10 こんにちはそれぞれの世界 Type:N

「カカシ先生、体調は大丈夫ですか?」

「……当分動けそうにないな……はは……」

 

今、私たちはタズナさんの家にいる。ふとんで横たわるカカシ先生の隣で、私は傷の手当をしている。あの戦いの後、カカシ先生は写輪眼を使いすぎたため、その反動で倒れ込んでしまった。カカシ先生自身の見立てでは、1週間ほどはまともに動けないそうだ。

 

「医療忍者にもなれるんじゃないかな、名前なら」

「まさか……医療忍者は頭がよくないと出来ないですから、私は、どっちかっていうと、感覚で生きている人間なので……」

「そうか?才能はあると思うが……」

 

医療忍者といえば、サクラちゃんのほうが向いていそう。なんとなく、そう思った。医療忍者には治療術だけではなく、人体についての知識の他に毒についての知識など、膨大な情報を頭に叩き込み、理解し、応用する必要がある。そんな事、私には絶対にできそうにない。この治療術だって、前世の記憶が影響するオリジナルの忍術なので、ほぼ感覚で使っている。

 

「名前ちゃん、改めて、ありがとう、わたし、すごい勇気づけられたの」

「えへへ、よかった……私、正直すごい怖かったんだ、友達を何人もなくしてるから、もう、誰もなくしたくなかったの……それを思い出して、怖くなっちゃったんだけど……ナルトくんや、サスケくんが、強敵相手でも怯まず闘っててすごかった。それをみて、逆に私がすごい勇気をもらったんだよ。サクラちゃんも側にいたし、ひとりじゃないって、思えたんだ」

 

本当に、みんなありがとう。そう言うと、サクラちゃんとナルトははにかんだように笑った。サスケくんはちょっと照れくさそうだったけれども。

 

「カカシ先生はやっぱり強いなぁ……」

 

もちろん、カカシ先生にも感謝の気持ちは忘れない。今、ここで頼りなく横たわっていても、いざという時は一番頼りになるのだから。

 

「やっぱりって、名前ねえちゃん、カカシ先生がすげー強いの知ってたのか?」

「知ってるも何も……私の忍術の先生、実は別にいるんだけど……そのひとの先輩が、カカシ先生なんだ。私の忍術の先生、とてつもなく強くて、常人の私には理解できない領域に居るひとなんだけど……その人が、“カカシ先輩はすごい”って言ってたから、相当なんじゃないかな、って思ってたんだけど……ほんとにかっこよかった!!」

「ははは……照れるね」

 

満更でもなさそうな反応ね。それにしても、本当に、本当にカカシ先生はかっこよかった。殺気は尋常ではなかったが、仲間を死んでも守ると言ってくれたあの頼もしい横顔を、私は忘れないだろう。

 

「……あれ、みんな、どうしたの?」

「しっ、静かにっ」

「え?あ、カカシ先生寝ちゃったんだ?」

「そうだってばよ……だから見てやるんだ、カカシ先生の……素顔を……」

 

気にならないのか?そういわれれば、とても気になってしまう。

家の周りをパトロールがてら散歩をして、帰ってきたときにみんなが眠るカカシ先生を囲んでいたので、思わず声をかけてしまった。どうやら、カカシ先生が寝ている間にマスクをはずして、素顔を確かめるつもりでいたようだ。

 

「……カカシ先生、たぶん、ものすごいイケメンだと思うよ、これは断言できる」

「え~そうなのかしら?」

「絶対にそう、間違いない、もう、オーラが違うもの」

 

カカシ先生がとても女性人気が高いことは、夕顔さんから教えてもらっていたので知っていた。そんな夕顔さんには、カカシ先生よりとても素敵な彼氏がいるらしい。カカシ先生は、何もしなくても女の人を寄せてしまうので、女性で苦労をしていない。だから自分から女性に積極的に話しかけることもなければ、困ることも何一つ無いそうだ。まったく、これだからイケメンは。

 

「カカシ先生のくノ一人気はすごいんだよ」

「へぇ……わたし、知らなかった」

「多分、私の世代以上のくノ一のお姉さんたちは、人生で一度はカカシ先生に憧れを抱いたんじゃないかな」

 

その言葉に、3人はそんな馬鹿な、と言った表情を浮かべていた。ふふ、おこちゃまね。まぁ、そりゃあそうか。そんな私も精神年齢がついに✕✕歳。うん、考えるのはやめよう。

 

しばらくして、カカシ先生の素顔を盗み見る作戦が失敗した頃、カカシ先生は先程の戦いで、ある懸念点を教えてくれた。それは、あの突如現れた追い忍の少年のことだ。多くの秘密を漏らしかねない抜け忍の死体は、すぐに処理をするのが鉄則になっているらしいが、あの追い忍はその場では処理をしようとはしなかった。どこかへ連れ去ってしまった。しかも、止めを刺した武器は千本という、殺傷能力の低い武器。そこで、サスケは感づいたようだ。

 

「まさか」

「あーあ、そのまさかだな」

「さっきからグチグチ何を言っとるんじゃお前たちは」

「――――おそらく、再不斬は生きている」

 

なるほど、そういうことか。ならば、カカシ先生にいわれた通り、あの時タズナさんを連れて逃げていたら、もしかしたらあの少年が襲いかかって来ていたかもしれない。流石にカカシ先生なしであの場から戦いながら逃げるのは難しかったし、何よりあの少年はとても強かった。何らかの力を秘めているとみて間違いないだろう。

 

「あの千本で仮死状態にしたってことですか?」

「ああそうだろうな、あの少年の目的は、再不斬を助けに来たこと」

「うーん、なるほど……じゃあ、まずいですね、また再不斬って男、来るんじゃないですか?」

「来るだろうなぁ……」

 

さらに、ガトーの部下に他の強力な忍がいないとも限らない。木の葉の里に無事、生きて帰れることができるのだろうか。今からすでに不安だ。

 

「お前たちに修行を課す!」

「え、修行って……先生!わたしたちが今ちょっと修行したところで、たかが知れてるわよ!!相手は写輪眼のカカシ先生が苦戦するほどの忍者よ!」

 

サクラちゃんの心配もわかる。私も正直、いま修行したところで、突然強くなれるとは思っていないからだ。

 

「サクラ、その苦戦している俺を救ったのは誰だった……お前たちは急激に成長している、とくにナルト!!お前が一番伸びてるよ!!」

 

とは言っても。カカシ先生は言葉を続けた。

 

「俺が回復するまでの間の修行だ……まぁお前らだけじゃ、勝てない相手に違いはないからな」

「でも先生!!再不斬が生きてるとして、いつ、また襲ってくるかもわからないのに、修行なんて……」

「その点についてだが、いったん仮死状態になった人間が、元通りの身体になるまではかなりの時間を要する」

「その間に修行ってわけだな!面白くなってきたってばよ!」

 

どこまでも前向きだね、ナルトくんは。そんな君だからこそ、私はいつも勇気をもらっているのかもしれない。

 

その後、タズナさんの孫のイナリくんが帰ってきて、ナルトくんに突っかかってきたが、あとから彼の父親がガトーに殺された事を知った。さっさと部屋に帰っていってしまったイナリくんをナルトくんは追いかけていったが、すぐに戻ってきた。きっと、なにかあったのだろう。

 

「では、これから修行を始める!」

「押忍!!」

「と、その前に……お前らの忍としての能力、チャクラについて話そう」

 

カカシ先生を先頭に、第7班は森へ向かった。この森で、どうやら修行をするようだ。

 

「あのさあのさ!チャクラってなんだったっけ?」

「アンタそれでよく忍者やってるわね!!学校で何習ってたの!?」

 

おいおい、基礎中の基礎でしょ……とは思ったが、ナルトくんらしいといえば、ナルトくんらしい。ナルトくんは、感覚で忍術を使っているから、日頃から特別に意識はしていないんだろうな。私の場合、オリジナルの術は感覚で使っているところがあるが、前世の感覚があるからこそ使えているだけ。決まった術式のあるものに関してはかなり意識をしなければ術が発動できない。ナルトくんもサスケくんも、感覚で忍術を発動できるっぽいので、きっと基本のチャクラ量も人より多いのだろう。本当に才能のある子たちなんだなぁ、とつくづく思う。ちなみに、サクラちゃんは私と同じで、精密にチャクラコントロールをするタイプのようだ。それは、カカシ先生が私達に課した修行、木登りの修行で判明した。

 

「なんだ、楽勝じゃない」

「はぁ~、疲れた……」

 

木登りといっても、手を使わない木登り。足の平にチャクラを集中させ、木を歩く感覚で登っていく修行だ。チャクラのコントロールを身に着け、極めればおおよその術は体得できるようになるからだ。加えて、チャクラの持続力も高めれば、完璧。そのための、木に登りながらのチャクラノウハウを習得する修行だった。しかし、それが殊の外難しい。

一発で木に登れたのはサクラちゃんと私だけ。ナルトくんとサスケくんは、途中で落っこちてしまったりと、なかなか苦戦している。

 

「今一番チャクラのコントロールがうまいのはどうやら女の子のサクラと名前みたいだな」

「すっげぇ!サクラちゃんてば!!さすがはオレの見込んだ女!!でも、体術ダメダメな名前ねえちゃんが出来たのは意外だってばよ……」

「も~ナルトくん、先生が言ってた意味理解してないでしょ?これは体術じゃないって……チャクラのコントロールとスタミナを高める修行だよ」

「名前の言う通りだ、いや、チャクラの知識もさることながらコントロール、スタミナともになかなかのもんだ、この分だと、火影に一番近いのはサクラと名前かなぁ……誰かさんとは違ってね」

 

もちろん、これはナルトくんに向けて言っている。

 

「それにうちは一族ってのも案外たいしたことないのね」

 

これは言わずもがな。

 

「うるさいわよ先生!」

 

サクラちゃんはサスケくんに嫌われたくないので、間を置かずフォローに入る。

 

「ま、お前ら後はがんばれよ……そうだ、名前、お前は別の修行だ」

「えっ」

「えぇ!?名前ねえちゃんだけなんの修行をするんだってばよ!?」

 

カカシ先生に言われ、急遽、私だけその間別の修行をすることとなってしまった。

 

「名前には別の“宿題”があるからな」

「うっ……やっぱり」

 

きっと、封印術のことだろう。たしかに、覚えるようにとは言われていた。巻物も渡されている。術式は覚えたので、後は練習あるのみ……だが、あれ1回でチャクラ量をそれなりに消費するので、元一般人の私にとっては拷問のような修行だった。今度は私が倒れる番かもしれない。

 

「そうだったの……頑張ってね、名前ちゃん!」

「うぅっ……がんばるね、サクラちゃん…ありがとう」

 

頑張るは頑張る。むしろ、頑張らないと術が中途半端になって苦しむのは自分だ。これを会得すれば、ナルトくんを守ることができるのだから。封印術の初歩的なものではあるが、これを会得して初めて、さらに上位の封印術、実際に活躍するであろう忍術を学ぶことができる。

 

ついに、私もナルトくんたちが修行をしている場所より少し離れた場所で修行が始まった。

 

「封印術をかけるときのチャクラコントロールは、木登りなんかじゃ会得できないからな」

「……が、がんばりますっ」

 

流石はカカシ先生で、幾つかコツを教えてもらい、そのコツを意識してチャクラを練れば、なんと一回で成功することができた。と、言っても本来の術よりはかなり弱小のものが出てきただけではあるが。木遁の封印術は、テンゾウしか使えないのでカカシ先生から学べるのは、チャクラを練る際のコツなどだ。

 

「小さいな」

「……小さいですね」

 

正しく発動すれば、封印術が施された檻が地面から出現するはずなのだが、出てくるのはどれもドールハウスのような、小さなものだった。これに入るのは、せいぜい雀ぐらいだろう。この修業が、6日間続き、その頃には、大型犬が1匹入るぐらいの大きさには成長できた。人1人入るには少し狭かったが、きちんと狙いを定められればこの中に相手を封じることができる。テンゾウなら、きっと1LDKぐらいの広い木遁封印を出せるに違いない。1週間にしては、かなり上出来だろう。ちなみにサクラちゃんはその間、タズナさんの護衛をしていたらしい。

修行が一旦終わったあと、私たちはイナリくんの家族を襲った悲劇……愛する父親の死、そしてその犯人がガトーであることも教えてもらった。だからイナリくんは、ナルトくんに突っかかっていたのだ。どうにもならない過去に苦しんで、悲しんで。そんな彼の気持ち、きっと、ナルトくんならばもう分かっている。多分、ナルトくんという存在は、イナリくんにいい影響を及ぼすだろう。どんなときもへこたれずに、自分を信じ、前向きに立ち向かうナルトくんの姿を見て、勇気をもらえるはずだ。

 

「じゃあ、ナルトのこと頼んだよ」

「わかりました、もし起きたら、追いかけていきますね」

 

修行の終わった翌朝、調子の戻ったカカシ先生はサクラちゃん・サスケくんはタズナさんの護衛に戻り、私は昨晩遅くまで修行をしていたナルトくんの付き添いとして、タズナさんの家に残っている。いくらスタミナがあるナルトくんでも、今回は結構無茶をしたようだ。

 

「じゃあ、またあとでね、名前ちゃん」

「じゃあな」

「ふたりとも~タズナさんのことよろしくね~!」

 

4人の背中を見送ると、私はキッチンに戻る。キッチンで食器を洗っている、イナリくんのお母さんのお手伝いをするためだ。

ナルトくんは昼頃までぐっすり眠っていたが、眠ったおかげで目覚めてから、すぐに元気を爆発させている。カカシ先生を追いかけて走っていくナルトくんの背中を見送りながら、私はやれやれ、とため息を漏らす。

 

「ナルトくん……先に行っちゃったよ……」

「元気ね~……」

「元気が取り柄ですから、ナルトくんは。あのー、ナルトくんが飛び出して行ってしまったので、私、ここに残っていますね、念のため」

「え?先生のところに合流しなくて平気なの?」

「……たぶん、あちらは大丈夫だと思います、みんな修行をして強くなったから!」

 

念のため、少し経ってからあちらに合流するつもりでいる。木遁分身もナルトくんと一緒に走らせているので問題ないだろう。

そして、案の定、ガトーは部下2人をこちらに送りつけてきた。道中その足跡に気が付き、ナルトくんと合流し、そのまま部下2人をボコボコにしてやった。木遁で縛り付けてやってるので、簡単には抜け出せないだろう。こいつらからは、いろんな事を洗いざらい吐いてもらう必要があるだろうから。

 

「サクラちゃん、おまたせ!」

「名前ちゃん!待ってたよ!」

 

私たちはそのまま走り、カカシ先生のもとに無事合流した。その時すでにあの再不斬と彼の仲間である白という少年と戦っている最中だった。サスケくんはナルトくんと手を組んであの少年と戦うつもりのようだ。カカシ先生は、再不斬の相手をしなければならない以上、私はサクラちゃんと死ぬ気でタズナさんを守る必要がある。

しかし、あの白という少年、とても手強そうだ。何しろ血継限界持ち。さらに彼には、特別な思いがある。彼は彼の夢のため、大切な人……再不斬を護りたい、その人のために働き、その人のために戦い、その人の夢を叶えたい、それが白の夢だった。そのためなら、彼は忍になりきり、私達を殺すつもりでいる。

 

「サスケくん!ナルト!そんなやつに負けないで!」

「やめろサクラ、あの2人をけしかけるな!」

「え?」

「たとえ万に一つ、あの技を破る方法があったとしてもあいつらにあの少年は倒せない……」

 

あの技、とは、今2人が受けている血継限界の技のことだ。鏡の中から抜け出せない2人は、その中で白からの縦横無尽の攻撃を受けている。それを見切ることはとても難しく、どんな術であるかをすべて把握していない以上、対処も難しい。あの少年を倒せない、というのは、つまりナルトくんとサスケくんには、あの少年のように“人を殺す”精神力がないことをさしていた。彼は相手を殺すつもりで来ているのに対して、2人は人を殺すなんて、したことが無いはずだ。もちろん私や、サクラちゃんだってそれは同じ。

 

「あの少年は忍の本当の苦悩をよく知っている」

「……お前らみたいな平和ボケした里で本物の忍は育たない、忍の戦いにおいて、最も重要な殺しの経験を積むことができないからだ」

 

平和ボケしているのかは分からないが、木の葉の里が平和に見えているだけで、実際は平和とは限らない。

 

「悪いが、一瞬で終わらせてもらうぞ」

「クク…写輪眼……芸の無ぇ奴だ」

 

ついに、こちらも戦いが始まった。いくらカカシ先生がこちら側にいたとしても、油断は禁物。タズナさんを連れて少しでもここから離れるべきか悩んだが、今動けばすぐにバレてしまうだろう。

再び霧隠れの術の中、カカシ先生と再不斬のにらみ合いが続く。姿が消え、やつがどこを、誰を狙うのか……こっちか!

 

「……土遁、土流壁!!」

 

こちらに襲いかかる再不斬の攻撃を、土遁で弾きかえす。さらに、その瞬間に、こちらにいるタズナさんを、木遁分身と入れ替え安全な場所に移動させることができた。まさに、ピンチをチャンスに、だ。

 

「あいつ、邪魔だなァ……」

 

いや、結構まずい状況になったかもしれない。攻撃を防御してしまう私を邪魔に思ったのか、今度は私に狙いを定めたようだ。ここにいれば、サクラちゃんも危険……すぐに同じ技を使うには見切られるリスクがあるため、別の技を使うべきだろう。

 

「名前!」

「……っ木遁の術!」

 

地面から大量の細い木が生え、それが再不斬の足を絡め取ろうとするが、すべて避けられてしまった。

 

「なっ、木遁だと!?」

「木遁、昇龍拳の術!」

 

逃げた再不斬を、木遁で作られた巨大な拳が狙い撃つ。運良く再不斬に当てることが出来たが、このオリジナルの木遁忍術、次の術を発動するまでに時間が少しかかってしまうので、これを使うのはそれなりのリスクがあった。

 

「……っす、すごい名前ちゃん……!」

「よくやった名前!おい再不斬!お前の相手は俺だろ!」

 

よそ見をしてたら困るんだよね。そう言いながら、カカシ先生の攻撃も炸裂した。

 

「はぁ…はぁ……」

「大丈夫!?すごい顔真っ青……」

「すごいチャクラ使うんだよね……はぁ……私、ナルトくんやサスケくんみたいに、たくさんチャクラがある訳じゃないからさ……しかも、コントロールが難しくて、すごい、疲れるんだよねこれ…」

 

あまり披露してはならないと言われていた木遁忍術を発動させてしまったが、それを使わざるをえない敵が襲ってきたのだから、文句は言われないだろう。あの白という少年も、先程の攻撃で、こちらに少し気を取られたようだ。

 

「木遁だと?なるほどな、そういうわけか、そいつは“木の葉の隠し玉”ってわけか」

 

再不斬は、木遁が何なのかを知っていた。だから、隠し玉と言ったのだろう。しばらく2人の戦いを見守りつつ、私はある異変に気がつく。再不斬の霧隠れの術のせいで、周りの霧の濃さで周りの景色が全く分からない程、あたりは真っ白だった。その霧の向こう側で、再不斬やカカシ先生ではない、“異質”なチャクラを察知した。それからは、全身を刃で打ち付けられたかのような圧力を感じる。

 

「なに、なにか……何かがへん!」

「サクラちゃん、私は、一旦ここを離れる!ナルトくんのところへいかなくちゃ……!」

「えっ、何、何があったの!?」

「カカシ先生!!ナルトくんは任せてください!」

「……!ああ、頼んだ!修行の成果をみせてくれ!だが無理だと判断したらすぐ逃げろ!」

 

カカシ先生が何をいっているのか、サクラちゃんにはわからないだろうが、今細かく事情を説明している暇はない。ナルトくんから漏れ出た九尾のチャクラを察知して、カカシ先生もすぐ動き出した。ここで再不斬との決着をつけるつもりのようだ。

 

「……ぅ、すごい熱いチャクラね……!」

 

白の血継限界の忍術より閉じ込められていたナルトくんたちだったが、そこから赤い九尾のチャクラが漏れ出ている事にすぐ気が付いた。

ナルトくんに施されている九尾の封印が解かれるとどうなるのか、ざっくりと説明は受けていたが、この感じからして、封印が解けているというよりは、チャクラが漏れ出ているといったところだろうか。念のため、封印術を発動できるよう、チャクラを練り始める。昇龍拳を使ってしまったので、練るのに時間がかかりそうだ。

 

「……!ナルトくん……!」

 

ついに敵の術を破り、内側からあの少年を吹き飛ばした。お面が割れ、崩れ落ちる中、ナルトくんが狙いを定めて殺意のこもった目で殴りかかろうとする。そして顔が顕になると、急に自我が戻ってきたのか、腕を震わせ攻撃を止めた。

 

「お……お前は……あん時の…!」

「なぜ止めたんです、君は大切な仲間をボクに殺されておいて、ボクを殺せないんですか」

「……クソ!」

 

その言葉に、私ははっとする。サスケくんが、死んだ?そんな馬鹿な。霧の向こう側をじっと見つめれば、薄っすらと黒い影が見えた。もしかして、あそこにサスケくんが居るというのだろうか。封印術をかけるために練っていたチャクラを、サスケくんの治療術に使うことにした。今、木遁分身はここより離れた場所にいるタズナさんのもとに1体と、タズナさんの身代わりとして1体いるだけではあるが、分身を維持し続けることも結構ハードだったりする。その中でサスケくんの治療術に使えるのはそこまで量がない。せいぜい傷を塞ぐ程度だ。

 

「サスケくん……!おーい!」

 

薄っすらと見えていた黒い影は、やはりサスケくんで、千本での攻撃を受けてその場で倒れていた。ペチペチと頬を軽く叩いてみるが、反応はない。しかし、生きていることは間違いなくて、首に千本が刺さっている痛々しい姿を見て、なるほど、と思った。この千本を抜き、治療を行えば目覚めるかもしれない、と。

 

「さっきまでの勢いはどうしたんです……そんな力じゃ、ボクは殺せません……よく勘違いをしている人がいます、倒すべき敵を倒さずに情けをかけた…命だけは見逃そうなどとーーー知っていますか、夢もなく、誰からも必要とされず、ただ生きることの苦しみを」

「……何が言いたいんだ」

「再不斬さんにとって、弱い忍は必要ない……君はボクの存在理由を奪ってしまった」

「なんであんな奴のために……悪人から金貰って悪いことしてる奴じゃねーか!!お前の大切な人って、あんな眉なし1人だけなのかよォ!」

「ずっと昔にも大切な人がいました……ボクの両親です」

 

彼は、幼い頃、父や母と暮らしていたらしいが、突然父が彼の母を殺し、そして白を殺そうとしたそうだ。絶え間ない内戦を経験していた霧の国では、血継限界を持つ人間は忌み嫌われてき。その得意な能力のため、その血族は、様々な争いに利用されたあげく、国に災厄と専科をもたらす汚れた血族と恐れられてしまったらしい。戦後、その血族たちは自分たちの血のことを隠して暮らしていて、その秘密が知られれば必ず“死”が待っていたそうだ。彼の母親は血継限界を持つ血族の人間だったらしく、それが父に知られた時、そんな悲劇が起きたのだとか。その時、白は自分のことを、必要とされない存在だと感じたそうだ。

その後、再不斬と出会い、再不斬に必要とされたとき、彼は自分の存在意義を見つけたのだとか。だからこそ、白にとって再不斬という存在はかけがえのない人物だった。再不斬の夢が自分自身の夢で、その再不斬の武器として自分は存在している。彼はそう考えているのだった。言うなれば、再不斬という人間が、白にとっての“世界”なのだろう。

 

「……ナルトくん、そちらは任せたよ……!」

 

白との戦いは、ナルトくんに任せよう。もう、九尾のチャクラが漏れ出ることは当分平気そうだ。なんとなくそう感じた。私は意識を失い、倒れているサスケくんの処置をすることにした。千本をそっと抜き、傷口を塞ぐ治療術を施していく。治療の最中、カカシ先生たちが居るであろう方角から、嫌な音が聞こえてきた。何かが、身体を貫いたときのような音だ。肉の音、と言うべきだろうか。そこには白という少年の姿はナルトくんの側にはなく。

 

しかし、今はよそ見をしている暇はない。この治療術に集中しなければならない。一寸の狂いもなく、精密にチャクラをコントロールし、治療を行わなければサスケくんは間違いなく死ぬ。武器が千本で良かったと、このときは本当に思った。いや、もしかしたら、あの少年……白は、もともと、サスケくんたちを殺すつもりはなかったのかもしれない。だから、千本という致命傷を与えにくい武器を使っていた……そう考えると、胸が苦しくなった。

 

「名前ちゃん!サスケくんは!?あっ……」

「……ごめんねサクラちゃん、ちょっと、チャクラ借りてもいい?私の手の甲に、手のひらをあてて、チャクラを少しづつ送るイメージで……サスケくんは、まだ死んでない」

「!!うん!!」

 

今、自分のチャクラ量だけでは心配だったので、タイミングよくこちらに来てくれたサクラちゃんに声をかけた。すぐさま駆けつけてきてくれて、早速、手の甲に重ねるようにして手を置き、チャクラを送ってもらった。ふと、その瞬間、近くにいた木遁分身で作っていたタズナさんの姿が消えてしまう。

 

「!!分身だったの!?いつの間にかに……!本物のタズナさんは!?」

「大丈夫、安全な場所にいる……そっちには、もう一体、私の木遁分身がいるから……こっちはチャクラ量的に限界だったみたい」

「……そんな事をしてたのね、私、なんにも出来てなかった……すごいな、名前ちゃんは……」

「ううん、サクラちゃんもすごいよ、だって、一緒にタズナさんを守ってくれたし、今こうして、治療術を行っている私に、チャクラを分けてくれているんだから。実はこれ、結構難しくて……サクラちゃんがゆっくりと、間違いなくチャクラを送り届けてくれるから、思ったよりも治療が早く終わりそうだよ、たくさんチャクラが来ても、扱いきれないからさ……ほんと、サクラちゃんは才能があるよ」

 

自信を持ってほしかった。たしかに、ナルトくんやサスケくんと言った、突き抜けた才能を持っている忍者と自分を比べてしまうと、自分を卑下してしまう。その気持ちはよく分かる。私だって、才能ある友達が周りにいて、その人達と今の自分を比べたら、雲泥の差があるのだから。こんな状態では、友達の1人だって助けられやしない。イタチくんを過去に助けることが出来たのも、あれはイタチくんが強かっただけで、厳密に言うと、私が助けたわけではないのかもしれない。

私とサクラちゃんがサスケくんの治療に専念している間、物語は意外な結末を辿った。あのときの音は、白が再不斬を守って、身代わりとなった際にカカシ先生に胸を貫かれて死んだときの音だったのだ。そして、その後、再不斬とカカシ先生はしばらく戦ったが、ガトーが数百の部下を連れ姿を現し、再不斬や白を裏切った。再不斬は白のため、自分のためにも、瀕死の身体でガトーたちを追い詰め、そして最後、ついにガトーを殺して復讐を果たした。なんて、悲しい結末だろうか。

 

「……名前と……サクラか……オレは……」

「サスケくーん!!サスケくんサスケくん!!うわぁあああっ」

「ふふ、よかった……ナルトくん!サスケくん、意識戻ったよ!」

「……!ハハ……よかったってばよ……」

 

ああよかった、無事、サスケくんは目覚めてくれた。サクラちゃんは大泣きしながら、サスケくんに抱きついた。彼の無事な姿を見ると、ナルトくんも喜びで涙をにじませた。

 

「あの……お面ヤローはどうした」

「動かないで!ナルトは無事よ!それにあのお面の子は死んだわ……」

「死んだって、ナルトがやったのか?」

「う、うぅん…わたしもよくわからないけど、再不斬をかばって……」

「……そうか」

 

自分の木遁分身がタズナさんと近づいて来る事に気が付き、喜びサスケくんを抱きしめるサクラちゃんを横目に、私は霧の向こう側に神経を集中させる。霧がすこし晴れて、タズナさんの姿が見えた。残りの木遁分身を消すと、どっと疲労感が身体を襲う。

 

「嬢ちゃん、お前、超すごい奴だな」

「いえ、正直不安しかなくて……でも、タズナさんが無事で良かったです、これもサクラちゃんがずっとタズナさんを守ってくれていたおかげ……サスケくんが意識を取り戻したのも、サクラちゃんがチャクラを私に送り続けてくれたからだよ、サクラちゃん、お疲れ様」

 

サクラちゃんがいなかったら、タズナさんを木遁分身とすり替えることだって出来なかっただろう。私の言葉に、ぐっと涙をにじませて微笑むサクラちゃん。

 

「……お前、アカデミーではヘッポコだったのにな、能力を隠していたのか」

「ちょ、ちょっと、ヘッポコってひどいよサスケくん!確かに、体術は絶望的だったけど……」

「サスケくん、名前ちゃん、すごかったのよ!治療術をサスケくんにかけてくれていたの。でもびっくりしちゃった……名前ちゃんが、まさか木遁を使えるなんて」

「――――木遁だと?」

 

木遁を使えることが2人にもバレてしまったが、同じ班である以上は、いずれ知ることだ。仲間には知っていてほしかったので、少し肩の荷が降りたような気がした。

 

「名前、お前は千手一族の出なのか?」

「まさか~そんな訳ないよ、とりあえずこの話はまた今度ね、カカシ先生たちのところへいかなくちゃ」

 

私が千手一族の出ではないことは間違いない。孤児だったから、もしかしてもしかすると……という可能性も考えられたが、血筋を辿っても、私という存在にはたどりつかなかった。どこにでもいる一般人で、突然変異で、前世の記憶を持っているから木遁が使えた。今導き出せる答えはこれだけだ。

 

ボロボロの私達を待ち受けていたのは、まだ数十人ほど残っていたガトーの部下たちだった。カカシ先生も、私達もチャクラを使いすぎているので、正直ここから戦うのは至難の業。どうしようか……と苦境に立たされていると、イナリくんが島の大人たちを大勢連れて、助けに来てくれた。

なんとか、イナリくんや島の人たちにおかげで命拾いしたが、正直かなり危なかった。

 

忍って、結構辛いな。こんなに葛藤するなんて。白と再不斬の最後をみて思ったのは、この一言だった。2人を見送った時、空からは季節外れの雪が降った。白は、雪深い場所で生まれ育ったらしい。だからきっと、これは偶然の雪ではない。もしかしたら、2人のために降ったのかもしれない。

 

戦いが終わり、木の葉に帰る頃、私は2人のために木遁で立派なお墓を立てた。雪だるまの彫刻を、花瓶代わりに置いてみた。お墓には、サクラちゃんが花束を作って、供えてくれた美しい紫色の花が。

 

「でもさ、カカシ先生……忍者のあり方って、やっぱこの2人が言っていた通りなのかな?」

「忍ってのは、自分の存在理由を求めちゃあいけない、ただ国の道具として存在することが大切……それは木ノ葉でも同じだよ」

「本物の忍者になるって本当にそういうことなのかなぁ……なんかさ、なんかさ!オレってばそれ、やだ!」

「アンタもそう思うのか?」

「んーーーいやな……だから忍者ってやつは皆知らず知らずそのことに悩んで生きてんのさ……再不斬や、あの子のようにな」

 

イタチくんたちも、そうだったのだろうか。苦しんで、苦しんで……もがいていた。レンくんとシンコちゃんが任務中に殺され、残されたイタチくんはどれほど苦悩したことやら。さらに、シスイくんとイズミちゃんも死んでしまった……。私は、本当にこのまま、忍者で居ることができるのだろうか。友達を守りたい、その気持は変わらない。もう二度と、友達を失いたくない。そのために、忍者アカデミーに通って、忍者になる道を選んだ。なのに、少し揺らいでしまった。今、足元で眠る彼らの戦う様を見て、自分の気持ちが揺らいだのを感じた。

 

「よし、今決めたってばよ!」

 

すう、と息を吸い込み、空に向かってナルトくんは大きな声で自分の決意を語った。

 

「オレはオレの忍道を行ってやる!!」

 

その言葉に、心を突き動かされる。どこまでも真っ直ぐで、未来を信じているナルトくんの姿が眩しく、輝いてみえた。

そして、そんな彼を見て、カカシ先生は優しく笑った。

 

イナリくんと感動のお別れをした後、私達は木ノ葉の里に帰ってきた。家に着くなり、身体の力が抜けて無惨な姿で朝を迎えた。どうやら朝まで気絶していたようで、首がひどく痛い。目の前にはテンゾウがいて、久しぶり、と声をかければ心配したよと怒られてしまった。

 

「本当に、死んでいるのかと思ったんだからね」

 

そう思う気持ちはわかる。誰だって、家に入ったとたんにその家の人が妙な格好で倒れていれば、そう思うだろう。テンゾウに横抱きされ、ベッドまで運んでもらった。ああお風呂入りたい。

 

「あはは……ご心配おかけいたしました……波の国の任務がすごくハードで……木遁たくさん使ったから、チャクラ切れを起こしちゃったみたい」

「え、Cランクの任務だったんだろ!?」

「……Bランクぐらいの任務だったらしいよ、でもカカシ先生のおかげでなんとか……あと、ナルトくんが九尾を暴走させそうになってたけど、なんとか大丈夫だった」

「え!?」

「サスケくんが死にかけたけど、とりあえず治療術かけたから大丈夫、でも、カカシ先生もボロボロ」

「え!?カカシ先輩が!?」

 

テンゾウにとって、私の報告は驚きの連続だった。ともかく私の安否が確認出来たので、後でカカシ先生の元へ向かうようだ。

 

「火影様から宿題に出されてた封印術、とりあえずできるようにはなったよ、ただ……まだ小さいけど」

「小さくてもこんなに早くできるようになるなんて、すごいじゃないか」

「カカシ先生が教えるの、上手だったからね」

「カカシ先輩って何でも器用にできちゃう人だからね~……」

 

どこか遠い目をしているテンゾウ。それをみて、私は察してしまった。色々あったんだろうな、きっと。

 

「話、聞いてくれる?」

「あぁ、もちろん」

 

そこで、私は波の国で出会った人たちの話、そして、再不斬と、白の話をした。白は、ナルトくん……私達にとって、運命の少年だったと思う。彼と出会ったからこそ、私達は忍としての生き方を、しっかりと考えられるようになっていた。

そんな彼も、今は天国であの男と一緒にいるだろうか。どうか、安らかに。私は静かに祈った。2人の安息を。