すると犬が更に驚く。
・・・まぁ、無論わざとなんだがな
「・・・お前、孤独だったんだな・・・・・・一匹で」
名前 が優しく頭を撫でると黒い犬兼シリウスは瞳と耳を寂しげに伏せた。
―――――犬化しすぎだ、シリウス・・・
心の中で呟いた。
「明日、お前に餌を持ってきてやる・・・そうだな、チキンとかはどうだ?」
チキンという言葉にシリウスは耳をびょいんと立て、ヘッヘッヘと舌を出しよだれをたらした。
――――シリウス・・・いや、もう何も言うまい
名前 は今後、シリウスの犬化について触れない事にした
外に続く出口を見つけたので、シリウスを外に出してやるとシリウスはワンワンと名前 に吼えた。恐らく名前を聞いているかお礼を言っているかのどちらか・・・。いや、この場合は前者か
「・・・僕は名前 ・スネイプだ。また会おう、パッドフット」
外を見たときにはもうシリウスは消えていた。
・・・名前を聞いて驚いたのか・・・・・・・・・まぁ、そりゃぁそうだろうな
最初、ホグワーツでも随分驚かれたものだ。最近では全然なくなったが・・・
どうにか広間へたどり着けたとき、蒼白そうなスネイプとマクゴナガルとダンブルドアに出迎えられて驚いた。
「・・・えっと、その・・・・・・」
「どこを出歩いていた!馬鹿者!」
「――――ッ」
「そうですよMr.スネイプ・・・先ほどグリフィンドール寮にシリウス・ブラックがやってきたというのに――――貴方は一体何処で何をしていたのですか!?」
さっき、かなり犬化したシリウスとであったばかりだったけどな・・・
「・・・階段を間違えてしまい、知らないところへ降りてしまい・・・それでようやく此処へ」
「無事だったのもたまたま運が良かっただけだ!お前は―――――どうして」
「まぁまぁセブルス、落ち着くのじゃ・・・。名前 、君をすごく心配しておったのは分かるじゃろ・・・?特にセブルスは――――・・・」
ダンブルドアが強く名前 を睨むと名前 は申し訳無さそうに謝罪した
「・・・申し訳ありません」
「―――頼む、自ら危険に飛び込まないでくれ・・・・・・」
スネイプは弱弱しく名前 の肩を抱く
「・・・父上」
父上、いつまでたっても貴方に心配ばかりをかけさせてしまう親不孝者な息子でごめんなさい・・・・・・・・・
その後、名前 も他の生徒同様、広間の寝袋で寝る事となった。
「・・・君って間抜けだと思うよ」
「・・・ありがとうな」
「褒めてない!心配したんだぞ―――特に君の父君の動揺っぷりはすごかった・・・」
「・・・僕は親不孝者だな」
「そう思うなら自ら危険に飛び込むような真似だけはやめてくれ・・・僕からの願いだ」
「・・・あぁ、約束する」
ここまで自分を心配してくれる父親と親友に改めて感謝し、眠りについた。
眠りにつくと、不思議な夢を見た―――――
そこはホグワーツだったが、随分昔のようにも思える。大きな木の下で1人のメガネをかけたプラチナロンドの少年がにやにやと笑っていた。
何がそんなに面白いのだろうか・・・
その少年は草を見つめてにやにやしているのか、本を見てにやにやしているのか―――どっちにしても不気味である
『ちょっとクライヴ、気持ち悪いよ』
『ヘヘ、やぁ―――!君にそういわれる日がやってくるとはね!』
『・・・超失礼。』
―――なんだって、クライヴだって?
名前 はこのクライヴと呼ばれる少年があの変人クライヴと呼ばれる少年と同一人物だと思った。そしてクライヴに話し掛けてきた少女は長くて美しい黒髪を二つに結わき、片手にはスケッチブックを持っていた
『ねぇ―――、俺のお嫁さんになりなよ』
『嫌だね、こんな変人。いくら兄貴の親友でもね』
『そんな変人に話し掛けるのも唯一、ハグリッドと君のお兄さんと同じく変人仲間の―――だけだよ』
クライヴは女性がコロッと傾きそうな笑顔を向けるが、相手の少女には一切効果が無いようだ。クライヴと話している少女―――瞳がなんとなく赤い気がした。
そしてかなりの美少女で、クライヴもかなりの美少年だった。2人ほどお似合いのカップルはないだろう
『愛なんてさ、興味ないの。興味あるのは絵と、兄貴のことだけ』
『親近相姦って言うんだよそれ~ヤラシ~』
『ま、どうとでも言ってよ』
普通の女ならば此処の時点で相手を蹴り倒すくらいしているであろう。しかしこの少女はへらへらと笑い、その少年の隣に腰掛けた
『変人同士、嫌われつづけようじゃないの』
『あれ、俺って嫌われてたの?』
『うん、そうらしいよ。兄貴の部下が言ってた』
『まぁ好都合だよ、1人のほうが好きだし』
『ま・・・それは私もだなぁ』
朝が近づいているらしく、どんどん景色が離れていく。そして少年少女の声もまた―――
まだ、まだ夢をみていたい・・・なにか重要なことが隠されている気がする・・・だから、どうか―――――
名前 の願いも虚しく、朝日を浴びて目覚めてしまった。名前 はむくりと起き上がり、昇りゆく太陽を睨み上げた
シリウスがホグワーツへ侵入してきて、ホグワーツはその話題で溢れ返ってきた。皆本当のシリウスのことなんて知りもしないのに口からでたらめばかりを吐いてくる・・・
正直今のホグワーツにいて明るく元気に過ごせるとは到底思えなかった。ストレスで胃に穴が空きそうだった
そんなストレスのためか、名前 はクイディッチの試合の日だというのに倒れてしまった。何だか必ずクイディッチの試合の時に倒れているような気がするのは気のせいなのだろうか。タイミングよく訪れる入院に今回は少し感謝した
「ストレスを溜めすぎですよ、Mr.スネイプ」
「・・・」
ストレスが溜まってしまったのは他にも理由があった。
シリウスと会った日、ちゃんと翌日チキンを持っていくと言って持っていったものの、シリウスは一切口をつけなかったのだ。セブルス・スネイプの息子なのだ から警戒しているのだろうけど、なんだかそう思うととてつもなく悲しくなった。何故そこまで毛嫌いするのだろう―――・・・
終いには、以前ハリーがリーマスにスネイプの事を悪く言っていたことを思い出してしまい、気持ちは更に落ち込んでいってしまったのである
「・・・」
「どうしたのですか?Mr.スネイプ・・・声が出ないのですか?」
マダムは急いで喉がよくなる薬を持ってきて飲ませたが名前 の声帯から声が出てくるようなことはなかった。
「―――・・・」
精神が乱れすぎて言葉すら発する事ができなかったのだ。ここまで精神的に来てしまったのも今までずっと不安や悲しみ、理不尽な現実を心の中に溜め込みすぎていたからだった。名前 は元々愚痴などを口に出して言わない性格だったので、余計に溜め込んでしまったのであろう。
「あぁ大変だわ・・・・・・急いでスネイプ先生を呼んできます、貴方は此処で安静にしていなさい」
マダムはそう言うと駆け足で競技場へと向かっていった。
そしてまもなく、スネイプが血相を変えた表情で駆けつけてきた
「―――名前 、お前・・・声が出ないのか」
「・・・・・・(そうです)」
「・・・名前 」
スネイプはその場でずるりと座り込み、名前 の頬を撫でた。
「――――お前がそんなになってしまうとは・・・我輩は父親失格だ・・・」
「・・・・・(いいえ、そんな―――)」
スネイプは口の動きだけで言葉を聞き取ることが出来たので親子の会話はどうにかなりそうだった。が、しかしここまで精神的に参っている息子の姿を見るのはあまりにも辛い。
「・・・すまん、名前 」
「・・・・・・」
スネイプは息子をぎゅっと抱きしめた。
名前 は無力な自分を呪った。そう、強くならなくては――――心も、何もかも
スネイプがベッドの隣にある椅子に座った時である。マクゴナガルが形相を変えて医務室までやってきたのである。スネイプは急いでそちらへ駆け寄る
何か、いやなことが起きたのだろうか・・・
名前 はただ事ではない2人の様子を見て、呆然とするしかなかった。そして間も無く泥だらけでぼろぼろのハリーが魔法の担架で運ばれてきた
「セブルス、ポピー、あるまじき出来事がおこおったのじゃ・・・・・・」
ダンブルドアの形相は今まで見た事がないほど恐ろしいものだった。怒りに満ち溢れて・・・
この顔を見ればヴォルデモートですら縮み上がってしまうだろう
名前 は隣で応急処置をされているハリーを唖然としてみているしか出来なかった。しばらくしてダンブルドアが此方までやってきた
「・・・ハリーは無事じゃ。安心しなさい・・・・・・ディメンターが競技場まで入ってきたのじゃ」
そうか、それでダンブルドアは怒り狂っていたのか。そしてハリーは恐らくディメンターに近づいたせいで・・・・・・
「・・・・(校長先生、ハリーは無事で何よりですが、ハリーの箒はまさか―――)」
「ふむ、君が声を出せなくなってしまったのはセブルスから先ほど聞いた・・・まったくもって、君の心の負担すら軽く出来ないおじいちゃんで申し訳ない・・・」
ダンブルドアはやさしく名前 の頭を撫でると、ふっと微笑んだ
「・・・・・(校長先生には随分お世話になっています・・・感謝しきれないほど。)」
「君はそうやって甘えようとしない。もっと甘えてもよいのに・・・君はわしの孫なんじゃから」
まさか、まだあの時からずっと―――――
するとダンブルドアはお茶目に笑い、「君をそれくらい大切に思っておる、じゃから甘えてほしい」と優しく言った。