47 それこそが、真実/不死鳥の騎士団

それからしばらく経った頃であろう。ドラコが鼻歌を歌いながら帰ってきた。なんとなく理由は想像できたのであえて聞かないでおいた

「…ありがとう、読み終わった」

「相変わらず君は本を読むのが早いな…いいよ、これ君にやるよ」

「いいのか?」

「あぁ」

「…ではありがたく受け取っておこう」

ドラコからもらった本を早速鞄にしまった頃、タイミングよくホグワーツに到着したようだ。トランクと鞄を持つといつものように指定の場所へ置き、馬車へと乗り込んだ。相変わらずセストラルの瞳は優しかった

「今年ホグワーツに新しい先生が来るんだ…知ってたか?」

「…そうなのか?」

「名前なら知っていると思ったが・・・予想外だ。ドローレス・アンブリッジ女史だ。防衛術を教えてくださる」

「…Ms.アンブリッジがか…?」

あの子供嫌いの彼女が教師だとは思ってもみなかった。おそらくファッジの思惑通りの授業をするのだろうな…今年は安全に防衛術の授業を受けられそうだ
去年は禁じられた呪文などをかけられて大変だったから、名前は少し安心していた。

「ポッターが苦しむさまを早く見たいよ」

「…そうだな」

これはいつもの如く適当に流しておいた。
毎年組み分け帽子が歌う歌は違っていたが、今年のはかなり重要なことが隠されているような気がした。内側を固める…つまり組み分け帽子は必死に結束することを歌っていた。今年は去年以上に不吉な何かが起きるのだろうか…もしかして、また誰かが死ぬのだろうか…

いいや、この考え方はよくない。闇に負けてはいけない

どうにか極力明るいことを考えようと必死に天井を見るものの、不吉な考えが拭い去られることはなかった。

校長が話をしようとしたとたん・・・・エヘンと甘ったるい声が聞こえてきた
誰だろう・・・ダンブルドアの会話を遮る勇気のある人は…いや、考える必要もなかったか

「校長先生、歓迎のお言葉恐れ入ります」

ドローレス・アンブリッジだった。青い瞳をギラギラとダンブルドアへ向け、すぐさま生徒たちのほうへ目をやると再び話し始めた

「みなさんの幸せそうんあかわいい顔がわたくしを見上げているのは素敵ですわ」

…本当は子供なんか大嫌いなのにな
つくづくこの人はスリザリン出身なのだと思う

「みなさんとお知り合いになれるのを、とても楽しみにしております。きっとよいお友達になれますわよ!」

これにはみんな顔を見合わせた。冷笑を隠さない生徒もいた
名前も一瞬顔が引きつってしまったが、どうにかいつものポーカーフェイスに戻すことができた。

言動はともかく、あの服装…相変わらずのセンスだ。名前は心の中でつぶやいた
アンブリッジの話もどうにか終わり、ようやく食事をとれる…そう思いサラダに手を伸ばそうとしたとたん、アンブリッジに呼ばれてしまった。生徒たちは名前のことを面白そうに見ている

「…いったい何をしたんだ?」

「さぁな。」

新学期早々、新任の先生から呼ばれる生徒を誰が見ないというのだろうか。今、教職員席に向かっている足音と食器の音しか広間からは聞こえない。実に恥ずかしかった
今すぐにでも隠れたいほどに

「…およびでしょうか、先生」

「お久しぶりね…あなたのレポート、ずっと持っていたのを忘れていましたの………とても素敵な内容でしたわ、ありがとう」

「…読んでくださり光栄です」

一体どこから4年生の頃書いたレポートを入手したのだろうか…
そんな疑問を浮かばせるが、とりあえず今は自分の席に戻りたい一心だったのでレポートを受け取るとすぐさま席へと戻った。
しばらくするとざわめきがもどってきて、いつも通りの広間に戻った

「…名前、魔法省にレポートなんか提出していたのか?」

「いや、これは授業で出したレポートだ…」

「これ…魔法史のだよな……」

「あぁ」

きっと魔法省が喜ぶような内容が載っていたのだろう。
レポートのことをすぐさま頭の隅にやり、名前は食事を始めた。まるであの3分間がうそのように食事にがっつく親友を見て、ドラコは笑った

「そうだ…ポッターが尋問を受けたのは知ってるか?」

「…そうなのか?」

此方はあえて何も知らないような態度でいろ。クライヴからも強く言われたことなのでこのことはしっかりと守りとおしている。これからいろいろ言われるだろうが、知らないふりでいればいいだけのこと

「ディメンターのキスでも受けてればよかったのに…」

まぁドラコとハリーが鼻歌を歌いながら手をつないでいる光景なんて想像するだけで頭がどうにかなりそうだ。彼らに仲良くさせようなんて本当に無駄骨だと思う

名前は黙々とサラダを頬張った。
部屋に戻ったとき、名前に変化が現れはじめた。
おかしい…今日は薬を飲んでおいたはずだ。変身するはずがない

今まで起きたことがない出来事が名前を襲っていた。それは、薬をきちんと服用しているにもかかわらず、大蛇へ変身しかけているということだった
変身してしまう原因はレーガン家の血のせいだとクライヴからは言われたが…もしかしたら、これは初代当主が犯した罪から来る副作用的なものなのかもしれない

鏡を見ると、瞳は縦に割れており、腕からはうっすら銀色のうろこが現れ始めた。これは大変なことになった…ドラコが部屋に来る前に父上の部屋へ駆け込まなくては…
すると、名前は慌てて部屋を飛び出し廊下を駆けた。意外な人物が大急ぎで走っている姿を生徒たちは不思議に見ていることにも気付かずに。

『ちちうえ!』

どうにかぎりぎり部屋に入れたはいいものの、蛇に変身してしまった後だった。セブルスも急に白い大蛇が部屋へ入ってきてシューシュー言っているのだから驚かなかったはずはない

「…名前か?」

『…ちちうえ』

セブルスはまさかこの白い大蛇は我が子では…?と首をかしげ、蛇に近づいた

「メガネが落ちている…やはり、お前なのか……しかし何故だ、まさか、あの薬ですら効かなくなってきているのか…?」

薬とはいわば毒。毒を投与し続けられた生き物がどうなるかなんて言わなくてもわかることだ。名前は毒に侵され始めていた

「…馬鹿者………」

そのつぶやきはあまりにも小さくて聞こえなかった

『…ちちうえ』

「…ダンブルドアのところへ行ってくるからしばらくここで待っていなさい」

そう言うとセブルスはすごい勢いで部屋を出て行った
部屋には大蛇に変身した名前が月光に照らされて美しく輝いていた

『まさか…へんしんしてしまうとは…うそだ。でも、なぜ?』

蛇になるといつも不思議な気分になる。いつも色々な考えを巡らせ、ごちゃごちゃになった思考回路がすっきり…絡み合った糸がすべてほどけたような気分になる

月に一度くらいならなってもいいかもしれない、そんな考えはすぐさま消え去った。そうだ、忘れていた…これに変身した後は体力も魔力もかなり消耗してしま うためか風邪を引いたような症状になるのだ。しかもしばらくはだるいまま…つまり魔力がいつも通りに戻るまでは体がだるい状態が続き、その間の授業に支障 を来すのだ

考えを巡らせているとバタンと音をたててダンブルドアがやってきた。そして名前をひょいと持ち上げ、瞳をじっと見つめた。

「…ふむ、もしかしたらこれは何かの予兆かもしれん…時に名前、君はいまだに彼女の夢をみるのかね?」

彼女とは去年までしょっちゅう夢の中にあらわれてきた女の人のことだ。彼女はヴォルデモート卿の妹でクライヴの初恋の相手だ。このことは今年の夏休みにク ライヴが酔っぱらった時に教えてもらった話だった。…つまり勢いでつい口からこぼれてしまったという訳だ。クライヴもそれ以来その話は一切しなくなった し、もちろん名前はそれ関連の話を一切持ち込まなかった。

『いいえ、まったく…』

「ふむ…そうか。わしもそうなのじゃ……あれきり、彼女の夢を一切見なくなった。このことは一度クライヴに連絡を入れてみたほうがよいかもしれぬの……」

とりあえずその夜はセブルスが急いで薬を煎じ、難を凌いだ。しかし薬は完成品ではないのでもしものことがあったら大変だ。そのため、名前は薬が完成するまでセブルスの部屋で過ごすこととなった。この部屋にいると心が落ち着くのはきっと父親の匂いがするからだろう。
薬を飲んだ名前はぐっすり眠り、部屋にはセブルスとダンブルドアの声だけが響いていた。

「…念のために、先にクライヴに手紙を送っておいたのじゃ……彼のことじゃろうから、あと1分ほどでここに」

「よっすお二人さん!!」

「…先回りされておったようじゃ」

でかい声を上げセブルスに飛びついてくるクライヴをほほ笑ましく、そしてどこか申し訳なさそうな瞳が目に入った
毎晩情報収集や複雑な魔法でハリー達を守ってくれているクライヴに感謝している反面、彼の友人を倒すための手助けをしてもらっていることに少なからず罪悪感を感じているのだろう。

「ようセブりん久々だな~」

「…その呼び名はやめろ。それより、お前痩せたな。」

「いや、ダイエットをしているんだよこれは」

「……嘘が下手くそだな」

クライヴの口からはははと乾いた笑いが漏れた

「いや、忙しいのにわざわざすまないのう…」

「いいってこと!それより、あいつは平気なのか?」

クライヴが心配そうに部屋のドアを見つめた

「…どうにか、な。今の段階では。レーガン家の魔法はどうやったら解けるのだ?」

「あれはそっとやちょっとじゃ解けるもんじゃないって…この俺ですら呪いを患ってるんだぜ?その呪いのおかげで昼間は魔力がかなり低いしろくに動けない し・・・まるで俺ってばコウモリみたい。俺の曾曾曾じいさんならこの呪いの対処法、いくらか知っていただろーな…魔法オタクだったみたいだし。まぁいない 人に期待かけても無駄なんだけどさ…」

ぽりぽりと背中をかいた時、セブルスの机の上に積み重なっているレポートを見つけて一冊取り出した

「おい、それはまだ採点していないぞ」

「いーじゃん、ちょっとくらい。ふむふむ~今のガキはこんなん勉強してんのかー。俺の頃とだいぶ違うな」

「それもそうじゃ、あれから何十年経ってると思うのかね。魔法の技術も進歩したからの」

「そりゃぁそうか。もう50年以上は経ってるのか…」

50年以上の歳月から切り離されたクライヴの心境は一体どんなものなのだろうか…セブルスやダンブルドアにはわかりもしないことだ。彼は今でも月日という ものから切り離され、かつての友は闇の帝王となりずいぶん変わってしまった。そして1年生の時から親しかった友たちも今や亡き存在…最愛の女性もこの世に はいない。
でも決して、クライヴはこの状態を孤独だと思ったことは一度もなかった。今は名前やセブルス…悪友のシリウス達もいる。彼らがいれば、どんな苦しいことも乗り越えられると思っているのだ。そしてその最後の絆はクライヴのハードな生活の支えになっていた

「…あ、そうそう。例のことに関してなんだけどさ…場所を見つけたぜ、まだ一つだけだけど」

ダンブルドアの目の色が一瞬変わった。

「……そうか、ありがとう。君じゃなかったらきっと調べられんかったじゃろう…もうすぐ本格的に始動じゃが…二人とも、心は決まっているかね」

2人は意志の強い表情でうなづいた。
朝起きたとき、変身後の気だるい体をどうにか持ち上げようとしたのだが何故か体が起き上がらない。しかもなんだかいつも以上に布団が温かい気がする……

「…クライヴ!?」

自分を抱き枕にして眠る落ち着いた薄いブラウンの髪の男は…まさかクライヴではないだろうか。かすかに静かな寝息が聞こえてくる。ああ爆睡してる…

しかし何故ここにクライヴがいるんだ?ブラック家の屋敷にいたはずじゃ…
色々と考えを巡らしている中、部屋にトントンとノック音が響いた。セブルスが朝食を持ってきたのだ

「…起きたか。いや、起きれない、か…」

「…父上、一体これはどういうことでしょうか」

「昨晩お前の様子を見にやってきたようなのだが…このありさまだ」

「…クライヴらしい」

名前は自分の腹を枕にしているクライヴを見て笑った

「すまないがしばらくそうしてやっていてくれないか…こいつには睡眠時間が必要だ。どうせいろいろ仕事をかかえてろくに眠っていなかったんだろう。」

確かにクライヴの隈はブラック家にいる時からずいぶんひどかったが、9月に入ってからはもっとひどくなったような気がする。

「…授業は夜言ったとおりだ。薬が完成するまで授業は出れない。その代り各教科から課題が出されることになる…昼にでも持ってこよう」

「ありがとうございます。」

それでは我輩は授業がある、何かあったらすぐ呼びなさい。そう言い残しセブルスは部屋を出て行った。部屋にはクライヴのすやすやという寝息だけ

「…新学期早々、また授業に出れないのか……。」

最近はこれが恒例のようになってきたのでドラコ達もそこまで心配しなくなった。が、友に何も知らせず来たので何らかの形で休みであることを伝える必要があった。父親が直接伝えてくれたとしても、やはり自分自身で言うから意味があるのだ

「まいったな…これでは食事ができないな」

いまだにすやすやと爆睡するクライヴを見て苦笑した。