32 それこそが、真実/アズカバンの囚人

「―――校長先生!」

「・・・名前 、日没は外出禁止ではなかったかのう?」

ダンブルドアは急いでかけてきた名前 の姿に驚いた。しかし手にもっていた外出許可を見て納得した。

「君は・・・名前 だね?」

「―――Mr.マクネア、お久しぶりです」

マクネアはセブルスと同期の人で、同じ道を歩んだ人だ。滅多に会うことはなかったが、セブルスの付き添いで彼の家に訪問したことはあった。

そんな様子を、ハリー達が見ている事とは知らずに・・・

「おお、君はセブルス・スネイプの―――君の魔法薬の才能は父親譲りだときいているよ」

「ありがとうございます」

ファッジは名前 の肩をぽんぽんと叩いた。
この人は名前 の才能を気に入っているらしく、ホグワーツを卒業したら魔法省へ来ないかと前々から言われていた。名前 も魔法省という安定職に就けれればスネイプ家の次期当主として格好がつくし、家名は守れると思っているので将来は魔法省で働く気だった

「うむ・・・名前 は聞いておるかもしれぬが―――今はちと話をしている時ではないのじゃ。後からわしが君を迎えに行くからセブルスの私室で待っていてはくれんかの?」

「―――はい」

名前 は仕方なく、セブルスの私室へと戻って行った。
セブルスは私室から慌しく出て行った。名前 は先ほどからいやな胸騒ぎがしていた――――何か、今夜起こりそうな・・・・

あの言葉を再び思い出した。あれは恐らく予言―――――・・・紛れも無くヴォルデモート卿の予言なのだろう。闇の帝王が12年間縛られていた召使の手によって復活し、以前よりも恐ろしく――――そして彼女が覚醒する、と

彼女とは一体誰なのだろうか。あの時、過去の世界での記憶を皆に戻してくれた人と同一人物に違いない。闇の時代が再び訪れ―――――しかし彼女とは一体どういった存在なのだろうか。
しかし悩んでいても答えは出てこない。逆に帰りの遅いセブルスに不安を覚えた名前 は、杖をきちんとポケットにしまったことを確認してセブルスの出て行った方向へと向かっていった。暴れ柳が大人しくしている―――――まさかと思い急いで屋敷へと入っていった

複数の声が奥の部屋から聞こえてきた。名前 は急いで音のほうへと進むと――――・・・そこには

「・・・父上!」

「「「「「「名前 !?」」」」」

セブルスが頭から血を流してぐったりと壁によりかかっていた。名前 は一瞬思考回路がショートしてしまったのではないかと思った。急いでセブルスの元へとかけつけた。息があることを確認し、フェルーラと唱えて応急処置すると、その場にいた人たちを恐ろしいほど鋭い眼光で睨み上げた

ロンはヒィっと悲鳴をあげ、床に倒れこんだ

「――――名前 、私たち・・・」

「ご・・・ごめ」

「・・・お前達は、ここで倒れている父上を見てどう思った?愉快か?憎い相手が頭からダラダラと血を流していて嬉しいか―――――?」

「名前 ッ・・・ご、ごめ―――――」

「ごめん、な・・・・さいッ」

ハーマイオニーはついには泣き出してしまった。泣きたいのはこっちのほうだ―――名前 は心の中で毒づく

「・・・リーマス達も、嬉しいのか?スニベリーがこんな風に倒れていて」

ぎろりとリーマスとシリウスを睨みあげた。2人は恐ろしさと動揺で脂汗を流した

「・・・名前 、元はと言えばこいつがリーマスを人狼と貶した上に、ハリー達のことも貶した!」

シリウスは搾り出すように声を出す。が、それはどこは震えていた

此処にいる誰しもがヴォルデモート卿よりも名前 のほうが恐ろしいと思ったに違いない。

「―――ほう、それで?」

「・・・だからっ」

「シリウス!君は黙っていたほうがいい!―――――名前 、聞いてくれ、これには・・・」

「リーマスはハリーに命を重んじていないと叱った、しかしこの醜態はなんだ?命を重んじていないのはどちらだ――――?」

もはやこの場で誰も口を聞けずにいた。そしてロンが握っているピーターをむんずと掴み、睨み上げた。ピーターは名前 の恐ろしい眼光に悲鳴を上げ、動けずにいた

「ピーター、往生際が悪いと思わないか?」

「名前 ・・・な、何を・・・」

ロン達は名前 の行動に一瞬固まった。リーマスだけは1人驚いたように名前 を凝視していた

「・・・もういい。反省していればな。」

名前 はシリウス達に振り返って冷たく言い放った。

「―――名前 は何でこの人たちとファーストネームで呼び合う仲なの?」

ハーマイオニーが恐る恐る口を出した。

「・・・ハリーには説明したが、僕は2年生の頃、過去の世界へと行っていた。詳しくはハリーから聞くといい。こいつはピーター・ペテグリューというとんだ愚か者だ。」

名前 は毒々しく続ける

「友をヴォルデモート卿に売った張本人。自分の命ほしさにな・・・」

いつもよりも声のトーンが幾分低いためか、名前 の声には威圧感があった。ハリー達は黙って名前 の話を聞くことにした

「秘密の守人だった、ピーターは。シリウスではなく――――」

名前 はシリウスから聞いた話を淡々とした。そして今までどうやってシリウスに食事を持って行ったのかなどなど詳しく話した。ようやく3人は名前 の話を信じてくれたらしく、リーマスとシリウスはホッと胸をなでおろした。

リーマスとシリウスが同時にピーターに向けて魔法を放つと、ピーターの本来の姿が現れた。頭は剥げ、なんともみすぼらしい姿。名前 は、昔と随分様子の変わった友人を哀れんだ。
「シ、シリウス・・・・・・リ、リーマス・・・・名前 ―――――」

今のピーターに、昔と変わらない姿の名前 についてとやかく考える余裕はなかった。

「友よ・・・・・・なつかしの友よ・・・・」

「ジェームズとリリーが死んだ夜、何が起こったのか、いまおしゃべりしていたんだがね、ピーター。君はあのベッドでキーキー喚いていたから、細かいところを聞き逃したかもしれないな―――」
「リ、リーマス」

ピーターが悲鳴を上げる。そして哀れにも弁解しようとするがことごとく打ち壊される。誰も、事実には勝てやしないのだ―――

「ハリー・・・ハリー・・・・・・君はお父さんに生き写しだ――――そっくりだ」

するとシリウスが怒鳴り上げた。

「ハリーに話し掛けるとは、どういう精神だ?ハリーに顔向けができるのか?この子の前で、ジェームズのことを話すなんて、どの面下げてできるんだ?」

「ぁ・・・名前 、君ならわたしが無実だと証明してくれるよね?君は賢い子だから―――」

名前 に触れようとした手を、ぱしんと冷たく払いのけ、言い放った

「・・・哀れだなピーター。」

名前 の瞳は冷たく、身も凍るようなほどだった。ハリー達もこんなに怒り狂っている名前 を見た事はなかった。恐らくドラコですらないだろう――――
ピーターは名前 から急いで離れ、ハリーにすがる

「ハリー、ジェームズならわたしが殺されることを望まなかっただろう・・・ジェームズならわかってくれたよ、ハリー・・・・ジェームズならわたしに情けをかけてくれただろう・・・」

「お前はジェームズとリリーをヴォルデモートに売った」

結局どう弁解しようとも事実は変わらないのだ。ピーターはジェームズたちをヴォルデモートに売り、悲しむ人たちを増やした

「それなら、死ねばよかったんだ!友を裏切るくらいなら―――――!」

シリウスはピーターに物凄い形相で吠え掛かっている。名前 はこの憎しみで充満した空気をずっと吸ってはいたくなかった。耐え切れず、ハリーが叫ぶ

「やめて!殺してはだめだ!」

その声に2人はショックをうけたようだ

「ハリー、このクズのせいで君はご両親を亡くしたんだぞ」

「このヘコヘコしているろくでなしは、あのとき君も死んでいたら、それを平然として眺めていたはずだ。聞いただろう。小汚い自分の命のほうが君の家族全員の命よりも大事だったのだ」

―――確かにピーターの感情は人間らしい感情ともいえるだろう。人間の感情の真髄なのかもしれない。人間誰しもがシリウス達のように勇敢ではないのだから
だからこそピーターを哀れんだ。彼は彼らと出会うべきではなかったのだ、と

「君は――――ありがとう――――こんなわたしに――――ありがとう」

「放せ」

ハリーは汚らわしいとばかりにピーターの手をはねつけ、吐き棄てるように言った。手をはねつけられた時のピーターの表情は滑稽なものだった
ピーターの命は救われたが後にこれが大惨事を招こうとは名前 ですら思わなかった。ピーターをディメンターに突きつけることで話は収まり、セブルスを名前 が魔法の担架で運び、リーマスとロンがピーターを拘束した。
今日は綺麗な満月だった気がする。名前 は細い道を歩きながら思い出した。名前 の後ろではハリーとシリウスが楽しそうに会話をしていた。先ほどとは一遍変わった様子で―――

外へ出てから、緊急事態が発生した。リーマスが人狼薬を飲み忘れ狼に変身し、隙を見てピーターは逃亡してしまったのだった。シリウスがアニメ―ガスに変身しリーマスを追って行き、辺りは修羅場と化した

「・・・僕は父上を医務室へ。ハリー達はシリウス達のところへ」

名前 はハリー達にシリウス達の追跡を頼むと、急いで医務室へとかけこんだ。包帯ぐるぐるのセブルスを見るなりマダムは急いでベッドへ寝かしつけた
「どういう事です―――、一体」

タイミングよくダンブルドアが駆けつけてきた

「ポピー、少し席をはずしてもらってもかまわんかの?」

「―――えぇ」

怪我人を放ったらかして何を話すのだとマダムは言いたかったが、しぶしぶ医務室から出て行った。

「・・・校長、シリウスは無罪だった―――」

そして名前 はシリウスが言っていた事実を全て話した。ダンブルドアはようやく話がつながったのか、ぽんと手を叩いた

「・・・そうじゃったのか―――それで、ハリー達はどうしておる」

「今、シリウス達の追跡を・・・」

そこで名前 ははっとした。今ホグワーツには何がいる――――――?

「―――ディメンター」

名前 はダンブルドアの制止を無視し、急いで森へと向かっていった。ディメンターの気配がするほうへずんずん進んで行く・・・すると一匹の牡鹿のパトローナスがディメンターを追いやっているのが目に入った。

――――あれはハリーの魔力・・・
そこでハリーがパトローナスに成功したのだと知った。ハリーはあの複雑な呪文を――――やり遂げてみせたのだった

しかしはハリーの魔力だけではディメンターを全部退治することはできなくて、牡鹿がディメンターを少し追いやった後すぐさま消えてしまった。

「エクスペクト・パトローナム!」

名前 は力を振り絞って呪文を唱えた。杖から勢いよくバジリスクが現れ、ディメンター達を飲み込んでは退治していった。名前 のバジリスクはもはや獲物を狙う猛獣だった。一匹もいなくなり、辺りが静まり返ると名前 はハリーの倒れているほうへとかけつけた。タイミングよくダンブルドアが駆けつけてきたおかげで無事ハリー達をホグワーツへ連れて行くことができた。

そしてシリウスは――――

「よくやってくれた名前 ・・・礼を言おう。君のパトローナスのおかげでディメンターどもを全て消し去ることができた。そしてハリー達の命も救えた・・・」

「・・・いいえ」

このままではシリウスが捕まってしまう。名前 は校長室で悶々と考えていた。しかしそんな名前 の考えを見通しているのか、フォッフォッフォと優しく微笑むと校長室にもうひとつある逆転時計を指差した

「―――大丈夫じゃよ、名前 。さて、わしは彼らのもとへいなかくては・・・」

そうか、そういうことか―――ハーマイオニーは確か・・・
これならばシリウスを救える。名前 はハリー達が任務を成功できるようにひたすら祈った。そしてシリウスはハリー達の手によって無事、ホグワーツから脱出することが出来た。しかしリーマスがホグワーツを去らなくてはならなくなってしまったのだ―――――これもまた然り。
名前 はダンブルドアに許可を貰い、馬車の中まで見送る事を許可された。学校を辞め、リーマスの表情はどこか寂しげだったが、やってきたときよりも遥かに表情は明るかった

「・・・色々あったな、この1年間」

「君にとってはホグワーツに通ってから、だろう?」

「――――まぁな」

確かにここに通い始めてからというもの、感情表現は豊になったし人間としてやわらかくなってきたし―――人を思いやるようにもなった

「でも君が事実を知っていたなんて驚きだ・・・僕に言いたかったんだろう?事実を――――でもなんで言わなかったんだい?」

「・・・リーマスは僕が言わなくてもシリウスを信じていると思っていた」

これは勿論嘘。でもこんな嘘が今のリーマスにとっては優しさなのだ
だからこそ名前 は嘘をついておいた。実際のところはなかなか話すタイミングが無かっただけなのだが・・・

「―――ありがとう、名前 」

「僕は何もしていない」

「君がいたからこそ・・・きっとあの時ハリー達は信じてくれた。」

「・・・ハリーは僕が弁解しなくても、きっとシリウスを信じるだろう」

だからセブルスを攻撃した――――違うか?と言うとリーマスは苦笑した

「・・・あれは悪かったよ、でも君が怒った姿を僕は初めて見たよ」

普段怒らない人を怒らすと怖いというが、本当にそうだと思った瞬間だった。リーマスは名前 のあの鋭い眼光を思い出して身震いした

「―――そんなに恐れなくても・・・」

ハリー達に名前 を怒らせたら恐ろしいと知らしめたので、今後一切ハリー達は名前 の怒りに触れるようなことはしないだろう。無論、シリウスも―――

「ハリー達にはあの地図、返したのか?」

「え?あぁ・・・もう教師じゃないからね」

「―――寂しくなるな」

「ふふ、ありがとう名前 。さぁ、もうすぐ到着だ―――君は一生懸命勉強して、夢を実現させるんだ。そしてハリー達の友達でいてほしい」

「・・・無論だ」

「そうだ・・・アルからあずかりものがあるんだ」

アルの名前を聞いたとたん、名前 は目を見開いた。

「アルベルトがね・・・・・・ヴォルデモート卿に殺される前、僕にこれを預けたんだ」

リーマスは小さなロケットを名前 に渡した。

「―――遠い未来でこれを渡して欲しい人物がいるって言われてね・・・でも一体誰なんだいと聞いても彼は何にも答えてくれなかったんだよ。ただ必ず出逢えるといわれただけで――――・・・たぶん、それは君のことなんだと思う。だから君に渡しておくよ」

ロケットを受け取ると、それは随分見た事のあるペンダント――――名前 が今つけているアリスの形見のペンダントと同じもの――――スリザリンの血を引く者の証だった

「・・・ありがとう」

名前 は大事そうにぎゅっと受け取ると、ロケットを首に下げた

「リーマスはレーガン家のことについて何か知っているか?」

「うーん・・・アルが少し教えてくれた程度かな、ヴォルデモート卿と親戚だったぐらいかな――――――」

「親戚―――?」

純血同士は何かと血のつながりはあったが、ヴォルデモートはハリーが言っているとおりならば混血のはずだ。いや、しかし片方が純血ならばありえる――――しかしどこでどう繋がっているのか・・・
レーガン家について調べても何ものっていないのが事実で、探すのは困難を極めるだろう。それにマーミッシュ語をまだマスターしていなかったのでレーガン家について調べるのは随分先延ばしされるだろう。

「レーガン家のことは名前 、きっと君が一番知っていると思うよ―――じゃぁ、到着したみたいだから。じゃあね、名前 ・・・頑張って」

「―――リーマス、身体は大事にしろよ。」

「それ、名前 が言えるのかい?」

リーマスはふふっと笑うと名前 の頭をぽんぽんと撫でた

「・・・背、伸びたね?今の時期はぐんぐん伸びるからね」

「・・・そうかもしれない」

名前 は確実にこの1年間で4センチは伸びている。身長は当にドラコやハリー達を越していた

「君とお酒を飲むときを楽しみにしているよ」

「―――あぁ」

シリウスとリーマスと3人でお酒を飲める日がやってくると信じていた。でもそれも儚い夢なのだと2年後、知らしめられるのだった―――――・・・