イタチくんが中忍になったという知らせは、例のごとくイズミちゃんから知らされた。このとき、イズミちゃんも下忍になっていて、輝く額当てが太陽の光を反射して眩しかった。今日は店のシフトの日だったので、店にいたからよかったものの、もしいなかったらあのアパートまで走ってきたのだろうか。今私が暮らしているアパートまでは、ここからそれなりの距離があるので、5分で移動できる距離にはない。そのせいで毎週出勤がハードになってしまったわけだが、特別な給金も火影様から頂いているので、文句はなかった。
「すごいね、10歳で中忍か~」
「ほんとにイタチくんはすごいよね!」
「すごいよほんと、イズミちゃんは最近イタチくんに会ってる?」
「ううん、それが全然会えなくて……中忍になったばかりで、忙しいのかもしれいわね」
「なんたって中忍だもんね~、あ、そうそう、今度イズミちゃん家、遊びに行ってもいい?明後日、お店がお休みなんだ!」
「わぁ!ほんと!?うん、是非是非!!」
基本、働き詰めの私にとって、休日はとても貴重だ。しかし、貴重な休日をただ寝て過ごすだけではもったいない。今回は翌日も休みなので、あわよくばイズミちゃんの家にお泊まり会でもしようかな、と考えいたところだ。
「お母さん喜ぶと思う!名前ちゃんに会いたがってたんだ!」
「ほんと!?そうだ、イズミちゃんのお母さん、三色だんごが大好きって言ってたよね?たくさんもってくね!!」
「わあ嬉しい!お母さん、すごく喜ぶと思う!!」
たくさん作って持っていくので、余った分はご近所さんに配ってくれればいいよ。そう言うと、イズミちゃんは嬉しそうにはしゃいだ。
「そしたら、イタチくんの家にも持っていこうか!」
「ああ、いいかも、弟いるって言ってたもんね」
イタチくんには弟がいる。まだ会ったことはないが、ナルトくんと同い年だったはず。あ、そうそう、シスイくんもうちは一族だから、きっと任務が休みなら近くに居るかもしれない。後日、約束の時間までに3色だんごを大量に作って持っていくと、イズミちゃんが出迎えてくれた。ここは木の葉の里でも特別な、うちは一族が管理している自治区だ。後でここが上から監視されていると知ったが、このときは純粋にうちは一族だけが固まって住んでいる場所、という認識だった。
「やほ~!」
「名前ちゃん!ようこそ!」
「おだんごたくさん持ってきたから、みんなに分けてね」
「すご、かごにいっぱい持ってきたの!?」
肩からかけた竹籠には大量のお団子が入っている。正直、ここまで作る必要はなかったのだが、友達の事を考えていたら作りすぎてしまった。
「あれ、名前、お前どうしてこんなところにいるんだ?」
「今日はイズミちゃんの家にお泊りなんだ~!」
早速すぐ近くを歩いていた見知らぬ少年少女にだんごを配って歩いていると、聞き覚えのある声が聞こえてきた。そこには、これから任務に出かけようとしているシスイの姿があった。彼はまだ13歳なのに、すでに上忍という忍者の中ではスーパーエリート街道まっしぐら。こんな友達がいれば、イタチが中忍という事実だって少し霞んでしまう。あのイタチよりもすごい、ということがわかるだろう。
「へぇ、よく許可が降りたな……あ、まぁ、そうだよな」
「その通り、私はあれから“毎日見守ってくれる人”がいるからね!」
どうして自由に誰かの家にお泊りなんてできるんだ、という疑問も、彼はすぐに自己解決させた。さすがはシスイくんだ。きっと、暗部の夕顔さんが側で控えていることにも気がついているのだろう。一応、私が木遁を使えることは、極秘になっている。知っているのは一部の忍だけ。
「これから任務なの?残念だな~シスイくん~」
「じゃあ、もらっていくぜ!」
「あ、ちょっと!」
しゅばば、と一瞬のうちにかごから3色だんごが2本抜き取られてしまった。ありがとな~と緩やかに立ち去っていくシスイくんの背を見送りながら、ため息を漏らす。
「まったく~あいつは~……」
「でも、すごいよね、シスイさんも、イタチくんも」
「ね~、ほんとにすごいね、でも私はイズミちゃんもすごいっていつも思ってるよ、いつも友達想いでさ、私、イズミちゃんが居るおかげでがんばれてるみたいなもんだよ」
「えっ、ほ、ほんとに?なんだか照れちゃうな……」
「なーんかさ、嫌なことがあっても、友達を思い出すと元気になるんだ、私はさ、親とかがいないから、その分、心の支えが友達なんだと思うよ」
そう言うと、何故かイズミちゃんは顔を真っ赤にさせて照れていた。まぁ、たしかに告白はしてるけどそういう意味では全くない。ピュアピュアなイズミちゃんは、精神年齢がトータルで✕✕歳の私には少し眩しく見えたのはここだけの話。ダンゾウをおじさんと呼んだが、私も立派なおばさ……いや、考えるのはやめよう。これを考えると心の闇が広がっていくような気がする。
友達を褒めちぎったところで、イズミちゃんのお母さんとついにご対面した。イズミちゃんのお母さんは、もちろんイズミちゃんのお母さんなのでとても美人だった。ああ、こんなお母さんがいるなんて、本当に羨ましい。そして、イズミちゃんが本当にお母さん似であることをこのとき知った。3色団子を渡すと、キャピキャピはしゃぎながら受け取ってくれた。本当にこのお団子が大好きなんだなぁ。心から喜んでいる人の笑顔を見ていると、自分の笑顔になるから不思議だ。ほんと、ヌクモリティ。
「壁にうちはのマークがたくさんあるね」
「あ、ほんとだ、気にしたことなかった」
イズミちゃんに案内されながら、うちは自治区を歩いていると、壁のところどころにうちはのマークが描かれていることに気が付いた。
「ここを通っていつもアカデミーに行ってたの?」
「そうだよ、名前ちゃんはアカデミーに通ってなかったね、そういえば」
「そうなの、だから、どんな感じだったのか少し気になるんだ」
「どんな感じかぁ……言葉じゃ難しいなあ……」
「学校の先生はたくさんいた?」
「各クラスに担当の先生がいたけど……」
「へえ~」
聞く感じでは、ホグワーツの先生とは違う感じのようだ。ホグワーツの先生たちはそれぞれが個性的で、平凡からかけ離れた人たちばかりだったのを覚えている。
「ここがイタチくんの家だよ」
「へ~、イタチくんの家ってでっかいね!」
「ふふ、そりゃそうだよ、うちは一族の族長の家だもん」
「ええ?!そんな話一度も聞いてなかったけど!?」
「え?聞いてなかったの?でも有名な話だよ?あーそっか、でも名前ちゃんは忍者じゃないからそうだよね……なんだか、名前ちゃんとは、アカデミー時代もずっといっしょにいた感覚でいたから、あはは」
「ふふ、忍者じゃないから、一般ピーポーだから!」
本当に一般ピーポーなのか、といわれると難しい。何しろ、木の葉の里でも珍しい木遁使いなので、忍者ではなかったとしても、四六時中監視をされている。その時点で一般ピーポーからはかけ離れてしまっているからだ。
「あれ、兄さんじゃない……」
「サスケくん、こんにちは、イタチくんは?」
「……兄さんなら出かけたよ」
屋敷の入り口までやってくると、兄が帰ってきたと勘違いした弟のサスケが飛び込んできた。こちらの姿を見るなり、ムスッとした表情を浮かべ、ピシャリと扉を締められてしまった。
「イタチくんを縮めたみたいな子だったね、さっきのがサスケくんかぁ」
「縮めたって何その言い方、ふふ」
このときは、うちは一族がたどる悲惨な運命など知る由もなく、イズミちゃんと明るい未来の話で盛り上がってたっけ。イズミちゃんが、イタチくんの事を好きな話とか。
それから月日が流れ、ナルトくんたちがアカデミーに入学して1年が過ぎた頃。ナルトくんがアカデミーに行っているので、私は店のシフトを増やしてもらった。なぜこんなに働いているのかというと、早く自立して自分の店を持ちたかったからだ。何しろ、あのジジイ(ダンゾウ)に啖呵を切ってしまったからね。独立して、5大国一のケーキ屋さんを目指すんだ。そんな私は気がつけば12歳……そう、まだ12歳だ。ほんと、大人たちは勝手がすぎる。あのハゲ爺め……。部屋に無造作に置かれた巻物が目に入り、思わず顔をしかめる。
「だから、忍者にはならねぇって言ってるでしょうが……」
忍術の基礎が書かれたそれは、アカデミー生が教材として使用しているものだ。そんなものがなぜ、私の部屋にあるのかというと、それはダンゾウとかいうジジイのせい。12歳になり、魔力もといチャクラも安定してきたおかげで、好きなときに術を使えるようになった。使える術の幅も広がり、今では家事の殆どをチャクラで行っている。勝手に水が流れて洗われる食器。初めてそれをイズミちゃんが目の当たりにしたときは、とても感動されたっけ。
護身ならともかく、殺傷能力のある術は使わないと決めている。なのに、部屋に時々置かれる巻物は、どれも物騒な術ばかり。
「テンゾウ!!!!そこにいることはわかってるわよ!」
「は、はいっ!!!」
怒鳴り声を上げると、天井からテンゾウが降りてきた。この頃になると、誰かが近くにいるのかわかるようになっていた。テンゾウは相変わらず火影様直属の暗部をやっていて、私の監視役を、時々夕顔さんと交代している。最近では夕顔さんも忙しいらしい。もう誰も監視しなくていいよと言いたいところだったが、そう簡単には開放されなさそうだ。
「イタチくんとシスイくんは元気?」
「ああ、2人とも元気にやってるよ」
イタチは、去年暗部になったらしい。らしい、というのは最近会って話をしていないから、本人から直接聞いたわけではないということ。これも、例のごとくイズミちゃんが教えてくれた。
「もう、しつこいんだけど、これ」
「……ダンゾウ様だね」
「どーして、そんなに忍者にしたいわけ!?」
「……名前、君はあまり自覚が無いみたいだけど、ボクたちの能力は貴重なんだよ、誰だって囲いたくなるに決まってるさ」
「あのさあ仲間みたいにいわないでよね」
「仲間だろ?だって、君の使うそれは木遁」
「あーうるさいうるさい」
ムカついたので、部屋から締め出してやった。テンゾウは、キノエ時代にダンゾウ様にお世話になっていたから、ダンゾウ様を無下に出来ないらしい。あんなジジイのどこが尊敬できるのか、微塵も分からない。最近では嫌がらせのように、忍術の巻物と一緒に見合い写真も置いていく始末。ちなみに、見合い写真なんてすべて焼却処分してやっている。もうこれは立派なセクハラだ。セクハラジジイだ。こんなことがまかり通っていいのだろうか。
流石に火影様にも先月文句を言ったが、見合いの写真が置かれる頻度が減っただけで、後は平行線上だ。このクソジジイどもめ。この数年で、私は間違いなく口が悪くなったと思う。
「ああ平和よ、何処へ……」
「よっ!何くよくよしてるんだ?」
アパートを出てふらふらしていると、誰かがぽんと肩に触れてきた。振り返ると、そこにはシスイくんがいた。イタチとはこの頃全然会わなくなってしまったが、シスイくんとは不思議とよく会うようになった。この間だって、一緒に食事をした。デートだとイズミちゃんにいわれたが、これは断じてデートではない。まだ、友達同士の食事だ。精神年齢✕✕歳の私にしたら、こんなもん、まだまだお子様同士のじゃれ合いよ。
「シスイくん~~~~聞いてよ~~~~あのセクハラジジイがさ~~~~」
「うわああ待てその話はやめろ、というかその呼び方やめろよ!!!心臓に悪いから!!」
愚痴を言うべく口を開くが、心臓に悪いからと思いっきり手で口を塞がれてしまった。私には単なるセクハラジジイだが、シスイくんにとっては上司みたいなものだ。怯えるのも仕方のないこと。この話題をだすと、すぐに逃げ出されてしまうからなかなかストレスが発散できず、フラストレーションが溜まっているというのもある。
「友達でしょーーー!?聞いてよ!!!!」
「確かに友達だが、それとこれとは話は別だっ」
頼むからその呼び方やめてくれ、な!?と懇願されてしまった。
「最近イタチくん見てないけど、任務で忙しいの?」
「……あぁ、イタチか、そうだな、多忙ではある……」
「……なにかありそうね、私、今テンゾウに監視されてるから話しづらいと思うけど、友達として、アンタたちがこまったら助けるから言ってよね」
「……ありがとうな、名前」
「悩みに悩んで、自殺なんてしちゃ駄目だからね」
「っけ、おれは一番自殺から程遠い人間だと自負してるぜ!」
「それもそうだね!あはは!」
彼は自殺から一番程遠いタイプの人間だった。彼が自殺をするような事があれば、それは誰かのため……。
木の葉の里が秋めいてきた頃、事件が起きた。それは、一般人が賞金稼ぎに連れ去られたという事件だ。何を隠そう、その連れ去られた一般人というのが私。
シスイくんとイタチくんが任務で里を離れるということは前日に聞かされていて、気をつけろよ、と2人からいわれたばかりだったと思う。気をつけろよって言ってた意味って、もしかしてこれ?!なら具体的に教えてよね!!袋にくるまれながら、私はわめき声をあげる。
「おい、こいつ、本当にそんな値打ちがある奴なのか?」
「間違いねぇ、こいつをあいつに渡したら俺たちは大金持ちだ……」
賞金稼ぎは、木の葉の抜け忍らしく、火の国の地理にとても詳しかった。片方は水の国の抜け忍らしく、抜け忍同士でチームを組んで賞金稼ぎをしているようだ。抜け忍というのは、その名の通り抜けた忍者、里の裏切り者。簡単に言えば犯罪者だ。その抜け忍に連れ去らてしまった私は、今、どこかの森にいる。
今日は、要人が木の葉の里に来るからと、暗部の警備がそちらに集中していると聞いたが、まさかその影響でこんなことになるとは。いつもは居なくていい監視員たちが、こんなに恋しく感じるなんて。夕顔さん、テンゾウ!誰でもいいから早く来て~~~~!!
「うるせぇぞ女!」
「腕の一つや二つ、折りましょうか」
「いや、価値が下がることはしたくない、無傷で連れてこいとのことだ」
うおおおおなにやら物騒な会話が聞こえてくる!!手も足も出せない状況で、どうやったらここから逃げ出すことができるのか……待てよ、私には魔法があるじゃないか!正しくは魔法じゃないんだけど。私はここに来て、今まで禁じていた姿くらましを実行することにした。どうして早く気が付かなかったんだろう!
男たちに手足を縛られているが、私がなんのモーションもなしで術が使える事を知らない様子。クックック、眠り薬でも飲まされていたら危なかったぜ。
かなりの長時間、連れ回されていたから下手したら火の国なんてもう出てしまっているかもしれない。身体が下手したらバラバラになるかもしれないが、自分を信じて、それを実行することに決めた。ええい、ここで死んだら仕方がない!!
「ぬわあああっ!!!!」
姿くらましは無事成功したようだ。だが、どこに飛んだのかは分からない。慌てすぎて、目的地をきちんと定めていなかった。安全に姿くらましをするため、身体がバラバラにならないよう必死になりすぎたのもある。
滝のような場所に落っこちて、私はびしょ濡れになった。私のアニメーガスは錦鯉なので、すぐさま変身する。闇祓いの仲間内からは、アニメーガスが最弱すぎていじられたのもいい思い出だ。まさかこんなところで役立つとは。錦鯉から変身を解けば、身体はもう自由になっていた。
「はあ、死ぬかと思った……どこだろここ」
滝壺のような場所に落っこちて、泳いで行くうちにへんな洞窟にたどり着いた。とりあえず、着ていた服を乾かそう。考え事は、それからだ。術で服を乾かそうとしたとき、何かが流れ着いてきたことに気がつく。それは、真っ赤で最初はよくわからなかったが、その存在に気がつくと、思わず悲鳴を漏らした。
「……嘘、人!?」
血まみれの人……身体のあちこちが、おかしな方向に折れている。
「だ、大丈夫です……か……!」
顔をみて、言葉を失う。なぜなら、彼は任務に出ているはずの、シスイくんだったからだ。両目はなく、くぼんだ両眼からはおびただしい量の血が流れている。顔色は悪く、死にかけている。ふと、あの2人の姿がフラッシュバックした。助けられなかった、私の友達が。
「ヴァウネラ・サネントゥールっ!!」
大急ぎで治療の術を施すが、あまりの出血量に絶望しかない。なぜ瞳がくり抜かれているのかわからなかったが、何より、なぜシスイくんがこんなめに会っているのだろうか。バクバクと脈打つ心臓が痛い。
「ヴァウネラ・サネントゥールっ、ヴァウネラ・サネントゥールっ!!」
表面の傷は癒えても、内側の傷は簡単には癒えない。骨もあちこち折れていて、内蔵も傷ついていそうだった。
「エピスキー!」
治療魔法の一つだだ。こうみえても、前世では闇祓いだったので、現場ですくに仲間を助けられるよう、治療魔法はある程度勉強をしている。
「……ねえ、シスイくん、お願いだよ……起きてよ……」
頬を叩いても、彼からは全く反応が帰ってこない。心音も弱く、もしかしたら彼は生きるのを諦めているのかもしれない。
「……私、諦めないよ……」
前世では、友達を守って死んだ。今この場で死んでしまったとしても……。力が尽きるまで、私はシスイくんに治療の術をかけ続けた。
翌朝、起きるとそこには冷たくなったシスイくんの姿があった。青白い肌が、彼の死を物語っている。ああ嘘だ、また、また助けられなかった。この世界で、助けられなかった友達はこれで3人目。嗚咽が漏れる。
こんなところで、どうして。色々考えたが、答えは出てこなかった。シスイくんを木の葉に連れて行くか悩んだが、なんとなく、やめておいた。もしかして、陰謀渦巻く何かがあるのかもしれない、と感じたからだ。
「……」
シスイくんの亡骸は、洞窟の中に眠らせてある。彼を埋めた直後、彼の亡骸を守るようにして、1本の木が生えてきた。不思議な木で、葉が金色の輝いているようにも見えた。ここに誰かが触れないよう、守りのまじないもかけた。誰かがやってきて、無闇に亡骸を掘らないように。せめて、安らかに眠れるように、と願いを込めた。
そこからの記憶は曖昧だった。
力を使いすぎて、意識が朦朧とする中、森の中をずっと歩いていて、気がついたら、木の葉の忍に囲まれていて……。で、次目覚めたときは、病院の中だった。またこの部屋か……と、すぐに思った。
「……お腹すいた」
うん、実に健康的だ。悲しいこともあったというのに、私の身体は呑気というか、なんというか……。
「起きたか!?ごめんよ、ボクがついていながら……」
慌てた様子のテンゾウが部屋に入ってきた。その隣には、火影様もいる。任務で言えば、私を監視しているはずのテンゾウが、しくじって私が攫われた……ということになる。暗部を出し抜くほどの強さを持った抜け忍が狙ってくるなんて。あいつら、そこまで頭良さそうには見えなかったが、途中記憶が途切れているので、連れ去られるまではその凄腕の抜け忍が、その後のあいつらは運び屋みたいなものだろうか。
「体調は大丈夫かのう?」
「はい、連れ去られた以外は特に何も乱暴はされてないんですけど……あはは、逃げたときに思ったより体力を消耗してしまったみたいで…」
2人が想像するようなひどい乱暴はされていない。されるより前に逃げたのだから。しかし、彼のことは黙っておくべきかもしれない。この話は誰にならできるのか……。
「敵は、幻術系の能力を操る抜け忍だったと聞いておる、後遺症などはないか調べたが……大丈夫か?」
「はい、お陰様で……ご心配おかけいたしました」
やっぱり、木遁使えるのって、珍しくて欲しがる人が居るんですね。呑気に笑うと、火影様はやれやれ、と頭を抱える。
「お前が忍であれば、守る術があるのだが……まあよい、今回の件はダンゾウも裏で調べてくれている、誰がお前を攫おうとしたのか、そしてその目的を」
っげ、あのセクハラジジイか……。口には出さなかったが、嫌な顔をしているのがすぐに分かってしまったのか、火影様は再び苦笑を漏らす。
「嫌だろうが、しばらくは警備の目が強くなる事を肝に銘じて置くように。これも安全のためだ」
火影様の言う通り、私の周りの警備というか、監視の目は厳しくなった。なぜ攫われたのか……木遁を使える人間はとても貴重だから、だけで解決する内容ではなさそうだ。そのせいで、ダンゴさんやアンミツさんの周りですら監視の目が厳しくなってしまった。そうそう、警備が厳しくなったため、今まで会えていた友達とも、全然あえなくなってしまって……。テンゾウ以外の友達とは、ここめっきり、会えていない。
「最近元気ないってば、名前ねえちゃん」
「はぁ~……ナルトくん……元気ちょっともらうね」
「わっ、恥ずかしいってばよっ」
ナルトの部屋で、ぎゅうっと彼を抱きしめた。ナルトはまだ7歳なので、抱きしめるととてもあたたかく、子供特有のにおいがした。太陽の香り、とでも言おうか。なんだか変態みたいな言い方になってしまうが、事実なんだから仕方がない。
「友達に会いたいなあ」
「名前ねえちゃんの友達って、どんなひとたちなの?」
「そうだね~、友達思いで心の癒やしイズミちゃん、心優しきブラコンのイタチくん……明るく元気で、いつも輝いてたシスイくん、根暗だけど優しいテンゾウ……あれ、うちは一族の子ばっかりだ……」
レンくんとシンコちゃんが任務で殉死して、もう4年が経つ。今度は、シスイくんまでもが死んでしまった。彼の死については、まだ誰にも事情を聞けていない。テンゾウは暗部に身を置いている関係で、この話は出来ていない。もし何か知っていたとしても、きっと話しづらいだろうから。何より、暗部での任務内容やらなにやらはどれも機密情報。私なんかが首を突っ込んでいい内容ではない。せめて、イタチくんと会えたら……。シスイくんと親友だった、イタチくんならば、きっと……。