夏休みに入って、名前は体を休めることに専念した。何しろ新しい薬は副作用が強すぎる。これに耐えられるようになるまでは勉強も少し抑えなくてはならなかった
フランスのガブリエルからはよく手紙は届いていたし、シリウスやリーマス、クライヴも手紙を送ってくれていたので寂しいとは思わなかった。今年はセブルスが休みもなく働きづくしで息子の名前はいつか倒れてしまうのではないかと気が気ではなかった
「―――名前、今年の夏からはここで過ごすように」
急にセブルスから手渡されたメモを見ると、複雑な呪文がかかっておりその場所にたどり着くと燃えるようになっていた
「…父上、はじまるんですね」
「……あぁ。できればお前を巻き込みたくはなかったが――――だが今回はクライヴもいる。安心しなさい」
セブルスもクライヴの登場に感謝していた
ただいる、それだけでもセブルスの肩の重荷はだいぶ軽くなっていたし、何よりもレーガン家の者でヴォルデモート卿とも対峙したことがあるのだから、これほど頼もしい人物はいないだろう。
「クライヴもここにいる…。我輩はわけあって動き回っていなければならない――――お前を守ることは、本来父親である我輩がしなくてはならないこと…だが今回ばかりはできそうにない………不甲斐無い父親ですまない」
「いいえ……父上は十分僕を守ってくれています、これ以上にないほどに。僕も強くなります――――そして使命を全うしてみせます」
「…すまないな」
いつしか自分と背が近くなった息子の背中を、優しくぽんと叩いた。
セブルスの姿現しに付き添い、近くまで送ってもらうと一人ブラック家の屋敷を探し、石畳をたたいた。するとマグルの家の隙間から家の入口らしきものがあらわれた。きっとここがブラック家の入口なのだろう
メモが燃え尽きるのを確認すると、ベルを鳴らした
「―――名前かい?」
「…この声は……リーマスか」
久々の友との再会だった。以前より少しやつれたような気がするのは気のせいなのだろうか。とりあえずブラック家のリビングまで案内してもらうことにした
「―――君も大変だったね」
「…あぁ。もうダンブルドアから全部聞いているだろ…?」
「うん、クライヴのこともね……。僕も最初は驚いたよ、アルからは死んだと教えてもらってた人物が生きて現れたんだからね」
まぁそれは誰だってそう思うだろう。どういった経緯でどのような方法で杖に封印されていたのかはわからないが、年齢が封印された当初と同じだというところもさらに驚きだ
「名前!!久々だなぁ!それにしてもお前……でっかくなったなぁ…」
背もぐんぐん伸び、今ではシリウスとだいたい同じぐらいの背の高さ。いつか自分を追い越すのではないかと嬉しいのか悔しいのか、シリウスは少しはにかんだような笑みを浮かべた
「もう少ししたらハーマイオニーやウィーズリー家が此方にやってくるだろう…。それまで友としての会話を楽しもうじゃないか」
「…そうだな」
シリウスとリーマスとこうやって話すのはかなり久々なような気がする。懐かしく思ってしまうのは何故なのだろうか
「おいおいおいー俺を除けものにするなよ~」
「げっ」
クライヴが近付いてくると一目散に逃げるシリウス。それを楽しそうに見ているリーマス。なんとも不思議な光景…
「俺の血を引く者よ!久方ぶりだな!」
「…あなたの孫じゃありませんが」
「まぁ細かいこと気にすんなって!黒わんこ!次は何して遊ぶか!」
「やめろ!近づいてくるな!俺は静かに過ごしていたい!」
あのシリウスが静かに過ごしていたいだなんて―――――なんと珍しい発言やら
「…ふふふ、クライヴはジェームズの50倍くらいのハイテンションでねぇ……シリウスでもあのテンションについていけないでいるんだよ」
「………そういうことか」
確かにクライヴのテンションは異様に高いと思う。あのシリウスを負かして(?)しまうなんて、相当なものだ。名前は密かにクライヴの手から逃れようとする友人にエールを送った。
久々に夢を見た。優しい夢を…
『ねぇセブルス、こんなのはどうかしら』
『…名前は男だ』
――――優しい夢を?
『だって…かわいいからいいじゃないvきゃー女の子みたいだわv』
アリスは2歳の名前にフリフリのワンピースを着せて写真をたくさん取っていた
『うふふふふ』
『……(可哀想に)』
『…?』
母親のされるがままになっている我が子を遠くから見守る父親
『…大きくなったら黙っておいてあげなくちゃね』
『―――当たり前だ』
「よーっす!マイベイビー!」
優しい夢が一気に崩れた瞬間だった。
「―――クライヴ」
「ヨッスヨッスショッス!おはようさん、朝だぜ」
「―――(ショッス?)分かった。」
部屋のドアは魔法でしめておいたはずなのに……何故クライヴがここにいるのだろうという疑問は頭の隅にやり、朝食を取りに行くことにした。
「…名前、お前低血圧だろ」
「……まぁ。でも何故わかった?」
「レーガンの血を引く者たちは全員低血圧なんだよ。俺もだけどな!カッカッカ!」
朝からハイテンションで人の部屋に勝手におしかけてくる男が低血圧な訳ない。この人と血がつながっているなんて……
「なんだよその顔。おー!黒わんこー!!グッモーニン!!」
今度は標的をシリウスへと変更し、シリウスに飛びつく大祖父さんを名前は苦笑いした。本当にこの人はあのヴォルデモート卿とかつて友人だった人なのだろうか
「やめろ!離れろ!苦しいだろ!!」
シリウスは首を締め付けるクライヴの腕をばんばん叩いて苦しんでいた。本当に朝からこの人たちはにぎやかだ…
名前はそんな二人を放置し、ダイニングへと向かった。(擦れ違い様、シリウスに助けを求められたがあえて空耳だということにしておいた)
「―――朝から本当に元気だね、あの2人」
「…あぁ。あの人と血がつながっているなんて想像ができない」
「ほんとうだね」
リーマスと一緒に話をして、しばらく経ったころにようやく2人が腹の虫を鳴らせてやってきた。
「あー腹へった!いやぁ50年分飲んで食って動かなくちゃ気が済まねえ!まぁ黒わんこ!」
「だからその呼び方やめろって!」
こちらから見れば2人はまるで漫才師だ。シリウスは嫌がるものの、まんざらでもなさそうだった。きっとこの二人は気が合うのだろう……そしてジェームズに少し似ている部分があるクライヴにジェームズを重ねてしまっているのもあるのかもしれないが・・・
「なぁなぁ、ところで今日だろ?ウィーズリー家が来るのは」
「そうだけど――――急に激しい挨拶をしちゃダメだからね?」
リーマスが通常より2倍ほど腹黒い笑顔でにこりとクライヴに笑いかけた。
ビクッ
クライヴはまるでおびえたような子犬のようなまなざしで小さく「はい」とつぶやく。
やはりどの人にとってもリーマスという人間だけには逆らえないのだろうか
…自分も例外ではないが
「わ…わかってるよ、や、やだなリーマス…は、はははは」
「「絶対わかってない(ねぇ)」」
名前とシリウスは心の中でツッコんだ
ウィーズリー家とハーマイオニーにはクライヴのことを説明するだけで一日かかった。
それもそうだ、死んだと思われた人間がここにいるのだから。
「ほーう…それであなたは例のあの人の杖に封印されていたと―――・・・」
「あぁ、まぁそういうこと。それにしても説明めんどくs」
「どうしたんだい?クライヴ」
めんどくさいという言葉を無理やり喉に押し込み、苦し紛れの咳払いでその場をやり過ごすクライヴの情けない姿を名前は脳裏によーく焼きつけておいた。
名前にはこの夏、あらかじめ予測していたことがあった。
ひとつはハリーがこの屋敷に入ってきた時の衝突。
ふたつはウィーズリー家男子諸君の宿題を手伝わされること。
みっつはハーマイオニーから勉強のことに関して色々と質問されること。
そしてよっつは――――・・・
「「師匠と呼ばせてください!!Mr.レーガン!!」」
…あの双子とクライヴが同調することだった
「うるさいわよあんたたち!!何時だと思ってるの!?」
「「ママ!見つけたんだ!我らが尊敬すべき人生の師匠を…!」」
双子は夜遅いにも関わらず、クライヴに弟子入りをと部屋でわめいていた。部屋は彼らの隣なので実にうるさくて勉強に集中できなかった
あとここの数式さえ計算すれば魔法薬の原点へたどりつけるのに――――
パリン
そのとたん、何かが破裂したような音が聞こえた。
嗚呼またやってしまった…
名前は音のしたほうへと足を向かわせると、そこには無残にも粉々に散った花瓶があった。時々こうしたストレスで感情的になったりすると、こういうことになっていた
「…また、魔力の暴走……」
ヴォルデモートの魔の手は名前の私生活にも及んでいた。
去年は感情的になったりすることはあったが、こんな風に直接的に力が動くことはなかった。つまり、ヴォルデモート卿の力がどんどん強くなってきているとういうこと。
「名前――――魔力が暴走したな?」
「…!」
「なんだよ、その顔。夜は特に魔力が研ぎ澄まされるからさ…わかるんだよ、お前が“あいつ”に振り回されていることぐらい……」
いつもへらへらしているクライヴは今回ばかりは真剣なまなざしで名前を見つめていた。そうだ、この人はレーガン家の人間なのだ…自分と同じ血を引く人なのだ
名前は改めて思った
「…あいつ、力が日増しに強くなってきてる・・・・・・。悪いな、俺があの時止められていれば――――お前たちが苦しむ必要はなかった」
「……クライヴが悪いわけではない」
「ごめんな…ごめんな…ごめんな…ごめんな……」
顔をうつむかせながら弱い力で名前の頭をなでるクライヴの姿が見ていられなかった。同時にこの人がいかに優しい人間なのかが分かった。
きっと顔を見たら今にも泣きそうな顔をしているに違いない。今にも崩れ落ちそうな体が、いつものクライヴを思い浮かべることは不可能だった。