――――あの時、嫌な予感がしていたのだ・・・
名前 同様、スネイプもあの時確かに嫌な予感を感じ取っていたのだった。授業もいつも以上にイライラしながらしていたし、落ち着きがなかったのもそのせいだろう。
嫌な予感が的中し、廊下を歩いていると校長に名前 がヒッポグリフの鉤爪で負傷していると知らされたのだった。
ハグリッドの服は血まみれで、血なまぐさかったがそれぐらい血が流れ出てしまったということだ。医務室へ着くと緊急手当てが行われていた。マダムポンフリーは手際よく消毒し、名前 の傷口を魔法薬でふさいだ。
「名前 ―――!」
駆けつけ、最愛の息子の下へとやってくると痛みで悶え苦しんだのか、前髪が汗でぺったりとついていた。スネイプはそっと前髪をよけ、頬を撫でた
―――お前までいなくなってしまったら・・・我輩は―――――
スネイプの心は苦しみのあまり張り裂けそうだった。どうして自分はこんなにも無力なのだと。1年生の時も結局息子に印をつけさせてしまったし、2年生の時も倒れた息子に何にもしてやることができなかった――――そして3年生になってまでも・・・
目の前の1人息子は必死に痛みと戦っているのだ。そして自分はこうして見守ってやることしか出来ない―――――・・・父親失格だ
そして今、息子の無事を聞いたスネイプは急いでベッドに眠る名前 の元へと駆け寄った。痛みから開放されたのか、すーすーと寝息を立てて眠っている。
「・・・よかった―――――」
急に力が抜けてしまったのか、その場から立ち上がれなくなってしまった。
「・・・もう少しで危険でした、そちらには優秀な校医がいるみたいですね・・・。内臓には達していませんでしたがギリギリでした、骨の方は大分折れていましたがもう平気でしょう。貧血のほうも薬を投与したので時期に治ります・・・・・・」
「・・・ありがとうございます」
「いいえ、こんなに小さい子から未来という希望を奪ってはいけませんからね・・・しばらくは入院したほうがいいと思います―――そうですね、1ヶ月は」
「・・・分かりました」
そう言うと癒師は個室から去り、個室には名前 と父親だけとなった。
「―――お前が、無事でよかった・・・また、また目覚めないのかと―――――そしたら我輩は・・・」
暖かい息子の手を取り、スネイプは命ある暖かさをかみしめた
命のめぐっている、この暖かさこそ何よりも嬉しいことだった――――・・・
名前 が入院している間、授業のほうはスネイプが時々もってきてくれるレポートなどで補った。まだ体がうまく動かないので、車椅子無しでは動けなかった。
今日で入院して4週間目になる。あと1週間経てば丁度1ヶ月だ・・・退院の日まであとすぐだと思うとワクワクしてならない。ヒッポグリフに肉を抉られて倒れたときはどうなるかと思ったが、今では随分回復した。
貧血は収まったし傷の痛みも無くなったし、名前 の闇の印がついている左腕のほうは肌の色と同じ色になる包帯が巻かれているので問題は無かった。
「スネイプさん、お見舞いに来てる方がいらしてますよ」
看護婦がそう言うとその人物を名前 のいる個室へと案内した。
「―――ドラコ」
「・・・やぁ、名前 ・・・・・・僕・・・」
「謝るなドラコ。あれは僕が進んでやったことだ。進んで怪我をしたのだから、謝る必要はない・・・それに親友を守れてよかったとむしろ誇りに思っている」
「―――君は・・・本当に素晴らしい親友だよ・・・僕は君を親友に持てて幸せだ―――」
ドラコは学校の先生に特別に頼んでここへやってきたらしい。お見舞いの品をベッドの横へ置くとあの後起きた出来事を名前 に話してやった
ちなみに2週間くらい前にはマルフォイ・パーキンソン・クラッブ・ゴイル夫妻もお見舞いにやってきた。
「あの巨人、今度は永遠と虫の餌やりだ――――まぁ時期にクビになるからいいけど」
ふんとドラコは笑う。確かに今回、ドラコも悪いが最初の授業にヒッポグリフという危険性のある生物を使うのは流石に名前 ですらどうかと思った。
ハグリッドをかばってやりたいが、正直かばってやれる立場ではないのでハグリッドには申し訳ないが、なるがままになってもらうことにした。
そしてついに、名前 は退院を果たしホグワーツへと帰っていった。
退院を果たした名前 は、みんなから盛大な歓迎を受け、今ここにいた。
「本当に大丈夫なの!?」
「・・・あぁ、大丈夫だ。それよりスリザリン生の僕がここにいていいのか・・・?」
ここはグリフィンドール談話室だった。最初、ハーマイオニーに無理やり連れてこられる名前 をみかけたグリフィンドール生は驚いたものの、あっという間に話しに参加してきた
「本当に大丈夫なの?」
グリフィンドールの女子生徒が甘い瞳で見つめてくる。
「・・・あぁ、平気だ」
「名前 が聖マンゴに運ばれたと聞いて僕、死にそうだったよ」
ハリーとフレッドとジョージは、クイディッチの練習すら放棄してこちらまでやってきてくれた。皆名前 の背中に目をやっては大丈夫なのだろうかと口々に言っていた
「君が運ばれた後・・・スネイプ―――あー、君の父親は授業中すごかったんだよ」
ロンがすごかったを強調して言うとハリーも本当にすごかったと相づちを打った
心配で授業もなかなか出来なかったのだろう。そしてそのイライラをハリー達に当てていたに違いない・・・
「・・・すまない」
「何で君が謝るんだよ、そりゃぁ・・・うん、君の父親にはすごく意地悪をされたけれど・・・・・・だけどそうだよね、息子が聖マンゴにいるんだもん・・・。だから今度ばかりは何を言われても流しておいたんだ」
そう言うロンに名前 は礼をのべた。あの時なぜ庇ったのか、あの後どうなったのかを詳しく聞きだされ一通り話してからやっと名前 は開放された。
ふらふらと歩いているとスリザリン生の集団とであった。スリザリン生は名前 を見つけると急いで駆け寄ってきて名前 の無事を喜んだ。グリフィンドール生とは違ってなんでも聞き出そうとしないところこそ、スリザリンの美点だった。
ハグリッドの小屋へ行けばハグリッドと会えるだろうか・・・そう思い小屋へ向かう事にした。
「・・・ハグリッド、僕だ」
「―――名前 !」
ハグリッドは名前 を小屋へ招くと椅子へ座るように言った。ハグリッドの小屋は随分小さく、本当にここで生活しているのだろうかと疑問に思ってしまった
「そいつぁファングだ・・・」
「・・・ファング、か。いい名だ」
大きな犬は名前 に撫でられて嬉しそうに尻尾を振っていた。犬を見てシリウスを思い出してしまうのは何故なのだろうか―――
「茶でも飲んでいってくれ・・・」
ハグリッドは大きなロックケーキと紅茶を机の上に置くと、申し訳無さそうに謝罪した
「・・・すまなかった、名前 ・・・俺ぁ、まさかあんなことになるなんて―――思ってもみなかったんだ」
「・・・気にするなハグリッド。僕が勝手にやったことだ・・・それにドラコにも非がある」
「ほんとにすまねぇ!俺、お前になんてあやまっていいかわからねぇで・・・・・・最近ずっと悩んでおった・・・」
「・・・だから最近レタス食い虫なのか?」
「・・・あぁ」
「僕は気にしていないし怒ってもいない。だから気にするなハグリッド」
とは言うものの、ここは気にするなというほうが無理だろう
ハグリッドは未だに頭を上げる事ができず、謝り続け、泣いていた
「・・・じゃぁ約束してくれ、ハグリッド。これからは安全な生物だけを授業で出すと―――」
「あぁ、分かった」
ハグリッドは鼻水をすする
「・・・おまえさんを見てるとクライヴを思い出す・・・・・・」
「・・・クライヴ?」
「あぁ・・・俺の学生時代の友人の名だ。変わり者でよぉ・・・・・・よく変人クライヴって言われてたんだ・・・あいつもよく俺が何かに巻きこんじちまうと怒ってないから気にするな、俺が勝手にやったことだって言ってたもんだ」
ハグリッドに変わり者と言われたらそれこそお終いだと名前 は失礼な事を一瞬考えてしまった。しかしクライヴという人物、ただのハグリッドの友人だけでは思えなくてどこかひっかかっていた。
「―――さて、今世の中は安全じゃねぇ、ここのホグワーツも・・・。ディメンターがやってくる前に城に戻ったほうがいい」
「・・・わかった」
そう言い、紅茶と硬くて食べられなかったケーキのお礼を言うと城へと戻っていった。”クライヴ”という人物のことを考えながら――――
名前 は退院を果たし、ようやく落ち着きを取り戻してきた。忙しかったせいか、ハグリッドが言っていた変人クライヴのことをすっかり忘れてしまっていた。
そしてあっという間に10月末が訪れ、恒例のホグズミード週末がまじかにがやってきた。名前 は去年突然倒れたこともあって1年間は様子を見なくてはいけないと癒師に言われてしまったため、無論のことホグズミードへ行く事も禁じられている
「君はホグズミード、行くのかい?」
「・・・残念な事に父上はホグズミードへ行く事を承諾してくださらなかった」
名前 が少し肩を落として言うとドラコが「名前 の好きな物を沢山買ってくるから」と言い肩を叩いた。
「・・・ありがとう」
第一回のホグズミードまでに買ってもらいたい物のリストは作っておくと言い、名前 はハロウィーンのお菓子セット(双子の悪戯対策として)を通販で頼むべく、梟小屋までやってきた。
「ホグズミードです」
小屋には既に先客がいるらしい。しかし随分聞き覚えのあった声なのでちらりと覗くとそこにはハリーとリーマスがいた。
「・・・ハリー、ルーピン先生」
名前 の声に驚いたのか、嬉しかったのかハリーががばっと振り向くと梟はそれに驚いてばさばさと羽を羽ばたかせた
「やぁ名前 」
「久しぶりだね名前 ・・・!僕、君に色々と話をしたかったんだよ―――!君と話そうとするとマルフォイがいてさ・・・」
「・・・そうだったのか。僕も最近忙しくてな・・・丁度ホグズミードへ行かれないから丁度良いな」
「「えっ?」」
リーマスとハリーは同時に驚いてしまった。まさか名前 がホグズミードへ行かないとは思っても見なかったようだ
「・・・聖マンゴから言われているんだ、1年間は様子を見ろと」
「あぁ・・・そういうことだね」
リーマスとハリーは名前 がわざわざ残っている理由がようやくわかった。
「丁度よかった・・・2人とも暇なら、ちょっとわたしの部屋においでよ。ちょうど次のクラス用のグリンデローが届いたところだ」
そう言い二人を部屋まで案内すると、ソファに座るように進めた。
「・・・何ですか、この生物は?」
「水魔だ。首を締められないようにな、ハリー」
リーマスではなく名前 が短く答えた。
「名前 は流石だね、まったくもって勤勉だ。」
「名前 に知らないことは無いね」
ハリーがそう言うと名前 は首を振った。
「・・・違う、魔法生物飼育学と飛行術だけはあまり得意ではないんだ。」
「・・・そうなんだ、てっきり僕、名前 は完璧なんだと思った」
「―――完璧な人間なんて、いない」
完璧な人間なんていない。完璧な人間がいたらそれこそ恐ろしい存在だ――――完璧になってしまったら人間は人間ではなくなってしまうような気がした。何かが欠如しているからこそ”人間”なのだと――――
「・・・名前 の言う通りだよ、ハリー。完璧な人間なんて―――ね」
にこっと優しく微笑むがどこか辛そうなリーマス。机の上にある紅茶からリーマスの表情を見ると、今にも崩れ落ちそうな笑顔だった
名前 はそんなリーマスをついつい見ていられず、話をそらした
「ところでハリー、僕に話ってなんだ?」
「あっ、そうそう!去年の話を聞いて欲しいんだ!去年こそ君が必要だったと思う――――」
そしてハリーは名前 に去年起きた出来事を興奮しながら話し始めた。ドラコが言っていたとおり、ルシウスがヴォルデモート卿の日記をジニーの鍋の中に紛れ込ませ、秘密の部屋を開かせたという。そしてヴォルデモート卿の本名は”トム・M・リドル”だという事―――
ハリーが話している間、リーマスはそんな2人の様子を優しく見守るように見つめた。
「―――そんな冒険をしたのか。ハリーの人生は”冒険”の一言では言い収められない程壮大な人生だな・・・」
「うん。僕は平凡な日常が欲しいのになぁ・・・」
それは名前 も思っていた。ホグワーツに入学してからというもの、ハリー同様毎日が冒険のような生活だ。家にずっとこもっていた時よりも断然楽しいものだし、何よりも忘れかけていた感情を取り戻す事が出来た。
しかし最近は急に過去の世界へ飛ばされたり、ヴォルデモート卿に印をつけられたりと苦い思いでもあった。
ハリーに至っては生まれたときから既に特別だった。
ヴォルデモート卿の呪いを跳ね除け、実質上ヴォルデモート卿を失脚させた英雄となり有名となった。周りの人間はハリーを生き残った男の子と称し崇め、額の 傷をじろじろと見てくる。1年の時も2年の時もハリーの前には必ず闇が立ちはだかる。ハリーはそんな事、望んではいなかったのに――――ただ、幸せに暮ら したかったのだ、両親と・・・
「・・・ハリー、聞いて欲しい事がある。多分リーマスは知っていると思うが・・・・・・」
名前 の真剣な表情にハリーはリーマスを生徒なのにファーストネームで呼んでしまったことに気付かなかった。
「――――これを見て欲しい」
名前 は肌の色と同じになる包帯をぐるぐると取り始めた。
ハリーになら見せてもいい・・・いや、見せなくてはならないのだ
「―――――ッ!」
ハリーは名前 の左腕にある生々しい印を見てはっと息を呑んだ。
「・・・これ、君・・・・・・まさか」
「闇の印だ。1年のとき・・・ヴォルデモート卿につけられた」
「・・・そうなんだ・・・・・・だから名前 を見ると時々傷が痛むのか・・・・・・」
「―――今まで黙っていてすまない。しかしこれはハリーだから教えた。このことを知っているのはハリーとここの教師陣達しか知らない・・・。」
その中に親友であろうドラコの名前がないことにハリーは驚いた。
「―――えっ、僕が知っててマルフォイは知らなくてもいいの・・・?」
「・・・知らせてはならないと父上から言われている。」
なぜなら、マルフォイ家は今闇に一番近い家だから――――
いくら親友のドラコでもこれだけは教えられなかった。そのことで毎回嘘をつくたびに心が痛むのだ
「ハリーには教えたが、ハーマイオニーやロン達に教えるつもりは無い。だから黙っていてほしい・・・・・・ハリーならば信用できると思って教えた」
名前 の真剣な表情に、ハリーは「心にかけても」と堅く約束をした
「・・・僕嬉しいな、名前 が教えてくれて・・・。僕のことも君に全部教えるね・・・・・・それと、共に戦おう、ヴォルデモートと」
「―――戦おう」
この日、名前 とハリーは闇に立ち向かうと堅く誓いを結んだ。
そんな2人の誓いを横で聞きながら、リーマスは彼らを命にかけても守っていこうと誓ったのであった。
その後ハリーは名前 が入院している間、リーマスの授業で起きたことを話した。どうやらボガートとなぜかハリーとハーマイオニーだけ戦わせてくれなかったという事なのだ。
「でも、僕――――僕はディメンターのことを思い出したんです」
「そうなのか。いや・・・・・・関心したよ」
リーマスは恐怖そのものを思い浮かべたハリーにそれは賢明なことだったと言い、褒めた。確かにそれは賢明なことだ、と名前 も思った
「それじゃ、わたしが、君にはボガートと戦う能力がないと思った、そんなふうに考えていたのかい?」
「あの・・・・・・・はい」
ハリーは気恥ずかしそうに頷いた。
「ルーピン先生。あの、ディメンターのことですが―――」
話はノック音と共にやってきた訪問者によって遮られてしまった。
訪問者は名前 を見るや否や眉間に皺を寄せ、驚いた表情をした
「―――Mr.スネイプ、何故君がここにいるのかね」
「・・・世間話です」
スネイプは片手に脱狼薬を持ちながら早く寮へ帰れと目で訴えたが、名前 は素直に従わなかった。
「あぁセブルス、どうもありがとう。このデスクに置いていってくれないか?」
リーマスが笑顔でそう言うとハリーが視界に入ったのか、暗い瞳を細めた。薬をリーマスの机に置くとハリーとリーマスに交互に目を走らせ、最後に息子のほうへと走らせ「早く寮へ戻るんだ」といわんばかりの目をした
「ちょうどいまハリーにグリンデローを見せていたところだ」
「それは結構」
スネイプは冷たく言い放つと薬を早く飲むように促す
「はい、はい。そうします」
名前 はこの空気の中、父親の目線にどうにか耐え抜いていた。ハリーはそんな名前 を知ってか、正直名前 が可哀想だと思った
「たぶん、明日また少し飲まないと。セブルス、ありがとう」
「礼には及ばん」
そう言うとスネイプは再び息子に目を配らせ懇願する。名前 は申し訳無さそうに目をそらすと諦めたのか、部屋を出て行った。