そして薬の調合が終わり、しばらく周りをみているとハリーの薬がいい感じになってきているのが目に入ってきた
隣ではドラコが必死に薬を煎じている
名前は誰よりも早く鍋を洗い、薬を小瓶に詰めた。スラグホーンもそれを予期していたのか終始にこにこだった。周りの生徒も掃除を終えた名前を見て絶望したのか、あいつには敵わないや、といった絶望の声も聞こえてきた
この最短の調合方法には欠点があった。それは薬の効能が父の編み出した方法の薬よりも弱いということと、あまり量がつくれないということ
色も、父オリジナルの調合法よりも美しくない
いつになったら父を超えられるやら…
そんなこんなで勝負は名前の一人勝ち…という訳にはいかなかった。
なんと、ありえないことにハリーが名前よりもいい評価をもらったのだった
それを聞いてドラコは余計にいらだちをあらわにした
「なぜだ!?君のほうが早くに調合し終えてたのに…!」
「…仕方がない、負けは負けだ。」
それにしてもハリーは魔法薬学が得意そうにはあまり見えなかったが、まさかの才能開花…といったところか?
名前は再び今回の反省点を教科書に書き連ねた
夜になってもドラコの愚痴はおさまることをしらなかった。
とある夜、懐かしい友が突然名前に会いにきた
「やあ、久し振りだね名前」
「…リーマス、あまり元気そうじゃないな」
「まぁ…ね。僕は大丈夫だけど…君のほうはどうなんだい?その…呪の…」
リーマスは名前がレーガン家の古い呪いにかかってることも知っているし、それがどんな症状なのかも知っている
自分よりも重たい呪いを背負っている名前を見ていると、なぜだか勇気が湧いてくるのだ。
16歳の青年が恐ろしい呪いと戦っているのだから。名前とハリーはどこか似通っている、なんとなくリーマスはそう感じた
「…リーマスが気に病むことではない。僕は、平気だ」
揺れるリーマスの瞳を見逃さなかった。名前はリーマスにチョコがたくさんつまった袋を手渡した
「リーマスがいつか会いに来るだろうと思って買っておいた。フランスの珍しいチョコだそうだ…とある人からもらったんだ」
「でも…いいのかい?僕なんかにくれちゃって…?」
「いいんだ。」
「わしもひとくちもらってもいいかのう?」
「ええ」
突如現れたダンブルドアにリーマスは驚いた
が、ここは校長室なのだ。ダンブルドアがいて当たり前なのだ
「…時に、クライヴは元気かい?」
「……わからない」
クライヴが今どこにいて何をしているかなんてダンブルドアしか知らないことだろう。自分たちに言わないということは、今は言うべきことではないから、もしくは…
「だが、生きている」
レーガン家の血が流れている名前にはわかっていた
クライヴは今、生きていることを
分るのだ…それは、名前もまたレーガン家という血の絆があるから
「ダンブルドア…どうして教えていただけないんですか?クライヴのことを…」
「わしは約束したんじゃ…すまんの。」
「…そうですか。でもせめて、今どういう状況なのかぐらい…」
「彼の要望であってのことじゃ。ほかの騎士団メンバーにも自分のことを黙っているように、と・・・・・・」
「…」
肩を落としたリーマスの肩にそっと手を当て、静かにうなずいた
「リーマス、心配することはない…クライヴは生きてる、きっと今頃くしゃみをしている頃だろう」
「…ありがとう名前。だけど君たちレーガン家の者はなぜそうも秘密主義なんだい?君たちの苦しみを…僕らにも分けてくれたっていいじゃないか…」
「気持ちだけでうれしい。でもこれはレーガン家と、闇の帝王との問題。血の絆がある限り……いや、少し今日はおしゃべりだった。もうこのことは聞かないでくれ」
「……わかった。でもこれだけは言わせてくれないかな、戦っているのは、君たちだけじゃないってことを」
「…ありがとう」
いつでも変わらないやさしい友の背中を見送ると、部屋には名前とダンブルドアだけになった。
「…なぜ血の絆のことを言ってしまったんだろう…」
「……しかし、いずれ分ってしまう事実じゃ。以前クライヴから聞いたのじゃが・・・・・・ヴォルデモート卿を殺めるのはハリー、そしてトムを連れていくの はクライヴしかできないそうじゃ。トムは今でもヴォルデモート卿の中で生きておる…ヴォルデモート卿も捨てきれんかったのじゃ、人間を」
「…僕も以前聞いたことがあります…血の絆が、本来の自分を解放してくれるのだと」
「そうじゃ。特にレーガン家とゴーント家は血の繋がりが深い。あやつも以前の戦いでクライヴが生きていることを知ってしまった、が、同時にそれはあやつに相当なダメージを与えるこことなった」
以前の戦いで何故自分の存在が騎士団メンバー以外には見えなかったのか、今になればよくわかることだ。レーガン家の特殊な魔法で、クライヴの特殊な魔法で守られていたのだ。血の絆はさらに守りを強くする。
あの戦い以来、クライヴはずっと閉心術を続けている。だが、使っていなかったとしてもそんな不躾なことは絶対にしたくない。クライヴの心境なんて、わかりきったことだ
親友を、家族と同じくらい大切な人を今でもクライヴは思い続けている。それと同時に騎士団の柱としての仕事、自分の立場などが彼を追い立て続ける
名前にはその葛藤がいかに苦しいものか、よくわかっていた。
「君たちには重たすぎる荷を背負ってもらってしまって申し訳ないと思っておる…」
「気にやまないでください…こうなる運命だったんです。それに、僕はただ大切な人を守りたいだけ」
それがどんなに難しいことかなんて言わなくたって分る。ダンブルドアはまっすぐ前をみつめている名前の瞳を見ていられず、うつむいてしまった
わしは今、この子よりも弱い、今闇にくじけようとしている
ダンブルドアの心情が名前に痛いほど伝わってくる。
「時に…ハリーにゴーント家のことを話しておこうとおもうのじゃ…ということは、君たちの秘密もハリーが知るということになる…それでも構わないかの?」
「えぇ、ハリーなら構いません。だってハリーは・・・・・・」
名前は暗い廊下をコツコツと音を立てながら歩いて行く
みんなもう寮に戻り、各自の時間を過ごしているはずだ。
一瞬だが、闇がざわめいたような気がした。
左腕が……燃えるように熱い―――
それをかばうかのように名前は寮へ戻っていった。
名前とハリーはとある夜、校長室に呼ばれた
ずいぶん久しぶりな対面だ。
「…久し振りだな」
「ねぇ名前、君って半純血のプリンスって呼ばれてたりする?」
突然何の事かと思えば妙な質問だった
「いいや、呼ばれたことはないが・・・」
「そう・・・ならいいんだ、でも心当たりある?」
「…すまない」
「ならいいんだ、ありがとう」
こうしてハリーと会話するのはずいぶん久しぶりのような気がする
「ハリー、帝王はさらに力をつけた、注意しろ」
直接ハリーの頭に語りかけた。それに驚いたのか、一瞬名前を見た
「今のは・・・?」
「…今のは特殊な魔法を使ってハリーだけに伝えた。帝王はひたすらハリーを見張っているだろうから…だから開心術をされても読まれないよう、直接お前に伝えたんだ」
これもレーガン家のものだけが使う魔法の一つだ
「今の状況はあまりよろしくないんでな」
「…疑うようで悪いんだけど、本当に名前ってぼくたちの味方なの……?」
「…それは、お前がよく知っているはずだ、ハリー。」
お前ならば、わかるだろう。そしてこれから知るだろう、僕らがしていることがどういうことかを
ダンブルドアの話が大分進み、二人は記憶の中へ潜ることとなった。しかし名前だけは違う憂いの篩を使用するように、といわれてしまった。
「こちらの記憶は君に任せよう、名前。我々はボブ・オグデンの記憶の小道を辿る旅をしてくるからの」
「そう…ですか。では、これは誰の記憶で…?」
「…君の祖父、ポエフニーとその父フィガモネットの記憶じゃ…レーガン家の問題は、君が一番理解できるじゃろうて…」
あまりクライヴからはレーガン家のことは教えてもらえない。そのため、自分で探すしかないのだ。しかしフィガモネットという男だけはあらゆる本にも載って いる有名人だ。なぜならば フィガモネットはヴォルデモート卿が生まれる前、魔法省の魔法事故惨事部の長官だった。しかし、レーガン家の血は彼に栄光ある時間をあまり与えてくれな かった。50歳でこの世を去ったフィガモネットだが、当時マグルに不利な法令を彼は数々と出していたので純血家は彼を好いていたし、何よりもその血筋に多 くのものが惹かれた
これから記憶の海へ潜ればすべてがわかること…名前は二人が記憶の海にもぐってゆくのを確認し、名前も二人のあとに続き記憶の海へともぐっていった
『やあ、元気かい?』
『わしらのこの有様をみてよくもぬけぬけと・・・』
不気味な屋敷の中で、不気味な瞳の男とフィガモネットらしき人物が話をしていた
フィガモネットは目の前にいる男とは違い、ずいぶん裕福な暮らしをしているようで小太りだった。
『だがあなたたちには高貴なる血が流れている。』
『…わしらはもうレーガン家の力など借りぬ……聞くところによると、お前の所へ嫁がせた娘が子供を生んだそうだな・・・呪われた子供を』
『…』
それっきりフィガモネットは黙りきってしまった。事実で何も言い返せないのだ
『お前の所へ嫁がせても子供は早死にするだけ。お前の祖先が犯した過ちのせいでな・・・・・・』
『…』
『死者をよみがえらせるなどと・・・一番の禁忌、命の冒涜』
『…う、うるさい!貴様が命の冒涜などと・・・!そんなこと言えた立場か!』
『ふん、わしらの一族にはそんな馬鹿な真似をするようなやつは一人もでておらんからな』
クックックと男は不気味に笑う
『このゴーント家に嫁いできた者は誰一人としてできそこないを生んだことはない…まぁ、嫁いできた者は早死にするがな』
フィガモネットは憎々しげに男を見下ろす。唇の端が切れ血が流れ落ちる
『おお血は流さんでくれよ、馬鹿な一族でも高貴なる血だからの?クックック』
とたんに男は蛇語ではなしかけてくる
否定できない事実が憎らしい、今すぐにでもこの男を殺したい、が、今はそんなために来たのではない。何のためにこの貧乏くさい家に来たのだ
『今日は雑談をしに来たのではない、メローピーに子供を産ませてはならない、予言者がそう言っていた』
『あの薄汚いスクイブなんか、誰ももらっちゃくれない…なんなら、お前がもらうといい…』
『何をばかなことを、私には妻がいて子供もいる』
『どうせすぐ死ぬのだろう?ならばストックとしてメローピーがいたとしても問題はないだろう』
なんということを、人外め!
フィガモネットは喉から出てきそうな言葉を無理やりにでも呑み込んだ
『メローピーのことはとりあえず置いておこう、今…我々一族はアレを求めているのだ…我々をこの呪いから解放してくれるであろうアレを…』
『そんなおとぎ話、まだ信じておったのか?』
『…お伽話などではない……その指輪をゆずってくれとは言わない、少しの間貸していただきたいのだが―――』
そういった瞬間、男は瞳をギラリと光らせフィガモネットをにらみあげた
そして指輪を守るかのように身を丸めると、すかさず左手で杖を構えた。
『私はあなたと戦うために来たわけじゃない――――少しの間でもいい、その指輪さえ…』
『この指輪はゴーント家の家宝だ!宝なぞ、レーガン家の屋敷に腐るほどあろうが!!』
『その指輪がどうしても必要なんだ――――ゴーント家が一生食っていける分の金は保障す』
『金などの問題ではないわ!!!そこまで落魄れたかフィガモネット・S・レーガン!!』
男はさらに杖をフィガモネットの喉笛に押し付ける。今にも殺そうといった雰囲気の中、奥から若い男が一人やってきた。不気味な眼の光がこの目の前にいる男と一緒なので、おそらく彼の息子だろう
『クックック、おやおや、レーガン家の者が何用ですかね』
『お前はしばらく黙っておれ、モーフィン』
蛇語で話しているのだろう。しかしフィガモネットも蛇語が話せるはずだ。しかし彼は蛇語を使おうとしない
その理由はまだ分からないが、このまま記憶の海へさらに潜っていけば答えが見つかるような気がした。
『アレはペベレル家の者にしか相続されん!貴様はいくらペベレルの血が混じっておろうがレーガン家だ、そうだな、我々ゴーント家より前に生まれた!サラザール・スリザリンの二男の!』
『ペベレル家だって偉大な一族ではないか…!私がいいたいのはそういうことじゃない、要は賭けだ、この呪いが解けたら我々は動き出す、魔法界を、より魔法使いのために、改革するのだ!』
フィガモネットは力をこめて言いすぎたあまりか、目の前の男のコップを魔力で粉々に割ってしまった
『おお恐ろしい魔力…古代から続く魔力には敵いませんな……』
『話を逸らさないでくれ。いいか、我々はマグルに常に虐げられた生活をしていた、今もだ!改革が必要なのだ、魔法界からマグルを滅ぼさなくてはならないのだ、そのためにも…その指輪の力が必要なのだ…』
『これを貴様なんかに指一本触れさせると思うかたわけめが!ならばあの汚らわしい奴らを一掃してみろ!してみたらほんのばかり貸してやるかもしれないぞ…』
名前は今、この男が言っていることが信じられなかった。
自分の一族はまだそんなに闇に染まっていないと思っていたが・・・・・・ヴォルデモート卿と同じ思想の人間が一族にいたなんて…
愕然の名前を残したまま、記憶はさらにポエフニーの記憶へ移り変わって行った
『しぬのは怖い、死ぬのは怖い、死にたくない、死にたくない』
男は歯ぎしりをしながら、必死に己の闇と戦っていた。
目の前には時渡り人の息子をこちらに明け渡せ、との手紙。手紙は誰が書いたか一目両全だ。
死喰い人ではなかったが、ヴォルデモートと交流があった、いや脅されていたとも言えよう。
ポエフニーは自分たち一族を滅ぼす力を持っている息子の存在がばれて、息子の命が奪われるのが恐ろしいのではない。今まで隠していた自分にどんな罰が待ち受けているのかが恐ろしいだけ。ポエフニーとはおそらくそういった人間だ
時渡り人のアルベルトが生まれてきた時はちょうどヴォルデモート卿が動き出していた頃だ。自分の意に反するものはすべて殺されていた。いくらレーガン家だからと言って、恐ろしい魔力をもったヴォルデモート卿に、そしてその妹に敵うはずがないのだ…。特に、妹のほうに。
名前は先代の時渡り人はもしかしたらヴォルデモート卿の妹ではないかという憶測がある。でもおそらく100%そうに違いない。今度クライヴに聞いてみなくては・・・
『…ふん、薔薇に囲まれた屋敷…か、なんともロマンチックではないか、ポエフニー』
『っきょ、卿……』
ポエフニーはさらに恐怖で顔をゆがめた。そう、なぜならば今目の前にいるのが恐怖そのものだから
『貴様なら知っているだろう…あの小僧はどこだ』
『い、今…ホグワーツだ……ッ』
『そうか…なら、貴様を餌に使っておびき出すとしよう、貴様を連れていく前に少し聞きたいことがある…』
『ッヒ…!』
赤い瞳がぎらりとポエフニーに向かってゆく。記憶を見ているこちらまで戦慄づいてしまう程に
『貴様の兄は時渡り人だったか』
『…に、兄さんは…時、渡り人なんかじゃないです…』
『そうか―――なら、俺様の妹は――――――』
『…』
『答えろ、時渡り人はレーガン家にしか受け継がれない筈じゃなかったのか』
『…か、隔離遺伝――――1億分の1の確率で…あるそうです…』
『俺様の質問をすべて正しく答えろ、キリクは―――生まれ変わりなのか』
ごくりと唾を飲む音が静寂と恐怖が支配するこの部屋に響きわたる
ポエフニーは恐怖のあまり、首をこくこくとうなずくことができず、子供のように嗚咽を漏らした
『クックック、そうか、そうかそうか、あの子は―――――――そうなのか』
ほんのわずかだが、フードから見えた瞳は悲しみに揺れていた。一瞬だが、泣いているように見えてしまうのは何故だろうか。