―――あやつが本来の力を取り戻そうとしている…これはいけない…
黒い影はしもべたちに早急にかの者の杖を見つけ出し、破壊するようにと命じた
「あれはレーガン家に代々伝わる家宝…レーガン家のものでも数えるくらいの者しかあの杖を扱えないはず……あの小僧があの杖を手に入れたとしても問題はない、しかし問題はクライヴだ――――」
ヴォルデモートは恐れいていた
クライヴがレーガン家の杖を見つけ出し、本来の力を取り戻すことを
あの恐ろしい魔力に太刀打ちできるだろうか…いや、その前にこちらの味方に引き込んでしまえばダンブルドアだって恐ろしくない…
それにあの男の弱点はこの俺様であることは変わりないのだからな、いかにして味方に引き入れようか…あやつは過去に弱い
ヴォルデモートは赤ワインの入ったグラスを片手に呟いた
「…っふ、この俺様が負けるはずはない…早くこの戦いに終止符を、そして……妹をよみがえらせるのだ…」
今も屋敷の庭にひっそりと咲く薔薇は美しく月光に照らされ、涙のようなしずくをこぼしている
「…モテイマー、小僧に植え付けた種はどんな様子だ」
ヴォルデモートが声をかけると影からすっと一人の老人が現れた
「…はい、わが君。種は着々と根を伸ばし続けているようです・・・いずれは妹君の記憶を共有することとなるでしょう。種は器の魔力を吸い着実に小僧を喰らっておるようです」
モティマーはヴォルデモートの腹心の僕、なおかつ一番の古株であった
年齢は不詳…一見品のいい髭を蓄えた優しそうな紳士に見えるのだが、その瞳は闇のように冷たく、無機質
それこそが彼最大の武器なのだ。
「クックック、早くこの手で小僧を…」
「…ハリー・ポッターですね」
「あやつさえいなくなれば…俺様が受けた屈辱、何倍にも返してやる」
「アルバス・ダンブルドアの方は我々が手を出さなくてもあいつがどうにかしてくれるでしょう」
モティマーは不敵に笑った
「ほう、もう手は打ってあるのか」
「はい…ルシウスの一人息子に――――しかしあの弱小な小僧にダンブルドアが倒せるとは到底思いませんがね……おそらく私の予想ではセブルスがとどめをさすのではないかと」
息子の母親が泣きつける場所と言えばそこしかありませんからね、とモティマーは続けた
「クックック、やはりこの一件はお前に託しておいて正解だったな・・・・・・俺様の手を一切煩わせない、流石は――――――」
残虐な笑みを浮かべる二人の男、これを何かに例えるとしたら………そう、邪悪な悪魔とでもいい表わそうか
雲間に隠れた月が、レーガン家の旧屋敷を照らす
クライヴは目を覚ました。不吉な予感を胸に抱え
いや、そんなの毎日だ。ここ、ずーっとしばらく悪夢しか見ていない。精神安定剤を飲んでることには飲んでいるのだがまったくもって効果をなさない。
レーガン家の血が騒いでいる。もしかしたらレーガン家に詳しい者があれの封印を解いたのかもしれない
でもこれを知っているのはほんの一握りのレーガン家の者のみ………名前が知っているはずもなければ、ダンブルドアですら知らない
それこそがレーガン家の真実であり、最大の秘密
「…オリオンが?まさかな、そんなはずはない……」
胸には淡く光る水晶玉
額にはかすかににじむ汗。たぶんこんなところで眠っていたからいけないんだ
せめてちゃんとした宿に泊まれればなぁ……クライヴは廃墟の天井を見上げ、溜息を洩らした。
自分の一族なのに、自分の一族が一番わからないだなんて
名前は重たい瞼を開きながら思う。
なぜここまで謎が多いのだろう…レーガン家とは。何故レーガン家が?何か特別なものがレーガン家にあるのだろうか…
今日はクリスマスだ
なんとも面倒なパーティーに招待されているせいか、足取りは重い
今は少しでも時間が惜しいのに…レーガン家のことについて何か知らなくてはいけないような気がする
ヴォルデモート卿を倒すためには必ずレーガン家が絡んでくるに違いない。すでに今もクライヴが闇に潜伏し、何かと闘っている
そして自分も――――
1年生の時に植え付けられた闇が確実に自分の体を蝕んでいる
それに気づいたのは一昨年くらいからだろうか……父が調合してくれたオリジナルの薬を飲み干す
「名前、体のほうは…平気か?」
「あぁ、気分は最悪だけどな」
「…パーティーか」
「勿論、ドラコ、お前が一緒に来てくれることを信じている」
「……わかってるよ」
パーティーには誰かを招待できるのだ。もちろん名前はドラコを招待した
「だけど少し用事があるからそれが終わったら行く…それまでがんばれ」
「…その用事が早く終わることを祈るよ。」
「まぁがんばって行くよ」
最近ドラコには秘密が多い
裏で何をしているか―――なんて明白だけど。
彼がこれからしようとしていることは簡単なことではけしてない、だから夏休みにナルシッサが家にこっそりやってきたのだ
今でも彼女の震える声、最愛の息子の名前を呼ぶときのか細い声を鮮明に思い出せる
「ドラコ、無理は…するなよ」
「…さぁ、わからない」
そう言いドラコは部屋を出て行った
時間は残酷で、あっという間に夜がやってきてしまった。ああクリスマスパーティーか…気乗りしないな
ホグワーツで過ごすクリスマスは賑やかでいい、とは思うがスラグホーン絡みだとこんなにも面倒なのか
「やあ名前、来てくれてうれしいよ!」
ほぼ出来上がりつつあるスラグホーンに出迎えられ、名前は会場に足を踏み込んだ
周りには知らない魔法使いなどがいて、「君があのレーガン家の血を引く子だね」などと騒ぎたてられた
レーガン家が旧家だとしても、魔法省から尊敬される理由はそれだけではない。なんと、驚くことにフィガモネット(名前の母方の祖父)の兄が魔法省で魔法使いが有利になる法を次々に生み出していったそうだ
ゆえにレーガン家を尊敬する者も多ければ逆に嫌う者もいる。兄は魔法省にいたが呪いで死に、作り上げた法はいつの間にかに消えてしまった
大抵の魔法使いの家系はレーガン家支持派が多かったが、とある時期から反対派が増えたそうだ
それはマグル界でいう第二次世界大戦の時だ。飢餓が増え、魔法界にも被害が及んだ。兄の法は一部の魔法使い(しかもある程度古い家系)が有利になるだけで それ以下は過酷な税金と労働義務が課せられる。特にマグル出身の魔法使いは時代の冷たい風と差別偏見を吹き付けられていたのだとか
アンブリッジやファッジが尊敬するのも仕方がないだろう。彼らも純血派なのだから
「ハリーポッター!」
突然、トレロニーが深いビブラートのかかった声で言った
その声で周りの者もハリーが来ていることに気づき、わらわらとやってきた。
「あ、こんばんわ」
ハリーの気乗りしない挨拶が返ってくる。なんだかあからさますぎて名前は吹き出しそうになった
ここにハリーがいるということはロンもいるのではないだろうか。あたりを見回すがそれらしき人物を発見することはなかった
また何かあったのだろうか…本当に彼らは仲がいいな。名前にとって彼らのやり取りは微笑ましいものでしかない
そもそも名前は喧嘩をしたことがなかった。怒り声をあげることは滅多にないし、それを表面に出すこともない。だから昔から少し感情が乏しいといわれているのかもしれない
「あのうわさ!あの話!『選ばれし者』!もちろんあたくしには前々からわかっていたことです…ハリー、予兆が良かったためしがありませんでした…でも、どうして占い学を取らなかったのかしら?あなたこそ他の誰よりもこの科目がもっとも重要ですわ!」
ハリーがいると助かる。なぜならば話が自分に集中しなくなるから
利用しているようでなんだか悪い気もするが、これからもこれを利用させていただくつもりだ。
「ああシビル、我々はみな自分の科目こそが最重要と思うものだ!」
スラグホーンはもうできあがっていた。
まぁクリスマスだから羽目を外そうが自由だが……
「しかし、魔法薬学でこんなに天分のある生徒はほかに……そう、名前・スネイプくらいだ、彼は何と言ってもレーガンの血と魔法薬学教授のセブルス・スネイプの血を引くものだからね!魔法薬学界の貴公子的存在だね。ハリーと名前ほどの才能の持ち主は今まで数えるくらいしか教えたことがない、まったくだよシビル、このセブルスでさえ―――」
父上もやはり来ていらしたのか…名前は救いの手を求めるべく父の目を見たが首を横に振られてしまった。つまり、自分でどうにかしなさい、という意味だ
セブルスは暗い目を細くして鉤鼻の上からハリーを見下ろした
「…我輩の息子はポッターと違い自惚れておりませんので。それにこの現状で満足するような子ではありませんので……まだまだこれから、と言ったところですな。しかしポッターはおかしいですな、我輩の印象では全く何も教えることができなかったが」
何故ポッターなんかと見比べられている、所詮はその程度か
と、でも言いたげな瞳が名前を貫く
たちまち名前はその場にいずらくなり、気まずそうに一歩後ろに下がる。セブルスは昔から魔法薬ではめったにほめてくれることはなかったが、それは不器用ながらも彼の父親としての愛情なのだとわかっていた。だから辛くもなかったし、悲しいとも思わなかった
逆にいつか父を超えてみせる、それが名前の夢でもあった。
「それは天性の能力ということだ!」
スラグホーンが大声でいう
「最初の授業でハリーがわたしに渡してくれた物を見せてやりたかったね。『生ける屍の水薬』――――一回であれほどの物を仕上げた生徒はいない―――セブルス、君でさえ―――」
「…なるほど?」
ハリーを抉るように見たまま、セブルスが静かに言う。
確かに最初の調合であれはすごいなと名前も素直に感じた。リリーはかなり頭もよかったし、ジェームズだって天才のほうだ。ただ、使い道を間違えているだけなのだ
だからハリーがあれほどの調合ができてもおかしくないかもしれない。そもそもハリーの成績も別にいいほうだし、たぶんこれは天性の才能
「ハリー、ほかにはどういう科目を取っておるのだね?」
スラグホーンが聞く
「闇の魔術に対する防衛術、呪文学、変身術、薬草学…」
「つまり、闇祓いに必要な科目のすべてか」
セブルスがせせら笑いを浮かべて言う。
そうか、ハリーは闇祓いになりたかったのか…闇祓いなんて、やめたほうがいいのに…
「えぇ、まぁ、それが僕のなりたいものです」
挑戦的にハリーが返す。
「それこそ偉大な闇祓いになることだろう!」
「あんた、闇祓いになるべきじゃないと思うな―――闇祓いって、ロットファングの陰謀の一部だよ、みんな知っていると思ったけどな。魔法省を内側から倒すために、闇の魔術と歯槽膿漏とかを組み合わせていろいろやっているんだもン」
スラグホーンの太い声をルーナが遮った。そうか、何故ハリーがルーナを人選してきたかわかったぞ。
つまり、こういうことだ。彼女は持前のセンスでこの場を見事に笑いに包みこんでくれた
突然、フィルチの声が聞こえてきた
なんとフィルチの腕にはドラコがいるではないか。ようやく来たか――――と声をかけようとしたのだが、フィルチの声によって遮られてしまった
「こいつが上の階の廊下をうろついているところを見つけました。先生のパーティーに招かれたのに、出かけるのが遅れたと主張しています。こいつに招待状をお出しになりましたですか?」
ドラコは憤慨した顔でフィルチの手を振りほどく
それは僕が招待したから―――と理由を述べようとしたのだが、またまた声は遮られてしまう。
「あぁ僕は招かれていないとも!」
そしてキッと名前をにらんだ。名前にはなぜ睨まれたのか訳が分からなかった
「勝手におしかけようとしていたんだ、名前君は僕がこうなることを望んだ―――そうだよな?そりゃぁ君はレーガン家の血を引くものだ!僕に君の家の威光を見せつけたかったんだ。何か言ったらどうだい?ほら、何も返せやしないじゃないか!」
何かがはじけ飛んだように名前を怒鳴りつけるドラコに、周りは唖然となった。特にドラコと名前が幼馴染であることを知っているハリーは一体何が起きたのかと二人をただひたすら見比べていた
このとき名前は何も言い返すことができなかった―――と、言うよりはこの場で何を言っても無駄だろう、そう思ったから。しかしそれがさらにドラコの怒りの炎を燃やさせてしまったのか、こともあろうかと自分の身を危険にさらすような言葉まで吐いた
「君は本当に幸せ者だな、―――君は“気に入られている”―――――――」
誰に、かなんて明白。やはり、ドラコも知っていたのか。
「ドラコ―――!」
こんな場で、何を考えているんだ。
セブルスは突然のことに顔を引きつらせ、怒りの眼差しをドラコに向ける。名前は今まで出したことのないような大きな声でドラコを一喝させる。
「仮に気に入られていたとしよう、だとしても―――」
幸せな結末なんて、迎えられるはずがない。
幸いにもドラコが言い放った『気に入られている』の真意に気づいた者はセブルスとハリー以外いなかった。
…まぁいずれハリーにはわかってしまう事実だ。
「かまわん、かまわん、クリスマスのパーティーに来るのは別に罪ではない、今回だけ罰することは忘れよう、ドラコ、ここにいなさい」
セブルスは一瞬怒りの眼差しをドラコに向けるがすぐさまいつもの無表情に戻す。名前はここで話を変えてくれたスラグホーンに感謝した。
「どの道、君のおじいさんを知っていたのだし…、彼と君のおじいさんは仲が良かったなぁ、確か。だから君らを見ていると昔をよく思い出すよ」
ぽんぽん、とドラコと名前の肩に手を置いた。スラグホーンなりにこの空気をどうにかしようとしているに違いない。
だがドラコは名前を一切視界に入れないようにしている。彼も吐き出し場所がなくて困っているのだ……ならば自分がしばらく友の吐き出し場所になろう。
「話がある、ドラコ」
突然セブルスが言った
「まあ、まあ、セブルス、クリスマスだ・・・・あまり厳しくせず・・・」
「我輩は寮監でね。どの程度厳しくするかは、我輩が決めることだ」
素っ気なくそう言い放つとドラコを引き連れ去っていった。ドラコが恨みがましい顔をしていた…というのは言うまでもない。
名前も二人のあとをこっそりついていこうとしたのだが、残念なことにスラグホーンにつかまってしまいその後永遠と話が続いた。
そのせいかいつハリーがいなくなったのかも気付けなかった。しまった…きっとドラコたちを追跡しているに違いない…