09 キミガタメ/秘密の部屋

家の行事も終わり、名前は早々にホグワーツに戻ってきた。まだ皆は寝静まっているのでこの部屋で起きているのは名前だけだ。

「え!?何だって!?」

ハリー達が目覚め、名前は昨夜起こった事件とやらの話を聞くこととなった。自分がいない間に、ホグワーツでは大変な事になっていたとは。名前は石にされたミセスノリスを想う。きっと、フィルチさんは犯人が見つかり次第犯人を絞め殺さんとするだろう。もし、石にされたのが仮に小太郎だとしたら自分は犯人を許せる気がしない。だから、フィルチさんの気持ちは痛いほど分かる。不安になり小太郎に声をかけると、元気にワンと返ってきたのでほっとした。この日から名前は小太郎の身の回りを気にかけるようになり、食事が終わったらすぐ部屋にもどるようになった。

秘密の部屋の主が大人しくならない限り、これはしばらく続きそうだ。ホグワーツは異様な緊張感に包まれ、生徒たちはいつ石にされるか分からない恐怖に晒されていた。また被害者が出ればホグワーツはどうなってしまうのだろうか。ハリーはそれが心配でならないようだ。

「秘密の部屋か……継承者って、スリザリンの誰かって事じゃないかな」

「あなた、秘密の部屋の事を知っているの?」

「うん、夏に見た本にあったんだけど……大昔、ホグワーツには4人の創設者がいただろ?その1人がスリザリンなのは誰もが知ってる事だろうと思うけど、サラザール・スリザリンがスリザリンの意に沿わない者を排除するために、その部屋を作ったんだって……なんでも、部屋にはとんでもない恐怖が眠っているらしいよ」

「まぁ……どうしてそれを早く教えてくれなかったの?!」

「ごめんハーマイオニー……君なら知っていると思ったから……」

「念の為、明日先生に聞いてみましょう」

ハーマイオニーは翌日の魔法史で、誰もが眠るその魔法史の授業で突然声をあげた。魔法史を担当するゴーストの先生は、ホグワーツの中で唯一ゴーストの教師と言えよう。ゴーストになった経由がまた魔法界らしくてマグルの人では到底理解できないだろう。

「Ms.グラント?」

「グレンジャーです」

どうやってそう聞き間違えるんだろうか。それはさておき、ハーマイオニーは早速先生に秘密の部屋について質問をする。彼の授業では滅多にない生徒からの質問だが、先生はあまりそういうのは信じていないようで渋ったが、滅多にない生徒たちの熱いまなざしを感じ、心を揺れ動かされたようだ。

本に書かれた通り先生は語るが、どれも事実無根だと言い放ちその話題は幕を閉じた。生徒たちが再び深い眠りに入ったのは言うまでもない。図書室ではホグワーツの歴史が全て貸しだされており、探しだすすべは聞くほかない。名前は家からその本を取り寄せてくれないか、と頼まれたが家の本を外に持ち出す事は禁じられていたので、丁寧にそれを断る。それに、仮に本を送ってもらえたとしても“匂い”を消す作業で何週間かかるやら。

ある日の朝、再び名前に緑の巻物が届けられた。去年は何かと思いきや小太郎用の餌だった。勿論小太郎は大型犬なので食べる量も人間並みだ。広げたとたん突然現れたドックフードの袋の山には驚かされたが、それも一年しかもたなかった。きっと今回もドックフードなのだろう、と思いローブにしまう。ロンは隣でニンジャ、ニンジャと面白おかしく言う。

「なぁ、今度それ、うちにも送ってよ!中身は何でもいいからさ!パパやママが見たら驚くだろうなぁ~」

「うん……別にいいけど……ただ、検査に相当時間かかるけど、それでいいなら」

「検査?」

「去年言ってたでしょ、日本から物を送る時、外国から受け取る時“匂い”を消さなくちゃいけないって」

ハーマイオニーがロンに代弁をして、ようやくロンは思いだしたようだ。

「あっ、そういえばそんなシステムだったね。いいよ別に待つからさ!」

「うん分かった」

クリスマスプレゼントを包む時に使うか。名前はそこで近づく年末を思い起こし、落ち込む。突然落ち込む名前に3人は首をかしげる。

「……年末、憂鬱だなぁ……」

「そうね、あなたの家の場合はそうなのかも」

「僕の家もそれなりに大変だけど、君の家に比べたら楽かもね」

「はぁ、うちってどうしてこんなに変わってるんだろう」

変わっていると感じ始めたのはホグワーツで友達が出来てからだ。今まではそれが当たり前で、世の中の常識だと思っていた。が、やはりカザハヤはマルフォイの言うとおり変わり者の家のようだ。それは日本の魔法族全体に言えた事なのだが。その日の夜、消灯時間ギリギリの時間になっても1人だけ談話室に残っていた。

「やぁジニー」

「……名前?どうしたの、こんな時間に」

それはこっちのセリフだっていうのに。思わず苦笑する名前。

「……寝不足?目元の隈……大丈夫」

「え、うん…ちょっと考え事かな……ねぇ名前、あなたはハリーのこと、どう思う?」

「え?」

唐突だなぁ、と思いつつも名前はハリーの事を素直に話した。彼はとてもいい友人、いや、親友だと。

「そう……仲いいものね、あなたたち。ちょっと羨ましいな…私も、ハリーと話がしたいのに……どうしても勇気が振り絞れないの」

「ジニーはハリーに憧れているの?」

「えッ……う、うん…」

頬を赤らめていうジニー。髪の毛の色みたいだ。

「なら、今度手助けしようか?君はロンの妹だし、ハリーも接しやすいんじゃないかな」

「ありがとう……!ごめんなさいね、夜遅いのにこんな話につき合わせちゃって…もう寝るね、おやすみ」

すこしふらふらしながら歩くジニーを不安に思ったが、女子寮には男子は入れないことになっているので静かにその背中を見守る事しかできなかった。

ここ最近になって、名前の瞳はようやく元の色に戻った。秘密の部屋の騒動が少し収まった頃の話だ。その時はそれとの関連性を全く考えていなかったのだが、それからしばらくして考えさせられる事件が起こる。

クィディッチシーズンが到来し、ハリーの今年初試合が行われた。だが、試合中どういう訳だかブラッシャーがハリーを狙い、追いかけてくるのだ。ブラッシャーはなんとかしたが、二次災害とも言える出来事により、ハリーは入院する羽目となってしまった。その二次災害を起こした張本人は今頃自分のしでかした事がどれだけ酷い事かの自覚無く、能天気に寝巻に着替えている頃だろう。

「……うわっ」

「っわ、びっくりした、突然どうしたんだい?」

「……窓は開いてる?」

「ううん、閉じてるよ……そういえば名前、前もこんな事無かったかい?」

まただ。名前は小太郎をベッドに上げ、ぎゅっと抱きしめる。小太郎は不安げに飼い主の頬をぺろりと舐めた。

「え?前もって?」

「あぁ、ロンはその時いなかったからね……君たちが罰則を受けていた夜かな?名前が突然寒がって……」

「前の罰則って……まだ寒くない頃だろ?風邪ひいたのかい?」

ロンもその時のネビルと同じ事を言うのだから面白い。名前は小さく首を振る。

「今もその感じなのかい?」

「うん……寒いんだ、なんかこう、ぞっとするような感じ」

「そう言えば君、また瞳が黄色くなっているよ」

「え?」

名前のベッドは窓際にあるので、カーテンを開いていると月光がよく当たるのだ。月光に照らされた名前の瞳はとても神秘的なものだった。

「どうしてだろう、アヤ姉さんは魔力が伸びた時こうなるって言ってたけど、また伸びてるのかな……」

「魔力が伸びる?それってすごくないか?」

「うん……自分と似たような魔力の波長、しかも自分より高い魔力を感じると魔力が伸びるんだって教えてもらったんだけど……一体誰なんだろうなぁ」

「え?どういう事?」

どうやら一回の説明でネビルは理解できなかったようだ。何度か説明し、ネビルはようやく理解した。その頃にはロンは既に寝息を立てていて、2人はロンを起こさないようにしばらく語り合い、それから眠りについた。

日曜日の朝、ハリーはようやく退院できた。ハリーと合流し、彼の口から衝撃的な事を聞いた。マルフォイ家の屋敷僕であるドビーがハリーに忠告するために、夏休み家にわざわざ現れたのは知っていたが、そんな彼が昨夜また現れたようだ。ブラッシャーやホームの入り口をふさいだのは彼の仕業で、ハリーをホグワーツから遠ざけるためにやった事だと言う。彼が言うには、今年ハリーポッターは危険に晒され、ハリーを守るためドビーは動いているのだとか。主人の目をかいくぐって。さらに驚くことに、以前秘密の部屋は開かれたそうだ。マルフォイ家の屋敷僕がそれを知っているということは、つまりそういう事だ。

ドビーが去ってからもう一人石になったコリン・クリービーが運ばれてきたという話を聞いたときは空いた口がふさがらなかった。また犠牲者が出たのか、と。

「やっぱりそうだ!ルシウス・マルフォイが学生時代開いて、その場所をドラコに教えたんだ!」

「でもハリー、あの人は継承者って感じがしないわ」

それは確かに名前も感じている。ドラコ・マルフォイはそんな大きなことをしでかすような人物ではない。

「…あのさ、ドビーに自分を守らせるのはやめてもらったほうがいいんじゃないか?このままだったら、君がドビーに殺されてしまうよ」

「……うん、笑えないけど本当にそうだよね」

月曜日にはコリン・クリービーが石にされた話はあっという間に広がり、知らない者は居ないほどになった。一年生はしっかり固まってグループで城を移動するようになり、1人で勝手に出歩くと襲われるのではないかと怖がっているようだ。

「ん、ジニー…?」

「……あら、名前」

昼休み、名前は薬草を摘みに庭に出た。時々庭に生えていて、何も知らない生徒はそれを踏みつぶしていくのだからもったいない。今は秘密の部屋の騒動もあって外に出歩く生徒は少なく、名前にとっては不幸中の幸いと言ったところだ。そんな中、珍しく女子生徒が1人で庭に向かっていくのを見ていると、それがジニーだと言う事に気がついた。あの日よりも元気が無いようにも見える。

「どうしたの?」

「……コリンね、私の隣の席だったの……だから……」

「あぁ……でも大丈夫だよ、マンドレイクが収穫出来れば石化は治るし」

「……うん、そうよね……」

授業中、隣に座っているコリンが犠牲者になり、ジニーはとてもショックだったようだ。名前はしょんぼりするジニーの隣に腰掛けそっと肩に手を置く。

「大丈夫だよ、ここにはダンブルドアがいるんだ、ダンブルドアは最強の魔法使いだって皆言ってるよ」

「……そうね……そう言えば、名前、瞳の色、また黄色くなってるのね……」

「あぁ、これね……カザハヤの血がそうさせてるらしいから、どうしようもないかな。夏休みもこれになったよ……だからもうなれちゃった」

「痛くはないの?」

心配そうに見つめてくるジニーに名前は小さく笑う。

「うん、痛くないよ、ただ杖を使うのが少し下手になるかな……まぁ、杖を使うのは基本上手じゃないんだけどさ、これって魔力が上がっている証だから、仕方ないみたい」

これは彩が後で教えてくれたことだ。黄色い瞳になっている時は魔力が高まっているが、そのおかげでバランスが崩れて杖の効力が悪くなるんだとか。度々黄色くなるので名前はなかなか魔力のバランスをとれずにいるのだ。おかげで授業中、ロンのように杖から煙を噴き出しそうになってしまった。

「そうなの…大変ね、名前も。早く落ち着くといいわね」

「うん」

一番心配なジニーに心配されるとは、と苦笑する名前。この話について熱心に聞いてくるので、名前は時間も気にせずジニーに語った。カザハヤについては自分でもまだよくわからないので、ところどころあやふやだが自分が知ってる家のことは大まかに説明した。

「すごいおうちなのね」

「おかげで大変だけどね、ハロウィンの日は必ず帰らなくちゃならないし、クリスマスだって絶対に家に帰らないと…あとでどんな目に遭うか……親しくもない親戚に愛想を浮かべなくちゃなんないし」

「ロンがいつも、あなたのことを羨ましそうに話しているけれども、そんな感じではないみたいね」

「はは……全くだよ」

ウィーズリー家は家族がたくさんいる分、お金がかかるのだろう。お金で困ったりは今のところ無いのでロンの悩みは分からない。一応孤児だった名前だが、それも3歳までなのでカザハヤに染まるのはあっという間だった。だが、自分は完全にカザハヤの人達と違う、と思えるのは僅かに残る孤児院の思い出があるからだ。

「おれ、孤児だったんだ……」

「え?!」

「あぁ、ロンは話してなかったんだな、まぁ、言いづらい話題だよね……」

この話題に目を丸くさせるジニー。話せば話すほど、なんとなく彼女が元気になるような気がしたので名前は自分の生まれた時の話などもした。ここまで話したのはハリー、ロン、ネビル、ハーマイオニー、ジニー以外はいないだろう。きっと、これからも。

「家の人にはさ、カザハヤの名を汚すようなことはするなって言われてるけど…ま、閉心術マスターしたから探られることもないだろうし、話すよ」

「……えぇ、名前がよければ」

名前は生まれてすぐ、アメリカの孤児院の前に捨てられていた。3歳まで孤児院で育ち、4歳の誕生日の日、突然日本から老夫婦がやってきた。彼らは名前の祖父母だと言い、名前を養子として引き取った。孤児院としては子供に新たな家族が出来てさぞ喜んだだろう。日本に到着し、名前は早速カザハヤの英才教育を受けた。初めは日本語もちぐはぐだったが、気がつけば日本語を話せるようになり、日本の魔法族として生活するようになった。血統管理部の人達が度々名前の所へ来ては、血を採取していたのを今でも覚えている。何度かの検査の末、ようやく名前は正式にカザハヤとして迎え入れられた。確か6歳ぐらいだったような気がする。

その頃には“匂い”も完全に日本の魔法族になり、色んな親戚に顔出しをするようになっていた。未だに多くの親戚は名前を受け入れていないが、彩という仲の良い従姉も出来た。交流させてくれるのは祖父母が許可をした子供達だけ。親に全てを管理され、閉鎖された空間で名前は育つが、ある日ホグワーツから手紙が来てそれは変わる。知らない人と触れ合うのも、話をするのも久しぶりすぎて初めは緊張のあまり心臓が止まるかと思ったぐらいだ。気がつけばハリーやロン、ネビルといった親友が出来て、人と普通に会話できるようになっていた。日本の魔法族が何故ここまで閉鎖的なのだろうか、と考えるようになったのはつい最近だと思う。

いつもより口数の多い名前にジニーはどこか楽しげだ。

「そうだったの……でもいいの、私なんかにそんな大切なこと、教えちゃって」

「いいよ、君もおれにとっては立派な友達さ」

「…ふふ、ありがとう……なんか、気分が大分楽になったわ、きっと名前のおかげね」

「お役に立てて何よりだよ」

2人はしばらく下らない話をしながら時間を過ごした。話をしているとジニーの兄、パーシーが心配そうにやってきた。彼は妹が心配でならないようだったが、一緒にいるのがあの名前で安心したようで、2人に声をかけすぐいなくなった。

「君の事が心配みたいだね」

「えぇ……でも、パーシーは少し過保護だわ」

「女の子は君だけなんだろう?だからさ」

「わからないわ、どうして?」

「そういうものなんだよ、おれは一人っ子だからわからないけどね」

全て彩の受け売りだ。