炎のゴブレット
03
は再び不思議な夢を見た。
『兄貴―――このひとがホントにあたしたちのパパ?』
『―――そうだよ、この愚かなマグルの血を僕らが引いているだなんて・・・反吐が出る』
『・・・そぉだね』
10代の黒髪紅眼の少年と少女は大きな屋敷のリビングで倒れている2人の老人と1人の男性を、無表情で見下ろしていた。
『こいつらの死に際を見たかい?哀れにも――――命乞いして――――実に穢らわしい』
『ホントホント。ママを苦しめたんだから、絶対に死んでも許さないんだから―――――』
少女は男性の頭をジリリと踏みつけ、不敵に笑う
『ママもこんな男、どこが良かったんだろう・・・・・・』
そこで夢は終わった。朝目覚めると背中にはいやな汗が流れていた。一体何なのだろうか――――あの夢の人物は。それに、父親を殺して笑っていた・・・あれは普通の人間ではありえない。かなりイカれている
あの少女―――恐らくいつもが声を聞いているあの女性に違いない。女性の兄とは一体誰なのだろうか
紅い目というところで、は恐ろしい人物を1人想像してしまったが、勘違いだと思い首をぶんぶんと振り頭の隅から追いやった
―――ヴォルデモート卿のはずは無いだろう
「――――痛いな」
左眼が珍しく痛み出した。去年は痛み出す事は一切無かったのに―――――
今年はものすごくいやな予感がする。左眼が痛い上に左腕の印も痛かった。闇の力に反応しているということは――――まさか・・・
ヴォルデモート卿が召使の手を借りて再び立ち上がったという事なのだろうか。はハリーが聞いたという予言を学年末パーティーの時、パーティーをサボってまでダンブルドアに伝えに行った。だから恐らくダンブルドアは何か行動し始めているに違いない―――ヴォルデモート卿がいつ復活しても平気のように
「それにしても複雑だ」
のポジションは実に複雑な位置に置かれているのである。無論ヴォルデモート卿が行ったことは許される事では無いしハリー達の味方でありたい。それに アルベルトを殺した彼を許せる訳が無い。かといって死喰い人の中には昔から仲良くしてくれている人物もいるのだ。父親も元死喰い人でもあるし、実際自分の 腕には死喰い人の証がつけられている。無理やりつけられたが、死喰い人とは然程かわりは無いだろう。
つまりはダンブルドア側にいるがヴォルデモート側でもあるということだ
最近ため息ばかり吐いているような気がする。このままでは本当に幸せが全て逃げてしまいそうだ。そう思い、着替えると朝食を取りに食堂へと向かっていった
「おはよう、ドラコ」
「おはよう・・・」
何時にも無く眠そうなドラコは大きなあくびをした。
「おはようございます、Mr.マルフォイ、Mrs.マルフォイ」
「おはよう―――教材の買い物は全て済んであるからローブとドレスローブだけ買いに行きなさい」
流石はマルフォイ家といったところか。既にの分まで教材を整えてくれていたようだ。ドレスローブはシリウスからもらったやつがあるからいいとして、問題はローブだった。確かにはドラコを数センチ越す高さまで身長が伸びたおかげか、今のローブでは小さすぎなのだ。男の子の成長は早いと言うが、まさに竹のように身長は伸びていった。
声変わりなのかドラコの声も少し掠れていたし、の声も徐々に男性の声へと変わりつつあった。
「君・・・何時の間に僕を越したんだい?」
「あぁ・・・思えばな」
ドラコは親友が自分の背を越したのが少し悔しいのか、恨めしげに自分の身長との身長を比較してため息を吐いた
「―――君、ぐんぐん伸びていくね」
「ドラコもな」
前までは同じ身長だったのに、と残念そうに言うと朝食のポテトを胃に押し込めた。
午後になり、2人はダイアゴン横丁へ向かうと早速ローブの調整とドレスローブの調達をすべくマダムの店へ向かった。
「君はドレスローブ、平気なのかい?」
「あぁ、僕は去年もらったのがあるから平気だ」
「そうか・・・おっと、痛いな!」
針がドラコに少し刺さってしまったらしい。そんなこんなで一日が終わりを迎えた。明後日はクィディッチ・ワールドカップだ――――
妙な胸騒ぎを感じつつも、は眠る事にした。
夢の中では再び、あの少女が呟いた言葉がぐるぐると回っていた。
『絶対に死んでも許さないんだから――――』
実の父親なのに、なんと物悲しいことなのだろうか。世の中は本当に悲しみだらけだった。
ポートキーで会場へ辿りつくと、そこはあらゆる世界を集結させたかのようだった。いろんな国の魔法使いが一箇所に集まるのだから、魔法省は相当苦労しただろう。
ルシウスとナルシッサはファッジに挨拶しに行かなくてはならないので、ここでいったん別れることとなった。マルフォイ家用のテントは流石貴族なだけあって高級そのものだった。全くもってテントの中とはいえない程の高級感溢れるものだった
「そうだ、周りを見て回らないかい?」
「・・・あぁ」
2人で見て回っていたはずだったのだが――――途中でドラコとはぐれてしまった。は少し方向音痴だった。
「・・・一体どこだ」
魔法省の人を誰か探せばマルフォイ家のテントまで案内してくれるのだが、知っている魔法省の人がさっきから全然見当たらないのだった
方向音痴の自分を少し呪った。は途方も無く歩いていると少し先に随分と見覚えのある人たちを発見した
「ハリー」
「・・・―――!?」
ハリーはどうやらウィーズリー家と一緒にいるらしい。まさかの訪問者にハリー達は驚いた
「まぁ!貴方に手紙を出したのよ!何通も―――だけれども帰ってきちゃうのよ」
「僕もだよ・・・、君一体どうしたんだい?」
ロンもハーマイオニーも理由が気になったらしい。言わなくても分かるとは思ったのだが―――・・・は苦笑した。頭のいいハーマイオニーはそれだけで理由がわかったらしく、あぁそう言うことねと頷いた
「パパ!もいたんだ!」
テントの中からロンの父親――――アーサー・ウィーズリーがのそりとやってきた。はこの人のことを良く知っていた。なんせルシウス・マルフォイが常に彼の事をとやかく言っているのを聞いてるのだから・・・
「おお!君はか・・・!久しぶりだね。この前は申し訳ない事をした」
「いいえ。気にしないでください」
「あらまぁ、貴方はね。どうぞ、中へ入ってお茶でも」
アーサーに続いて出てきたのはモリー・ウィーズリーだった。大家族の母、といったオーラを感じ取る事が出来る
はハーマイオニーに背中を押されながらテントの中へと入ると、マルフォイ家とは全然質が違ったが庶民的で安心感のあるつくりのテントだった。
「君のことをファッジが気に入ってる事は知っているよ―――どうしても君を自分の配下にいれたがってる」
「・・・そのようですね」
「まぁ!この歳で・・・!うちの双子達にもの爪の垢を煎じて飲ませたいくらいですよ、まったく」
モリーはじろりとフレッドとジョージを睨む
「君がかい?僕はパーシー・ウィーズリーだ」
パーシーとこうして話をするのは初めてかもしれない。ホグワーツにいたときはスリザリン寮で接点も無かったので会う機会などなかったのだ
「・・・・スネイプです」
一通り自己紹介が終わった後、ルード・バグマンがタイミングよく現れた
「わが友、アーサー!どうだい、この天気は。え?どうだい!」
相変わらずこの人のテンションは高いな、と思う
「わたしの息子のパーシーだ、魔法省に勤め始めたばかりでね―――」
アーサーが一通り息子達の紹介を終えるとすぐさまバグマンの瞳はの姿を捉えた。
「おおおお!君は――――・スネイプ!君は確かマルフォイ家と一緒だったはず・・・何故ここへ?」
ウィーズリー家がマルフォイ家の名を聞いて少し眉間に皺を寄せたが気にしないことにしよう
「・・・少し方向音痴で。迷ってしまいました」
「はは、聡明な君でも間違えることはあるんだね。」
「僕は聡明では―――」
「はっはっは!そう謙遜しなくても!そうだアーサー、試合に賭ける気は無いかね?」
話は賭け事の話へと変わった。はもともと賭け事をするというギャンブル精神は持ち合わせていないので、紅茶をすすりながらその様子を見守る事にした
「ところで、バーティ・クラウチをずっと探しているんだが・・・ブルガリア側の責任者がゴネていて、俺には一言もわからん。バーティなら何とかしてくれるだろう。かれこれ150ヶ国語が話せるし」
「クラウチさんですか?」
身体を突っ張らせて不服そうにしていたパーシーが、突然堅さをなぐり捨て、興奮でのぼせあがった
「あの方は200ヶ国語以上話します!」
・・・パーシーは確かMr.クラウチの元で働いているんだったな
パーシーが真面目な人間だということは双子から聞いていたし、成績も常に上位だったのも知っている。パーシーがクラウチを崇拝するのも無理は無い、だって彼もまた真面目な人間の見本のような人物なのだから―――
「バーサ・ジョーキンズのことは、何か消息があったかね、ルード」
「なしのつぶてだ」
「だが、そのうち現れるさ。あのしょうのないバーサのことだ・・・漏れ鍋みたいな記憶力。方向音痴――――」
バグマンが方向音痴と言ったとたん、まるで自分のことを言われているような感じがして急に恥ずかしくなった。
「しかし、いまはただの1人も無駄にはできん。おっ――――噂をすればだ!バーティ!」
焚き火の側に魔法使いが1人姿あらわしでやってきた。
しゃきっと背筋を伸ばし、非の打ち所の無い背広とネクタイ姿の初老の魔法使い――――バーティ・クラウチだった。
「ちょっと座れよ、バーティ!」
「いや、ルード、遠慮する」
クラウチの声が少し苛立っていた。
「ずいぶんあちこち君を探したのだ。ブルガリア側が貴賓席にあと12席設けろと強く要求しているのだ」
「あぁ、そういうことを言っていたのか。わたしはまた、あいつが毛抜きを貸してくれと頼んでいるのかと思った。訛りがきつくて」
「クラウチさん!」
パーシーは息もつけずにそう言うと、首だけ上げてお辞儀をしたので、ひどい猫背に見えて少し面白かった
「よろしければお茶はいかがですか?」
「ああ」
クラウチは少し驚いた様子でパーシーのほうを見た
「いただこう―――ありがとう、ウェーザビー君」
フレッドとジョージが飲みかけのお茶に咽て、カップの中にゲホゲホやった。はそれを見て噴出しそうになってしまった。
それにしてもこの人は今何と言ったのだろうか、ウェーザビー君と呼んだのだろうか・・・・パーシーを。それにしてもすごい間違え方だ
「――――おや、君は」
クラウチの視線はを捉えた。ここでもは魔法省に大人気だった。パーシーはそれを複雑そうな、どこか羨ましそうな表情で見ていた
「・・・Mr.クラウチ、はじめまして。・スネイプです」
「おお君か。ファッジからは色々聞いている・・・君の成績を見せてもらったのだが――――いや、実に素晴らしかった。そうだ、先ほどからルシウスが君の事を探していたが・・・」
「―――!(そうだった・・・)」
はすっかり迷子になっていることを忘れてしまっていた。それ以前に何故の成績が魔法省へ行っているのかがよく分からなかった。プライバシーもあったもんじゃない
「・・・僕は少し方向音痴なので、よろしければ道を教えていただけますか」
「お安い御用だ。少し待っていてもらえるかね?部下の1人を呼ぼう――――」
クラウチは魔法省の1人をウィーズリー家のテントまで呼び寄せると、をマルフォイ家のテントまで連れて行くように命じた
「・・・ご親切にありがとうございます」
「いいや、恩は君が魔法省に入ったら返してもらうからいいよ」
「はい」
「じゃあね、!試合で!」
「――またな」
はウィーズリー夫妻たちにきちんと礼を述べ、クラウチの部下と共に姿くらましをした。
が来てからと言うもの、パーシーはをライバル視するようになったとか、そうでないとか。
マルフォイ家と合流したは、恥ずかしさで顔を上げる事ができなかった。ドラコは隣で少しそれを面白そうに見ていた
「・・・君ってやっぱり間抜けだ」
「・・・・・・」
ドラコの言う事を否定できないのがなんとも物悲しい
ナルシッサはそんなの背中をそっと押しながら微笑んだ。
「・・・わたくしたちの席は最上階ですよ。後が詰まっていますから早く行きなさい」
クィディッチ・ワールドカップがそんなにも楽しみなのか、ドラコの足は少しリズムを取っていた
「・・・すごいな、流石はワールドカップ」
「はどっちの味方なんだ?勿論、ブルガリアだよな」
・・・僕はどっちでもいい
そう言えばドラコに怒られてしまうので、その言葉をどうにか飲み込んで短く「あぁ」と答えておいた。ドラコとは伊達に長く付き合っていないのだ
貴賓席のところへたどり着いたとき、ハリー達がいることに気付いた
「ああ、ファッジ」
ルシウスはファッジのところまで来ると、手を差し出して挨拶をした
「お元気ですかな?妻のナルシッサとははじめてでしたな?息子のドラコともまだでしたか?友人の息子の――――は無論ご存知ですな」
「これはこれは、お初にお目にかかります」
ファッジは笑顔でナルシッサにお辞儀をした。
「ご紹介いたしましょう。こちらはオブランスク大臣――――オバロンスクだったかな――――ミスター、ええっと、とにかく・・・ブルガリア魔法大臣閣下で す。どうせわたしの言っていることは一言もわかっとらんのですから、まぁ、気にせずに。ええと、ほかにはだれか―――アーサー・ウィーズリー氏はご存知で しょうな?」
ファッジがそっちに話をふったとたん、背中からいやな汗が流れてきた。アーサーとルシウスが言い合っているのだ・・・・・・いや、それだけではない――――――向こうの屋敷僕のほうからいやな感じがしてくるのは気のせいなのだろうか・・・・
は急に目眩がした。ドラコは急いでの肩を支えた
「・・・だいじょうぶか?」
「あぁ・・・」
ファッジはを見つけると急に瞳を輝かせた。
「君は―――、また会えて嬉しいよ。大丈夫かね?」
「・・・はい、お気遣い感謝します」
「そんなふらついて――――よし、私の隣に来なさい」
ファッジはそう言うとを無理やり自分のほうへと引っ張った。相当が気に入っているようだ――――
仕方なく、はファッジの隣の席へと座ることにした。しかしルシウスや他の偉い人たちもいるというのに――――こんな自分がイギリス魔法大臣の隣なんかに座ってはよいものなのだろうか?は座るのをためらってしまった
ルシウスの方を振り向き、目でヘルプを訴えてみた。ルシウスはが座れない理由を察したのか、助けようとしてくれた
「・・・あー、ファッジ。は友人と座りたいようだ―――・・・」
「よいよい、そう気にするな。是非ここの席で試合をじっくり見るとよい。」
「・・・お言葉に甘えさせていただきます」
ファッジはどう聞き間違えたのか知らないが、の肩をぎゅっと掴んで座らせた。はルシウスに目でありがとうございましたと伝えると、助けられなくて申し訳ないね、と返って来た。(勿論、目での会話だが)
「みなさん、よろしいかな?」
ルード・バグマンが貴賓席に勢いよく飛び込んできた
「大臣―――ご準備は?」
「君さえよければ、ルード。いつでもいい」
ファッジはを隣に座らせる事が出来て満足なのか、試合が間も無く開始できる事が嬉しいのか、それとも両方なのかは知らないが、満足げに言った
「ソノーラス!響け!」と呪文を唱え、満席のスタジアムから沸き立つどよめきに向かって呼びかけた。その声は大観衆の上に響き渡り、スタンドの隅々までとどろいた
「レディース・アンド・ジェントルメン・・・・・・ようこそ!第422回、クィディッチ・ワールドカップ決勝戦に、ようこそ!」
ついに始まった――――はこれからやってくるマスコットキャラクターを見て驚いた
「・・・ドラコ、口が開いたままだぞ」
「・・・・・・・・・」
ドラコは今やヴィーラしか視界に入っていないようだ。ぽかーんと間抜けそうにあけた口がなんともおかしい。ルシウスは無表情だが、恐らく内心はドラコと同様・・・・・・何故なら、口元が少しにやけていたからだ。