25 それこそが、真実/アズカバンの囚人

「・・・」
あれほどじっとしていろといったのに・・・恐らく音か何かで驚いてどこか別のコンパーメントにでも逃げ込んだのだろう。
ホグワーツに到着するまで、名前 はドラコ達が気恥ずかしそうに言い分けをし始めるのを静かに聞いていた。

そんな、こんなで新学期。
今年も慌しいものになるのだろう―――――

城に向かうために馬車へ乗り込んだ。初めて馬車を使う名前 は馬車を引いている生き物に驚いた。

「・・・どうした名前 ?」

「―――いや、何でも無い」

どうやらドラコ達には見えていないようだ。まぁホグワーツで驚く事なんて1つや2つ、当たり前のようなものだ。名前 は気を取り直して先ほどからずっと読みつづけている『マーミッシュ語講座』という本を読み直すことにした

ホグワーツを見上げれば、ディメンターがうようよいたし先ほどパトローナスを使ったせいで魔力は減ったし・・・そんなこんなで組み分け儀式を飛ばしてまでも眠りにつきたかった名前 であった。
「ポッター、気絶したんだって?ロングボトムはほんとうのことを言っているのかな?ほんとうに気絶なんかしたのかい?」

馬車が止まったのをドラコの声でようやく気付いた。名前 は馬車から降りると今一度馬車を引いていた生物の瞳を見つめた。背後ではドラコとハリー達が言い合っているのも無視して――――
その瞳はどこか優しげで、どこか慈愛に満ちていて・・・。

「行くぞ名前 」

ドラコが名前 の腕をぐいと引っ張った。そこで話し合いが終わったのだと気付き引っ張られるがままに石段を登って行った。

「Mr.スネイプ、我輩のもとへ来たまえ・・・話がある」

大広間に足を踏み入れたとたん、スネイプに呼び止められてしまった。一体何をしたのだろうか・・・もしくはパトローナスの話なのだろうか。
ドラコ達をとりあえず先に行かせ、スネイプの事務室へと向かっていった。

「・・・パトローナスは成功したようだな、ルーピンから聞いた」

「・・・はい。」

どうやら列車での出来事もリーマスから既に全部聞いていたようで、名前 の適切な判断と行動を褒めてくれた。

「―――ルーピンには今後一切、近づくな。奴は危険だ・・・」

「父上、人狼だからといって・・・それは差別です」

「お前の身を案じているのだ」

「お気持ちは嬉しいです・・・・・・ですが父上、そのことはお応えできません」

恐らくこの感情には名前 への心配と、過去のしがらみの2つからくるものなのだろう。

「・・・ならば約束しろ・・・・・・ディメンターには絶対に近づくな」

「・・・はい」

今度は父親として名前 の肩を持ち力強く言うと、ドラコ達の元へ戻るように促した
「・・・失礼しました」

事務室のドアが閉ざされる。そしてスネイプは改めて息子が成長したことを思い知ったのだった。以前はあんなに意見をいうような子供ではなかったのだが、ホ グワーツに来てからと言うもの・・・きちんと意見するようになったし何よりも表情も随分和らいだ。身長も5センチは伸び、無論のこと魔力も大分上がった

―――子は親を越す、か

息子の成長にスネイプは微笑んだ。

一方広間では生徒たちが着々と席へ座っていた。ドラコの隣に腰をおろすと、ドラコの隣にいるパンジーが声をかけてきた。彼女はドラコにくびったけらしく、常に彼の周りにいる女子生徒の代表格みたいなものだ。

「名前 、大丈夫なの?」

「・・・あぁ、もう平気だ」

「わたし、本当に心配したのよ・・・まだどこか悪くない?」

パンジーだけではなかった。名前 が戻ってきた事にスリザリン生は湧き上がっていたし特に女子生徒からは猛烈な歓迎が待っていた。流石の名前 でもこれにはたじたじで苦笑するしかなかった。
組み分けが無事終わり、ダンブルドアがディメンターを配備したことを話し始めた。そして闇の魔術に対する防衛術に新しく担当になったリーマスの紹介をし、ハグリッドが魔法生物飼育学の担当になったという話を終えると食事が始まった。
広間中生徒の活気溢れる声が響く。新入生達は特に目をきらきらさせてホグワーツの天井を見つめていたりしていた。

「マルフォイ先輩にスネイプ先輩・・・ぼ、僕はスリザリンの1年生、ウィルテン・ベルグです!父上と母上が貴方方によろしくと言っていました!」

「ふーん、ベルグ家ね。分かった。席に戻れ」

「はい!」

スリザリンの新入生恒例の挨拶周りが始まった。無論、ドラコと名前 は1年のとき一切やっていない。別に挨拶する必要が無いからだ。むしろ上級生から挨拶をされてしまうくらいだ
「・・・静かに暮らしたいものだ」
「おい名前 、年寄り臭いぞ」

「・・・お前は楽しそうだな、ドラコ」

「ああいう奴を利用しないでどうしろって言うんだ?」

「・・・あぁ、そうだったな」

ドラコは利用法を考えているらしく、名前 ににやりと笑ってみせた。
そんな彼の性格も、名前 はよく理解していた。
授業もようやくはじまり、数占い学を取っている名前 たちは今ベクトル先生から授業を受けているところだった。
名前 達の席は教室の前側だったので、無論ハーマイオニーが授業を受けているなんて気付きもしなかった・・・

難しい教科だったが、名前 には好きな部類だったかもしれない。昼食の後に嫌なことが起こりそうだと名前 はなんとなく思っていた。そして昼食を終え、授業のあるハグリッドの小屋の側までやってきた。
名前 の嫌な予感を察してか、空もどこかねずみ色でどんよりしている。そんな名前 の気持ちなど知らずドラコはどこか愉しげだった。

「あの野蛮人、何をしでかすか・・・ちょっとでも何かしたら父上に報告してやる―――」

そんなドラコの呟きも、クラッブとゴイルのゲラゲラという笑い声も今の名前 にとっては聞こえていないようなものである。

名前 は必死にこの授業で何事もありませんように―――と祈った。実際は名前 の願いなんて儚くも消え去ったが・・・・・・

「さぁ急げ、早くこいや」

ハグリッドのそんな声が聞こえたような気がした。もうすでに名前 は上の空で授業のことなんか頭に入ってすらいなかった。ただ嫌なことが起きないようにと願うばかりで・・・

「さーて、イッチ番先にやるこたぁ、教科書を開くこった―――」

「どうやって?」

ドラコが冷ややかに言うとハグリッドは本の開き方を教えた。

「あぁ、僕たちって、みんな、なんて愚かだったんだろう!”撫ぜりゃー”よかったんだ!どうして思いつかなかったのかねぇ!」

ドラコが鼻先で笑いながら言う。しかし今の名前 にとっては蚊の音くらいにしか聞こえなかった

「お・・・俺はこいつらが愉快なやつらだと思ったんだが」

「あぁ、恐ろしく愉快ですよ!僕達の手を噛み切ろうとする本を持たせるなんて、なんてユーモアたっぷりなんだろうねぇ!」

「黙れマルフォイ」

ハリーが静かに言い放つ。
しばらくしてハグリッドが魔法生物が必要だといい、森へと消えていった。それをチャンスだと思いドラコは再び続ける

「まったく、この学校はどうなってるんだろうねぇ。あのウドの大木が教えるなんて、父上に申し上げたら卒倒なさるだろうなぁ―――」

「黙れ、マルフォイ」

「ポッター、気をつけろ。ディメンターがお前のすぐ後ろに――」

・・・ドラコもかなりびびっていたんだがな。
頭の隅でそんな事をぼんやりと思った

ハグリッドが連れてきた魔法生物に皆は気を取られてドラコのことなんか忘れられてしまったらしい。当のドラコもヒッポグリフの姿に驚いていた

「美しかろう、え?」

名前 の嫌な予感にどんどん近づいているような気がした。相変わらず空はねずみ色で森の木々は不気味に揺れている

「もうちっと、こっちゃこいや・・・」

ハグリッドがそう呼ぶが誰もそちらへ近づこうとしない。それも無理がある話だ

鋼色の残忍な嘴、大きくギラギラしたオレンジ色の目がまるで鷲のようだ。前脚の鉤爪は16センチくらいあって実に獰猛そうに見えるのだろう。実際、名前 もこの生物を生まれて初めて見たのだ。魔法生物は名前 の分野ではないので特に勉強したりはしていなかったので、名前 も周りの生徒と同じような意見だ。

「まんず、イッチ番先にヒッポグリフについて知らなければなんねえことは―――」

ハグリッドの説明を真剣に名前 は聞いていたが、ドラコ達は聞いてすらいなかった。これがまさか仇になるとは思ってもなく――――

そして見本としてハリーが実演することとなった。

最初は不安だったが、ハリーが礼儀正しくお辞儀をするとヒッポグリフのほうもお辞儀をしてきた。そしてハリーはゆっくりとヒッポグリフに近づき撫でた

クラス全員はハリーに盛大なる拍手を送ったが、ドラコ達だけは酷くがっかりしたようにため息をもらした。その後も順調で、ハリーはヒッポグリフの背中にまで乗せてもらっていた。

よし、このまま終われば――――

名前 はこのまま授業の終わりの合図が流れないかと願っていた。しかしそれも虚しく、他の生徒もハリー同様お辞儀をしヒッポグリフに触っていた。名前 も成功したが胸騒ぎがどんどん強くなっていくのを感じて親友のドラコの元へとやってきた

「やぁ名前 、見てくれ―――ポッターにできるんだ、簡単に違いないと思ったよ・・・」

ドラコは尊大な態度でヒッポグリフの嘴を撫でていた。

「おまえ、全然危険なんかじゃないなぁ?そうだろ?」

名前 の心臓の音はドクンドクンと強くなってくる。これは危ない―――嫌な予感が・・・

「醜いデカブツの野獣君」

その言葉がいけなかった。名前 はヒッポグリフの瞳がギラリと一瞬光ったのを見逃さなかった。そして悲劇は起きるのだ――――

「ヒッ―!」

「・・・っぐ!」

ヒッポグリフがドラコを襲おうとしたのだ。親友を守るべく間にはいったのはいいものの、プロテゴを唱えるよりも前にヒッポグリフの爪のほうが名前 の背中を深深と切りつけたのだった。ドラコも腕を少し切られ、名前 同様草の上に身を丸めて倒れた

「死んじゃう!」
ドラコは悲鳴を上げる。ハグリッドはヒッポグリフに首輪をつけようと格闘していた

「・・・・っぐ・・・・・・・・・・!」

名前 は痛みに悶え苦しんだ。肉が抉られ、血はどばどばと溢れ出してくる。肉が抉れて傷口に草が当たっている感覚が伝わってくる――――
このまま死んでしまうのだろうか―――・・・痛みで意識が遠のきそうだった

「僕、死んじゃう。見てよ!あいつ、僕を殺した!」

ドラコは喚き散らしていた。ハグリッドはそんなドラコに「死にゃせん!」と言うと隣で大量の血を流している名前 を見つけて蒼白となった。

「誰か手伝ってくれ―――!!この子達を医務室へ――――!」

ハグリッドが壮絶な痛みと戦っている名前 をそっと抱き、ドラコをクラッブとゴイルが医務室まで運んでいくとその場は騒然と鳴った。
草の上にはまだ大量の血が残っていた。それを見た女子生徒は悲鳴を上げたり、失神したりしていた。女子生徒だけではなく、男子生徒もショックを隠しきれないといった様子だ

「すぐクビにすべきよ!」

パンジーが泣きながら言う。泣くのも無理は無い・・・他の生徒も恐ろしさで泣いているのだから。しかしその場でマルフォイが悪いんだと言えた生徒は誰一人としていなかった。

「名前 が!ドラコが―――!あんなに血を流して・・・・!私、大丈夫かどうか見てくる!」

そう言うとパンジーは皆が見守る中、大理石の階段を駆け上がっていった。

他の生徒は各自寮へ戻ったがショックは大きく、名前 は無事なのだろうかと口々に言っていた。名前 の負傷を知り、誰よりも急いで駆けつけたのは父親であるセブルス・スネイプだった。

ドラコの傷は名前 が守ってくれたおかげで軽症だったらしく、包帯がぐるぐる巻かれているだけだった。隣で緊急処置をしてもらっている親友の姿を心配そうに、そしてハグリッドへの怒りと罪悪感を心に抱きながら見守っていた。

「――――名前 !」

「止血と消毒はしておきました、運良く臓器にまで至るようなことはありませんでしたが・・・これから聖マンゴ魔法疾患傷害病院へ急いで連れて行きます・・・スネイプ先生、ご同行をお願いします」

「無論だ!」

スネイプは痛みで苦しそうな息子の前髪をそっと手ではねのけてやった。

「・・・ち、ちうえ・・・・・・」

「もう喋るな・・・苦しむだけだ、これから聖マンゴへ向かう・・・・・・しばらく入院することになるかもしれん」

「そ・・・・・・」

また聖マンゴの世話になるというのか。名前 はこれで2度目の聖マンゴとなる
スネイプは名前 の汗をふき取ってやるとマダムポンフリーが持ってきた魔法の担架に名前 をそっと移動させた。医務室から出て行く最中、ドラコと目が合った。ドラコは今にも死にそうな顔をして此方を見ていた・・・そしてごめんと謝っていた

『・・・きにするな、おまえがぶじでなによりだ―――』

声には出なかったが、口パクでドラコに言う。それを聞いたとたん、余計ドラコが悲しそうな目を此方に向けてきて、最後に『・・・絶対無事に帰ってこいよ』と言い見送った。
聖マンゴに到着するなり、2階の生物性傷害のフロアへ運び込まれた。スネイプは息子の無事を必死に願い、椅子に座って待っていた。