晶でもある名前と、リリーが遺したハリーを君は守らなくてならないことには変わりない。あやつが名前に一体何をさせようとしておるのか、とても心配じゃ」

そして次に、ふたりは校長室にたっていた。夜のようで、あたりはしずまりかえっていた。
ダンブルドアは椅子にぐったりともたれかかり、黒く焼け焦げた右手が椅子の横にだらりと垂れている。セブルスは杖をダンブルドアの手首にむけて呪文をとな えながら、左手で金色の濃い薬をなみなみと満たしたゴブレットをかたむけ、ダンブルドアの喉に流し込んでいった。すると、みるみるうちにダンブルドアは生 気を取り戻し、重たい瞼をひらいた。
あの割れている指輪を名前は過去に見たことがあった。そうだ、あれはフィガモネット・S・レーガンがゴーントの者に貸してくれないか、と頼んでいた指輪だ。

「なぜその指輪をはめたのです・・・それには呪いがかかっている。当然ご存じだったでしょう。なぜふれたりしたのですか」

「わしは・・・愚かじゃった。いたく、そそられてしもうた・・・」

「ここまで戻ってこれたのは奇跡です!」

ダンブルドアは、指輪を破壊するだけでよかったのもかかわらず、指にはめてしまったのだ。なんとなく、名前にはそれをはめてしまった理由がわかった。
そして、ダンブルドアはおそらく一年しか生きることができないとセブルスに言われてしまった。まるで、レーガン家の呪いのようだ、頭の中でレーガン家のことがぐるぐると渦を巻いていく。

「指輪を割れば、呪も破れると思ったのですか?」

「そんなようなものじゃ・・・わしは熱に浮かされておったのじゃ、まぎれもなく」

力を振り絞って椅子に座りなおすと、ダンブルドアはつづけていった。

「わしがいうておるのは、ヴォルデモート卿がわしの周りに巡らしておる計画のことじゃ。哀れなマルフォイ少年に、わしを殺させるという計画じゃ」

・・・ドラコは無事だろうか。ふと、親友の姿が目に浮かんだ。そうだ、彼がまだ囚われていたではないか。彼を助けずに死のうなんて、なんて馬鹿なことを・・・
あの一家は無事だろうか、どうか、無事でありますように―――だが、自分がここにこうしていられるのもスティンギーが命をかけて助けに来てくれたおかげ だ。僕の監視役でもあったMrsナルシッサはただでは済まされていないだろう。あの男が、見せしめに磔の呪でもかけたに違いない。
ぞぞぞ、と背筋に嫌な汗が流れる。

「闇の帝王はドラコが成功するとは期待してはいません。これは、ルシウスが先ほど失敗したことへの懲罰にすぎないのです。ドラコの両親は、息子が失敗し、その代償を払うのを見てじわじわと苦しむ・・・」

「つまり、あの子はわしと同じように確実な死の宣告を受けているということじゃな」

そもそも、ドラコにダンブルドアを殺させる提案を出したのはオリオンだ。今や亡きオリオンだが、名前は彼が本当に消滅していないのではないかと危惧していた。もし、彼が生きていたとしたら立場は逆転するだろう。今度こそ、僕が僕でなくなってしまう。

「君は全力でホグワーツの生徒たちを守と約束してくれるじゃろうな?」

セブルスは短く頷いた。

「よろしい。さてと、きみにとってはドラコが何をしようとしているのかを見つけ出すことが最優先課題じゃ。恐怖に駆られた10代の少年は、自分の身を危険 にさらすばかりか、他人にまで危害を及ぼす。手助けし、導いてやるとドラコに言うがよい。受け入れるはずじゃ、あの子はきみをすいておる」

「―――そうでもありません。父親の寵愛を失ってからは、ドラコが私を責めています。それに、親友であった名前までも・・・。ルシウスの座を奪ったと」

「ふむ・・・彼は名前がキリクを蘇らせる為の人柱であることを知らぬからの・・・じゃが、これはまだ知らないほうがいいかもしれん。ヴォルデモート卿に つき従うあの男を、わしはヴォルデモート卿のつぎにおそれておる。あやつは、常に残酷な命令を死喰い人たちにくだしておった。ヴォルデモート卿が失脚した ときですら、闇祓い達はあやつを捕まえることも、見ることすらもできんかった。このことに関しては、クライヴは何もわしに話してくれんのじゃ。恐らく、彼 はあやつが何者であるかを確実に掴んでおる。あやつは自分がどうにかする、と呟いておったわい・・・つまり、あの者はレーガン家の者ということになるの う」

「校長・・・それは、本当ですか・・・!」

確かにこのとき、ドラコが真実を知っていなくてよかったと思う。このとき彼がその事実を知ったら、今度こそ彼は精神崩壊してしまっていただろう。
改めてオリオンの残忍さを思い知った。あの男はさまざまな策略をめぐりあて、その中でも最も最悪な方法を選びぬいていたのだ。

あの男は純粋に母親とまた会いたかっただけなのだ。純粋な願い故、彼は恐ろしいと思う。

そしてダンブルドアは、最悪の場合ドラコのかわりに自分を殺してほしい、とセブルスに頼んだ。
長い沈黙のあと、コツコツという奇妙なおとがきこえてきた。フォークスがイカの甲を啄んでいる音だ。

その後、ハリーに幾晩もヴォルデモート関係の記憶をみせていたという話になり、ヴォルデモート卿の魂の一部が、ハリーのなかにあることを明かした。

「するとあの子は・・・死なねばならぬと?」

「しかもセブルス、ヴォルデモート自身がそれをせねばならぬ。それが肝心なのじゃ。」

再び長い沈黙ののち、セブルスが口をひらく。

「わたしは・・・この長い年月、我々が彼女のために、あの子を守っているとおもっていた。リリーと、アリスのために」

「わしらがあの子を守ってきたのは、あの子に教え、育み、自分の力を試させるのが大切だったからじゃ」

目を固く閉じたままダンブルドアがいう。

「そのあいだ、あの二人の結びつきは、ますます強くなっていった。寄生体の成長じゃ。わしはそのときどき、ハリー自身がそれにうすうす気づいているのでは ないかと思うた。わしに見込どおりのハリーなら、いよいよ自分の死に向かって歩みだすそのときには、それがまさにヴォルデモートの最期となるように、取り 計らっているはずじゃ」

セブルスは酷く衝撃を受けたのか、ダンブルドアを驚いた表情で見た。

「あなたは、死ぬべき時に死ぬことができるようにと、いままでかれを生かしてきたのですか?」

「そう驚くでない、セブルス。いままで、それこそ何人の男や女がしぬのをみてきたのじゃ?」

「最近は私が救えなかった者だけです・・・あなたは、わたしを利用した」

「はて?」

「あなたのために、私は密偵になり、嘘をつき、あなたのために死ぬほど危険な立場に身を置いた。すべてが、リリー・ポッターの息子を安全に守るためのはずだった。いまあなたは、その息子を――」

「なんと、セブルス、感激的なことよ。結局あのこに情が移ったというのか?」

「彼に?」

セブルスが叫んだ。
するとセブルスは守護霊の呪文を唱えた。杖先からは銀色の牡鹿が飛び出した。それは校長室のゆかにおりてひとっ飛びで部屋を横切り、窓から姿を消した。
ダンブルドアは牡鹿が飛び去るのを見つめ、その銀色の光が薄れたとき、セブルスに向きなおり涙を流した。

「これほどの年月がたってもか?」

「永久に」

この言葉がどんな重みを含んでいるのか、名前は自分が泣いていることに気がついた。
そう、父上はかつて愛したリリーを、母上が愛していたリリーを、まだ、忘れてはいなかったのだ。リリーを守ることは、後先長くはなかったアリスの願いでもあったのだから。
ダンブルドアは名前が屋敷に閉じ込められていたときに起こった事を明らかにした。偽物のハリーを複数用意し、逃亡する、と。
それをマンダンガス自身が提案したものと思わせるために、マンダンガスに錯乱の呪文まで使ったのだ。
だが、ハリーが家を出る時間と時刻を正確にヴォルデモートに伝えろという。でないと、セブルスが疑われ、その後ホグワーツを守れなくなってしまうからだ。