47 愛憎ロマンス/アズカバンの囚人

大変な一日だったと思う。気絶したセブルスを目覚めさせた時、わかってはいたがシリウスと一触触発の状態になってしまった。そのおかげで、状況の説明に結構時間がかかったと思う。
あの時叫びの屋敷に残るが自分だったらまだ状況が変わっていたのかもしれない。ピーターを捕らえたのは名前だったので、名前が彼をアルバスと共に魔法省に連行することとなった。連行する前に、一旦、ホグワーツに戻る事となったのだが、とりあえずピーターは名前が城まで運ぶ事となった。叫びの屋敷にリーマス、セブルス、シリウスたちを残して。シリウス・ブラックが犯人ではないと説明しても、まだ疑っているセブルスは、シリウス監視のためその場にとどまり、ハリ―たちはリーマスと共に城に戻ることとなっていた。

それからが大変だった。リーマスが薬を飲む直前でこちらにやってきていたようで、彼は狼人間となってしまった。それを聞かされたのは、全てが終わってからのこと。狼人間となったリーマスから逃れるべくハリーたちは散り散りに森の中に逃げ込んだらしいが、その道中、ホグワーツの周りをうろついているディメンターと遭遇してしまい、シリウスとハリーが彼らにキスをされそうになってしまったらしい。リーマスが薬を飲み忘れてしまったのは、彼がなぜ薬を飲み忘れるようなヘマをしたのかは不明だ。

「さあ、こちらに、コーネリウス」
「アルバス……しかし、本当なのか?シリウス・ブラックは犯人ではないと?」
「証拠も揃っておる、詳しくは中で」

今、ハリーたちは医務室に居て、シリウスは念のため、と縄で繋がれている。そして、その縄を持っているのはセブルスだ。彼は一目散にこの役目に立候補した。ホグワーツの長い廊下を進むと、その部屋はあった。冷たく、重たい扉を開くと、そこには人が一人入れるほどの小さな檻があり、その中にはみすぼらしい姿の男が一人いた。名前が捕らえた、ピーター・ペティグリューだ。檻の中には入れられていないが、すぐ近くには縄で縛り付けられたシリウスの姿がある。不満げな表情を浮かべているが、手配書の写真と比べると随分と表情が和らいだと思う。セブルスに捕らえられていることが、かなり気に食わない様子だったが、我慢してもらわなくてはならない。
部屋の中央にいるピーターと、シリウスを見つけると、大臣はぎょっとしたような表情を浮かべた。

「我々は正直戸惑っておる、まさか、この男が?」
「ええ間違いないでしょう」

冷たい檻の中で、椅子に縛り付けられたピーターは恐怖で全身をガタガタと揺らしながらこちらの様子を伺っている。

「ナイトリー、君が捕らえたと説明を受けている、もし奴が真犯人なのであれば、君を讃えなくては。それに生徒たちも無事だった!」
「いえ、そんな必要はありません、お気持ちだけで嬉しいです……全てはリーマスとセブルスのおかげです、大臣。二人が居たからこそ、私はピーターを捕らえることができました」

その言葉を聞き、セブルスは苦虫を潰したような表情を浮かべた。自分の名前がこんなところで出されてイラッとしたに違いない。まぁ、彼がされたことを思えば、仕方のないこととも言える。あのあと、ハリーたちを助けに行ったのはセブルスで、彼らを医務室に運んだのもセブルスだ。リーマスについては、今夜の間は人狼状態で、今は誰に近づくことができない森の奥深くにいるらしい。アラゴグの子どもたちがわざわざ城までやってきて、教えてくれた。

「しかし、今回、リーマスへの処遇について、ご配慮いただきましてありがとうございます。流石は我が英国の魔法省大臣、寛大なお心遣いに感謝の念に堪えません」

心のそこからお礼を述べると、大臣は気を良くしたのか、まあ頭を上げなさい、と彼は笑った。何もかもが気に食わない様子のセブルスだったが、ファッジがセブルスに向き直ると彼はいつもの表情に戻る。
本来なら脱狼薬を飲み忘れて生徒を遅いかけたとなれば、もっと厳しい処罰が下されていたはずだ。しかし、ポッター夫妻の情報を売り、なんの関係もないマグルたちをあの夜虐殺した真犯人であるピーターを捕らえた功績で、生徒の前では仕事ができないが、外でホグワーツ関係の仕事を続ける許可が降りた。生徒たちとは直接的に関わる仕事ではないが、このホグワーツでは実は裏方の仕事が数多く存在する。裏方の仕事を今までリーマスは何度か手伝ってくれていた。表向きはリーマスが教師の任を辞任したことにはなるが、今回正式に、ホグワーツの用務員として雇用される事となった。しかも、魔法省大臣のお墨付きだ。

「しかし、キスを子どもたちに執行しようとするとは……ディメンターどもはアズカバンに戻さなくては。君がディメンターを追い払い、子どもたちを救ったと聞く、お手柄だスネイプ、流石だね」
「いえ」

このときは知らなかったが、ハーマイオニーたちがタイムターナーを使って、時間を戻り、バックビークを逃したことを知った。大臣が帰ったあと、ハリ―たちから事情を聞けば、森でディメンターに襲われているハリーたちを、ハリ―自身が自身のパトローナスで助けたのだとか。あの高度な魔法を扱えるなんて、なんと素晴らしい才能だろうか。大臣には詳しく説明ができないので(タイムターナーの取り扱いはそれだけ厳しい)セブルスがディメンターを追い払い、ハリーたちを助けたということになっている。ディメンターを追い払った事以外は事実なので、ハリー達がこうして今、医務室で安心して眠れているのもセブルスのおかげだ。

さて、犯人に証言してもらおうか。ファッジのその一言で、ピーターに真実薬が投与された。拘束具を着けながらも薬を飲ませることができる仕組みにしていることに気がついたときは、ここまで先を読んでいたのか、と感動すら覚えた。真実薬はピーターだけではなく、公正な判断を下すためにシリウスにも投与された。
二人が語る真実によって、ピーターはアズカバンへ連行され、シリウスは晴れて無罪放免となった。このニュースはすぐさま翌日の日刊預言者新聞に大見出し記事として掲載された。犯人逮捕の功績はほとんどセブルスに渡しているので、逮捕されたピーターの写真と一緒に、どこか誇らしげなセブルスの写真が大きく掲載された。その片隅では、無罪が証され名前と喜ぶシリウスの写真がちらりと載っていた。いつの間にこんな写真を撮られていたのだろうか。なるべく目立ちたくなかった名前にとっては誤算だ。

しかし数日後、驚くべきニュースが魔法界を走った。殺人鬼ピーターがアズカバンを脱獄したそうだ。アズカバンの脱獄を二人も許してしまうとは、前代未聞だった。魔法省はアズカバンの監視を厳しくするように努めると記事には書いてあるが、名前は嫌な予感を感じていた。もし、ヴォルデモート卿が力を取り戻しつつあり、ディメンターたちを仲間に迎え入れていたとしたら?闇の生き物は、闇の力に惹かれるものだ。

生徒たちがいなくなったホグワーツは、再び静寂を取り戻していた。様々な事務処理がある関係で午後外出をしなければならない名前だったが、話があるとアルバスに呼ばれ、今校長室にやってきている。校長室のソファはいつでも快適な座り心地だと思う。生地の手触りを楽しみながら、アルバスの言葉を待った。

「今から言うことは、胸にしまっておいてほしいのだが……シビルが再び、予言を残したそうじゃ」
「彼女が……?」

シビル・トレローニーは占い学の教師で、預言者の家系出身の魔女だ。彼女はいくつかの重大な予言を残しており、その一つが今も魔法省の神秘部で保管されている。予言をするタイミングは誰にも分からず、彼女にもわからないそうだ。不思議なことに、予言を語っている時の記憶はないらしく、彼女自身はその内容を覚えていない。ハリーが偶然彼女が予言を語っているときに居合わせたらしく、ハリ―が学期末に、その内容をアルバスに教えてくれたそうだ。

“闇の帝王は、赤き友と共にその時を待っている。その召使いは12年間鎖に繋がれいてた。今夜、真夜中になる前、その召使いは姿を表す。召使いは再び鎖に繋がれるが、すぐに自由を取り戻すだろう……闇の帝王は、召使いの手を借り、再び立ち上がるであろう。以前よりさらに偉大に、より恐ろしく。自由を取り戻した……召使いが……そのご主人さまのもとに……馳せ参ずる……であろう”

予言の内容が書き取られた羊皮紙を見つめ、名前は息を飲む。

「もしや、ピーターは、彼は、あの子……ヴォルデモートのもとに?」
「間違いないじゃろう、わしが気になったのは、この部分じゃ、“赤き友とその時を待っている”―――赤き友とは、名前、君はなにか心当たりは?」
「……いえ」

“赤き友”とは一体誰のことか。赤というものが何を指しているのかがわからない限り、相手を探る方法がない。

「外見、なのでしょうか?」
「わからんのだよ……わしも色々と探ってみよう。そうそう、ハリーは時々シリウスの家で過ごせるようになったので、仕事が落ち着いたら会いに行くといいじゃろう」

まだリリーの愛の魔法のちからが必要なので、ずっとは無理だが、シリウスの家……ブラック家の屋敷にハリーが寝泊まりできることになったことを知らされ、正直心から喜んだ。しかし、ピーターが脱獄した今、さらに恐ろしい予言がされている以上、ハリーの危険度は去年よりも高まったと言えるだろう。

「君も気をつけるんだ、魔法力が完全に戻った今、君は狙われやすい―――」
「はい、今以上に警戒を怠らないようにします」
「まぁ、君には白い日記帳がある……きっと、“彼”は君を守ってくれるじゃろう、“彼”にとって君は命のようなもの―――生まれた理由でもある」

白い日記帳のトムが、ピーターを拘束した魔法道具を作ってくれたことをアルバスは知っている。あの魔法道具が非常に便利だったので、いくつかほしいとファッジに頼まれたときは、どうしようかと悩んだものだ。

「騎士団に声をかけようと思う、また忙しくなるが、よろしく頼む」
「もちろんです、リーマスもシリウスも共に戦ってくれるようですが、他にも?」
「うーむ、アーサーやモリーたちにもお願いするつもりだが、声をかける人物は慎重に選ばねばならぬ……そして、まだ大々的に動くことはできん、相手の動きが読めない限りは」

まだ、ヴォルデモートが完全に復活したという訳では無い。ハリーが1年生の時、クィリナスの頭の後ろに亡霊のように引っ付いていたヴォルデモートしか確認できていないからだ。だが、シビルの予言にもあるように、召使いの手を借りて以前よりも恐ろしく復活を遂げるとある。復活することはおそらく、間違いないだろう。とはいえ、下手に動いて相手側にこちらの動きを読まれてしまえば、守れるものも守れなくなってしまう。アルバスが言っていた“赤き友”の存在も気になる。召使いよりも赤き友は格上の存在なのだろう。でなければ、“友”などという名称はついていない。“召使い”であるピーターよりも恐ろしい誰かが、今、ヴォルデモート側についているという意味なのだろう。

「そうそう、今年は特に大変なので、よろしく頼むよ」
「毎年大変だなと思ってましたが、もっと大変なんですか?」
「うむ、トライウィザード・トーナメントが開催される、まだ極秘じゃが」
「え!?」

三大魔法学校対抗試合…トライウィザード・トーナメントが開催されるという事実に驚きの声を上げる。トライウィザード・トーナメントはヨーロッパの魔法学校、ホグワーツ・ボーバトン・ダームストラングの3校で戦うトーナメントで、それぞれの学校から代表選手が1名選ばれ、名誉をかけて戦う。とても危険なトーナメントで、死亡事故も多く、1792年に安全の観点から中止されたものだった。名前やアルバスですら生まれていない大昔に中止となった競技が、再び開催されるとは。

「その……大丈夫なのですか?」
「安全には考慮するのでその点は大丈夫だとも」

会場がホグワーツらしく、期間中はその他2校の代表選手を含む生徒たちがホグワーツで共に勉強をし、過ごすこととなる。生徒たちにとっては素敵な思い出になるだろう。しかし懸念点は、その安全性。アルバスが大丈夫というのであれば大丈夫なのだろうが、今年はピーターの脱獄もあり、予言のこともあり、正直不安しかない。

「開催に当たって、一人、心強い友が来てくれることになった…マッドアイだよ」
「それは心強い!」

マッドアイ…アラスター・ムーディのことだ。彼は元闇祓いで、とても優秀な魔法使いだ。今回、なんと彼を闇の魔術の防衛術の教師に迎え入れることができたらしい。彼は魔法界では有名な人物で、特に、闇の魔法使いたちには恐れられる存在だった。当時、何人もの死喰い人を捕らえているのだから。

「懐かしいな、アラスター」
「この間会ったが、元気そうだったよ、夏の間は用事があるから会えんと言っていたが、新学期には間に合うだろう」

教師として、色々と準備が必要なのは当然のことだ。リーマスだって数ヶ月かけて準備をしていたぐらいだ。
今年こそは、平和に過ごせたらと思うが、それも叶わぬ夢なのだろう。名前は改めて身を引き締め、新学期に挑むことにした。
今は、力強い味方もいる。きっと、うまくやれるはず。