54 それこそが、真実/謎のプリンス

はあ…はあ…

どれくらい走っただろうか。

『アルバス…平気か?』

答えは返ってこなかった。
相当よろしくない状況なのか…

「――――アルバス!」

「…クライヴか……」

「おいっ……腕が―――――!」

「・・・フォッフォッフォ、どうやら油断していたようじゃ…」

「んな呑気に笑ってる暇はねぇ…こっちは片付いた、逃げるぞっ」

しかし次の瞬間、何かがクライヴを襲った。

「ぐっあああああああああああああああああああああああ!!」

「…朝か」

朝5時には必ず目覚めてしまう。
いかに徹夜しようとも…

それぐらい、最近眠りが浅くなってきているという証拠。ずいぶん年寄りみたいな生活をしているんだな、と朝からため息を吐いた。

「もうじき新学期か…」

名前は鏡を見た。
顔色は少しよくなったほうだろうか…しかしまだ魔法をちゃんと使うことができない
でも、こんなのあの左目の痛みなどに比べたら…

「っぐ―――っ」

左腕は相変わらず痛かった。
ヴォルデモート卿が夏の間に何度も名前を呼んでいたのは知っている。そのたびにセブルスが理由をつけていたのも知っている。

ブラック姉妹がやってくる数日前、名前とセブルスは呼ばれた。もしかしてクライヴのことを聞かれるのかと思いきや、そうではないみたいで。ダンブルドアやハリーの様子を聞きたかっただけのようだ。

恐らく、クライヴの話は極力持ち出さないほうがよいのだろう。以前、ピーターもといワームテールがその話題を持ち出したことがあった。彼は勿論、クルーシオをかけられ(もちろん加減はされていたようだが)、それ以来主人に近づくことを許されないワームテールは今この家の厄介になっているという始末。

「…友は・・・・・・いつまでたっても…友、か」

忘れられるはずがないだろうな。
クライヴの記憶を覗かせてもらったことがあったが、本当に学生時代、あの二人は仲が良かった。
まるで自分とドラコのようで――――

だんなに楽しそうに笑っていた二人が、ああいう結末になってしまうとは。神とはずいぶん残酷な存在なのだな。

「…さて、家を出るか」

まだ2週間はあるが、ドラコとナルシッサが心配なので一足早くマルフォイ家に向かうことにした。
父上は今頃学校で新学期の準備をあわただしくしている頃だろう。

「おぼっちゃま…」

「スティンギー…」

扉からやってきたのは昔から世話になっている屋敷僕のスティンギーだった。こちらその大きな眼で心配そうに見ている。

「お坊ちゃま・・・・スティンギーめは心配でなりません、お坊ちゃま…どうか無理をなさらないでください……スティンギーめがお坊ちゃまのためにできる限りのことはいたします…だから・・・」

「―――スティンギー…」

「世間は皆、お坊ちゃまの味方でございます…」

「…なら、いいが…。」

「お坊ちゃまには高貴なるレーガン家の血が流れております…きっと、その血がお坊ちゃまを救ってくださいます」

…レーガン家の血、か―――
僕は結局、この血に縛りつけられているような気がする―――――そしてクライヴも…

普段使わない暖炉からマルフォイ家に向かうことにした。

「…マルフォイ家」

緑色の炎が名前を包むと、あっという間にマルフォイ家に到着した。
マルフォイ家は不気味な静けさに包まれている……マルフォイ婦人はきっと、部屋で泣いているのだろう。部屋に飾られている美しい薔薇が静かな部屋を余計に虚しくさせる。

「…名前?」

まだ寝巻き姿のドラコが姿を現した。が、そこには少しやつれた親友の姿が見える。

「―――ドラコ、元気…そうではないな」

「…あぁ、ちょっとね。それよりも君からうちに来るなんて珍しいな・・・どうしたんだ?」

「……まぁ気まぐれだ。それよりもおいしい紅茶を持ってきたんだ、飲まないか」

そういうとドラコがにっこりと笑った。

「あぁ、是非いただくよ」

ドラコからあの戦いの後、ルシウスがどうなったのかを詳しく聞いた。
そしてその後の家の様子や帝王から受けた任務など…

「…そうか」

「君は手を出すなよ、これは僕が受けた命だ」

「もちろん、出す気はない…だが無茶はするなよ」

「あぁ…わかってるさ。そんなことより君のほうこそ大丈夫なのか?」

「何のことだ?」

「君のその隈がすべてを物語ってるよ…レーガン家の呪か?闇の帝王もおっしゃっていたが・・・」

名前にとってドラコは大切な存在だがドラコにとっても同じだ。日に日に酷くなってゆく目の下の隈。去年はあそこまでひどくなかったのに…

「…君も、無茶をするなよ」

「あぁ……ありがとうな」

僕は、いつまでも君と笑い合っていたいんだ。
―――馬鹿だね、アンタは相変わらず

ははは・・・惚れた?

――――馬鹿クライヴ

俺の窮地を救ってくれたのも結局彼女だった

「…クライヴ、ちと時間をもらってもいいかの?」

「おう、いいぜ」

クライヴはホグワーツに来ていた。

「君に話しておかなくてはならんことがあるんじゃ……その…トムの心は―――」

「まだ生きてる、だろ」

その答えにダンブルドアは目を見開いた。

「…そうか……知っておったのか………知りながらも…君はあの日…」

「あぁ―――知ってたさ。杖を向け合ったとき、あいつの目を見て確信した…」

「――――そうか」

「それに、あいつが言ってたんだ…夢の中にやってきてさ、どうやら俺しかいないらしい」

「…すまんな」

「いいってことよ。わかってたさ…昔、俺がトムを止めていればよかったんだ…」

「…クライヴ」

あの日、そう運命のあの日、奴を止められたのは俺しかいなかった。
だけど……トムを殺すことができなかった。

そして逆に俺が杖に封印され、長い時間眠らざる負えなくなってしまった。
トムが俺を殺さなかった理由は明白だ。

「あ、時にさ…ブラック家の屋敷の話はハリーにしたのか?」

「おお、それは心配無用じゃ」

「…あとはクリーチャーだけが心配だな」

「それも大丈夫じゃ、ちゃんとすべてハリーに相続されておった。今ここホグワーツの屋敷しもべの世話になっておる頃じゃよ」

クライヴは顔をしかめた。

「…ここにいるのか?」

「何も心配することはない、新しい主がきちんと命令しておいたからの」

しかしクライヴの顔色がよくなることはなかった。話が終わり、部屋を出た。

――――もうしばらくここの空気は吸えないんだろうな。
めいいっぱいホグワーツの空気を吸いこみ、思い出に耽った。

「ローブを仕立てに行きますよ」

ナルシッサに言われ、名前とドラコはダイアゴン横町に来ていた。ハリー達と遭遇せず平和に帰りたいものだ…

しかしそんな願いも虚しく、ハリー達とい合わせてしまった。

「母上、何が臭いのか訝っておいででしたら、たったいま、『穢れた血』が入ってきましたよ」

――――はぁ

名前は頭を抱えた。

「そんな言葉は使ってほしくありませんね!」

ローブ掛けの後ろからマダム・マルキンが巻き弱と杖を手に急ぎ足で現れた。

「それに、私の店で杖を引っ張り出すのもお断りです!」

ドアのほうをちらりと見たマダム・マルキンが、慌てて付け加えた。そこにハリーとロンが杖を構えてドラコを狙っているのが見えたからだ。

ハーマイオニーが二人に何かを囁いていた。

「フン、学校の外で魔法を使う勇気なんかないくせに。グレンジャー、目のあざは誰にやられた?そいつらに花でも贈りたいよ」

「いい加減になさい!」

マダム・マルキンは厳しい口調でそういうと振り返って加勢を求めた。

「奥様―――どうか―――」

ローブ掛けの陰から、ナルシッサがゆっくりと現れた。

「それをおしまいなさい」

冷たく言い放つ。
ああ、嫌な予感がしてきたな・・・
名前は静かにその場を見守ることにした。

「仲間の死喰い人を何人か呼んで、僕たちを始末してしまおうというわけか?」

マダム・マルキンは悲鳴を上げ、ソファに座ってこちらを見ている名前に助けを求めた。ナルシッサは負けずに言葉を続ける。

「ダンブルドアのお気に入りだからと思って、どうやら間違った安全感覚をお持ちのようね、ハリー・ポッター。でも、ダンブルドアがいつもそばであなたを護ってくれるわけじゃありませんよ」

ハリーはからかうように店内を見回した。

「ウワーどうだい、ダンブルドアはいまここにいないや!それじゃ、ためしにやってみたらどうだい?アズカバンに二人部屋をみつけてもらえるかもしれないよ、敗北者のご主人さまと一緒にね!」

その言葉がいけなかった。
ハリー達は、ナルシッサやドラコがどういう気持ちでいるのかを知らない。

そして――――名前がどういう気持ちでこの場を見守っていたのかも・・・
「ハリー、お前には見損なった」

どうやら名前がここにいることに気がついていなかったようで、突然目の前に現れた名前に驚いた。

「…お前には人を思いやるという気持ちが…そうだな、少なからずともあるとおもっていた―――」

「ッ君だって、悲しくはないのか!?シリウスが死んだんだぞ!!!こいつらがシリウスを殺したんだ!」

「――――悲しいさ…だが、死んだ者は蘇らない。お前が一番それを理解しているはずだ」

「うるさいっ―――――うるさいうるさいっ!!君は裏切り者だったんだ!シリウスが死ぬように差し向けたんだ!君が――――君が!!」

今度はハリーが名前に飛びかかってきた。
ドラコがこちらにやってこようとしたが、手で制止させた。

「―――君が……君が…」

「憎しみは―――何も生まないぞ、ハリー」

「うるさいっ――――君のような裏切り者に―――――僕の気持なんかわかってたまるか!」

こぶしが名前の頬に入る。その衝撃で眼鏡が吹き飛ぶ。

ドラコとナルシッサの怒りの声が聞こえてくる。
でも今はどうでもいい―――――

「ハリー、お前だけは、闇に飲み込まれてはいけない、母君たちの死を無駄にしてはいけない」

「――――っ君なんかに言われなくとも!」

周りには聞こえない程の小声で言う。

「憎しみで魔法を使うな――――」

悲しい思いをするのは、お前なんだぞハリー
お前がそうやって気を荒げてしまっては、あの人の思うつぼなんだ、早く気づいてくれ。

ハリーはばっと名前からのいた。ナルシッサとドラコが急いでかけよってきた。

「名前、大丈夫か!?」

「あぁ…お願いだから杖をしまってくれドラコ」

「でも――――君がただやられるのを見ていられるほど僕は薄情者じゃない!」

「いいんだ―――いいから、しまえ、ドラコ」

強く促すとしぶしぶ杖をしまってくれた。ナルシッサはメガネを魔法で直し、名前の頬をやさしく撫でた。

「まぁまぁ…腫れているわ・・・・・・・・・・」

そして、強い憎悪を込めた目でハリー達を睨みあげた。結局ローブは別の店で仕立てることになってしまったのだが・・・