73 それこそが、真実/死の秘宝

手土産を片手に、名前はハリー達の住んでいる家の前まで姿現しをした。姿現しの音で、家の者がドアを開き、
ハリーが玄関まで走ってやってきた。

「久しぶりだな、散々家に来いと言われてたからな。ジニー、手土産だ」

手土産である紙袋を渡すと、ジニーは名前の頬にキスをして歓迎した。ハリーは名前を抱きしめ、家へ招いた。

「それにしても髪のびたわね、名前」

「あぁ、おかげでな。ガブリエルがどうしてもお揃いにしたいんだとさ」

「ふふ、愛されてるのね」

「幸せだよ、実に。それよりハリー、お前らの次男が今年ホグワーツに通うんだってな」

「ああそうなんだよ、アルバス、おいで。ホグワーツで魔法薬学の教授をしている、名前・スネイプ教授だよ」

「よろしくおねがいします!スネイプ教授!」

「いいよ、そこまで畏まらなくても。それにしてもアルバスはジェームズと違って少し大人しめなんだね」

アルバスはミドルネームに名前の父親の名を引き継いでいる。その事を、アルバスは知っているようで、家族にむける笑みを名前にした。
そして当のジェームズは裏庭で妹のリリーと何かしているのか、部屋にはいなかった。
ジェームズには散々手を焼かされていることを、ハリーたちは知っていた。

「あー・・・息子には、きつく言ってたんだけどね・・・」

「いいさ・・・子供とはそういうものだろう。」

「クライヴは、今年入学だったよね?アルバス、名前の息子のクライヴとよろしくやるんだぞ」

「うん、父さん。でも、クライヴってどういう子なの?」

思えば家にクライヴたちとつれてきたことはなかったな。だが、それはアリスが嫌がったからだ。どうやら、アリスはジェームズのことをあまり好ましくおもっていないようだ。

「クライヴはいい子よ、おとなしくて、優しくて、勉強熱心で!それに家のお手伝いもしてるんだから!」

ジニーにとって、クライヴは子供の鏡のような存在のようだ。たしかに、あのこは自慢の息子だ。不器用でそそっかしいところが不安の種だが。

「っげ!先生がなんでここに!」

土まみれのジェームズが窓から部屋に入ってくるところだった。何故、ドアから入ってこようとしないのだろうか。だが、いかにも彼らしい行動に名前は笑みをこぼした。

「こら、ジェームズ、っげ、は失礼だろう・・・父さんの親友にたいして」

ちいさく睨むとまんざらでもない顔で、ジェームズが肩をすくめた。

「いいんだ、ハリー。ジェームズ、今年レポートの提出期限を延ばしたら成績を下げるぞ」

「せ、先生!それはいわないって約束じゃ・・・!」

「あら、ジェームズ、そんなことをしていたのね!」

リリーがジェームズにゲンコツを喰らわしたところだ。

「いったぁ・・・先生のいじわる!」

「どっちが悪いと思ってるんだ。それに、授業中に糞爆弾をぶちまけるのも大概にしたほうがいいぞ。これからはこうやって定期的に親御さんに伝えるからな」

「せんせい~~~~」

彼もまじめにやれば良い成績を収めることができるというのに、なんと勿体ないことだろうか。

「そうだ、話は変わるが、どうやらホグワーツの副校長に僕が推薦されているらしいんだ」

「えー!それ本当かい名前!」

「まぁ素敵!」

ふたりは自分たちのことのように喜んでくれたし、ジェームズも喜んでくれた。

「なぁなぁ先生、アリスって何が好きなんだ?」

「何がっていわれてもな・・・あの子は消極的だし、何事にも無頓着だからな・・・強いて言えば、薔薇が好きかな・・・」

「薔薇か・・・!よし!わかったぞ!ありがとう先生!」

なにを思ったのか、ジェームズは妹を連れて自分の部屋にひっこんでしまった。何故そんなことを聞いたのだろうか、と首をかしげる名前を、ジニーとハリーは笑った。

「あはは、相変わらずだなぁ、名前は」

「まぁそこが名前の長所であり、短所よね」

「・・・どういうことだ?」

「うふふ、これはおもしろそうね!」

「ああ、そうだね!」

結局、最後までかれらが笑う理由が分からなかった。
日が落ちる前に久しぶりに家に帰ることにした。家族たちが、待っているあの家へ。
安らかなひと時もあっという間にすぎさり、明日からは新学期が始まろうとしていた。
準備も完璧に終えた名前は、明日という日が来るのを楽しみにしていた。

胸にぶら下がるスリザリンのロケットを握りしめ、今年も平和に過ごせますように、と祈る。
母が残してくれたこのペンダントを、名前は肌身離さず持っていた。ロケットの中では赤ん坊の名前と両親が笑っていた。

夜が更け、朝がやってきた。
名前は大広間につくと、数人の生徒たちが駆け寄ってきた。今年も先生の授業をとったの、今年はなにをやるの、生徒たちの瞳は活気であふれていた。それをマクゴナガルは微笑ましく見守っていた。

「さて、副校長先生、もうじきお仕事ですよ。一年生たちを誘導してもらいます」

「・・・本当、だったんですね、その話・・・」

名前が請け負っている生徒たちはそのはなしにざわめきはじめた。スネイプ先生が副校長だって!スリザリンの寮監が副校長だ!様々な話がきこえてきた。

「わかりました、では、行ってきます」

「副校長としての初めてのしごと、よろしくおねがいしますよ」

マクゴナガルに笑い返し、名前は一年生が来るであろう入口の階段で一年生をまった。
しばらくして、ハグリッドに引率されてきた新入生の軍団が見えた。その中には息子のクライヴもいる。クライヴは父親がそこにいることにきがつき、小さく手を振った。隣にはアルバスがいる。

「ハグリッド、ありがとうございます。では、新入生の皆さん、ここからさきはホグワーツの大広間だ。君らはこれから、組み分けを行う――――」

こうして寮の説明をしていると、自分が入学した時をおもいだす。そうか、ここを卒業して19年が過ぎたのか・・・。
一年生の組みわけは無事終わり、クライヴの組み分けはレイブンクローとなった。グリフィンドールにはアルバス、ジェームズ、ローズ、ヒューゴがいる。ローズとヒューゴはロンとハーマイオニーの子供だ。
ほかにも、ビクトワール、テディがいる。ビクトワールは妻の姉の息子で、親戚だ。テディはリーマスとトンクスの娘で、三人は仲良くレイブンクローの席についていた。
そのとき、アリスの机からは赤い薔薇がにょきにょきと生えてきたのを見逃さなかった。ああ、きっとジェームズだな。名前は小さくため息を吐いた。

「何なのあのひと、信じられない。」

杖で薔薇を消し、冷たい目をジェームズに向けた。隣ではスコーピウスが心配そうにアリスをみていた。

「こんど何かしてきたら、今度こそは顔面おできだらけにしてやるんだから」

「酷い人なんだね・・・」

「ええ、まったくよ」

「アリスは、クライヴがレイブンクローに組み分けされて寂しくない?」

「寂しい?同じホグワーツにいるのに?」

アリスは笑う。
その夜、新入生たちに寮の説明をし、くたくたの体で私室に戻ってきた時だ。突然ドアをノックする音が聞こえてきて、誰だろう、またレイブンクローのバレッタか、と思った。
あの子は規則ぎりぎりの時間まで私室に訪れ、熱心に魔法薬学のことについて聞いてくるのだ。教師としては嬉しいことだが、やはり規則は規則なので、できれば昼間に来てほしいものだといつも感じていた。

「・・・どうぞ」

キィと開かれたその先には、車椅子に乗った白髪頭の男がいた。

「・・・ふん、実に不愉快だ、ポッターめ、我輩の名を勝手に息子につけおって・・・」

「父上、家でお休みになられている時間でしょう、どうしたんですか?」

そこにいたのは、あれから随分と老けこんでしまった名前の父親、セブルス・スネイプそのひとだった。
足腰が弱くなったのか、最近では車いす無しでは生活できなかった。だが、魔法が使えるので何かに不自由することはない。それに、介護されることを嫌がっていたのでこれはセブルス本人の願いでもあったのだ。
孫のクライヴが家にいなくなってきっと寂しくなったのだろう。そう察した名前は優しく車いすをおし、かつて父が使っていた部屋まで案内した。

「書類が溜まっているようだな」

「えぇ・・・父上の苦労が今になってとってもわかります。」

「あのポッターの長男はどうだ、あの忌々しい男の名前がついているあいつだ」

ああ、ジェームズのことか。名前は苦笑する。

「そうですね・・・ジェームズは少々問題児ですが、優秀な子ですよ」

それに、ハリーは父上の事を本当に尊敬しているからですよ、と付け足すとセブルスはしかめっつらをして机に置いてある写真を見た。

「・・・クライヴは今、天国で何をしているだろうな」

その写真は、名前が五年生の時に3人で撮った写真だ。正しくは、クライヴが勝手に、と言ったほうがいいだろう。

「クライヴは我輩に残りわずかな魔力を使って、我輩を死から救った。あの男には感謝してもしきれんな・・・」

「そう、ですね・・・」

闇の帝王失脚の後、セブルスは死んだと思い、家にかえった。かえったその時、玄関に現われたひとは亡霊なんじゃないかと思った。
何故ならば、そこにはしんだはずの父親、セブルス・スネイプが立っていたのだから。

「・・・ち、父上・・・・・っ」

「名前・・・・・・・・か―――」

「何故、ここへ・・・」

抱きしめてくれたセブルスの腕はたしかに暖かかったし、心臓の音も聞こえる。これは、最後に見せてくれた夢なのだろうか。
どうかこの夢が醒めないように、名前はセブルスの体をぎゅっと抱き返す。

「クライヴが・・・・我輩をどういった手段で助けてくれたかは分からないが、たしかに、あの男は命がけで我輩をすくってくれたんだ・・・・!」

セブルスはクライヴが残した手紙を取り出し、名前に渡した。そこには手に力がはいらなかったのか、弱々しい字体で綴られていた。

“セブルスと名前へ”

セブルスが目覚めた頃には、俺はこの世にもういないだろう。
俺はトムを救い出し、あいつを二度と蘇らせないようにする。だから、これからお前たちは平和にすごしてほしい。
それと、俺と杖が共に消滅するとこで、完全にレーガン家の呪いが無くなることがわかったんだ。それに気がついたのはついこの間なんだが、さすがにこれは名前には言えなかったさ。

俺ができることと言えば、これくらいだったからな。お前たちの事を、愛している。
お前たちは、俺の大切な家族だ。家族を守って死ねることを、誇りに思う。

PS.名前に子供ができたら、クライヴって名前を付けても平気だぞ!呪いはなくなったからな!

“クライヴ・S・レーガンより”

「はは・・・自ら名付け親に名乗り出てくるなんて・・・・クライヴ、わかったよ・・・子供が生まれたら、クライヴと付けよう・・・・そして、平和を、本当に、ありがとう・・・・っ」

セブルスを生き返らせたのは、おそらくあの魔法を使ったに違いない。以前、ドビーを死の淵から救い出したあの不思議な魔法だ。
名前とセブルスは自分たちを救ってくれたクライヴを忘れることはなかった。その手紙は、今セブルスの私室の額に大切に保管されている。自分たちを救ったのは、この偉大な魔法使いであるということを、後世に残すために・・・。
飾られている写真の中のクライヴは、こちらに向かって笑っている。まるで、今にもそこから飛び出してきて、いつものように、大きな声で笑いだしそうだ。