10 ロングボトムの仕立て屋/スリラーバーク

マグルの世界にあるお化け屋敷って本当に苦手!だって、本物が時々紛れ込んでるんだよ!?同じ寮の友人がそんな事を言っていたのをふと思い出す。
ここはグランドラインにある魔の三角地帯“フロリアン・トライアングル”と呼ばれる場所。日中だというのに不気味な霧に包まれたそこは、行方不明になる船が続出すると言われている、その名の通り“魔の海域”なのだ。ここを無事に航海できれば次の島にたどり着くことが出来る―――しかし、魔女の“カン”で名前は妙な胸騒ぎを感じていた。

「幽霊船とかが出たりして…」
「まっさかぁ~~~」
「幽霊船(ゴーストシップ)かぁ、こっちにもあるんだね」
「え?」
「―――あぁ、私の故郷にもそういう場所があるから」

細かく言うならば、あちらの世界の幽霊船は魔法使い達が移動する際に利用する船であり、マグルからは“幽霊船”に見えるだけで実際は幽霊船ではない。そういう魔法がかけられているだけなので、その船を発見したマグルたちが幽霊船…と騒ぎ立てているだけだ。

「本当に不気味な場所ね…何か出てきそう」
「おいやめろよ名前!!悪霊退散グッズで身を固めねば!!!」
「俺にも貸してくれウソップ!!」
「お前魔女だろ!!魔除けのアイテム何かないのかよ!!」
「魔除けって…」

足に引っ付いてくるウソップに苦笑を漏らす。
つい1時間前、海に漂う樽を拾ってからよからぬ何かを感じていた。海の神様へのお供え物として流された樽ではなく、閃光弾の仕組まれたそれからは仕組んだ人間の“悪意”を感じる。発見した後から海が荒れ、妙な海流に飲まれてここ“魔の海域”にたどり着いた。

「ヨホホホ~…」

噂をすればなんとやら…どこからともなく不気味な歌声が聞こえてきた。

「ヨ~ホ~ホ~ホ~…」

深い霧の中を進む、ぼろぼろの巨大な船―――いつの間にかにこんな近くまで来ていたのか。

「えぇ…!?」

ここには死者の魂を乗せた幽霊船が出るとウソップたちを脅して楽しんでいたサンジの額からは汗がにじみ出る。まさか、本当に出てきてしまったのだろうか。それぞれ動揺しているようだが、名前だけは違った。

「ゴースト?そんなに怖いかなぁ…」
「怖いに決まってるだろ!!!どうしてお前は怖くないんだ!!!」

恐怖で名前の足元にウソップ同様引っ付いてくるチョッパー。魔除けに使われているようだが、この人たち、肝心な事を忘れている。名前は魔女なのでそもそも“魔”除けにはならない。むしろ魔力を感じて寄ってくる可能性だってある。

「生きてる人間が一番怖いんだってば…」
「そりゃそうだろうがよ…」

と、冷静にツッコミを入れるゾロだが、近くを横切っていくぼろぼろの船に対して警戒は怠らない。流石と言ったところだろうか。

「ヨホホホ~」
「…なんて唄だろう、これ」
「気になるところそこかよ!?」
「だって、気にならない?ゴーストなんて私の故郷じゃ普通にいたし、見てたし、会話してたし―――」
「こぇえええええお前の故郷怖すぎるぜえええええ」
「こえぇええええええっおまえ強すぎるっ」

故郷の話も彼らにならばしても問題ないだろう。むしろ、知っていてほしいかもしれない。だが、話す機会はこれからいくらでもある…今はとりあえず、事の成り行きを見守ろう。

「悪霊の舟歌だ――――聞くな!耳を塞げ!!」

悪霊は道連れを求めている―――と叫ぶウソップに、想像してさらに泣き叫ぶチョッパー。この二人は相変わらず名前の足元に引っ付いていた。

「何かあったら任せて!ゴーストぐらいだったら追い払えるかも」
「えっ本当!?」

と、ナミも新たに加わる。

「ヨホホホ~」

歌声が、さらに近づいていく。
船を見上げれば―――何かが見える。

「この船に、だれが乗っているというの」
「敵なら切るまでだ」

ロビン、ゾロ、サンジが考えることは同じだった。もし敵であれば…構える必要がある。仲間たちを守る為、サンジはいつでも動けるような体制を取る。

「いるぞ、誰かが―――」

名前も念のため、杖を構える。もし本当に“悪霊”であれば、守護魔法を使う必要がある。強力な悪霊をも追い払う魔法―――パトローナスを。守護霊を呼ぶ魔法であり、対処法がこれしかない吸魂鬼“ディメンター”相手によく使われる呪文だ。よく使われると言ってもこれはかなり高度な魔力操作を必要とするため、全員が全員この魔法を扱えるわけではない。闇の魔法使い達と戦っていた名前たちはもちろん使えて当然だが、これを使うのも久方ぶり。果たしてちゃんと魔法が発動するかどうか。しっかりと杖を握り、ごくりと唾を飲み込む。

「ビンクスの酒を」

多分大丈夫、きっとうまくいく。いつでも魔法が使える状態になった事を確認すると、目の前に現れた“それ”を見上げる。

「届けに行くよ」

――――歌う骸骨がいた!!!!!!!!!確かにそれを見た…が、ゴーストには見えなかった。ゴーストと言えば透明で、もっと冷たい感じがするのだがあの骸骨は生きているような…なんといえばよいだろうか。あるいは骨に乗り移ったゴースト?なのだろうか…謎は深まるばかりだ。悪霊にも思えない…悪霊ならば、もっと殺気のようなものを感じるはず――――そんなことを冷静に考えていると、ルフィが瞳を輝かせ声をあげる。

「今のみたか!?骸骨が歌っていたぞ!?」
「馬鹿野郎骸骨が歌う訳ねぇだろ!!幻聴だ、幻聴!!」
「まって、あの骸骨、アフロじゃなかった?」
「気にするところそこじゃねぇだろ!?」

「なぁ、行こう!すぐ行こう!!」

やっぱりいたんだ、生きた骸骨!ルフィのその言葉に妙に納得してしまった。そうか、“あれ”は生きてる―――だから冷たい感じも、殺気も感じなかった。

「さ、選べ。ルフィと一緒に船に行く奴」

ゾロがアイスの棒のようなものを束ねたものを持ってきた。古典的ではあるが、くじのようだ。と言うかいつの間にそれを取り出してきたのか…もしかしてゾロは常にくじを持ち歩いているのだろうか。そう考えるとかなり面白くて予想以上のツボにはまってしまった名前はお腹を抱えて笑っていると、お前突然どうしたんだとゾロに不審な目で見られてしまった。

「ルフィの暴走を止める為…か、私行く!行きたいです!」
「駄目だお前はここに残れ、お前もそういうノリの奴だったとはな…」

あの船に潜入したかったのに、ゾロから仲間外れにされてしまい不貞腐れる。
その後、くじを引き、ルフィの暴走を監視する二人にナミとサンジが選ばれた。

「骸骨早くこないかな~見てみたいな~」
「どうして連れてくる前提で話してるんだよ!」
「やめてくれよ悪霊だぞ!?」

大丈夫だってば、とウソップたちに言うが相変わらず怯えている。
しかし、予想した通り―――ルフィは骸骨の“ブルック”を連れてやってきた。なんでも、仲間になれと誘ったらしい。しかも相手はいいですよ、と即答。てめぇら何やってるんだ、と怒るゾロに二人は申し訳なさそうにしていたっけ。

back

next