63 それこそが、真実/死の秘宝

何故―――気がつかないのだ、死んだ人は蘇らないことを
それは、ヴォルデモートがこの世で一番恐れていることは死であり、死を克服することが彼の野望でもあったからだ

クライヴは早くもヴォルデモートの野望に気が付き、離れて行ったんだ。
ヴォルデモートが部屋を出たとたん、どうしようもない叫び声をあげたくなった。今僕に―――何ができる?

トムの陰に隠れる゛あいつ″をどうにかしなければならないし、名前を忌々しい儀式から守らなければならない。ともかくやらなくてはならないことが山積みだ。
クライヴは白い杖を大切そうに胸ポケットにしまうと、普段使っている自分の杖を取り出し空に向かって呪文を放つ

杖から放たれた光はあたりに散らばり、ポーンという音を立てた

「周りに敵はいないな…それにしても魔法省も堕ちたな、マグル生まれ登録委員会なんてのを作りやがって――――あれはフィガモネットの糞爺が考えたやつじゃねぇか」

俺は昔からあいつが嫌いだったし、あいつも俺のことを嫌っていたからいいんだけれども。

「兄貴の感情が随分と高まってきてるよ―――」

胸に下げてあるペンダントが青く光る。この声は直接クライヴの頭の中へ伝っているので外に聞こえる恐れもない
彼女がこうしていられるのも、忌々しい儀式が迫っているせいでもある

「あいつは本当にやる気なのか?あの儀式を・・・」

「ええそうね、そうでしょうとも。傍にいるあの子を使ってね――――」

「あいつは・・・何者なんだ」

「あんたが一番分かってる癖に、真実に近づきたくないんでしょう、いくじなし、弱虫、べそっかき」

「ああ俺はべそっかきでいくじなしで弱虫さ・・・」

真実を知ることがどれだけ恐ろしいか想像したくない、できれば俺は真実から逃げていたい。
しかし俺に与えられた宿命がそれを許してはくれない――――だから、こうして今頑張っているのではないか

クライヴは森を抜けると、賑やかな路地に出た。ここら辺から死喰い人の気配がするんだけれども――――
一軒のパブに入ると、店内は無残な姿になっていた。魔法を使った痕跡があるし、ハリーたちの気配もほのかに感じる。
先ほどまで戦ったのだろうか、店員が床で失神していた。壁の方を見ると一人の死喰い人が倒れており、これはチャンスとその男をすぐさま外へ連れ出した。
建物と建物の間で周りには人が一切近づけないように、慎重に魔法をかけてゆく。準備が整い、男に向って小さく呪文を唱える

「お前、今さっきハリー・ポッターと戦っていただろう」

「――――!貴様は何物だ!」

ブロンドの死喰い人はクライヴの姿を見るや否や後ろへ後ずさった。逃げようとしてもうまく魔法を発動できず、ここの空間から出られないことを悟った死喰い人は、おとなしくクライヴの尋問に耐えるしかなかった。

「俺のことはどうでもいい――――その様子だと、ハリー・ポッターにやられたようだな。彼らはどこへ向かった」

「・・・っし、知らないね、あいつらは逃げて行ったよ!」

「そうか、ならいい。で、お前のご主人さまは一体どうしている?ご主人さまの右腕のあいつは今、何をしている?」

そう言うと突然ブロンドの男は青ざめ始めた。

「な、何故そんなことを」

「お前のご主人さまはあの杖を捜している、違いないか?」

「そんなこと・・・し、知らない―――俺は何も知らない――――っぐ!」

杖を喉元にあて、地に響くような低い声でささやく

「いいやお前は嘘をついている、俺がお前のご主人さま同様開心術に長けているからな、それぐらいわかる。お前はうそつきだ、お前は知っているはずだ――――お前のご主人さまの右腕である、あの男のことを――――」

「知らなっいっ・・!」

「素直に話した方がお前のためだ、話せ―――すべてを」

男が口を開けようとした瞬間、腕にある闇の印からシュルシュルと文字が現れ、男に死の苦しみを与えた。悶えているうちに男の目がうつろになり、心臓の音が止まった。
ああこれは予期していなかった、古くからある呪文のことを忘れていた。
死喰い人の腕にはしっかりと≪裏切り者には死を≫と書かれていた。つまり、あの男関連の話を他者に漏らそうとするならばこうして死を与えているのだ
この魔法は並大抵の魔法使いには使える代物ではない、純血の中のより強い魔法使いしか使えない魔法なのだ。これでクライヴはヴォルデモートの右腕であるあの男の正体の確信を得るのだった

「あはは、何遠回りなことしてんの、あの子があんたの弟であることはとうの昔から気が付いていたことでしょう」

「・・・俺は、この事だけは信じたくなかった。」

クライヴは男の亡骸を魔法で燃やすと、姿くらましで消えた。
胸に残る絶望の色は消えることなくクライヴを犯し続ける。
名前はその晩、廊下でヴォルデモートとモティマーが何やら話をしているの耳にした。
気付かれないようにドアに耳を当て、耳を澄ませた

「―――あの杖はおそらくダンブルドアの墓です」

「ほう、何故そう思う?」

「絶対にダンブルドアが持っていたに違いありません。ならば、死んだときに墓の中に埋葬されているはずです」

「―――あいつが持っていただと?」

「これは予想ですが、死の秘宝をダンブルドアが過去に集めようとしていたら…?」

「あの老いぼれが――――」

何の話だ?
死の秘宝なんて――――そんな、おとぎ話のことだと思っていた。

「ペベレル家の秘宝の3つを必ず持っているに違いありません」

「ふん・・・ならばそれはどこにあるんだ?」

「卿の求める杖は必ずダンブルドアが所持しています―――ただ、あいつの墓を暴くことはそう簡単なことではありません」

「ならば――――」

そこで話は途切れた。それは、僕に失神の呪文があたったから。

「大切な人柱だ、丁重に扱え」

「申し訳ありません卿・・・ですが、この小僧が盗み聞きをしていたものでして」

モティマーはぐったりとした名前の体を嫌々魔法で浮かせ、ベッドに下ろした。

「この小僧の魂が完全に無になったとき、ローズの人骨の杖でキリクは蘇るんだな?」

「はい、そのとおりです。妹君は確かにローズの生まれ変わり、ならば以前は不完全だった魔法も完成するでしょう」

モティマーはクックックと笑いを零す。

「ぼくが――――である限り、魔法は完成し、妹君は・・・母上は蘇る。それと卿、そろそろベラトリックス達を信用しないほうがよろしいかと思いますよ」

「貴様も信用するに値しないがな」

「…恐縮です」

月は陰り、空には星が不気味な光を放っている。
もうそろそろやってくる運命の時

「俺様はあいつを今度こそ消し、俺様こそが魔法界を統べる王となる」

「すでに帝王ではありませんか」

「いやまだだ・・・俺様の道を邪魔する者がいる、ハリー・ポッターとクライヴ・レーガン・・・」

憎らしい名前だ、とモティマーは憎々しげにつぶやく。

「クライヴを殺すのは僕だと以前お伝えしたことをお忘れなく・・・」

「貴様がそれまでに生きていればの問題だがな」

「・・・フフフ、卿はご存じでしたか。僕の出生の秘密を――――」

「貴様が俺様のもとにやってきたときに気がついた、あいつによく似た魔力の波長だ―――いやでもわかった」

兄弟で殺しあうのはどんな気分だ?ヴォルデモートは残忍な笑みを浮かべながら言い放つ
しばらく窓から見える月を見上げ、小さく答えた。

「・・・愉しみで仕方ありませんよ、あいつを殺せば僕の魂は救われる」

闇に落ちた者に魂の救いなどあるものか。
そんなこと分かっている――――だけれども、僕はあいつを殺さなくてはならない、母上を苦しめたあいつを、あいつの生まれ変わりであるあいつを、生まれ変わってもあいつと同じ名のあいつを

二人の残忍な笑みは夜の闇へ溶け込んでゆく。

朝の目覚めは相変わらず最悪で、さらに最悪なことに昨日聞いた話をほとんど覚えていなかった。恐らくモティマーが忘却呪文でもかけたのだろう
それほど重要な話をしていたのに――――気付かれてしまった。

今日は珍しくドラコとの面会を許された。もう何カ月ぶりになるだろうか・・・
久々に会う親友の姿は何とも言えない姿だった。顔は痩せこけ、精神がかなり疲労しているのが見てわかる

「―――ドラコ、お前・・・」

「名前―――僕、できる限り君を助ける術を探したんだ、でも見つからなかった。君をここから逃がせれば一番なんだけれども――――」

「ドラコ――――滅多な事を云うものじゃない、もしモティマーにこの話が聞かれていたらお前はただでは済まされないぞ」

自分の身よりも親友の身のほうが大切だ。世界でたった一人しかいない、彼の命が。
今こうしていられるのも近くにドラコがいるという心の支えがあるからだ。もし僕からドラコを取ってしまえば僕は心の支えを一切なくしてしまう。
近くに父上がいればいいのだが、父上はホグワーツにいてこちらに来れる余裕はない。

「平気さ、今モティマーは珍しく屋敷を出ているんだ・・・」

あのモティマーが屋敷をあけるなど珍しい。きっとクライヴ関連に違いないが、用心したに越したことはない。

「君、随分体が動くようになったんだね…」

「ああ。人間って不思議だよな・・・」

「君って本当に強いよ、僕尊敬するよ…。僕たち、一体どうなっちゃうんだろう」

闇の中に生き、闇の中で死ぬなんてまっぴらごめんだ。ドラコも名前も今同じことを考えていた。

「お前の父上や母上は今どうしてる?」

「それが…父上はあの人に杖を取り上げられてしまって・・・・」

ドラコはヴォルデモートを闇の帝王と呼ぶことすら恐ろしいのか、名前を言おうとしない。どんな仕打ちにあってきたのかそれだけでも伝わってくる。
隣で親友の肩を抱いて話を聞くことしかできない自分が実にもどかしい

まして人の心配なんかしてる余裕なんてないのに。
屋敷が何やら騒がしい。名前は重たい体をよいしょと起こし、扉の隙間を覗き込んだ。
広間には多くの死喰い人が集まっていて、その中にはグレイバックらしき人物も見えた。
ただ、視力が随分と落ちているので確実とは言えないが、ここに連れられて来る時に感じた獣の匂いは確かにする

壁に吹き飛ばされ、内臓をいくつか損傷したあの攻撃を仕掛けてきた張本人。
不意に思い出し、腕で腹部を抑えた。あの時の痛みは今でも鮮明に覚えている

魔法で内臓の損傷は治せても心の傷は簡単には治らない。
心の傷も完璧に治せれば怖いものなしに違いない

話声は大きいのだけは聞こえるのだが、ほとんどは聞こえてこなかった。ただ、わかったことはハリーたちがいまここにいるということだ
何と言うことだろう、何故ハリーたちがこの屋敷にいるのだ。

ロンの叫び声が次第に小さくなってゆくと、突然部屋に何者かが現れた。
それはスネイプ家に仕えている屋敷僕のスティンギーだ。

突然現れたスティンギーに名前は唖然としてしばらく声がでなかった。確かこの部屋は姿くらましとかが一切できなかったはず―――

「坊ちゃま、スティンギーめは坊ちゃまを御助けに参りました―――――こちらにハリー・ポッターが捕まっていると聞き、ドビーとともに駆けつけてまいりました」

スティンギーは随分と痩せた名前の腕をつかみ、オロオロと泣き始めた。

「坊ちゃま・・・こんなに痩せてしまって・・・スティンギーめが今すぐにでもおいしいお料理をお作りしたいところですが、そうも言っていられません。ドビーは今ハリー・ポッターを救いに行っているところです――――スティンギーめは坊ちゃんを助けに参りました!」

早口に言うスティンギーに名前は耳を傾けた。確か今はモティマーもヴォルデモートもこの屋敷にはいない、いるのは他の死喰い人たちだけだ。
その死喰い人たちもハリー・ポッターがやってきたことで騒いでいるおかげで名前のほうへ視線が向くことはなかった。確かにこれは逃げるチャンスかもしれない
だが、逃げたとしてもモティマーは僕を見つけ出しそうだが・・・・

しかし、スティンギーが命がけでここまで来てくれたのだから、ここはスティンギーに従うのが得策だろう。

「待ってくれ・・・スティンギー、その杖はもしかして・・・」

「さようでございます、坊ちゃまが使っていた杖でございます、ここの部屋の近くに保管されておりました・・・」

名前は杖を握るや否や、思いがけない行動に出る。
この呪い自体は解けないかもしれないが、闇の印はけすことはできる。つまりその部分を切り落とせばいいだけで――――

「坊ちゃま―――何を・・・!」

「こうでもしないと、逃亡する意味がない・・・片方がなくとも、まだもう片方ある・・・」

杖を左腕に向け、今わずかに残っている魔力を使い呪文を放つ。
杖を当てていた左腕はあっという間に消滅し、苦しい痛みが名前を襲う。
血は魔法で止めてあるので流れはしないが、魔法で消した左腕はもう二度と戻ることはないだろう。

「坊ちゃま――――!」

「スティンギー、早く僕をどこかへ!じゃなければお前も死ぬぞ!」

「は・・・はい坊ちゃま!」

スティンギーは名前の体を支え、そしてすぐさま姿くらましをした。名前は痛む腕を押えながら、ハリーたちが無事でいることを祈るしかなかった。
屋敷に戻ってみればこれだ、ハリー・ポッターを逃し、そして卿にとって大切なものをハリー・ポッターが持っていたことが判明した。
おまけに人柱である小僧も逃がしてしまうとは――――――

モティマーは数人の死喰い人を嬲り殺した後、マルフォイ家に向って恐ろしい笑みを浮かべた。

「お前たちがあの小僧を逃がしたのか・・?」

「誓って!違います!わたくしたちは何もしておりません!」

「そうだね!何もしてなかったよね、君ら。グレイバック、お前は1週間拷問の刑だ、わかったな?その薄汚い野獣をあの部屋へ連れていけ!」

グレイバックは懇願するようにモティマーにひれ伏すがこうなってしまった彼をどうにもできないことを彼らはしっている。
グレイバックは殺されはしないが、死に似た苦しみをこれから味あわなければならないのだ

視線はすぐさまベラトリックスに向かった。

「ベラ、君は優秀な死喰い人だと思ってたよ・・・このことが卿にばれたら君がどうなるかなんて予想はつくね」

「ああどうか!どうか!」

あの気位の高いベラトリックスがいま、床に額をこすりつけている。
ヴォルデモートの次に恐ろしいのがこの男で、ベラトリックスはこの男にだけは敵わないことを知っている。だからこうして懇願するしかないのだ

「君は重大なミスを犯した、取り返しの、付かないミスを!あの剣を何故ポッターが持っていた!何故ポッターを逃した!!何故名前・スネイプから目を離した!」

地に響くような声でモティマーが怒鳴る。この男は普段感情を表向きにさせないのもあって、恐ろしさが普段より倍増していた。
恐怖でマルフォイ一家はガタガタと歯を鳴らせ、壁にすがりついた。ベラトリックスに至っては眼から大粒の涙を流し、いまだに地にひれ伏している。

「申し訳ございませんでした!」

「ベラ、君は素晴らしい魔女だ…君のような素晴らしい魔女をもう失いたくないんでね、僕の言いたいこと分かってるよね?」

「は、はいっ、わ、わかっておりますっ」

モティマーは先ほどとは打って変わって地にひれ伏すベラトリックスの手をぎゅっと抱き、にこりとほほ笑んだ。この世でこんなにも冷たい笑みができるのは闇の帝王とこの男だけだろう、この男は悪魔の化身だ――――
ベラトリックスは凍りつく思いでモティマーを見上げた。

「さて…名前・スネイプはどこへいったかな、彼の親友は確かドラコ―――君だったよね?君を殺せばあの小僧は戻ってくるかな」

恐ろしい事を云うモティマーにそれだけは、とマルフォイ夫妻は縋りついた。どうかこの子だけは、どうかこの子だけは、という悲鳴が屋敷にこだまする。