69 それこそが、真実/死の秘宝

話は次々に進み、ペチュニアがリリーに届いた手紙を盗み見て、ダンブルドアに自分も入学させてほしいと手紙を送ったのだ。
だが、期待通りの返事をもらえなかったペチュニアは、リリーを妬んだ。深い溝ができてしまったことに、リリーは酷く悲しんだ。それを知る由もない両親は、リリーをプラットホームで満面な笑みをして見送った。
去る間際に吐かれた、生まれそこない、の言葉に名前もハリーも心を痛めた。

ホグワーツ特急でセブルスとリリーが同じコンパートメントに座っている。相席に騒がしい男子学生の姿が目に入った。彼らはおそらく、ジェームズとシリウスだ。
リリーはペチュニアが自分を恨んでいる、だから、あなたとは話がしたくない―――と悲痛そうに声をあげる。

「だけど、僕たちは行くんだ!とうとうだ!僕たちはホグワーツに行くんだ!」

リリーは涙をぬぐいながら頷き、思わず小さくほほ笑んだ。

「きみは、スリザリンにはいったほうがいい」

彼女が少し明るくなったのを見計らってセブルスが言う。

「スリザリン?」

今まで二人に何の興味関心ももたなかった少年の一人、ジェームズが声を上げる。

「スリザリンになんか誰が入るか!むしろ退学するよ、そうだろう?」

「俺の家族は、全員スリザリンだった―――たぶん、俺が伝統を破るだろう、君は選べるとしたらどこに行く?」

シリウスがその整った顔でにやりと笑う。

「グリフィンドール、勇気ある者が住まう寮!僕の父さんのように」

セブルスはそれを聞いて小さく鼻で笑う。それを聞き逃さなかったのか、ジェームズはセブルスに向き直り睨みつけた。

「文句があるのか?」

「いや」

言葉とは裏腹に、セブルスは微かに嘲笑っていた。このときから彼らは仲が悪かったのか。名前は始まりの物語を目の当たりにしたような気がした。

「きみが、頭脳はより肉体派がいいならね」

「きみはどこに行きたいんだ?どっちでもないようだけど」

シリウスが口をはさむ。それにジェームズは爆笑している。リリーはかなり赤くなってすわり直し、侮蔑の目でジェームズとシリウスの顔をみた。

「セブルス、行きましょう、別なコンパートメントに」

「オォォォォ…」

ジェームズとシリウスがリリーのつんとした声を真似る。ジェームズはセブルスが通るとき、足を引っ掛けようとした

「またな、スニベルス!」

コンパートメントの扉がバタンと音を立てて閉まった。そして、場面はすぐに変わる。
今度は組み分けで、リリーがグリフィンドール、セブルスがスリザリンに組み分けをされたところだった。セブルスは思いもよらぬ組み分けに、悔しさで唇の端をかんだ。
リリーの顔には悲しげな微笑が浮かんでいた。セブルスの少し離れた所に、色素の薄い茶色の髪をした少女を見つけた。少女はおそらく、名前の母、アリスだろう。まだセブルスのことを知らないのか、隣の男子生徒に話しかけられていた。
アリスはその少年を煙たがっているのか、整った顔にうっすらをしわを寄せていた。セブルスの隣にはルシウス・マルフォイが座っていて、セブルスの背中を軽く叩いた。

アリスの隣に座っていた少年が何やら騒ぎ始めた。そう、あまりにもしつこくしてくるのでアリスに脇腹をつよくつままれてしまったのだ。涙目になる少年を無視し、アリスは別の席へと移動した。
まわりの生徒たちはあのレーガン家の子がスリザリンにやってきたと騒ぎ立てている。静かな席といえば、旧家であるマルフォイ家の長男が座っているせきのまわりだけだ。よくしつけられているのか、ルシウスの周りの生徒たちはアリスがやってきたことを静かに歓迎した。

セブルスは先ほどの組みわけのショックから立ち直っていないようで、静かにスープを啜っていた。

「やぁ、ひさしぶりだな、アリス・・・君もやはりスリザリンだったか。家では君の組みわけの話題でいっぱいだったよ」

「・・・ひさしぶりですね、ルシウス先輩」

「おやおや、家の時のようにルシウスと呼んでもかまわないんだぞ?」

「いいえ、学校ですので」

淡々とこたえるアリスの姿に、ああ、これは明らかに嫌がっているときの対応だ、と感じた。
母は興味のないことにはとことん興味のない、ドライな性格だった。

「スリザリンにしろ、グリフィンドールにしろ、どんな組み分けにしろ関係無いとおもいますけれども?要は結果だと思います」

「流石はレーガン家の者だ・・・そうだな、それは確かな事だ。君の活躍を健闘しよう」

「ありがとうございます」

優雅にグラスに口づけるその姿は、誰からみても魅力的な姿だった。
食事の時が流れ、デザートが現れた時、突然アリスがセブルスに話しかけた。まさか自分が話しかけられるとは思わず、セブルスは皿に盛っていたパインを落とすところだった。

「あなた、さっきからずっとリリー・エバンズを見ているけれども、お友達なの?」

「・・・い、いや、それは…」

仮にもグリフィンドールの者がレーガン家のご令嬢に友達です、なんて言えるはずもなく、セブルスは口ごもった。

「彼女、組みわけの列に並んでいるときわたしに話しかけてきたのよ」

「・・・」

「で、すぐにわかったの、彼女がマグル生まれだってことをね。わたし、マグルの子と話すのは生まれて初めてだったから、何を話していいかわからなかったわ」

どくんどくんと脈打つのがわかる。どうしよう、もしリリーが彼女に嫌われていたとすれば、今後さらに彼女と接しにくくなってしまう。どうしたらいいのだろうか。セブルスの表情からはそれがうかがえた。

「あのこ、とてもいい子だわ。家に妹が一人いるって言ってたわ」

セブルスはまさかの反応に、どう対応していいかわからず、視線をおよがせた。

「あの子と友達なんでしょう?グリフィンドールだからって何よ。今まで通り、接すればいいのよ。それにきっと、あの子すごく頭がいいわよ。よきライバルになりそうだわ・・・」

そういうアリスはどこか楽しそうだった。
アリスは今まで、自分と対等に接してくれる友達がいなかったので、リリーのような子と知り合えたのは本当によかった、と心の底から喜んでいる。
とたんに肩の力が抜け、口からは小さな息がこぼれた。

「うふふ、あなたも不安だったんでしょう?まぁ仕方がないわよ、ホグワーツってこんな所だからね。」

そう微笑んでいると、先ほど脇腹をつままれた少年が悔しそうにセブルスを睨んでいるのをみつけた。それをみてアリスはちいさな声で、あれは元婚約者なのよ、とセブルスにおしえた。
純血の魔法使いの家庭ではよくある話だ。

「あのひと大嫌い、デリカシーがないんですもの。だからお父様にいったの、あんな男と結婚するなんて御免だわって。」

嫉妬の眼差しを受けているセブルスはただ頷くことしかできなかった。
だが、アリスのことは好感がもてる人だと感じたのは確かだ。

場面は再び変わり、リリーとセブルスが城の中庭を歩いているところだった。明らかに議論している様子で、リリーは声をあげた。
ふたりは先ほどの場面の頃よりも随分背がのびていたので、おそらくあれから数年後、といったところだろう。

「僕たちは友達じゃなかったのか?親友だろう?」

「そうよ、セブ。でも、あなたが付き合っている人たちの何人かが嫌いなの!もちろん、アリスは別よ。悪いけど、エイブリーとかマルシベールとかマルシベー ルとか!セブ、あのひとのどこがいいの?あの人、ぞっとするわ!このあいだ、あのひとがメリー・マクドナルドに何をしようとしたか、あなた知ってる?」

リリーは柱に寄りかかり、セブルスの顔を覗き込んだ。

「あんなこと、何でもない――――冗談だよ、それだけだ」

「あれは闇の魔術よ、あなたが、あれがただの冗談だなんて思うのなら―――」

「ポッターと仲間がやっていることはどうなんだ?」

セブルスが切り返した。憤りを抑えられない様子で、頭に随分と血がのぼっているようだ。

「ポッターと、何のかんけいがあるの?」

「夜こっそり出歩いている、ルーピンてやつ、何だか怪しい。あいつはいった、いつもどこに行くんだ?」

「あのひとは病人よ、病気だってみんながいってるわ」

名前はこれがかの有名なセブルス殺害未遂が起こった時の話だと察した。ハリーも何か知っているらしく、顔をくもらせた。

「毎日、満月のときに?」

「あなたが何を考えているかは、わかっているわ。どうしてあのひとたちにそんなにこだわるの?あのひとたちが夜に何をしているかが、なぜ気になるの?」

「僕はただ、あの連中はみんなが思っている程すばらしいわけじゃないって、きみに教えようとしているだけだ」

セブルスの眼差しの激しさにリリーは頬を赤らめる。

「でも、あのひとたちは闇の魔術を使わないわ。あなたはとても恩しらずよ、この間の晩、何があったか、きいたわ。あなたは暴れ柳のそばのトンネルをこっそり降りて行って、そこで何かあったかは知らないけれども、ジェームズ・ポッターがあなたを救ったって…」

すると、セブルスの顔が大きく歪み、吐き捨てるように言う。

「救った?救っただと?きみはあいつが英雄だと思っているのか?あいつは自分自身と自分のなかまをすくっただけだ!きみは絶対にあいつに―――僕が君に許さない」

「わたしになにを許さないの?なにをゆるさないの?」

リリーの明るい緑の目が細い線になる。すかさずセブルスは言い返す。

「そういうつもりじゃ―――ただ僕は、きみが騙されるのをみたくない・・・あいつは、きみに気がある、ジェームズ・ポッターは、きみのことが好きなんだ!」

投げ捨てるように次々に吐き出される言葉にリリーは一喝する。でも、エイブリーたちがやっていることは邪悪そのものだ、と吐き捨てた。
だが、リリーがジェームズをけなしたとき、セブルスは明らかに嬉しそうだった。
この時はまだアリスと結ばれていなかったのだろう、ならば、一体いつからあの二人はつきあいはじめたというのだろうか。それに、ハリーの母親と名前の母親が仲良しであったことを知ったふたりは、更に複雑そうな表情になる。
名前はセブルスがリリーに向かってあの言葉を吐いたのをたしかにきいた。リリーはジェームズ達からセブルスを擁護してくれたというのに、セブルスはあの言葉をよりによって彼女に吐いたのだ。
あの言葉がどんなに最悪な言葉かということを、セブルスは知っていたはずだ。きっと、まわりの環境がセブルスをそうさせたのだろう。

「許してくれ」

「聞きたくない」

「許してくれ!」

「言うだけ無駄よ、メリーが、あなたがここで夜明かしすると脅しているっていうから、来ただけよ」

場面は夜になり、リリーは部屋着で太った婦人の肖像画の前で腕組をしていた。

「そのとおりだ。そうしたかもしれない。決してきみを「穢れた血」と呼ぶつもりはなかった。ただ・・・」

「口が滑ったって?もう遅いわ。わたしは何年もあなたのことを庇ってきた。わたしがあなたと口をきくことさえ、どうしてなのか、わたしの友達は誰も理解で きないのよ。あなたと大切な死喰い人のお友達のこと・・・ほら、あなたは否定もしない!あなたたち全員がそれになろうとしていることを、否定もしない!例 のあの人の一味になるのが待ち遠しいでしょうね?」

それは、リリーとセブルスが決別をした瞬間だった。

「わたしにはもう、自分に嘘をつけないわ。あなたはあなたの道を選んだし、わたしはわたしの道をえらんだのよ」

「お願いだ―――聞いてくれ。僕は決して・・・」

「―――わたしを穢れた血と呼ぶつもりはなかった?でも、セブルス、あなたはわたしと同じ生まれの人全部をそう呼んでいるわ。どうして、わたしだけが違うと言えるの?」

セブルスは何かいおうともがいていた。しかし、リリーは軽蔑した眼差しでセブルスに背を向け、寮へと戻っていく。リリーに差し伸べた手が虚しく空をきる。
朝がやってきて、セブルスは物陰からリリーをみていた。そのとき、ナルシッサと楽しく話をしているアリスが通りかかった。ナルシッサはリリーを見るなり不愉快そうな顔をしたが、アリスは嬉しそうにリリーに駆け寄った。

「先輩、先にいっててください」

「あら・・・じゃあ、またね、アリス」

グリフィンドール生達が一生見ないであろう天使のような笑みを浮かべて去っていくナルシッサ。アリスはブラック家から気に入られているのだ。

「リリー、おはよう、何だか今日は元気ないのね?」

「おはようアリス・・・」

「思いつめてるのね・・・セブルスと何かあったの?」

何故それを知っているのだ、とふたりはとっさに考えた。何もかもを見透かしているかのような目線に、リリーはアリスの顔をまっすぐみることができなかった。気を利かしてアリスが人気のない場所へ移動した。もちろん、セブルスもこっそりあとをついていった。

「セブルスがあなたの目の前であの言葉を吐くとは思わなかったわ」

「・・・見ていたの?」

「えぇ、遠くからね。だって、あんなに声が大きいんですもの、嫌でも聞こえてくるわ。そんなに気を落とさないでね、セブルスみたいな子がスリザリンでやっていくのは大変なことなのよ」

「セブルス・・・が、大変?あんなにあのひとたちと仲がいいのに?」

あの人たち、とは死喰い人たちのことだろう。

「あのね、リリーは知らないでしょうけれども、この事を知っているのは私ぐらいじゃないかしら。セブルスは、私たちで言う純血ではないの。」

その言葉にリリーは耳を疑った。セブルスは心臓が飛び出てしまうのではないかというほど、その発言に驚いていた。何故、彼女がそのことを知っているのだ、と。

「・・・混血とマグルはいい風に見られていないわ。実際、スリザリン生は純血主義者だから。そうやって血にこだわっているから、ろくなことが起きないんだけれども・・・」

アリスは苦笑する。

「セブルスはお母様が純血な魔女で、お父様がマグルなの。このこと、絶対に秘密にしててあげてね?じゃないと彼、スリザリンでやっていけなくなってしまうから」

「えぇ・・・わかったわ。でも、あの人の友人がやってることは許せないわ!何故、わたしだけ特別だって言うの?わたしだって彼女たちと変わらないマグルなのよ!」

その言葉にアリスは小さなため息を吐いた。そうか、彼女はまだ気がついていなかったのね、セブルスの気持ちに。

「セブルスは、あなたのことを大切に思っているのよ。彼、不器用だからそれをなかなか伝えられなかったようだけれども。知ってた?彼、あなたのこと、いつも見てるのよ、そりゃぁもうストーカーって程にね」

母上、それは冗談で言ったのでしょうが、全然冗談に聞こえません・・・

「でも、穢れた血っていうのは酷いわね。わたしも純血な家系だけれども、その言葉、本当に大嫌い。まぁ、まったくもってわからないってことはないんだけれどもね」

「・・・ありがとう、アリス。わたし、ほんとうにあなたのこと大好きよ!」

「あらあら、セブルスに嫉妬されちゃうわ」

本当にこの二人は仲が良かったんだな。本当に楽しそうに笑うアリスを見て、名前は心が温かくなっていくのがわかった。

「そうそう、リリー、あなた、ポッターに気があるって本当?」

「え・・・な、なんでそれを・・・っ」

「うふふ、見ていればわかるわ。あの人も、あなたの事を随分好いているようだし」

「もう・・・アリスは何もかもお見通しなのね、開心術でも使ってるの?」

「開心術とはまたちがうものよ、うちの家系で極たまに継がれる力のようなものかしら?」

それが、キリクの言っていた特技とおなじものであることを名前は察した。そうか、母親も同じ力を使えたのか。

「何をしていても、人の心の声が聞こえてくるのよ、ほんとに地獄なんだから、これ」

「・・・そう、厄介な力ね」

「ええ、本当に!でも、もう慣れたわ。」

そう笑ってみせるアリスに、リリーは笑い返した。母がどれほどその力を受け継いでいたかわからなかったが、笑っていられるほど楽だと感じられる力には到底思えない。それは名前自身が一番わかっていた。
母はこの時から呪いに蝕まれていたのだ。

「・・・アリスの、好きな人は・・・誰なの?」

リリーが年頃の少女のような笑みを浮かべてアリスに聞く。

「そうね、わたしにそれが許されるかわからないから・・・だから、絶対に好きな人を作る予定はないわ。」

純血の家柄とはそういうものだ。結局は親が決めた婚約者が用意されているのだから。リリーにはそれをよくわかっていなかった。

「私の知っている噂だと、セブルスと・・・って聞いたけど」

「あはは!セブルスね!確かに、よく一緒にいるからそう思われてもおかしくないわね。確かに、あの人と一緒にいるととても落ち着くの。何より、余計な気を使わなくて済むから」

そう笑いながら言うアリスの表情はどこか儚げだった。

「・・・わたしね、レギュラスとの婚約が決まったのよ。ついこの間、お父様から聞かされたばかりなの・・・今度こそ我儘は通らないかもしれない。だから、そんな感情を抱くのは無駄なことだって思ってるの」

「・・・アリス」

「わたしね、あなたが時々とっても羨ましく思うの、今だって―――ごめんなさい、また、ね」

アリスが去る間際、リリーは確かに見た。彼女の頬から流れ落ちるそれを。

アリスはこのときから、セブルスに片思いをしていたのだ。だが、家の者は勝手に婚約者を決めてしまった。それはよりによってブラック家の者だ。これを断るのはいくらレーガン家でも勇気がいるだろう。名前はアリスの心を察し、胸を痛めた。
だが、レギュラスと結婚していれば今頃名前は生れていなかったはずだ。ならば、どうやって二人は結ばれたというのだろうか・・・。