13 愛憎ロマンス/賢者の石

ハロウィン前夜、名前は程よい火加減でとろりと煮込まれたじゃがいものポタージュをゆっくりと味わいながら、クィリナスの席を見る。一体どこへ行ったのだろうか、彼の大好物であるポタージュが冷めてしまうではないか。広間に来てからずっと空席であるそちらを見ていると、ふと、セブルスが席を立ち広間から去っていくことに気が付いた。
クィリナスを探しに行ったのだろうか。だが、夕食の席に着くかつかないかはその教師の自由。体調でも悪いのだろうか…と考えていると、アルバスと視線がぶつかる。何かを考えていた様子だが、すぐにいつものように微笑まれ、誤魔化されてしまう。
夕食後、名前は生徒たちが各自寮へ戻っていくのを見送ると、一人静かなホグワーツの廊下を進み、クィリナスの部屋に向かう。結局クィリナスが夕食に現れることはなく、セブルスも大広間を出たっきり、戻ってくることはなかった。

「―――なんだか、寒いな」

もう11月になろうとしているのだから、寒さを感じてしまうのは仕方のないこと。クィリナスの部屋の前にたどり着くと、中から誰かの話声が聞こえてくるような気がした。セブルスでもいるのだろうか。とんとん、とノックをするとヒッ、というクィリナスの悲鳴が聞こえてきた。ヴァンパイア恐怖症もここまで来ると、なんとやら。

「お、おや…名前でしたか…」
「クィリナス、夕食のとき、いなかったけれども大丈夫かい?」
「い、いえ、今は大丈夫ですよ、ちょ、ちょっとばかり、食欲が、無かっただけで」
「そう、ならいいんだけれども…」
「名前、貴方は、わ、わたしが、心配で、来てくれたのですか」
「そうだよ、それ以外に何があるというんだい」
「……良かった」

まだ、貴方の中にわたしがいる。クィリナスの呟きはあまりにも小さく、名前の耳に入ることはなかった。クィレルが何に対してよかったと言っていたのか今の名前にはよくわからなかったので、聞き返すと何でもないと誤魔化されてしまう。

「貴方と、いると、安心する」
「…クィリナス?」

力なく呟く彼に、名前はしばらく言葉を失う。暖炉の炎がクィリナスの横顔を照らす。その横顔は、昔よりもうんと痩せてしまったような気がする。血のめぐりが悪そうな青白い肌に、何日間も眠っていないのか、はたまた熟睡が出来ていないのか、窪んだ目元にはクマがくっきりと表れていた。パチ、パチという薪がはじける音がし、足元の影がゆら、ゆらと揺れる。

「わたしは、弱い、男だ」

俯く横顔は、力なく握られる自身の手を見つめた。クィリナスは、一体何と戦い、何に怯えているのか。今にも消えてしまいそうなその横顔に、名前は思わず手を伸ばしてしまいそうになる。

「…一体、どうしたんだい、突然」

彼はこんなに弱気だっただろうか。いいや、去年旅に出る前は、こうではなかった。今のクィリナスを見ていると、どうしてもヴァンパイア以外の要因があるためではないだろうか、という気がしてならない。先ほどから一切視線を合わさないクィリナスは、じっと自分の影を見つめている。

「やれ」

暫くして、彼とは違う、他の誰かの声が聞こえてきたような気がした。しかし、この部屋にはクィリナスと名前以外はいない。そう疑問に思う暇も無く、その瞬間名前の視界は真っ暗になり、腕を後ろで縛られるのを感じた。驚くことに、クィリナスが自分に向けて呪文を放ったのを確かに見た。何故、彼がこんな暴挙に出たのかは不明だが、名前の長年の勘でこれはまずいことになる、と久方ぶりの焦りを感じる。なんとか自分も魔法で対抗しようとしたが、杖を抜き出したくとも両腕が後ろで縛られているためそれを掴むこともできない。逃げ惑い、扉を探すがどこに扉があるのかもわからない為、名前は何かの角に思いっきり足をぶつけ、勢いよく冷たい床へ倒れた。打ち所が悪かった為か、痛みでうめき声を上げようとしたが口から漏れるのはこもった音だけ。如何やら、声を出さないよう口にも何かを巻かれたようだ。
彼は、私をどうするつもりなのか。名前は、彼があきらめたとばかり信じていた。だから、あの話題を一切してこなかったのだ、と。あれからずっと、そういう行為を求めてこなかったのだ、とそう信じていた。耳にかかる熱い息に、名前はぶるりと身震いする。
ビリ、ビリと何かが裂かれる音に心臓がバクバクと唸る。脂汗がぶわりと滲み、足が思うように動かない。誰かに、こうして暴かれることは名前にとってのトラウマでもあったし、長年生きてきた中でそういった経験は、何度かあったがクィリナスはこういう事をする人物ではない、と名前は胸の奥底で、彼を信じていた。今までの彼であれば、一応その行為を求めてくる際は何かしら前兆があった。それが名前の求めない行為であったとしても、名前の体の負担を思い、何かしら準備をしてくれたというのに。一昨年の彼とは打って変わって、乱暴に服を引きちぎり、突然始まるその行為に名前は声にならない悲鳴を漏らす。

「んんんんんぅッ!」

何の愛撫も無く、突如体に硬くて熱いそれがねじり込まれ、名前の目頭から生理的な涙が滲んでくるのを感じた。まさか、それをすぐにねじ込んでくるとは。唐突に始まる激しい動きに名前はこもった呻き声を上げる。無理やりねじり込まれたそこは、名前から流れ出る血で滑り、ぐい、ぐいと奥を突いてきた。途中、クィリナスも苦しげな息を上げていたが、名前の中を無理やり掻き進む事によってにじみ出てきた血の滑りを得て、それは次第にゾクゾクと背筋が痺れるような心地よさへと変わる。背後から勢いよく、ぐり、とその一点めがけてねじり込むと、皮肉なことにも名前の呻き声が艶を含み始める。

「んっ…んんんぅう…」

引き裂かれたそこは、クィレルを受け入れ底知れぬ刺激を名前へ与える。クィレルもまた、久しぶりの行為にあっというまにイきそうになってしまったが、それを何とか耐えた。艶を含む悲鳴を上げる名前をよそに、素晴らしいほどに自分を包み込んでくれるそこを、クィリナスは無我夢中で貪り続ける。こうなってしまえば、名前は正常な意識で状況を理解することができない。通常、口づけによって相手に魔力を与える事の出来る名前だったが、その先の行為で魔力を奪う事が出来るのは、彼の胸に印を残したあの男だけ。しかし、今の名前にそれを考える余裕などなかった。クィリナスのそれは、腰が砕けるのではないかと思うほど、名前を快楽の底へと突き落す。彼はとても上手だった。名前の弱点を知り尽くしているのか、背筋に沿ってある一点をぐり、と刺激しながら突き進むと名前のそれが快楽に抗えず、思わず放ってしまう。視界が見えなかったのもあり、感覚がいつもより鋭くなっているのだろう。ひくひくとそこは痺れ、名前の口からだらしなく垂れる唾液が、口を覆っている布に染みだし、地面を濡らす。地面に顔をこすりつけながら、必死に自我を保とうとするが、お構いなしにクィリナスは名前を暴き、貪り続ける。

「んんっ…んんんぅ…ぅう…」

抵抗する気も、力が入らないのも最近の体調からくるものだと、この時名前は思っていた。それが、クィリナスに寄生するある男によって奪われていたとも知らず。それに触れないままイかされてしまったので、直接触れた時よりも長く続く吐精感に襲われる名前は気が狂いそうな程悶え苦しむ。そして、あまりの激しさに、ついに名前は意識を手放す。それでも、クィリナスの動きが止まる事はなかった。パシン、と勢いよく尻を叩かれ、微睡む意識の底から一気に現実世界へと呼び戻された名前は、その行為がまだ続いている事に絶望する。

「んっ…んっ…!」

後ろから、弱い脇腹をつつつ、と指先でなぞられると思わず声が漏れた。名前の自尊心は今、口元に巻かれた布によって守られている。視界が見えないお蔭で、自身がどうなっているのかすら分からない。だが、今の名前にとってそれは不幸中の幸いだった。凶暴な色を宿したクィレルも、情けない姿をした自分も見なくて済むのだから。

「んっ…んんぅ…!」
「はぁ…っ」

背筋に沿って、抉るようにずん、ずんと中をかき乱す。この時になると、名前の血液ではなく腸内から分泌された液体が潤滑油となり、痛みも苦しみも幾分無くなり、終わりのない快感が名前を蝕むだけとなっていた。空いているほうの手で、そっと名前の乳首を撫で、くり、くりと弄ぶと、びくりと腰が動き、きゅうと中にいるクィリナスを締め付ける。

「…っは…名前、貴方は、わたしにとっての、すべて、でした」
「んんっ…ぅん…んっ…」

はじめは激しかったそれも、次第に緩やかなものとなる。うつ伏せでいた名前を仰向けにし、快楽の沼に溺れる名前の長い髪をさらり、さらりと弄ぶように掴むクィリナス。もはや、正常ではない名前がクィリナスの呟きを理解することはできなかった。さらに腰は、快楽を追い求め自然と動いてしまう。

「…この、身体で…貴方に触れるのは…」

これで、最後だから、と呟くクィレルの独り言は、正常な意識を保てていない名前が聞いているはずも無く。じっくり、そして着実に名前を追い詰めるクィリナスはその行為によって仰け反る名前の腹をそっと、やさしく撫で上げる。そこまで筋肉質、とは言えないが程よく締まったその腹から続く小さなへそに、クィリナスはちゅぅ、と音を立ててキスを落とす。

「んぅうっ…」

名前の奥へ、熱いそれが注がれる。あまりの熱さに、名前は腰をのけぞらせ情けない声を漏らす。どく、どくと最後の一滴までもを惜しむように、クィリナスは名前の奥へ、奥へ届くようぐい、とねじり込ませ熱い息を吐く。

「はぁ……」
「んっ…ぅ」

いつの間にかに再び反り立っていた名前のそれも、放たれた熱に反応し、二度目の吐精を迎えた。あまりの心地よさに、頭がぼーっとしこれ以上意識を保てそうにない。快楽と苦痛の狭間で溺れる名前の瞳は虚ろで。クィリナスは名前から自身を抜くと、そこからとろりとこぼれた太腿に伝う白を恍惚と見つめながら、感歎の声を漏らす。
床に垂れているそれは、二人のが混ざり合いどちらが出したのかすらも分からない。ゆったりとした手つきで名前の上下する胸に触れながら、再び杖先を名前に向け、呪文を放つ。
視界は真っ暗であったが、この時、クィリナスが泣いているような気がした。