16 ロングボトムの仕立て屋/シャボンディ諸島

「ロシナンテどうしたの?」
「ギィーギィー」

突然部屋から飛び出してきたロシナンテが名前の肩にとまり、威嚇鳴きを始めた。

「何かが来るの?」
「ロシナンテが空から何か来るって言ってるぞ!」
「えぇ!?」

すると、同じタイミングで魚たちも慌てたように逃げてしまった。空を見上げれば大きな魚のような乗り物に乗った男たちがいて、こちらの様子を伺っていた。どうやらあちらさんは“歓迎ムード”のようだ。
しかし、行ってみれば…なんとも…かわいそうな男がいた。まず、ナミたちが危惧していた通り、はっちんとやらはあの“ハチ”だったという事。ハチをとらえたのはケイミーを捕まえる為の罠だったが、彼女たちはルフィたちが取り戻した。そしてさらに―――一番の悲劇と言えば、デュバルという男。サンジの手配書とうり二つの顔をしており、その為突如命を狙われるようになり、その原因となったサンジを捕まえるべく海に出たそうだ。そんな彼も、サンジに返り討ちされ―――この海のどこかで元気にやっていくだろう。
デュバルはサンジのケリにより顔面整形されたようで全く別人の顔になっていた。
ちなみに、ナミとハチはひとまず和解?し、美味しいたこ焼きを楽しんだ。彼はタコの魚人族でその名の通り腕が8本生えていた。本当にここの世界はいろんな種族が暮らしているんだなぁと改めて実感する。

ひとまず一難去り、二難と続く前にパッパグたちが魚人島への行きかたを教えてくれた。本来であれば船を乗り捨ててレッドラインを地上から通り、新たな船で大陸の向こう側に行くという方法が安全なレッドラインの超え方らしいが、船を捨てずとも済む方法があるようだ。レッドラインの一部に穴が開いているらしく、向こう側の海につながっているんだとか。一行は魚人島までは海底を進むルートで行くことになったが、まずは“コーティング”が必要となる。シャボン玉が幻想的な“シャボンディ諸島”に到着すると、ハチはやる気満々グローブに書かれた番号を忘れるなよ、と忠告してくれた。似たような景色の続くここでは、この番号がわからなくなると、間違いなく迷子になってしまいそうだ。

「あっちに遊園地が見えるぞ!遊園地に行こう!!」

シャボン玉に乗ったルフィが叫ぶ。彼の指さす方向にどうやら遊園地があるようだ。遊園地と言えば、マグルの施設…機械の乗り物がたくさんある場所だ。

「シャボンディパークだね、わたし、観覧車に乗るのが夢なんだ」
「馬鹿言えケイミー!だめだぞ!」
「うん、わかってるよ」

何やら色々と深い事情がありそうだ。人身売買が横行している…と聞いていたので、嫌な予感はしていた。それに、魔女のカンが何か起こる…そう言っているようなきがした。
ハチによると、ここはグランドライン前半のすべてのルートを繋げる場所らしく、今まで出会わなかった海賊たちと遭遇する恐れがあるのだとか。ふと、ロシナンテの飼い主の事を思い出す。そういえば、ロシナンテの飼い主は…例の外科医ももしかしてこの島にいるのだろうか。―――出来たら、出会いたくない。ロシナンテとお別れなんて…。そんな名前の心情を察してか、ロシナンテがやさしく鳴いた。

この街を歩いていると、必ず世界貴族がいる。
街で何があろうとも、世界貴族だけには歯向かうな…ハチの忠告を思い出す。

たとえ、目の前で人が殺されようとも、見て見ぬふりをしろ。
絶対に世界貴族だけには逆らうな―――。

この世界にも、絶対的地位を持っている人間がいるようだ。政府から追われている名前は、念のため魔法で変装をしているので身元がバレることはないだろうが、なるべく人の多い道を選んだ。

「本当に一人で平気かい名前さん!?」
「大丈夫よ、むしろ一人のほうが安全というか…ロシナンテの事、よろしくね」
「あぁ、それは任せてくれ…」

魔女の名前は肩にメンフクロウを乗せている…という話が回っていると大変なので、あえてロシナンテはサンジたちに任せることにした。名前が買い物へ向かおうとすると離れ離れにされたロシナンテが騒ぎ立てるが、こればかりはどうしようもならない。彼を巻き込むわけにはいかないからだ。

このシャボンディ諸島には珍しい生地が売られているようで、それを手に入れるべく店を探し歩いているが島全体が広く中々目的の場所にたどり着かない。流石に疲れたので、どこかお店に入って情報収集をしつつ休憩でもしようかな…しかし、店が悪かった。なんだか“いかにも”な人たちが食事をしていて、正直落ち着いて食べられるような雰囲気ではなかったからだ。どうして目的の店が無法地帯にあるんだ。シャボンディ諸島には様々なエリアがあり、名前が目指す“ろくでなしのブルース”という手芸屋は無法地帯エリアにあるのだとか。

「お腹すいた…はぁ」

とりあえず、非常食でもかじってよう。サンジからもらったおやつを食べつつ道を進む。道を進むとさらにアクシデントが…。翼を生やした人と、仮面の男が戦っていた。もう、どうして来る道来る道こんな事ばかりなんだろうか。そっと道を外れようとしたが背後から新たに男が現れその戦いを仲裁した。もう、本当に騒がしい。早くこの島から出ていきたい。泣きたい気持ちを抑え、名前は裏の道に入る―――もう嫌だ、シャボンディ諸島怖い。

そして早速、目の前に現れた男に行く手を阻まれる。

「―――名前…やっと見つけたぞ」
「―――誰でしょうかあなた」
「はぁ?」

これ、なんていうナンパ?というか、どうしてこの人は私の事を見破ったのだろうか。もしかして―――最悪な答えにたどり着き、名前は後ずさる。しかし背後にオレンジ色のつなぎを着た…くまが現れ、退路を失ってしまった。

「ベポ、ナイスだ」
「アイアイキャプテン!!」
「…くまがしゃべった…」
「しゃべってすみません…」

―――打たれ弱いクマなのかな?明らかに落ち込んだ様子のくまに名前は頬が緩むのを感じた。
か わ い い。
チョッパーですら抜群の可愛さを誇るが、この白熊…もふもふで本当にかわいい。今まさに襲われようとしているというのに、かわいいものに弱い…名前の弱点がここで露呈する。

「―――あの~、一体どなたですか?政府関係者…ですか?」
「トラファルガー・ロー…そういえばわかるか」

男の言葉に、はっとする。ウォーターセブンで見た新しい手配書…それに記されていた名と同じ男が今目の前にいる。そして、彼は…。

「……あぁ!あなた!!あの“外科医”さんですね!?わっ!?」

彼は、ロシナンテの飼い主…死の外科医、トラファルガー・ローその人だ。手配書で見た顔と確かに同じ、どうして気が付けなかったのか。だが、何故彼がここへ。すると男は“とあるもの”を名前に見せる。

「どうして―――それを…」

どうしてそれを彼が持っているのか…名前の頭は一時的にショートする。男が持っていたそれは、弟のネビルにかつてプレゼントしたものと同じ“お守り”だった。あの時代、ヴォルデモートが復活し、不死鳥の騎士団として闇の魔法使い達と死闘を繰り返していたあの時代、鈍くさい弟の身を守る為、魔法使いや魔女が近づくとピカピカ光り、教えてくれるというお守りを弟にプレゼントした。

「どうして、だと?あんたがこれをくれたんだ…そうか、そういうことか…すべてわかった、ったく……こっちがどれだけ必死に探していたか――――」

訳もわからず男に抱きしめられる。意外に肌が冷たくて驚いた…じゃなくて、殺意のようなものは感じないので大丈夫だろう。だが、異性間的に大丈夫ではないと思う。名前は男の腕から離れようとするが、力が強くびくともしない。男と女の力の差…というよりは、単純にこの男が強いからだと察した。

「ともかく…どうして麦わら屋の所にいるかはわからねぇが、行くぞ」
「え!?あの、だからその、あなたと私、どこかで会いましたか?」
「…いずれわかる」
「いずれじゃ困るんです、が!」

彼の腕を振り払うと、小さく舌打ちが聞こえてきた。一体なんなんだ、この人たちは。外で魔法を使うときは慎重にならなければならないと身に染みてわかってはいたが、緊急事態となれば話は別。姿くらましをして船に慌てて戻ってくると、間違えてフランキーの頭上に現れてしまった。

「どうゎあ!?」
「ご、ごめんフランキー…ちょっと緊急事態で…」

見知らぬ異性に抱きしめられたのなんて、生まれて初めての経験だ。でも、不思議と嫌な感じはしなかった。顔は…確かに男らしくてかっこいいとは思うが、多分一目ぼれとかそういうのではない。なんだか彼とは不思議なつながりを感じるような…いや、そうか、つながりはあるんだ。

「どうしてあの人…あれを持ってたのかしら…」

あれは、家に置いてあったはず…。あの人は、同じ世界の人だろうか。しかし、元の世界での知人に彼の名はない―――謎は深まるばかりだ。

そして、名前が消えた先を見つめ、男はにやりと笑う。

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