44話 それこそが、真実/不死鳥の騎士団

お願いだから自分を責めないで、自分がいけないのだと思わないで

「…」

僕は弱い人間だから、こういう時にどういう言葉をかけてやればいいのかわからない。僕は本当に弱い人間なのだ……今にも泣き出しそうな家族に、慰めの言葉ひとつかけてやれない赤ん坊。いや、赤ん坊のほうがまだマシかもしれない…

つまり、弱い人間の僕にクライヴに慰めの言葉をかけられる権利はないというわけで。

ごめんな……トム、ごめんな、お前を止められなかったのは俺のせいだし・・・お前がどんなに罵られようが許されない罪を犯そうが・・・・・・俺にとっては 今でもたった一人の親友なんだよ…ごめんな、そんな中途半端な気持ちでお前を殺そうと思ってる俺を許してくれ、ごめんな、ごめんな、ごめんな、お前の妹も 守ってやれなくてごめんな、ごめんな、ごめんな―――――

弱くてごめんな、世間から守ってやれなくてごめんな、味方になってやれなくてごめんな、だけどこんな俺はいつまでもおまえのことを親友だと信じている……中途半端な奴でごめんな

クライヴは一人部屋でひとりごちた。

「それじゃ、君たちは会議に参加してなかった。だからどうだって言うんだ!君たちはここにいたんだ。そうだろう?君たちは一緒にいたんだ!僕は、一ヶ月も ダーズリーの所に釘付けだ!だけど、僕は、君たち二人の手に負えないようなことでもいろいろやり遂げてきた。ダンブルドアはそれを知っているはずだ――― 賢者の石を守ったのは誰だ?リドルをやっつけたのは誰だ?君たちの命を吸魂鬼から救ったのは誰だっていうんだ?」

ハリーがここ、ブラック家の屋敷にようやくやってきた時、やはり予測していた事態が起きてしまった。

広間にはハリーの怒鳴り声がキンキンと響く。その響きが全部クライヴの心に刺さっているのではないかと心配になり、階段の上からその様子を眺めているクライヴの表情をうかがう

――――――苦しい、な

きっとこの、馬鹿なほどに優しすぎる人間はハリーを不幸な目にあわせたのも自分のせいだと思っているに違いない。お願いだから自分を責めないでくれ――――
声に出したくても出せない名前

「クライヴ、ちょうど見てほしい課題があったんだ…」

話題を別のことに逸らそうと必死な自分
いつから自分はこんなにも弱虫になったのだろうか―――・・・

「…クライヴ」

「あ、悪ぃ…。どこだ?天才クライヴ様にまかせろって!」

無理に笑って見せてるのがバレバレだ。何故この人はこんなにも嘘が不得意なのだろうか。何故こんなにも辛い顔をしながら笑えるのだろうか

こんな時、無性に父親に会いたくなるのは、何故なのだろうか――――

「ハリー・・・久し振りだな。」

ハリーが少し落ち着いてから話しかけた。これは火種を最低限度に抑えるための得策だ

「…名前、君も騎士団だったんだね……でも去年、君―――」

「……ここでもその活動はできる。それよりも見てほしいものがある…」

名前はハリーを自分の部屋まで連れてゆき、色褪せたアルバムを見せた
それは・・・・あの過去へ飛んでしまった時のアルバムだった。自分以外の人には絶対に見せないように、としていたのだが・・・・・・きっと今のハリーには必要だとおもったから見せたのだろう

「…これって、名前が過去へいったときの?」

「……あぁ。特別だ…これはハリー、お前だけにしか見せていない。それだけ僕にとっては特別なもの…そしてハリーにとっても」

ハリーは先ほどからずっと一点を見つめていた

それは・・・・ジェームズとリリーのページ

「……父さん、母さん」

ハリーのつぶやきは小さすぎて聞こえなかった

しばらくアルバムを眺めていたハリーに、今度焼き増しを渡すと言いどうにかみんなのもとへ戻ることができた。

「あーようやく帰ってきた!腹ペコだよ!」

「ロン…そう急がなくとも食べ物は逃げない」

夏休みの期間だけで、ハリーやロンは数センチ身長が伸びているような気がする。それでも名前のほうが2センチほど身長が高かった
前まではハーマイオニーと同じ身長だった彼らだが、こう見比べると彼らがいかに成長したのかがよくわかる

「そうそうハリー…ハーマイオニーはまだ反吐(スピュー)を諦めていないんだ」

「反吐じゃないってば!」

ロンの笑い話に少し暗い気持ちが明るくなったような気がする。やはりハリーにとって明るい性格のロンはかけがえのない存在なのだろう――――

階下の薄暗いホールにセブルスがほかの集団と話をしているのが見えた
ハリー達は伸び耳で話を聞き出そうとしていたのだが、急に飛び出した名前に動揺を隠せなかった

「―――父上!」

久々の再開だ
こんなにも泣き出しそうなのは何故だろうか
この人の顔を見ていると泣きつきたくなるのは何故なのだろうか

嗚呼それの答えはもう出ている―――――

さびしかったんだ。
寂しかったんだ

知らないうちに親が恋しくなっていたんだ

気づいたら、駈け出していた

「父上!」

「――――名前」

突然現れた息子に驚くものの、素直に再会を喜んだ

「…無理はしてないか?お前はすぐに無理をするからな。無理をして無理をして…それでもお前は黙っている。心の中にすべてをしまいこんで――――」

嗚呼どうしてこんなにも泣き出しそうなんだ?
どうしてこうも赤ん坊のように親を求めてしまうのだ―――?

「…無理だけはするな。そして………すまないな、親である我輩がたった一人の大切な息子であるお前の傍にいてやれなくて―――――」

気づけば周りには人がいなかった。きっと気を使っていなくなってくれたのだろう・・・ハリーたちの気配もなくなっていた。

彼らの優しさと父親の優しさが積み重なり、今にも泣き出しそうな名前に追い打ちをかけるかのように、力強く抱きしめるセブルス

「…少し痩せたな……ちゃんと食わんと駄目だろう。お前は一人ではないのだ、我輩も、クライヴも、ダンブルドアも……そしてアリスも」

「――――うっ……」

「…お前は泣き虫だな、赤ん坊の時もそうだった…おまえは昔も泣き虫だった……トイレに入っている時に泣き出した時は大変だった」

「ぐうっ…ううう」

「知ってたか?2歳の時…おまえの寝顔があまりにも可愛かったのでな…寝ているお前にフリルのドレスを着せてた……アリスが」

「ううっ・・・」

「起きたときのお前は自分の姿を見て大泣きしたんだぞ、覚えているか?」

「ぐうっ」

「お前が泣くときは昔から堪えるように泣くな……そんなにもお前の父親は頼りないか?お前が大声で泣きだすことも受け止められないほどの父親なのか?」

「…我慢なんてしなくていい……ただ、ありのままの自分でいなさい。そして必ず誰かを頼りなさい……自分ひとりですべてを抱え込むのはやめなさい」

「―――――うあぁあああああッ」

感情が

飛んで

弾けた

気づけば無我夢中に涙を流していた。まるで自分が自分でないかのように大泣きしてしまった。涙は一向にとどまることはなく、鼻水で鼻は詰まるしで散々だ。
そんな我が子をセブルスは強く抱きしめてやる。今にも崩れ落ちそうなわが子を守るかのようにして…
親子の再開も終え、名前は先ほどから大きなうめき声のするほうへと足をすすめた。

「…あ、名前……見てくれよあれ」

「…あれは?」

見上げると、巨大な老女の肖像画があった

「―――穢らわしい!クズども!塵芥の輩!雑種、異形、できそこないども。ここから立ち去れ!わが祖先の館をよくもけがしてくれたな―――」

ああ、つまりそういうことか。
この女性はブラック家の人間で、勘が当たればこの女性はシリウスの母親だ
確かシリウスは家が大嫌いだったっけな…

不思議な髪色をした女性が何度もモリーに謝りながら巨大などっしりしたトロールの足を引きずって立て直していた。あれはきっとトンクスだ。またあの人は何かしたのか…
モリーはカーテンを閉めるのを諦め、ホールをかけずりまわってほかの肖像画に杖で「失神術」をかけていた。すると近くの扉からシリウスが飛び出してきた

「黙れ。この鬼婆。黙るんだ!」

自分の母親に鬼婆か…と心の中でツッコミをいれつつ、肖像画のそばへ寄る。すると急に肖像画の中の女性の態度が一変した

「…おやまぁ貴方からはここにいる奴らとは別のものを感じるわ……」

「…光栄です、ミセス。しかし申し訳ありませんが、少々ご静粛してくださると誠にありがたいのですが………」

すると肖像画は急に静まりかえった。シリウスとリーマスはこの期を逃すまいと急いでカーテンを閉めた

「いや、助かった名前!……そして久し振りだな、ハリー。わたしの母親に会ったようだね」

シリウスは暗い顔で言った

そのあと、シリウスはこれが自分の母親でここが何であるかを話した。

「でも、何でさっき名前が近づいたとたんに静かになったんだい?あの肖像画…」

「ああそれは簡単さロン。名前の血がどういうものなのかを考えれば、ね」

リーマスは軽く付け足しておいた。

「あ…そっか、名前は有名な純血家だ……」

「それもマルフォイと仲良しのね」

最後のロンの言葉には色々と文句が詰め込まれているのだろうか、名前はそれを軽く受け流すと一人一足早く席に座った。