寮へ戻ってきたとき、周りの男子がすぐさま名前にガブリエルとのダンスの感想を聞きにきたのには驚いた。これもヴィーラの血の魔力なのだろうか
翌朝、プレゼントを恒例の如くかき分けて広間へ向かうとガブリエルとフラーが歩いているのを見つけた。ガブリエルがすかさず名前を見つけると駆け寄ってきて挨拶を交わした
「これはわたしの姉さん。知ってると思うけど」
『そうなのか。はじめまして、Ms.デラクール』
「まぁ!この人フランス語が話せるのね!ホグワーツにはフランス語を話せる人がてっきりいないのだと思っていたの」
ガブリエル同様、名前がフランス語を話せることがうれしいらしく、手を握ってきた
「わたしのことはフラーって呼んで。遠くからあなたがわたしの妹をリードするのを見ていたけれども……完璧だったわ。次はわたしと踊っていただけないかしら?」
『はい、機会がありましたら』
そう言って二人と別れると、いつものようにドラコの隣の席に座り、サラダを頬張った。
「…君、僕より絶対量食べてるよね」
「…そうか?」
名前は朝から食欲旺盛だった。もしかしたらクラッブたちよりも食べているのかもしれない。名前は平均身長を越し、今やドラコたちよりも大きくなってきた。まぁこれだけ食べれは背は伸びるだろう。しかし、どうしてもクラッブたちのように横に伸びないのか不思議で仕方ならなかった。
「見てみろよ、名前」
ドラコはうれしそうに日刊予言者新聞を見せてきた。
――――はぁ
名前は心なしか、ため息を吐いた。
今日の魔法生物飼育学はハグリッドが休みなためか、代理の女の教師が教えていた。授業らしい授業をようやくした名前は、ドラコがハリーにちょっかいを出していることすら気にならなかった。
1月中旬になり、周りの生徒たちはほとんどホグズミードへ行っていた。ガブリエルに誘われたが、名前にはやりたいことがあったので断っておいたのだ。無論残念そうな顔をしていた彼女も、今度フランスに遊びに行くからとどうにかこじつけ、事無く済ませた。
名前は満月になると、何故動物もどきになってしまうのか――――それが何故蛇なのかを突き止めていた。レーガン家のことも、この呪いのことも分かったのだから、きっとこの現象にもなんらかの原因があるに違いない
そう考えた名前は早速ダンブルドアのいる校長室へと向かった。
「失礼します」
「おお名前かのぅ…やっぱり来たか」
「…先生、時に質問があります――――僕が蛇に変身してしまう理由」
「……ふむ、やはりか」
ダンブルドアは知っていたのかもしれない。もしかしたら名前がホグワーツに入ってくる前から――――…でもあえて教えなかったのは、きっと自分で謎を突き止めてほしかったからに違いない。あのダンブルドアなら考えられることだ
ダンブルドアに紅茶を進められると、一口飲んだ。口の中に心地よい暖かさと香りが広がった
「―――君はレーガン家のことを大体知れたようじゃの…。単刀直入に言おう。蛇に変身してしまうのは君の体に流れるとある女性の血が原因じゃ――――…」
「…とある、女性?」
ダンブルドアは静かに続けた
「その女性の名前は……ローズ。初代当主クライヴが唯一愛した女性じゃ…そして君の…かなり辿るが祖先にあたる。君の一族にかけられた呪いの原因とも言えるじゃろう―――――」
それはそれは、遥か昔の……かの偉大な魔法使い4人がまだ生きていた頃のお話…
サラザールスリザリンの孫にあたる、クライヴ・S・レーガンがゴーント家の祖先にあたるローズ・S・ゴーントに一目ぼれをしてから始まった。2人の結婚は確実と言われ、彼らもそのまた親族も二人の婚約を喜んだ。特にサラザール・スリザリンは喜んでいたとか
しかしそんな幸せな結婚生活もすぐさま崩れ去った。ローズ・S・レーガンは5人の子供と夫を残してこの世から去ってしまったのだった。
彼女は生まれたときから不治の病と闘っていた。まだ当時は医療技術もそんなに高く無く、魔法技術もそんなに発達していなかったためか、彼女の人生はあっけなく26年で閉じられてしまった。
彼女が亡くなった後、追うようにして始祖のサラザール・スリザリンがこの世を去ったのだった。魔法界は悲しみに包まれた。そして何よりも悲しんでいたのは息子たちと一緒に取り残されたクライヴだった。
息子たちがある程度まで大きく育つと、クライヴはひとり魔法研究に没頭した。食事すらとらず、息子たちとも会話せず、パーティーにも出席せず。しかしそれ を誰しもが“妻が亡くなったためのショック”だと解釈していた。だから周りが彼がこれから行おうとしている過ちに気付いてあげられなかったのだった ――――――――
彼は自らの命までを削ってまで彼女を蘇らせるための禁術の研究に没頭した。彼女が亡くなって丁度20年が過ぎたころ……息子たちも結婚し、クライヴにはすでに孫もできて周りからすればようやく幸せがやってきた、というまさかそのときであった。
禁術が―――――彼のみが使うことができる、禁断の魔法が完成してしまったのだった。息子たちが生まれた子供を披露するパーティーに出席していた時、一人の子どもの瞳に急に変化が現れ始めたのだった。
今までグレーだった瞳が、急に赤へと変わり果てたのだ。しかも左目だけ……
もう一人の子供は急に泣き始めた。ただ、苦しいと叫びながら―――――
クライヴの息子たちにも変化が現れ始めた。最初はキーという耳鳴り。次第に耳鳴りは大きくなっていき――――――パーティに来ていた人達の目の前で、息子 の一人が息絶えた。彼には3人の娘と2人の息子がいたが、そのうちの娘2人は父を追うようにして亡くなり、ほかの息子たちも同じような道を辿って逝った
レーガンの屋敷の奥深く、そこは当主しか入ることの許されぬ間だったが今はそれどころではない。息子の1人が瞳の赤い娘を彼の弟に預けると、急いでその間へと向かって行った
部屋へ入るとそこには彼らの母……今はいないはずの人が立っていた。しかしあの優しくて温かい瞳はどこへやら。まるで氷のように冷たい、虚ろな瞳で息子を見上げていた
父親の姿が無いことにぎょっとすると、母親の近くで倒れている父親の姿を見つけた。駆け寄ると息はあるものの、魔力を使い果たして失神していた。来ていた 客人たちにはどうにか言い訳をし、帰っていただくとすぐさま他の兄弟たちを呼んだ。子供たちを混乱させる訳にはいかなかったので、3男の娘に子どもたちを 面倒見てもらうことにした。
家族会議は深夜まで続いた。
急に蘇った母親との再会は嬉しいものではなく、なんとも物悲しいものだった。母が蘇り、自分たちの兄弟……その子供たちは死んでいったのだ。何を喜ぼうというのだ
1人が母親に声をかけた。しかし相変わらず無反応な母―――――
しばらく息子たちは妻や子供たちをレーガン家の屋敷にいさせた。ローズやクライヴの様子を見るためだ。そしてあの間に描かれていた不思議な魔法陣の謎を解くために…
「その後、どうなったんですか」
「―――その後、彼女は何も口にすることなく息絶えた。クライヴが目覚めた時にはすでに全てが遅かったのじゃ。息子たちの子供にはその禁断の魔法の副作用 みたいなものにかかっている者が多くての……禁断の魔法の副作用は――――言うまでもない、一族が永久に死の螺旋に囚われるということじゃった。息子たち は呪いにかかる我が子たちをどうにかして救おうとしたのじゃ。しかしそんな努力も虚しく――――…彼らは長生きせんかった。故にレーガン家の血を色濃く引 く者たちは短命での……それに時代が時代じゃった。」
ダンブルドアはレーガン家の呪の原因を事細かに教えてくれた。自分の左目が赤いのはそれの後遺症――――夢の中の女性が言ったとおり、罪の代償とも言えるだろう
―――…では、僕は短命な一族の中の一人でもあるのか………
自分のすぐそばに死があるのだと思うと背筋が凍るような思いだった。怖い、しにたくない―――――
死がとても恐ろしい
「だいじょうぶじゃ…君はスネイプ家の血も色濃く継いでおる。じゃから君は短命なんかじゃない………」
この人にそう言われると、そうじゃなくても信じてみたくなるのは何故なのだろう。この人はいつの時代も変わらない――――――光を持っていた。
ダンブルドアはその後も静かに話をつづけた。
「蛇に変身してしまうのは、彼女のアニメーガスが蛇じゃったから」
「――――!」
「…白くて巨大な大蛇……。おおそうじゃ、すっかりこれを伝えることを忘れておったわい……君はヴォルデモート卿と血が繋がっておる」
純血魔法使い家だから何かしらあるとはおもっていたが、まさか本当にヴォルデモート卿と血がつながっていたなんて――――…
すると、夢の中に現れるあの女性とも血がつながっていることとなる。だから夢の中に出てくるのか?なんとなく納得できた
「君よりも濃く……否、むしろ彼女の生まれ変われといってもいい女性がヴォルデモート卿の失脚と共に命を落とした。君なら…頭のいい君なら分かることじゃろう」
―――まさか、あの声の女性…?
「ヴォルデモート卿の…妹。夢の中にでてくる女性――――ですか」
「そうじゃ!」
ダンブルドアは、彼女の話はまだ君には早すぎると付け加えた
「…では最後に、初代当主ではない方のクライヴについて……教えていただけませんか」
彼の名前を口にしたとたん、ダンブルドアは眉をひそめた
「……彼はいい子じゃった。個人主義な子じゃったが非常に仲間思いの優しい子じゃ……君の祖父にあたるじゃろう。ヴォルデモート卿と親しい仲じゃった ――――…しかしあの子は彼を止めなくてはいけないと思ったのじゃろう。しかしそれもうまくいかんかった―――――あの子は、ヴォルデモート卿のによって 殺められた者の一人じゃ。」
と、悲しそうに語るダンブルドアの顔を見ているのがつらかったのかもしれない。気づけば夕食まであと少しだ。それを言い訳にして校長室を去った。
「――――死は恐ろしいものだ」
真冬の廊下で一人つぶやいた。