それからしばらくして、その願いは叶った。が、今まで通りではない。私のすぐ側に、忍者の1人がつけられることとなった。暗部という、忍者の中でも特別な任務を請け負う、暗躍部隊の1人が。退院して2日後、その1人と面会することとなった。
この里の一番偉い人……火影様に呼び出され、私は重々しい空気の中、建物の中を歩く。厳重に警備されたそこには、ピリピリとした嫌な感じが立ち込めている。
「楠名前、来ました」
「うむ」
案内された部屋の入り口に立つと、銀髪の青年と目が合う。顔がほとんど隠れているので分からなかったが、おそらくマスクを外したら恐ろしいほどのイケメンが姿を表すに違いない。ほとんど顔を隠した状態でも隠しきれない、そのイケメンオーラに圧倒されつつ、私は乙女心を殺し、部屋の中に足を踏み入れる。
「すまんな、君が楠名前だね、イタチたちを救ってくれてありがとう、改めて礼を言わせておくれ」
「えっ、そ、そんな」
突然、里で偉い人が頭を下げたので動揺してしまった。
「や、やめてください、その、火影様にそんな……」
「君は実に心優しい子だ、自分がどうなろうとも構わず、友を助けてくれた、ましてや君は忍者でもない……あんな力を、どこで学んだのかね?」
おっと、本題に入ったようですね……。私は思わず身構える。
「私は、その、ふざけてると思われるかもしれませんが、前世の記憶があるんです、前世は魔女でした、ホグワーツ魔法魔術学校……魔女や魔法使いたちの学校です、木の葉の里で言う忍者アカデミーみたいなところです」
とりあえず、素直に話してみることにした。気持ち悪い、頭がおかしい、と思われるかも知れないが、もう今更感がある。ならば、少しでも真実を語って、よくわからない疑りの視線を受ける苦痛から開放されたかった。
「前世、とな?」
「はい、ここに似てるんですけど、ちょっと違うような感じの世界に私はいました、そこで魔女だったんですけど、あの力も、その一部です」
「……あれは魔法だ、と説明していることは聞いておる、しかし、魔法、か」
なかなか信じてもらえないようだ。しかし、嘘は言っていないとわかってくれているのか、真剣な眼差しを感じた。
「卒業してからは闇祓い……えーっと、悪い魔法使いたちと戦う部署なんですけど、そこにいました」
「闇祓いとな……続けておくれ」
「はい、そこで、私は死にました、仲間を守って殺されたんですけど……気がついたらこちらで赤ん坊になっていて……だから、私、この世界で生まれ変わったとき、大人だった前世の記憶を引き継いでいたので色々と大変でした……」
すべてを語り終えると、すでに日が傾き、夕方になろうとしていた。あれから4時間も話をしていたと思うと、喉が急にカラカラになってきた。
「……話をしてくれてありがとう、話すのに、勇気が必要だったはずじゃ、そうか、その力が使えるのも、名前、お前の前世が関係していることはよくわかった。お前が使うそれは、忍術だ、調べてみたが、やはり、お前が魔法を使う前に身体で練っているものは“チャクラ”で、印なしでそれらの力が使えたのは、“前世”が関係しているのだろう」
病院に閉じ込められている間、色々と調べられた結果、ようやく答えが出たそうだ。火影様が言うには、私が“魔力”だと思って練っていたものは“チャクラ”であり、“魔法”だと思っていたのは“私の前世が大きく影響した私オリジナルの忍術”ということになるらしい。通常であれば、体内でチャクラを練り、印を組み、術を完成させるところを、私は前世魔女だった関係で印の動作を端折っているんだとか。そんな仕組みで“魔法”が使えていたとは。しかし、忍者アカデミーの入学試験には落ちているので、忍者の適正はなしと見られていたはず。一体なぜなのか。火影様は私の頭の中が読めるようなのか、そのまま話を続けた。
「名前、お前は当初アカデミーの入学試験に落ちておる……それは、お前は無意識のうちにチャクラを練り術を発動させるから、印を組んでの術式は出来なかった、と考えておる」
ほうほう、なるほど。だから試験に落ちたのか。たしかに、印を組んでも、何も出なかった。チャクラを練ろと言われても、よくわからなかった。
「ヒルゼン、なぜわしを呼ばんのだ」
「……ダンゾウ様」
火影様と話をしていると、突然、嫌な空気を感じた。ダンゾウ様、と部屋に控えたいた忍者の1人が声を発したことから、やってきたのは“ダンゾウ様”とやらであることが判明した。声のした方角を見つめると、顔の半分を包帯で覆っている男が部屋に入ってくる姿が目に入る。彼の後ろには面をかぶった忍が控えていて、ただならぬ殺気を感じた。この顔半分を包帯で覆っている男が、ダンゾウ様とやらか。様付けで呼んでいるので、単純に考えて偉い人なのだろう。
「ほう、お前が楠名前か」
「……えっと」
「これダンゾウ、名前が驚いているだろうが、突然すまんな。奴はダンゾウ……わしと同じく、木の葉の里を守る忍の1人だ」
有無をも言わせない圧力のあるおじさん、これが彼の第一印象だ。
「わしの元部下、キノエの友人だと聞いておる、それに“身寄りのない孤児”だとも」
キノエというのは、ダンゾウが創設した暗部養成部門である“根”という組織に属していたときの名前だ。色々と事情があって、今は“根のキノエ”ではなく“火影直轄の暗部テンゾウ”になっている。もちろん、このときの私はそんな事情などつゆ知らずなので、ダンゾウ様とやらが言っている意味をよく理解出来なかった。
「えっと、キノエくんはたしかに友達ですけど……」
身寄りのない孤児というのも、事実だ。
「木遁を使えるのは、お前が逃げ出した大蛇丸の実験体の1人だからなのではないのか?」
「え?実験??お、おろちまる??」
「いや、どうやら違うようじゃ、ダンゾウよ。まあ、突然入ってきたお主が悪いのだからな……まずは話をきくがよい」
突然やってきたおじさんは、途中参加のくせにやけに偉そうだ。おまけに実験体がどうのこうのと、物騒なキーワードが飛び交う。そのやけに威圧的なおじさんは、近くにあったソファにどかっと腰をおろし、こちらを睨みつけてきた。うーん、厄介そうなおじさんだ……。とりあえず、私は今まで話した内容を短めに、わかりやすくダンゾウ様とやらに説明をした。見た感じからして、とても短気そうに見えたからだ。説明をしてすべて理解してもらえたかは分からないが、これで“おろちまるの実験体”ではないことがわかってもらえただろうか。
「キノエ……いや、今はテンゾウか……今この娘が言ったことは誠か」
「はい、そうらしいです」
しゅた、と突然背後に現れたキノエもといテンゾウに驚く。なんだ、いるなら居るって言ってくれれば良かったのに。面をかぶっているので表情まではわからなかったが、随分と背が高くなったなあ、と親戚のおばさんみたいな気持ちで彼の事を見上げた。
「ふん、ならばヒルゼン、この娘、わしに寄越せ」
何を言うのかと思えば、突然こんな事を言ってのけた。私は“物”じゃないんですが。あまりの失礼な言い草に、火影様の周りに控えていた忍者はざわめくが、そんなことに臆する火影様ではない。
わしのもとにいれば、この娘を一人前の忍者として鍛え上げ、第二のテンゾウを作り出す事ができるぞ。ダンゾウは不機嫌さを隠すこともなく、ヒルゼンに向かって話を続けた。言葉の意味はよくわからないが、テンゾウと私には孤児という共通点があるので、それを指しているのだろうか。
どうだ、お前は忍者になりたいだろう?ギロリと睨みつけられ、私は縮こまる。が、自分の意思を伝えられないか弱い子供ではない。何しろ精神年齢は(以下略)。
「私は一般人として暮らしたいです!将来の夢は、ケーキ屋さんですから!」
「……」
「木の葉一の……いいえ、五大国ナンバーワンのケーキ屋さんを目指したいです!」
イライラしたとき、甘いものとか、食べたくなりますよね?食べるとホッとしますよね?私は、こんな世の中だからこそ、みんなに甘味という安らぎを与えたい!そう、胸を張って答える。
「っぷ、はっはっはっは、そうだそうだ、名前よ、大きな夢を持つことは素晴らしいことだ!と言う訳で、ダンゾウ、名前は忍者になることを望んでおらん」
へえ、この娘、ダンゾウ様を前にしてよく言えたな。命知らずなのか?などと、他の忍者たちに思われていようとも、私は呑気に笑う。火影様なんて腹を抱えて大爆笑だ。NOと言いたいときにNOといえる人間だ、私は。今も、これからも。
「身寄りのない孤児はわしの管轄……ヒルゼン、お前は手を引け」
いやいや、なかなか諦めが悪いおじさんですね……。私の話、聞いてました?
なおも食い下がってくるダンゾウ様に、火影様は言い放つ。
「いや、木の葉の里の子供たちは、皆、わしが守るべき者たちだ、お前こそ妙な意地はよせ、彼女は忍になることを望んではいない」
「ふん、貴重な木遁使いをすべてお前が抱え込むつもりか……まぁいい、わしはその話が終わるまでここで待つとしよう」
彼の言葉からして、キノエ……テンゾウも私と似たような力が使えるのだろう。それをダンゾウ様は抱え込みたかったけど、火影様に邪魔された……で、今に至るということか。偉い大人たちに板挟みになりながらも、状況をなんとか把握することが出来た。
「お前はお前らしく生きればよい、楠名前よ」
「ありがとうございます、火影様」
「しかし、一つ、頼みたい事がある……」
「は、はい」
うーん、さすが、火影と呼ばれるだけはある。しっかりと自分の用件も忘れない。私はじっと火影様の顔を見上げた。
「うずまきナルトという少年を知っておるか?」
「うずまきナルトくん?いえ……その子がどうしたんですか?」
「その者も孤児、しかし、まだ3歳になったばかりでのう……かわいい盛りなんじゃが、年の近い友がおらん」
「は、はぁ……」
「ナルトと友達になってくれんか?」
何を頼まれるのかと思いきや、なんだ、そんなことか。うずまきナルトの名前がでて、部屋の中に若干緊張が走ったような気がしたが、気の所為かもしれない。3歳といえば、火影様の言う通りかわいい盛り。親のいない寂しさも、同じ孤児ならば理解できる。ナルトには、孤独の悲しみを知った者を側につけたかったらしい。だから、忍者ではないが、家政婦兼友人として、私がうずまきナルトという少年の家の隣に引っ越す事が急遽決まった。今仕事をしている店はシフトを半分に減らし、週の半分をナルトの面倒を見ることとなったが、これは半ば強制的に決められていたようで、ダンゾウ様とやらに強くあたっていた割には、自分の言い分は押し通していくんだな……なんて、若干心がモヤモヤしたのはここだけの話。
まあ、たしかに忍者にはならないけれども……ならないけれどもね!?
そして、肝心の1人つけるという忍者の紹介は、一瞬で終わった。夕顔さんというくノ一の人が、私を見守り人もとい、監視役として遣わされるそうだ。夕顔さんは見たところ、テンゾウと年が近いのかもしれない。お面で隠れていて顔は分からなかったが、美少女であることは雰囲気だけで伝わってくる。この部屋の入り口に立っている、銀髪のイケメンと似た気配を感じた。
火影様との話は終わり、なにか言いたげなダンゾウ様を横目に、私はそそくさと部屋を後にした。いや、なかなかのたぬきですね、火影様も。魔法を披露してしまったのは、もしかして失敗だったのでは、と一瞬考えたが、そのおかげで友達の命を一つ救えたのだ。まぁ……イタチくんが助かったのだから、良しとしよう。そう、自分に言い聞かせる。世の中には、自分に言い聞かせて処理をしなければならないことはたくさんあるのだから。
「ねえちゃん、だれだってばよ」
「私は名前、そんで、君がナルトくんね~今日から隣に引っ越してきたの、よろしくね」
「よ、よろしくだってばよ!」
彼は、ワケアリの孤児だと聞かされている。事情はよくわからないが、火影様は彼を大切に思っていて、彼に寄り添ってくれる友人を探していたようだ。私がそれになれるのかは正直分からないところだが、このピュアピュアな瞳が濁らないよう、尽力するつもりではいる。
その日から、私には小さい友達が1人増えた。まだ3歳なので、手のひらもちっちゃければ、頭もちっちゃい。幼いゆえに、必ずお昼はお昼寝をしているという、なんとも可愛らしいお年頃だ。早速ナルトくんと一緒に食事をすることにした。食材はダンゴさんたちからたくさん分けてもらっているので、我が家の冷蔵庫から使うことにした。ナルトくんの部屋は、いろんな忍術で守りがかけられているので、食事をする際はこちらの部屋で、と言われている。料理をするために食材をナルトくんの部屋のキッチンまで運ぶと、瞳をきらきらと輝かせたナルトと目が合う。
「だれかと、いっしょにごはんをたべるのは、うれしいってばよ!」
く~~~~泣かせるね~~~~わかるよその気持ち!私はナルトくんに抱きつきたい衝動をなんとか押さえ、優しく頭をなでた。
「じゃがいもたっぷりのシチューを作ってあげる!」
「しちゅー?それってば、おいしいのか?」
「美味しくて顎が外れちゃうわよ、きっと」
「ええ!?」
顎がはずれる、という言葉に戦慄するナルトくん。うん、本当にピュアピュアね。彼の頭をくしゃりと撫で、微笑む。
「大丈夫、実際に顎が外れるわけじゃないからさ!」
「ほ、ほんとだってば!?」
「ほんとうにほんとう、じゃ、椅子に座って待っててちょうだいね」
私は前世も兄弟はいなかったので、兄弟がいるとこんな感覚なのだろうか。少し感動しつつも、料理に専念することにした。
そして、出来上がったシチューをぺろりと平らげたナルトくんは今、ぐうぐうとかわいい寝息を立てている。食器を片付けながら、ため息をつく。
「この子も大変ねぇ……あーでも、私、人のこと言ってられないんだった」
あのおじさん、怖そうだったし、何よりもしつこそうな感じがする。しつこい男は嫌われるっていうのが古の言い伝えなんだけど……。見た目も女子ウケ悪そうだったし、そういうことなのかな?そうつぶやくと、誰かの咳き込む音が聞こえてきたようなきがした。