朝食をすべく、朝広間へ向かうと早速カルカロフに呼び止められた。いろいろと警告はされていたものの、この場でカルカロフが名前に何かをするとは到底思えなかったので素直に話に対応することにした
「―――君は、セブルスの息子だね？」
「…はい」
「そうか……君の噂は聞いているよ。ファッジが君を大いに気に入っているようだからね――――ところで、君の父君からは何か変わったことは聞いたかね？」
「…いえ、特には」
カルカロフも死喰い人だ。そして名前も不本意だが死喰い人の印がつけられている
きっとこの男も名前の闇の印の気配に気づいているはずだ。しかし今この場で話す馬鹿なはずはないだろうから、いずれ時を見て印を暴こうとするに違いない
だがそこまで名前は馬鹿ではない。閉心術にも長けている名前ならば軽く阻止してみせるだろう。
話は他愛のないものばかりで、名前は無表情で話を聞き流していた。そんなとき、セブルスがやってきてカルカロフから離してくれた。・・・・後で父上に感謝の意を伝えなければな。
まさか、ハリーが選手に選ばれるなんて……思ってもみなかった。
ただ周りの生徒はそれが“何の意味”を持っているのか理解しておらず、ハリーに嫉妬が混じった目を向け、彼を罵倒する。嗚呼お前らはなんて馬鹿なんだ
―――闇の印が打ち上げられ、ヴォルデモート卿が確実に力を取り戻しつつある……そしてハリーが三大魔法学校対抗試合の選手に選ばれてしまった、というこ とは目的はきっと奥深くにあるものだろう。ハリーが自ら名前を入れるはずはないだろうし、あったとしてもゴブレットが素直に言うことを聞くはずがない。な んせあのダンブルドアが魔法をかけたゴブレットなのだから―――――ハリーにはダンブルドアの魔法を破るほど強力な魔法は使えないはずだ。
だとしたら誰が？
――――――ヴォルデモートの身近にいる人物……ホグワーツに侵入してハリーの名前をゴブレットに入れたに違いない。でも一体誰が・・・・
名前はずっとそのことを考えていて、隣でドラコが「ポッターめ、汚いぞ」と罵倒し続けていたことにすら気付かなかった。そしてムーディが此方を見てほくそ笑んでいることも―――――……
「あの胸糞インチキのポッティーめ！」
「…」
「名前もあいつのこと、どうとも思わないのか！？」
「……落ち着け、ドラコ。僕もそのことについてずっと考えていた」
寮の談話室に戻ったドラコは周りの生徒たちに今だにハリーがインチキをしたと色々言っていた。名前は無論そんなこと頭になんか入らず、ずっとこの事についての核心を探っていた。
「名前も思わないか？コソコソのポッティーめ！」
ドラコは尚も続ける
「不吉だ―――――」
誰も、名前のこの重要な発言に気づく者はいなかった。
実に不吉だ。不吉すぎる……どう言ったらいいのだろうか。きっと事の始まりはクィディッチ・ワールドカップで上がった闇の印………
元闇払いで名をはせているマッド-アイ・ムーディを雇ったダンブルドア。去年された闇の帝王が再び蘇るという予言―――――――もしかしたら、全ては繋がっているのかもしれない
名前は早朝から早々、ハリーの元へとやってきた。まだ生徒たちがあまりいないのでハリーはいくらか普通に過ごせていたようだがそれもあと数分の問題。あと10分もすればどっと生徒で広間が埋め尽くされ、ハリーにとっては地獄の空間へとなり果てるだろう
「ハリー…何か変わったことはなかったか」
「…君も僕がゴブレットに入れたって思ってるんだろ！？僕は入れてない！」
「……そう喚くな。余計疑われるぞ」
「余計疑われるって！？何を――――――って、君…僕が入れてないって信じてくれてるの？」
「…あぁ」
名前のその答えで一気にハリーの表情が和らいだ。
隣にいるハーマイオニーはなんとも言い難い表情を浮かべ、名前を見ていた。ハーマイオニーが言いたいこともいくらかはわかる。ハーマイオニーもハリーがゴブレットに名前を入れてないことぐらい分かっている。しかし0.1パーセントくらいは疑っているのだ
「気をつけろ。まだ確信をついていないから僕からは話せないが、この事に関して何か不吉な予感がする。パッドフットに手紙を書いたほうがいい」
パッドフットとはシリウスのあだ名だ。名前は用心深いので、シリウスのことはホグワーツではこう呼ぶことにしていた
「やめてくれ、シリウスは僕の傷痕が少しチクチクしたというだけでこっちに戻ってきたんだ。だれかが『三校対抗試合』に僕の名前を入れたなんてシリウスに言ったら、それこそ城に乗り込んできちゃう――――」
…まぁ、あの馬鹿犬ならやりかねないとは僕でも思う
「あなたが知らせることを、シリウスは望んでいます」
ハーマイオニーが厳しい口調で言った
「どうせシリウスにはわかることよ―――ハリー、これは秘密にしておけるようなことじゃないわ」
鋭いな、流石だ…ハーマイオニー
ハーマイオニーが伊達に成績が上位な訳ではないなと改めて思った名前であった。
ドラコが来るギリギリの時間までハリーのところへいたが、そろそろ視線が痛かったのでその場を後にした。きっとゴブレットにポッターの名前を入れたの、スネイプだぜ？とかいう作り話がちらほら浮かび上がったとか、そうじゃないとか…
名前がゴブレットに名前を入れたとかいう馬鹿な作り話はスリザリン生達によって消去されたが、ハリーがゴブレットに入れてないという事は今だに誰も信じてはいなかった
「おい、ほら見ろよ！代表選手だ――――」
魔法生物飼育学の授業で早速ドラコがハリーを苛立たせる要因を作る
「サイン帳の用意はいいか？いまのうちにもらっておけよ。もうあまり長くはないんだから……対抗戦の選手は半数が死んでいる…君はどのくらい持ちこたえるつもりだい？ポッター？僕は最初の課題が始まって十分だと賭けるね」
クラッブとゴイルがおべっか使いの馬鹿笑いをした。しかしハグリッドが持ってきた尻尾爆発スクリュートのおかげで話を逸らすことができた。スクリュートは苦手だが、今は感謝の気持ちをこめて散歩だってなんだりしてやりたいほどだ
「こいつに散歩？それにいったいどこに引き綱を結べばいいんだ？毒針にかい？それとも爆発尻尾とか吸盤にかい？」
「真ん中あたりだ」
ハグリッドが見本をみせるものの、皆なかなかスクリュートに手を伸ばそうとしない。しぶしぶ綱をつなげると、生徒たちはスクリュートの散歩へと出かけた
「……この生き物は今だに僕は理解できない………頭はどこだ？」
「そんなことっ…うわ！」
ドラコが盛大にずっこけてみせた。隣でスクリュートの怪力にずるずると引っ張られる名前も他人ごとではないといった状況だった
「くそ―――――っ、なんでっ………こんな目に！うわあ！！」
「ほんとだな……！」
―――これも人生勉強、そう言い聞かせてどうにか授業をやり過ごすことができた。終わった時には体中泥だらけで傷だらけだった。魔法で汚れを落としたりマダムのところへ行ったりで危うく授業に遅れるところだった
「……何故こんなにもイライラするんだ？」
それから１週間が過ぎたころ、名前の体に変化が現れ始めた。常に異様なくらいイライラしていたし、しかもムーディを見ていると絶好調に機嫌が悪くなっていく。その上にカルカロフは名前に話しかけようとタイミングを計ってやってくるのだが、話すたびに見えるあの黄ばんだ歯を見ていたくなくてカルカロフから逃げるので必死な毎日だった。
ムーディはそんな名前を見かけると意味深な笑みを向けてくるし、イライラするし、ドラコはドラコでずっとハリーの影口……しかも妙なバッジまで作り、それを名前のローブにつけようとしていた。
ハリーが心配で声をかけても此方にストレスを当てられるばかりで…。それもまぁ仕方のないことだろうと思うのだが、もう少し余裕のある時にあててくれればよかったのだ。今はタイミングが悪すぎる。昨日ついには滅多に怒ることのない名前がキレて危うくホグワーツの廊下でけが人が出るところだった
その日からドラコもなるべく名前を怒らせないようにと気を使っていたし、パンジーが毎日毎日高級洋菓子メーカーのキャンディを持ってきてくれた。
汚いぞポッターの文字がギラギラと光る。そのギラギラが名前の目に入るたびにストレスは増してゆく。どうしてこんなにイライラするのかようやく気付いた時にはすでに遅かった…
魔法薬学の授業中、鍋を粉々にふっ飛ばしてしまった上に、失神までしてしまったのだ。マダムポンフリーに何故早く医務室へ来なかったのかとこっぴどく叱ら れてしまった。自分の症状はなんなのかと聞いた時「胃に大きな穴があいてるんですよ」と言われてしまった時には驚いたものだ。粘膜がやられてしまったらし く、2週間の入院を余儀なくされた
――――ようやくイライラしていた理由がわかった…
闇が……確実に僕の心を蝕んでいってるんだ――――だからここまでイライラするのだ
でも何故ムーディを見ていると左腕と左目が痛むんだ…？ま……、まさかな。ありえないか
名前は最悪な想像を頭の隅から振り払うと、マダムからもらった薬を飲んで眠ることにした。
『うふふ……名前ちゃん、私の腕の中で眠っちゃったわ。無邪気でかわい～。……ねぇセブルス、私のおば様は知ってる？話によると闇の陣営にいるそうなんだけど――――見かけたことある？』
『いや……我輩は見かけたことがない。名前はなんというんだ？』
『――――よ』
『……なんだと？』
『親戚なのよ、一応。たぶんその人、時渡り人よ……先々代の』
『……アルベルト・Ｓ・レーガンの前の時渡り人か？亡くなった人物じゃないのか？』
『うーん、それがよくわからないの。私は時渡り人の力は授かって生まれなかったからわからないけれど――――アルが生きてればアルに聞けるのに……。ま、話を戻すけどね、その先々代の時渡り人は強力な力を持っていたって説明したわよね？』
『あぁ…しかしレーガン家ではないのになれるものなのか？』
『…えぇ、不可能ではないわ。でも一億分の一の確率ね……あそこまで強力な魔力を持った人はきっとその人くらいだと思うの。レーガン家の初代当主並に魔力がある……私はここに何か秘密が隠されてると思うの』
『確かにあの人の魔力は半端ない………きっと実の兄であられる闇の帝王ですら敵わないほどの魔力を持っている…。でも何故あの方を見たことがないアリスがわかるんだ？』
『―――――同じ血が通っているから、よ。レーガン家とゴーント家は元々同じようなものなんだから……』
『…祖先を辿る、か』
『えぇ……すべての元凶は、サラザール・スリザリン、この偉人の血ね』
そして名前は夢から現実へと呼び戻されていってしまった。
名前は退院した後もずっとイライラが収まることはなく、闇に抵抗しようと抵抗する程左目と左腕は痛み、深夜の勉強もなかなかはかどらずにいた。目の下にくっきりとしたクマを作り羊皮紙に向かってぶつぶつと独り言を言う名前にもはや近づこうとする人間はいなかった。ドラコぐらいなものだった。あのハーマイオニー達ですら近寄ろうとはしない
ついには教師としてではなく、親として名前が落ち着くまで授業に出ることも寮に戻ることも禁じた。
そして名前はしばらくの間、父親であるセブルスの私室で過ごす事となった。それを知っているのは親友のドラコぐらいだろうか。勉強のほうは独学でも今の 学年を遙かに上回るほどの勉強をしておいてあるので、心配はなさそうだ。わからないところがあれば図書室（行けるのは30分だけだが）で参考書を借りれば いいのだし、それでも分からなければ時間のあいている先生たちに聞けばよいのだ。今のところ何不自由無しに過ごしている名前だが、イースター休暇にホグズミードへ行けないのが何よりの残念なことだった
「…どうしてもあの夢が思い出せない………」
名前は、退院する日の夜中にみた夢をどうしても思い出せないでいた。その夢には何か重要なものが隠されていたような気がする―――――今までずっと頭の中でもやもやしていることが、一気に晴れ渡りそうな…
「はぁ―――何故メモに残しておかなかったんだろうな」
夢の内容を、今更だがメモに残さなかった自分を酷く悔いた
「…思えば、そろそろだな―――――試合が」
第一の課題が行われる日までそんなに長くない。ハリーは平気だろうか……
名前が何故第一の課題がどうとかを知っているのは、図書室に行く時にセドリックが教えてくれるからだった。
……思えば最近、シリウスに手紙を出していなかったな
最近はごたごたしていたせいで、シリウスに例のハリー実況中継レターを送れずにいた。ちょうど時間もたっぷりあるので、リーマスにも手紙を書いてみることにした
“リーマスへ”
名前だ。リーマスは元気にしているか？
―――――――駄目だ。
自分は手紙を書く才が全くと言って無いのだと改めて感じた名前であった。シリウスへ送っている手紙ですら淡白な内容で、名前の性格がじわじわと出ているものだった
第一の課題の日の前日、ようやく名前の精神が落ち着いたので寮へ戻ることを許された。授業も今まで通り受けられる。名前にはそれがうれしくて仕方がなかった
顔色もよくなった名前は、周りからおかえりと歓迎され、いつも通りの調子を取り戻しつつある。
「名前！ようやく戻ってきたんだな！」
名前がセブルスの私室で過ごしている間、宿題や話し相手になってくれたのはドラコだった。持つべきものは親友、本当にそう思う
「―――あぁ、ドラコのおかげだ。」
「僕は何もしてないぞ？」
不器用だがドラコのさり気無い気遣いにはいつも感謝していた。今の名前の心の支えはそういった大切な人たちで成り立っていた。想像はしたくはないが、もしそのうちの一人でも欠けたとしたら名前は精神が今度こそはいかれそうだ
周りの生徒に声を掛けられていた時、ふとハリーとハーマイオニーの姿が見えた。
「……名前！」
名前を久々に見かけた二人は驚いた表情でこちらを振り返った。
「…しばらく休んでいたが今日から普通に授業を受けてもいいそうだ」
「まぁそうなの！おめでとう名前！」
「おめでとう」
「…あぁ。それよりハリー、課題のほうは平気か？」
課題の話を切り出すと、ハリーの表情が一気に曇った。
―――そんなに危険な課題なのか？
セドリックから第一の課題があることは教えてもらっているが、どんな課題なのかは教えてもらっていない。ハリーのこの様子だと第一の課題が何なのかを知っているに違いない――…
「一体どんな課題なんだ？」
「――――ドラゴンだよ」
小さな声で、どこか絶望が入り混じった声でハリーがつぶやく。
それは絶望だ―――――…名前も心の中で思った
「…確かにドラゴンに魔法は辛いかもしれない。僕も何か探してみる……だから気を落とすな」
「―――ありがとう」
なんとも力のないありがとうだ。
何としてもハリーを助けてやりたかったので、早速図書室で本を読みあさりドラゴンに効く魔法を探した。そして答えは課題の1時間くらい前のときにようやく見つかった
「――――結膜炎の呪い！」
しかしすでに遅すぎた…
ハリーは選手待合室にいる――――何故もっと早くこの本を見なかったのだろうか
名前は酷く後悔の念に駆られた。