その後も名前は一人一言もしゃべらず、黙々とパンを食べていた。モリーが声をかけても、ハーマイオニーが声をかけても無反応―――
ただ何かを考えているという訳ではなく…最近ではよくあることだった
最近ではぼーっとする時間がかなり増えたし、なかなか勉強に身が入らないのだ。
「名前、スープこぼしてるぞ!」
「…あ」
気づけば膝のナフキンに大陸みたいなシミができていた
あーあ…またやってしまったのか
「―――おや、クライヴ……朝食にも遅刻してくるんだね君は…」
リーマスのどす黒いオーラに数名のものが縮こまるのを名前は確認できた。すぐさまクライヴへ視線を戻すと案の定子犬のような姿になっていた
「まぁ名前が元に戻ったから許してあげるけど…次はないからね?」
これをどう表現すればよいのだろうか・・・
まるで嫁に尻に敷かれている夫のような・・・・・・
ぼーっとチキンを噛んでいると間違えて頬の肉まで噛んでしまった。その痛みでようやく我に返った名前は、モリーがフレッドたちに何か怒鳴っていることに気がついた。
また何かいたずらをしたのだろうか…
名前は再びチキンをむさぼり始めた。
今日はなんだか気分がいい……胃の中にどんどん吸収されていくチキンの量は最近の名前では想像もできない量にまで達していた
それに気づいたのはクライヴだけだった。
「おい名前…今日は調子がいいのか?」
「…わからない、けれどきっとそんなだ」
「そうか……念のため、胃薬を飲んだほうがいい」
「…ありがとう」
小さな包みを名前に手渡すと、クライヴはあたりをぐるりと見渡した。
今度はシリウスとモリーが言い合っているのだ…そろそろ止めに入ったほうがいいかもしれない。
「おい…黒わんこ黙れ。」
「ああ!?お前までモリーと同じなのか!?」
シリウスは信じられないというまでに目を見開いた。クライヴだけは自分と同じ考えだと今まで信じていたからだ
「ハリーハリーうるせぇ。もう分かったっつーの。この話はここですべき話ではない。そうだろ?俺達大人が冷静さを失ってどうすんだよ。子供を不安にさせちまってどーすんだよ…大人なら大人らしい態度を示せよ」
「…っえぇそうね」
「…っ」
クライヴのこの一言でことは納まったが、ロンたちは強制的に部屋へ戻らされてしまった。ジニーがわめき散らしていたのは気のせいだったということにしておこう
「…で、ハリーは何を知りたい?」
ようやく静まりかえった部屋でシリウスが静かに言った。
「ヴォルデモートはどこにいるの?あいつは何をしてるの?マグルのニュースをずっとみていたけど、それらしきものはまだ何も無いんだ。不審な死とか」
ハリーは早速ヴォルデモートのことに関して質問してきた。この中で一番ヴォルデモートのことに詳しいとしたらクライヴかもしれない。だがここに来てから一度もヴォルデモートのことに関してクライヴは口を割ったことはなかった。
彼こそが騎士団の中の一番の要であり、柱であるからだ。
クライヴが夜中まで部屋に閉じこもっていたり外へ出たきり帰ってこなかったりするのはシリウス達でもしらない秘密任務を任されているから
このことを知っているのは騎士団と言えどもダンブルドアと名前とセブルスだけだった。クライヴはヴォルデモートを裏側から崩そうとしているのだ……捨て身の覚悟で
一通り話し終えたとき、ハリーの視線は名前へと注がれた
「…名前、君は一体これから何をするつもりなんだい?」
「あぁ…去年の話だな。前回話した通りだ……ハリー達とはともに行動はできない。詳しいことは話せないが・・・・・・ただ一言言えることがある。僕はみんなが大好きだ」
「…え?どういう意味だい?」
ハリーは名前の最後の言葉の意味を理解できなかった。それを見てシリウスたちがどこか苦しそうな表情を浮かべていた
朝を迎え、騎士団総出で屋敷の大掃除が始まった。名前はかというと、体の調子があまりよくなかったので(昨日チキンを食べ過ぎたのも要因の一つだ)ドクシー駆除には参加できなかった。ただ、ひとつだけ名前にしかできない仕事を任された。それは…
「レーガン家のお坊ちゃま、会えて光栄でございます…」
「……」
年老いた屋敷僕、クリーチャーの見張りだった。
名前は文句一つも漏らさずこの頼みごとにOKしたのはいいものの…なんとも言えない仕事だ
「お坊ちゃまだけは違う…あの血を裏切る者たちとは………」
「…」
「それに奥様が敬愛するあのお方の血をひいておられる…」
「正しくはヴォルデモート卿と親戚、だ。あの人の血を引いている訳ではない…」
「ああそれは申し訳ございません…もうわたくしめにはお坊ちゃましかより所がございません……ああどうかいつまでもここへ滞在なさってくださいませ」
クリーチャーは異様に名前になついていた。何故だかわからないが…きっとあの肖像画と同じような理由だろう
「…それはできない。それよりもお前はベラトリック・ブラックとレギュラス・ブラックを知ってるか?」
その名を言うとさらに瞳を輝かせて強い力で名前の手をつかむクリーチャー このよぼよぼの体によくもこんな力が残っていたな…
「ああ!その方たちは!偉大な方たちでした…奥様が敬愛するあの方に忠実で…ブラック家の誇り!」
「あぁ分かった。僕が知りたいのは彼らの居場所だ」
「…ああお坊ちゃま………お嬢様はアズカバンへ…そして若様はっ……」
「―――そうか」
それはあまりのも残酷な真実だった。
レギュラスが・・・殺されているなんて
「…わかった。ありがとう、レギュラスの墓はどこにある?」
「屋敷の裏庭でございます…」
「…そうか。ならば墓掃除でもしてやるか」
レギュラスは典型的な純血主義だったが、誰よりもがんばりやだった。親からの重圧のかかった期待にこたえようと必死で…
シリウスもレギュラスはいい弟だったと言っていたしな。
つらかっただろうな…兄としてレギュラスに何もしてやれないんだから
名前はクリーチャーに花を持ってくるように言いつけるとどこからともなく色とりどりの花束を持ってきた。
外を出ると心地よい夏の日差しがブラック家の裏庭を照らしていた
もちろんハリー達には内緒だ。細かいことを言うとまたいろいろ文句を言われそうだったし・・・それにロンは少なくとも名前を怪しんでいた
きっと騎士団のくせに何故自分たちには何も話してくれないのだろう、とかクリーチャーや純血家に好かれていることも気に入らない。きっと理由はそこから
だけども墓参りのことはシリウスとクライヴだけには話しておいた。シリウスは自分の分まで、と言いレギュラスの好きだったお菓子をたくさん手渡した
ああやはり兄弟なのだ。
「…ここか」
裏庭の奥の奥にあるこじんまりとしたところにレギュラスの墓はあった。若くして命を落としたレギュラス……重たい期待から逃れることができたレギュラス……両親の期待にこたえることができず、本心で過ごすことができなかったレギュラス………
彼は一体どんな気持ちで逝ったのだろうか
今や永遠の眠りについてる彼のみしか知らない真実
レギュラスの墓をきれいに磨いた後、名前はシリウスに頼まれたものと、花束を置きその場を後にした。
自分の周りの人たちはどうしてこうも死んでいってしまうのだろうか
時々自分が死神のようで恐ろしくなる
昼になり、昼食に向かおうとしたときとある部屋でシリウスとハリーが話し合ってるのを見つけた。
「…クリーチャーの監視は終わった。」
「お疲れ様名前…君の家にもこういうタペストリーはあるの?」
急にハリーがブラック家のタペストリーを指さしながら聞いてきた。スネイプ邸には確かこういったタペストリーは無かったような気がする。だがそんなこと、一度も考えたことはなかった…
「レーガン家のタペストリーならこの屋敷のどっかに保管されてるんじゃね?」
急に話に参加してきたのは目の下に大きな隈を作ってあくびをしているクライヴその人だった
「…あ、どうも…」
「おまえがハリーだな。色々ごたごたしててなかなか話すことができなかったけど…俺はあの時、お前がトムと対峙してくれたおかげでここにいるようなもんだ。感謝している」
「あ…え、でも封印っていまいちわからない…」
ハリーはたぶんあの日、ダンブルドアからクライヴのことに関していくつか話を聞いたのだろう。しかし何度聞いても理解しがたい話だ
何故封印という手をとったのだろうか……なぜあやめなかったのだろうか。否、殺めることができなかったのだろうか―――――――――
そんな感情、あの人にあるわけがないとは思いつつもどこかあの闇に人間の心というものが隠れている、そんなことは流石に口に出せない。だからいつもこの考えは心の奥底にしまっている
きっと馬鹿だと思われるに違いないから
どれが悪で、どれが善なんかこんなちっぽけな自分に決めつけられるはずがない。どうして周りの人たちは善悪をすぐさま決めつけることができるのだろうか
この気持ちもずっと心の中に隠し続けていた
「まぁ…別にいいさそんなこと。それよりも家の自慢じゃねぇが、俺の家のほうがこいつらの何倍もすごいんだぜ?」
「また家自慢かよ・・」
シリウスはまたか、といった表情でクライヴをにらんだ
「俺の家は自慢の一族だ!まぁ親戚はすげー変わった人たちだったけどな」
「「…(おまえが言えないだろう、おまえが)」」
シリウスと名前の心がシンクロした瞬間だった
「俺の家は大昔からある家なんだぜ?言っとくけどブラック家よりも昔にできた家なんだからな。それに生まれた子供になんと解くことのできない呪がついているというプレミアム特典付きだ!」
そんな特典いらない
心の中でつっこんだ。
「呪…?」
「ああそうだぜハリー。詳しい話は気が向いたときに話してやるよ」
「おい、その話俺も知らないぞ」
「黒わんこはおあずけだ!」
「はぁ!?なんだよそれ!」
内心クライヴがレーガン家のことをいろいろ話してしまうのではないかとヒヤヒヤしたが、どうにか大丈夫だった。部屋を出る際、クライヴの足を力こめて踏みつけたのは言うまでもない。
それから客間の除染にまるまる3日かかった。
名前は相変わらずクリーチャーの監視で…そして永遠と純潔の家があーだとか、ブラック家がどーとかを話され疲れ切っていた。
「お疲れ名前」
「…クライヴもな。日に日に隈がひどくなっているのを僕が見逃すとでも思ったか?」
「……仕方ねぇんだよこればかりは。お前にこれ以上危ない領域に踏み入れてほしくないしな…ただでさえお前は闇に侵されやすいんだ。気をつけろよ」
「…言われなくとも、な」
この1年で名前はずいぶん闇と戦えるようになった気がするが、気を抜くと闇に支配されてしまうので気が気ではなかった。時々ハリーの視線がヴォルデモート卿を思わせるのは気のせいだろうか…
この1年で闇の気配にも随分敏感になった。この屋敷にある闇の品物ですら過剰反応してしまうほどに
「騎士団の人間は皆忙しそうだな…僕も何か手伝えれば手伝いたいが・・・」
「だーめ。お前はこれから十分危険な任務を背負うこととなるんだからな……今のうちゆっくり過ごしておけ」
確かにこれから密偵という危険な任務を遂行するのだが…
「だが・・・なんだか申し訳ない」
「いいんだよ、気にすんなって。俺とお前はいわば騎士団の柱みたいなもんなんだからよ…」
「…」
これから先、何が起こってもおかしくはない。騎士団の誰かが死ぬ可能性だってある――――ダンブルドアにだってその危険性はある
だからダンブルドアがいなくなっても闇と立ち向かえるようにクライヴは準備を整えていた。もし彼がいなくなっても自分が中心となって騎士団のみんなを支えられるように…
夜中まで情報を集め、その情報を的確にダンブルドアに伝えているのは彼にだけしかできない仕事だ。それゆえ責任はほかの誰よりも重たい
「クライヴがいて、本当によかったと思う」
「何言うんだ?照れくさいじゃねーかよっ」
「…本当に、感謝している………ありがとう」
頭を深々と下げる。クライヴは堅苦しいからやめろと言うけれど…本当に彼には頭があがらない。ダンブルドアもセブルスもそう思っているに違いない
ダンブルドアよりも重たい使命を背負っているのはクライヴに間違い無いのだから
自分の使命に比べれば――――…
「…がんばりすぎるなよ。僕も極力手伝う」
「……サンキュ」
今日も夏の日差しは優しくブラック家を照らしていた
「お昼ですよー」
モリーの明るい声が聞こえてくる
「…久々にチキンでも大食いしますか!」
「ははは…程々にな」
いつまでも、彼の笑顔を――――大切な人たちの笑顔を見ていられますように。
ハリーの尋問の時間が刻一刻と近づいてきた。予定ではもっと遅い時間なのだが、クライヴとダンブルドアが3時間早めに行ったほうがいいと判断したため、彼らは大急ぎで支度を始めた。本当は名前も行きたかったのだが、やはり今は下手に行動をしないほうがいいため騎士団で待機となっている。