22 それこそが、真実/アズカバンの囚人

名前と父親であるセブルス・スネイプは眉をひそめていた。眉間にまったく同じような皺を寄せて・・・

「―――まぁ、そんな警戒しなくても」

ダンブルドアとやってきた新任教師のリーマス・J・ルーピンは穏やかに言う。しかしこの親子には通用しなかった

「・・・何故ルーピン、貴様が教師など――――」

「校長に頼まれたんだよ・・・去年は散々らしかったからね」

にっこりと名前に笑って見せるがどんな風に散々だったのかを知らない名前は首をかしげるだけだった。そして名前が眉間に皺を寄せているのは
スネイプと同じ理由ではなく、まさかリーマスと会えるとは思ってもみなかったという驚きのあまりの皺だった。
過去の世界とは随分雰囲気も変わっていたし、何よりも大人の男性だった。リーマスとの思い出がふつふつと湧き上がり、それも儚く消えて行く。彼らは名前との思い出が根こそぎ失われているのだ―――
それは仕方の無い事だ。未来を変えてはならないし、過去であった人が今も変わらない姿でいるのは何らかの支障をきたすはずだからだ。

「・・・それにしても、君たちって本当に親子だね―――眉間の皺も全く同じだよ」

リーマスはこの親子が微笑ましいのかクスクスと笑うとスネイプは静かに「・・・誰が皺を寄らせるような事をしているんだ」とリーマスを睨んだ。

「改めまして、今回防衛術の担当になったリーマス・J・ルーピンです。よろしくお願いします」

「・・・我輩は貴様を認めた覚えは無い」

「これこれセブルス・・・・・・過去の事は水に流してはくれんかのう」

大人たちの対話はどうやら長続きしそうなので、名前は屋敷僕にお茶を持ってこさせリーマスの顔をまじまじと観察することにした

―――顔の傷が増えている・・・それに、かなりやつれている・・・・。人狼だからなかなか職につけないのだろうか・・・・・・服がぼろぼろだ
カバンは随分色あせており、使い古した感がある。そんな名前の目線に気付いたのか、リーマスは名前に微笑みかけた

「・・・君が名前だね?」

「・・・はい」

リーマスの優しそうな微笑みは何時の時代も変わらないようだ。それが少し嬉しかったのかうっかり『リーマス』と呼びそうになってしまった

「・・・ルーピン先生、よろしくお願いします」

「よろしく。僕のことは授業意外ならリーマスって呼んでくれてもかまわないからね。あと、敬語もいらないからね」

暖かい笑顔でそう言うと名前は「わかった、リーマス」と頷いた。
なんだか今まで仲良くしてきた友達だったのに、急にこうも変わると胸の中に大きな空洞が開いてしまったような気分になる。しかし何時の時代も変わらない優しそうな笑顔を見ているとそんな気分なんてどっかへ飛んでいってしまうようにも感じられる

そんな中、名前とリーマスが仲良く話しているのに気付いたスネイプはリーマスと名前の間にぬっと入り、リーマスを睨み上げた

「・・・我輩の息子を汚さないでいただきたいのだが?ルーピン」

「汚すだなんて・・・僕はただ話をしていただけだよ。でも楽しい話の種が出来たなぁ・・・セブルスって本当に娘を嫁にやりたくないパパって感じがするね」

「―――貴様など帰れ!我が家から出て行け!」

スネイプは恥ずかしいことを言われ、顔を真っ赤にして怒る。ダンブルドアがそれを微笑ましく見ていた・・・

「フォッフォッフォ・・・さて、重要なことじゃが・・・・・・昨日手紙に書いた通りじゃセブルス。例の薬を頼みましたぞ」

「・・・校長、しかし!」

「もし君が嫌ならば君の息子に頼もうと思っておる・・・君も授業で知っているじゃろう・・・・・・名前・スネイプの才能は」

「・・・っぐ」

ダンブルドアは弱いところをついた。スネイプは決して自分の息子に宿敵のための薬を作らせるのをYESと快く受けるはずが無いからである。スネイプは仕方なく、頷くしかなかった。

「これにて一件落着じゃ。さてさてリーマス、そろそろ失礼しよう」

「はい、じゃあね名前。ホグワーツで!君の才能を期待しているよ」
そう言うと二人は姿くらましをして去っていった。
スネイプは未だにリーマスが消えた場所を睨みつづけ、毒づいていた。

懐かしい人との再会をして間もなかった時である。あのシリウス・ブラックが脱獄したというニュースが魔法世界を揺るがしたのは――――

「あのブラックめ、どうせあの人狼の助けを得て脱獄したに違いない・・・」
あれ以来からずっとスネイプの眉間には皺が寄せられており口を開けば彼らの愚痴ばかり。息子である名前ですらため息が漏れてしまうほど。タイムスリップして帰ってきてからというもの、父親のことを間違えてセブルスと呼ぶことは無かったが時々間違えそうになることはあった。そのたびに複雑な心境となるのだ。
今の彼らは彼らであって彼らではないのだ。全く別物なのである。そうは分かっているものの心の中の空洞が無くなるわけでもなく、そんな時は親友のドラコやハリー達と無性に会いたくなるのだった。

「明日、マルフォイ家と共に学用品を買いに行きなさい。ご親切にも家の前まで迎えに来てくれるそうだ」

スネイプはそう言うと新学期の準備のため、ホグワーツへと向かっていった。本心としては出来るだけ名前と一緒にいたいのだが教職員という責任からは逃れられない。新学期再び1年生を迎え入れるための準備や、OWLの試験準備などで忙しなく動き回らなくてはならない時期だからだ。もう試験のことをするのかと思うだろうが、今からしないと試験には間に合わないのだ。
名前はそのことを十分承知していたし、何よりも今までずっと1人で過ごしていた夏休みを少しの期間だけだったが寂しく過ごさずに済んだのだ。それだけでも十分名前は幸せだった。父親が魔法薬学教授なのもあって夏休みの宿題は、名前だけ特別量も多く問題も5年生レベル程度あった。だから残りの夏休みは勉強に集中して励むことにした。まぁ5年生レベルと言っても名前にとっては簡単なものなのかもしれないが・・・。

「・・・7月31日ってハリーの誕生日だったよな・・・」

名前は急にハリーの誕生日を思い出した。そして自分の誕生日のことを思い出したのだ・・

「思えば僕の誕生日・・・・・・ハリー達には言っていなかったな」

ハリー達ならまだしも、過去の世界の人たちにも誕生日の話をしたことが無く、12月31日が誕生日であることを知らせているのは唯一、親友のドラコくらい なものだった。毎年誕生日プレゼントを贈ってくれているのはマルフォイ家とどこから知ったのかは知らないがいくつかの純血魔法使い家の者達からだけだっ た。
自分でも何故誕生日をあまり教えたくないのかは分からなかった。ただいえることは名前には欲が全然無いという事だ。

名前はぱらぱらと雑誌を見て、何をプレゼントするかを考えていた。

今度ハーマイオニー達の誕生日も聞いておくか・・・・・・
そんなことを考えているうちに、時間はあっという間に過ぎて夜になっていた。父親のスネイプは今日からホグワーツに出勤しており屋敷には屋敷僕と名前だけだった。屋敷僕のスティンギーは丁度名前へ食事ができた事を知らせに来た

「坊ちゃま、スティンギーめです。ご夕食の支度ができました」

「・・・あぁ、今行く」

これから少しの間だけのちょっと寂しい夕食の始まり。

翌日、マルフォイ家の車がスネイプ邸の前までやってきた。名前は足早に来る前向かうとルシウスとドラコがにっこりとこちらを微笑んで待っていた。

「・・・お世話になります」

「やぁ名前、元気そうでなによりだよ・・・。気分が悪かったらすぐ知らせなさい」

「もう大丈夫です、心配をおかけいたしました」

ルシウスを見たとき、ついつい”マルフォイ先輩”と呼びそうになったのは定番の事。この人は昔から変わらないのだなぁとしみじみ思った。

「名前、本当に平気なのか・・・?」

親友のドラコが心配そうに名前の顔を覗き込んだ

「・・・あぁ、大丈夫だ。すまない」

ドラコの顔を見ているとついつい笑いそうになる。何故だか分からないがきっとこの感情は”嬉しい”のだろう。久々の再開に心が温まってゆく

「さぁ早く乗りなさい。今世間ではシリウス・ブラックで物騒だからね・・・」

2人は素直に車に乗ると車はついに発車した。
―――シリウスは本当に殺人鬼なのか・・・?あのシリウスがありえない・・・人間とは根本的な事は流石に数十年で変わるものではない。名前は未だにシリウスの無罪を信じていた。こんな事を言ったら馬鹿だといわれるに違いないので口には出したりはしないが・・・

「名前には手紙で言ったとおり僕、クイディッチのシーカーになったんだ。」

「あぁ、ニンバス2001だってな」

そしてドラコは試合の事を自慢げに話すが決して負けたか勝ったかなどは話さなかった。自分がいかに箒を乗りこなし風を切り――――そんなところだ

「君がいなくて去年は寂しかったよ・・・それに色々とあったからね・・・・・・」
色々とドラコは言うがあまり大きな声ではいえないのか、急に小声になる。恐らく父親のルシウス・マルフォイが原因だった継承者事件のことがいえないのだろう。

「・・・それよりドラコ、ロックハートってどんな奴なんだ」

ドラコのことを気遣い、名前はすぐさま話を変えた。そんな名前の心遣いに気付いたのか、急に目を輝かせロックハートの悪口を散々言い始めた。
ドラコの話を聞く限りでは相当クレイジーな人間だったのだろう。その場にいなくてよかったとつくづく思う
「・・・2人とも、着いたぞ」

ルシウスの声でようやくダイアゴン横丁についたことに気付いた。どうやら話に熱中しすぎたようだ

「・・・すみません、Mr.マルフォイ」

「いや、いいんだよ。久々の友人との会話に花を咲かせていたのだから・・・私はこれから用事がある。2人とも、今外は危険だということよく自覚して行動しなさい。2時間後、ここで打ち合おう・・・・・・。2人バラバラで行動しないように」

ルシウスはそう釘打つと足早とどこかへ行ってしまった。
とりあえず2人はリストに載っている教材を買いに書店へ向かう事にした。

「・・・これが教科書か?」

「・・・」

ドラコと名前は書店へ来て唖然とした。本が本に襲われそこらへんに本のページが散らばっているのだ。店員によればこれが魔法生物飼育学の教科書らしい

「あの野蛮人なら考えそうな事だ―――」

ドラコは毒づくとヒモで縛られた本を受け取りカバンに閉まった。(ちなみになんでも収納できる上に重さは一切変わらないという代物だ)

「・・・素敵な教科書だ」

名前は素敵を強調して言う。名前はこの本の抑えかたを知っていたが店員がヒモでぐるぐるに縛るのだから、今更言っても遅いだろうと思い何も言わなかった。教科書を受け取りドラコ同様カバンにしまうと書店を後にした。

ハグリットの強烈なる授業を想像するだけで身震いしてしまいそうだ。だがそこまで言ってしまったらハグリットがかわいそうだ・・・そう思いハグリットのことは何も喋らないことにした。ドラコは未だに文句をいいつづけるが・・・

魔法薬学の材料も補充し(名前は家で準備してあるので買わなかったが)、ローブの袖丈や裾を直し、羽ペンやインクを補充すると全ての準備が終わった。名前はドラコが見ていないときにこっそりとハリーへのプレゼントの『梟高級フードセット3年分』を購入した。7月31日にハリーの自宅へ届くように店員へ言い渡すとドラコと一緒に待ち合わせの場所で待つ事にした。

「梟の餌が切れたのかい?」

ドラコにそういわれた瞬間ドキッとした。まさか見られているとは知らず・・・

「・・・あぁ、シェリアの餌が無くなってな。注文しようと思ったがダイアゴン横丁に来るのならそこで買ってしまおうと思って」

どうやらドラコは名前の家で飼われているメスの梟のシェリアの餌を買っているのだと勘違いしたようだ。名前がそう言うと納得したのかふーんと答えただけだった。ドラコが勘違いしてほっと一安心した名前であった。

「シリウス・ブラックが脱獄だなんてな―――」

ドラコは急にシリウスの脱獄の話をし始めた。父親からシリウスのことは聞いているらしく”家の名を汚すもの”や”出来そこないだった”などとシリウスのこ とを罵ってくる。いくら親友といえども友人の悪口は聞いていいものではない。それにシリウスは何も悪くない――――出来そこないなんかじゃない。成績優秀 でユーモラスな奴なのだ。純血なのに純血思想のない名前と似たようなタイプで親近感を沸かせていたのだ。
そのシリウスをドラコは何も知らないのに・・・・・・
魔法をかけて悪口を止めさせてやりたかったが未成年は学校意外で魔法を使ってはならないのだ。名前は奥歯をかみ締めてドラコの悪口を聞き流す事にした。