33 それこそが、真実/炎のゴブレッド

シリウスが無事ホグワーツを脱出し、リーマスが教師を辞めてしばらく経った頃である。名前はリーマスから久々に会ってお茶をしないかと手紙で誘われ、今ダイアゴン横丁にいる。

「ひさしぶりだねー名前」

約束の時間になるとリーマスが現れた。どうやらあのローブを着ていてくれているらしい。

「・・・久しぶりだな」

リーマスは何時になってもリーマスだった。名前はそれが嬉しかった。早速フローリアン・フォーテスキュー・アイスクリーム・パーラーに行く事にした

「パッドフットからは手紙は来たか・・・?」

「うん、どうにかやっているようだね」

名前たちはシリウスのことをパッドフットと呼ぶことにしている。これならば誰かに話を聞かれても安全だからだ。アイスクリーム・パーラーに到着すると、窓際の涼しい席を取った。

「―――僕はチーズケーキにする」

「うーん、じゃあ僕はチョコナッツサンデー1つと、バナナクリームパフェ1つと・・・・」

相変わらず、甘いものになるとリーマスの胃袋は底なしなんだなと思った。聞いているだけでもゲッソリしてしまいそうだ

パフェとケーキを待つ間、紅茶をのんびりと飲んでいた。そして話はシリウスがホグワーツに来てどんな風に食事を与えていたのかという話になった

「・・・パッドフットの犬化について僕はとやかく言わないが・・・」

「あぁ―――なんとなく想像が出来たよ」

その一言で、シリウスがどんな様子だったのか理解できた。

「ノミがいた。だからまずはシャンプーをしてやったんだ」

「ップ!」

リーマスは紅茶を噴出しそうになり、慌てて口元をフキンで抑えるとむせ返った

「ごほっごほっ・・・・・・そりゃぁいるだろうね、ノミ――――ノミ取りシャンプーをされるパッドフット・・・・・・ップ!」

「・・・背中を掻いてやったら尻尾を振って喜んでいた。終いにはおなかを出して喜んでいたんだ・・・・・・・・・」

「あははははっ!おかしい!はははっ・・・・!いやぁ――――ありがとう、面白い話を。これは随分とネタになるね、ジェームズ達に話してあげなくちゃね」

「―――そうだな」

目の前にある甘ったるいパフェたちを驚くべきスピードで消えていくのを目の当たりにしながら、名前は彼の糖尿病を心配した。パーラーから出ると次はジェームズ達の眠る場所へと向かっていった。

「――――ジェームズ、リリー。名前がようやく来てくれたよ。」

「・・・待たせたな、ジェームズ、リリー。」

名前は2人の墓に花を供え、目をつぶった。
気のせいだろうか―――――ジェームズ達の声が聞こえてくるような気がした

「・・・行こう。」

「そうだね」

思い出は心の中に。
リーマスと名前は再びジェームズ達の眠る場所を振り返り、祈った。

次に2人が行った場所は、アリス・スネイプとアルベルト・グレイシアの眠る場所――――――旧レーガン家屋敷跡地へと向かっていった。そこには何時の時も変わらない優しさが溢れ返っていた。風が頬をくすぐると、目的地が現れた

「・・・母上、アルベルト・・・・・・」

つい最近まで、隣の人の墓が誰の墓なのかを知らなかった。今更だが後悔した――――何故今まで・・・大切な叔父の墓に花を添えてやらなかったのかと

「すまなかった、アル。今まで放置してて―――」

名前とリーマスは少し汚れたアルの墓を気持ちをこめて洗った。花を添えて、そして祈るのだ―――――どうか、見守っていてくださいと

帰ろうと立ち上がった時、2人の墓の側に一厘の薔薇が咲いていることに気付いた。来た時は無かったのに―――――そう思いつつもその場を後にした。

『名前、もうすぐで会えるかもね?クスクス』

薔薇がそう呟いたような気がした。
その日、名前は再びあの女性の出てくる夢を見た。今度は何故か自分がその女性になっている夢だった。僕は黒髪で紅い目が特徴の男子生徒に話し掛けていた

『ねぇ、兄貴・・・あの変人知らない?』

『あの変人・・・・・・?あぁ、クライヴの事だね。彼ならいつものように温室で悪魔の罠をデッサンしているよ』

僕はぐぇーと舌を出した。

『悪趣味だな~。』

『それより・・・何で彼に用があるんだい?』

『あいつが持ってるかもしれないと思ってさ、あの本を』

『あぁ・・・あの本。残念ながら彼は持ってはいなかったようだよ』

兄貴と呼ばれる男子生徒は大げさに肩をあげてみせた

『ふうん・・・まぁいいや。じゃ、あたしはポエたんいじりに行こうかな。あいつ、あたしの言う事何でも聞くんだよ?』

『―――ポエフニーは僕らが成そうとしていることに大賛成だからね。』

しかし僕は心の中で呟いた。
“別にあたしは関係無いと思うのになぁ・・・・・・平穏に過ごしたいのになぁ”と

『じゃ、兄貴。卒業するまでホグワーツ生活楽しんでちょ』

『―――”ちょ”はやめなさい』

『はぁ~い』

するとぐんぐん景色は離れて行き―――――――朝目覚めるといつものベッドに横たわっていた。

「・・・夢、か」

それにしてもあの女性には・・・兄がいたのか。それに変人クライヴと知り合いで―――――母方の祖父とも知り合いだった・・・・・・・

ポエフニーとはポエフニー・レーガンのことである。一族の中で唯一ヴォルデモート卿に手を貸していた人物で、性格は残忍だったと聞いている。
しかし何故あの場で祖父の名が出てきたのだろう―――――あの女性は・・・一体何者なんだ?

名前は冷水で顔を洗い、頬をパシパシと叩くと去年よりも紅みがかった左眼を見つめた。

「―――去年よりも・・・何故だ」

変身はどうにか薬で押さえつけられているが、左眼の変化だけはどうしても押さえつけられなかった。日増しに紅くなっていく左眼が不気味なので、左前髪でいつものように隠すとグレーの瞳だけになる。何故かこの瞳の色に安堵してしまうのだ

今年は外国から生徒がくるとかなんとかでセブルスはずっと学校にこもって勤務していた。それにクィディッチ・ワールドカップがあるのでどことなく周りの大人たちはそわそわしていた。
夏休みに入ってから、ハリー達から手紙が届くといったことは一切無くなってしまった。勿論それはセブルスが近寄ってくる梟を跳ね除ける装置を家の周りに設置したからだった。去年の一件があって以来、ハリー達への憎しみは日増しに増していくばかりの父親の姿に名前はため息を吐いた。

今日は忙しく動き回るダンブルドアの代わりに、魔法省へ書類を届けに行く日だった。朝食を食べ終え、ローブに着替えると暖炉から魔法省へと向かった。

「だからそうではない!ここはだな――――」

「Mr.バグマン・・・・・・お久しぶりです」

ルード・バグマンが慌しく部下に指示していた。ルードは魔法ゲーム・スポーツ部の部長で、もうじき開催されるクィディッチ・ワールドカップの準備で慌しく動いていた

「おお!君は名前か!君が将来わたしの部へ来る事を期待しているよ!ところで何用かね?」

「―――大臣はどちらにいらっしゃいますか」

「おお・・・ファッジかね、ファッジならあっちにいるよ」

ルードが指差したほうを向けば、確かに上級秘書官のアンブリッジと話をしていた。短くルードに礼を述べると封筒を持ってファッジの元へと向かった

「―――大臣、お久しぶりです。」

「おぉ君は名前・スネイプ!アルバスから聞いておるよ・・・勉強に忙しい君に使いを頼んでしまって悪かったね」

「いいえ」

名前が頼まれたものを渡す姿を隣で少女趣味の服装をした魔女、アンブリッジがにこやかに眺めていた。彼女もまた、将来名前が魔法省へ来る事を期待している人物だった

「Mrs.アンブリッジもお久しぶりです」

「久しぶりね、Mr.スネイプ。身長伸びたわね?」

アンブリッジは甘ったるい声で背の伸びた名前の肩を叩いた

「はい・・・成長期のようです」

「そのようね?将来のことはもう決めたかしら?」

「―――はい、魔法省で勤めようかと思っています」

「まぁ!」

アンブリッジ同様、ファッジも嬉しそうに声を上げた。

「君が此処へ来る事を楽しみに待っているよ――――では、忙しい中、ありがとう」

2人の期待に満ちた眼差しを背中に感じつつも、名前は自宅へと帰っていった。
夏休みに入り、宿題をわずか1週間で終えてしまった名前は、次の学年の予習と言語の勉強に勤しんだ。夏休みの間は好きな教科を好きなだけ勉強できるから嬉しい
最近は嬉しいことばかりだった。リーマスからはアルの形見を貰い受けることが出来たし、ジェームズ達の墓参りにも行けた。マーミッシュ語も完璧にマスターできたし文句なしだ。

今度はゴブルディグック語、つまり小鬼たちの使う言葉だ。名前はそれを次に学ぼうと思っている。『1000の生物の1000の言葉』には相変わらずお世話になっていた
名前の机の周りにはたくさんの羊皮紙が積まれていて、全てはマーミッシュ語を勉強する際に使ったものだった

セブルスはかというと、シリウスの一件でマーリン勲章を貰い損ねてしまったらしく、酷く不機嫌だった。
また、そんな気分上々の名前を一気に急降下させるのは随分簡単な事だ。夏休みの間、マルフォイ家に泊りに来なさいと半ば強制的に招待されてしまったのだから。正直ドラコの父君とはあまり会いたくなかったが――――断ったほうが恐ろしいので承諾してしまったのだった。

日付が近づいてくるたびに名前の気持ちはどんよりと沈んでいく。そしてついに約束の日は訪れてしまったのだ――――

「・・・薬は必ず飲み忘れるな。それと印のことは既にルシウスは気付いていたようだ・・・・・・恐らく息子のほうも知っているだろう。詳しく聞かれてもあまり答えるな」

「・・・はい」

ルシウス・マルフォイだけには特に警戒しなくてはならなかった。名前は父親の忠告を頭に叩き込むと、『1000の生物の1000の言葉』をトランクに入れ、マルフォイ家まで父親付き添いの姿くらましで向かっていった。

「―――お世話になります、Mr.マルフォイ」

「おや・・・久方ぶりだね?名前」

何かが含まれた笑みを浮かべるルシウス。スネイプ親子は冷や汗ダラダラ状態だった
隣にいるドラコはなんのことやら分からず、首をかしげていた

「名前!君にいいものがあるんだ!」

ドラコと名前が屋敷の中へと消えてゆくと、その場にはなんともいずらい空気が漂ってきた。ルシウスと2人っきりなんて―――――

「・・・セブルス、何故君は私に黙っていたんだ?名前の印のことを―――」

「・・・」

「まぁそうだろうね。でも君の息子が”あの”名前だとは思いもよらなかったよ―――ダンブルドアがどうせ魔法をかけて忘れさせていたんだろうがな。」

「・・・我輩も正直驚いた」

「実に驚いたとも―――」

ルシウスは口を三日月のようにして笑った。

「・・・今年、クィディッチ・ワールドカップは悲鳴に見舞われるだろう」

「―――ルシウス」

「あー、無論君の息子は安全だ。何故ならば我々の仲間なのだから・・・だろう?セブルス」

セブルスは苦虫を潰したような顔をした。ここはYESと言ったほうが息子の命は安全なのだと思い、短く「あぁ」と答えた
名前が閉心術に長けているのはセブルスも知っていたので、心を読み取られる事はないだろう。しかし相手は闇の魔術に長けた大人なのだ――――
セブルスはその夜、息子が心配で一睡もできなかった。翌日名前からの手紙で今のところ無事なのを聞き、倒れるように眠ったのは言うまでも無い。
マルフォイ邸での夏休みは、以外に普通だった。ルシウスとナルシッサは名前の印について一切触れてこないし、ドラコも印のことは知っていたようだが別にどうとも思っていないようだ。ただ何故黙っていたんだとこっぴどく怒られたが―――

「ここはどうやって解くんだ?」

「ここは―――こうすれば解読できる」

今ドラコに古代ルーン語を教えていた。

「そうか・・・こういう手があったんだな!」

ドラコは教えてもらったとおりに羊皮紙に写すと次の問題に取り掛かった。名前はかというと、ドラコに分からないところを教えつつもゴブルディグック語を勉強していた。

「2人とも、お勉強は順調?」

ドラコの母親――――ナルシッサ・マルフォイが2人の様子を覗きにきた。順調に進む古代ルーン語のレポートを見るなりナルシッサは満足そうに微笑んだ。

「相変わらず勉強熱心ね・・・名前、マーミッシュ語を覚えたんですって?」

「はい、Mrs.マルフォイ」

息子も貴方と同じくらい勉強熱心ならいいんだけど、とドラコをぎろりと睨むとドラコは恥ずかしそうに顔をうつむかせた

「ドラコも学年順位は上でしたし―――」

「いいえ!あのグレンジャーとかいうマグルに負けるなんて―――――」

学年順位はもちろん1位が名前で2位がハーマイオニーだった。おしくもドラコは3位だったのだ。それにしても二つの壁が高すぎなのだ――――・・・
この2人を超える人はホグワーツ在学生の中でも誰一人としていないだろう。

「でもまぁいいでしょう・・・名前がグレンジャーを負かしたんですからね!」

にっこりと微笑みながら名前の頭を撫でた。隣ではドラコがここにいずらそうにもじもじと動いていた

「ドラコ、お父様が呼んでいらしたわ――――」

「はい、母上」

ドラコは羽ペンを置き、1階へと向かっていった。その場に残るのはナルシッサと名前だけ。―――――非常にいずらい

「あなたがあの名前だったのね・・・・わたくし、突然思い出したの。ルシウスが言うにはダンブルドアが術を使ったって――――ねぇ、あなたは何故あの時代にいたの?」

「―――・・・」

名前はどう説明するか悩んでいた。詳しくは話せないが精神だけが過去に行っていたとだけなら言えるだろう

「・・・精神だけが過去に行っていたんです、僕も普段どおりに生活していたんですが・・・・・・突然倒れたみたいです」

「あら・・・そうなの。」

「・・・いつまでもお変わりの無い美しさで、Mrs.マルフォイ」

「まぁ照れちゃうわ」

彼は女性の喜ぶ言葉を自然と発していることに気付いていない。だから未だに名前のプレゼントには愛の妙薬が混ぜられたものやラブレターが沢山送られるのだった

「セブルスとアリスに似ていると思ったらやっぱりセブルスの息子だったのね。・・・・・・アリスは天国で元気かしら」

アリスとナルシッサは学年は違えど、親しい友人関係だった。ナルシッサのことを本当の姉のように慕っていたアリスの突然の死は、彼女を悲しませるには十分すぎた

「・・・はい。母もMrs.マルフォイのことを思っているとおもいます」

「そして貴方の事もね、名前」

母のいない孤独な名前を本当の母のように抱きしめてあげると、一瞬身じろぐものの素直に受け止めた

――――暖かい

ナルシッサの心臓の音が名前を安心させる。母のやわらかく、優しい手が名前を包み込むとついついナルシッサにすがりつきたくなってしまう。母親を求めて――――

「お勉強の邪魔だったわね、じゃあ私は失礼するわ。お勉強しっかり頑張って、将来を掴み取りなさい」

ナルシッサの姿が遠ざかっていくのを名残惜しそうに見つめ、紅茶を一口飲んだ。
母がいないと自覚しているものの、やはり寂しいのだ――――父親だけでは。そう思うといつも家族と過ごせているドラコが羨ましくてしかたがなかった

「待たせたな名前」

ドラコが父親の用事から帰ってきた。

「いいや・・・。」

「先ほど、母上が上機嫌で鼻歌を歌っていたんだが――――一体何を話していたんだ?」

「・・・得には・・・・・・」

「そうか。それより名前に嬉しい知らせがあるぞ、今度のクィディッチ・ワールドカップに招待されたんだ。勿論、貴賓席にね」

「・・・そうか」

「あんまりクィディッチに興味は無いのはいつものことだったな。大臣も君が来るのを楽しみにしてるって君の分のチケットまでよこしてきたよ」

ドラコはチケットを名前に渡すと隣の席に座った

「君は随分気に入られているようだね・・・・・・それを活用しなくちゃ勿体無い」

「・・・そうする」

チケットを机の上に置くと、再び勉強をし始めた。3時間経った頃、ドラコがペンを休めてあくびをした

「・・・今日はこの辺にしないか?疲れた」

「そうだな」

名前にしてみればまだ全然勉強し足りなかったが、ドラコが疲れたのだからここは中断するしかないだろう。

「名前は知ってるよな?今年ホグワーツで開かれる―――」

「あぁ、三校対抗試合だろ」

「そうそう。ビクトール・クラムもくるらしい」

「・・・そうか」

ドラコはビクトールについて熱く語り始めた。彼はクィディッチが大好きなのだ。いや―――大半の魔法使いはクィディッチが大好きなのかもしれない。一部を除いてだが
その日、ドラコの口からクィディッチの話が途切れる事は無く―――ドラコが寝静まった深夜、ようやく名前は開放されたのであった。