34 愛憎ロマンス/秘密の部屋

名前の私室までやってきたルシウスは、我が物顔でソファに腰を下ろし、冷たい笑みを浮かべている。さぁ、どうやって聞き出すか…相手はかなりの強敵だ。正直、彼からあの事を聞き出す自信はあまりない。

「さてナイトリー、貴方が聞きたがっている事は何かな」
「―――ルシウス、君は、あの子が所持していた品を、ホグワーツに持ち込んだ、何らかの手段を使って…私はそう考えている」
「誰の事を言っているのかさっぱりですな」
「白を切るつもりかい、マグル生まれの子を襲わせたのも、すべてアルバスをホグワーツから追放させるため、違うかな」
「貴方がそう思うのならば、そうなのでしょう、ところでナイトリー、最近の貴方は体調不良で授業を休んでいると聞きましたが、まさか、魔力を奪われているのではないかね」

ソファから立ち上がり、じり、じりと名前に近寄るルシウス。あと少しで靴の先がぶつかりそうなところで、ルシウスは持っていた銀の杖先を名前の胸元にあてる。

「ここに聞けば、すぐ答えがわかるはず、何故態々聞きに?」

一歩でも引いたら駄目だ。ぎり、と歯を食いしばり、ルシウスを見上げる。身長は平均的ではあるが、それ以上に背の高いルシウスと対峙すると、嫌でもしたから見上げる状態となってしまうのは仕方のない事だが、あの冷たい瞳で見下ろされるのは何年経とうと慣れないものだ。

「私に呪いをかけるなんて、あの子しかできないだろう…あの子の分身を、ホグワーツに潜り込ませたのは君だよね、ルシウス」

杖先の冷たさを感じながらも、名前は負けじと言葉を続ける。確証を得るには、彼の口から直接聞き出す必要があるからだ。

「一体、どの生徒にそれを持たせた?あの子の魔力が込められたものはとても危険だ、命すら落としかねない、それをわかっていてことを起こしたのか?」
「ナイトリー、どうやら既に会っているようですな、あの方に…しかし、貴方には何もできない…昔も、今も」

突然強く杖を押し付けられ、床に肘を強く打ち付けてしまった。何をする、と抵抗を試みようとしたが、強い力で床に押し付けられ、腕を思い切り掴まれる。後ろむきに押さえつけられてしまった名前に、身動きができるはずもなく。

「っぐ…ッ、…君は、年寄りを苛めるのが好きだね」
「ふ、貴方はただの年寄りではない、不老の、魔蜘蛛の子、今は滅んだ、アラクネの―――」

次の言葉を待っていると、次の瞬間、背後から赤い閃光が名前の胸を貫いた。それは一瞬の出来事だった。倒れる直前、この部屋にいる筈のない気配を感じ、視線を向けるとそこには…赤い瞳が美しい、青年が立っていた。

酷い頭痛で目が覚めた。立ち上がった瞬間、ぱちぱちと景色がはじけて見えた。ルシウスから聞き出したい事は聞き出せた…が、問題はその証拠を見つけられていないという事。

「あー、本当に酷い、こりゃ頭が割れそうな程痛い」

よろけながらも、ソファにゆっくりともたれかかる。頭が痛いのは強い力で押さえつけられていたのと、失神呪文を受けた衝撃で頭を机に強く打ち付けたためだろう。それにしても、ルシウスめ…と名前は恨めしそうにぼやく。

「私だってそろそろ堪忍袋の緒が切れるぞ…、絶対証拠を見つけてやる…」

息子にそんな危険な仕事をさせる筈はないので、あの子の所持品を持っているのは…スリザリン生以外だろう。
その日から、体調はすこぶる悪かったが城内を歩き回り、異変のある生徒がいないか見回ることにした。しかし、結局何も見つけられず庭の木々に夏の面影を感じる季節がやってきた。生徒たちは1週間後に控えた試験の為、試験勉強に追われている。名前が受け持っているマグル学も今はチャリティが臨時講師として立ってくれているので、城の見回りに専念することができた。ルビウスがいない間、ルビウスが行っていた仕事をこなしながらも、アルバスに手紙は毎日欠かさず出していた。ホグワーツの様子を彼に知らせるためだ。今はまだホグワーツに戻ってこれないが、ルビウスも、アルバスも必ずホグワーツに戻ってこれる。証拠さえ、手に入れば…だが。

試験の3日前、ミネルバは朝食の時間、生徒たちにマンドレイク薬が間もなく完成することを知らせた。広間は安堵の声で湧き立ち、中にはダンブルドア先生戻ってくるのかな、という生徒の嬉しそうな声が聞こえてきたっけ。
ホグワーツにいる教師の中で、彼程呑気な男はいないだろう。怪物は自分が黙らせたからもう安心してください、などと生徒たちに虚言を言いふらしているらしい。正直、ここまで来るともはやどうでもよくなってきた。彼は好きに泳がせればいいだろう…。

「―――大変なことになりました、来てください」
「ミネルバ、一体…」

夜、顔面蒼白のミネルバに連れられ、名前は恐ろしい光景を目の当たりにした。壁一面に血文字で書かれた文字を読み上げると、全身がまるで干上がったかのように喉がカラカラになり、脂汗がにじみ出てきた。スリザリンの継承者が残したとされる置手紙には、こう書かれていた。『彼女(ジニー)の白骨は永遠に秘密の部屋に横たわるであろう』と……。グリフィンドールの1年生、ジニー・ウィーズリーが、秘密の部屋に攫われたようだ。

「―――とんでもないことに…」
「えぇ、わたしはこれから生徒たちを安全な場所に移動させます、もうホグワーツを閉鎖しなくてはなりません」

これ以上、犠牲者を出すわけにはいかない。と、ミネルバは慌てた様子で廊下を走っていった。恐らく、セブルス達に知らせに向かったのだろう。1人その場に残った名前は、血文字を眺めながら、ある事を思い出した。

「そういえば…最近雄鶏が獣によく襲われていたような…」

最近、山小屋近くで飼育している雄鶏が獣に襲われ数羽死んでいたのが発見された。気にせず見過ごしていたが、まさか、と思い名前は廊下をくまなく歩き回る。そういえば、怪物が現れるとき、必ず廊下に水たまりができていた。そして、恐ろしい寒気を感じた…。

「バジリスク…まさか、やはり」

アルバスの言う通りだった…そして、彼女が操られていた……私が見たあの子の影が操っていた…私や、ジニーから魔力を奪っていた……だとしたら、すべてが繋がる。一刻も早く、アルバスを呼び戻さなければ。名前は私室に戻りアルバスに手紙を出そうと机の引き出しをひっぱった…と、その時。
強い寒気を感じ、ばっと振り向く。するとそこには赤い瞳をにたりと歪ませた青年―――トム・リドルが立っていた。

「トム―――ッ」

どうして、と続けようとしたがそのまま首をぐっと掴まれ、息が詰まる。酸素が吸えず苦しむ名前の顎を無理やり上に向かせ、そして唇を奪われる。ねじ込まれた熱い舌に、名前の人より少し短い舌が蹂躙され、嫌でも息が上がる。ざらざらとした舌に、顎の上をくすぐられ、情けない声が漏れた。

「―――ふッ……んぅ…ッ」

シャツの隙間にするりと潜り込んだ冷たい指先が小さな突起に触れた時、嬌声が漏れそうになり、ゾクゾクと性的な快楽が背筋を張って沸き上がる。

「はッ……んぅ…んッ」

足を割られ、膝でぐぐ、と弱点を持ち上げられ思わず悲鳴が漏れた。

「ひッ…」
「期待、しているんでしょう」

ね、先生。と耳元で囁かれ、名前は慌てて口を閉ざそうとするも両手を着ていたシャツで押さえつけられてしまった為、ぎゅっと瞼を閉じる。助けを呼びたくとも、こんな状況、誰にも見られたくはない。

「っ……やめ、トムッ」
「沢山魔力が必要になったんだ、だから、大人しく―――していてね」

ぐるん、とうつ伏せにさせられ、苦しみの声が漏れる。息のしづらい体勢にさせられ、そして首元にビリリと鋭い痛みが走った。

「いっ…!」
「ああ、噛みちぎりたいと思ってつい、ごめんね」

先生?と、耳元を犯しながら囁くトム。首筋にざらざらとした舌がねっとりと這われ、名前は苦しそうに息を漏らす。トムが、沢山魔力を必要とする―――となると、ジニーは既に用無しになってしまったのだろうか、早く、早くこの事を誰かに伝えなくては。わかってはいても、身体の自由が利かない。

「トム…ッなにす…!」

と、次の瞬間トムが名前のローブに入っていた杖を抜き取り、ひょいとそれを振った。すると、猿轡を噛ませられ、名前のこもった声が部屋にこだまする。

「!」

両腕を縛り上げられ、猿轡を噛ませられた名前を仰向けにしたかと思いきや、シャツを思いっきり引き裂かれ、杖先を胸元にぐぐぐ、と強く押し付けられた。押し付けられた杖先が熱く、胸元に激痛が走る。

「んッ!」
「…ふふ、やっぱり、未来の僕はちゃんと先生を手に入れているようだね」

胸元に浮かび上がる髑髏の印に、トムは美しい笑みを浮かべ、それを指先で優しく撫で上げた。

「あぁ、安心してよ、死に至る程の魔力は奪わないから…ただ、そうだね、流石の先生でも、暫くは身動きが取れなくなるかも、ね」

クスクス、と笑うトムに名前は必至の抵抗を試みる気力すら失い、瞼をぎゅっと閉じる。どうしてこういう時に無力なのだろう、と己の不運さに奥歯をかみしめた。彼の先ほどの言動からして、これから何を行おうとしているのか嫌でも察してしまい、悔しさに視界が歪むのを感じる。こんなことをしている暇はないのに、早く、アルバスを呼ばなくては。

「――――ッ!!」
「慣らす時間は無いんだよ、だから、暫く辛抱して、ね」

ああ、でも先生なら平気か。冷たい言葉の槍が名前の心に、そして、熱く猛った凶悪なそれが無抵抗の名前を乱暴に、無慈悲にも暴いていく。内臓を押し上げられる感覚に何とも言えない圧迫感を感じ、悲鳴を漏らす。しかし、悲鳴は猿轡によって抑え込められ、こもった呻き声が漏れるだけ。うつ伏せにさせられ、腰を高く持ち上げられ、それはまるで獣の交尾のようで。
ねじり込まれたそこから、次第に体の内側からじんわりと熱を感じるようになり、背筋に甘い痺れが走る。無理やりねじ込まれたので、切れてしまったのか太腿を伝い赤い血がツツ、と流れ落ちじゅうたんを染め上げる。

「やっぱり、先生は、昔から、変わらないなぁ」

感じるところも、中の心地よさも。心地よさそうな息を漏らすトムに、名前は眉間のしわを深めた。魔蜘蛛の子から魔力をより多く奪う方法…それが、この行為にあたる。人ではなくなってしまった以上、人権なんてものは存在しない。乱暴に扱われたとしても、今や自分は魔法生物……人間に飼われる犬よりも、立場は弱い。なぜなら彼らは保護してくれる人間がついている。しかし、名前には―――…。例えアルバス・ダンブルドアが味方だったとしても、世間的には通用しない。それでも……心を求めてしまうのは、いけない事なのだろうか。どうして、愛のないこの行為をしなければならないのだろう、ヴォルデモートの亡霊である彼に、愛という感情は存在しない。支配欲だけが、今の彼の全てだ。それが酷く悲しくて、名前は1人、涙を零す。

「今の先生は、とっても美しいよ」

トムの赤い瞳とは似て非となる名前の赤い瞳を見つめ、彼はほくそ笑んだ。感情が乱れた時に現れる名前の赤い瞳は、魔蜘蛛の子の本来の瞳の色だ。根こそぎ魔力を奪われた為、魔蜘蛛の体質が表に出てきてしまったようだ。

「彼を殺すのが楽しみだ」

残忍な笑みを浮かべながら、トムは名前に別れを告げる。

「じゃあね、先生」

その行為を終えたトムは床で力なく倒れている名前の首筋にキスを落とし、去っていった。