クライヴは僕らを貝殻の家に届け、どこかへまたいなくなってしまった。と、思いきや数日して再び名前の前に現れた。
ビルはクライヴをよく思っていないのか、食事中もクライヴとは一切会話をしなかった。ピリピリする空気を読んでいるのか読めていないのか、ルーナが面白おかしい話題で吹き飛ばしてくれた。
世の中にはいろんな種類の人間が存在するが、ルーナのような少し特殊な(僕がそう感じるだけかもしれないが)存在は場の空気を和やかにしてくれるのでとても助かっていた。
「名前、あいつに会ったか」
食事が終わり、みんなが各自の部屋やリビングでのんびりしている時に、クライヴが新聞片手に暖炉の傍までやってきた。
マシュマロの甘い匂いが鼻をかすめる。
「ああ・・・あいつとはモティマーのことだな?」
「そうだ。お前に重要な話がある、だから少し・・・いいか」
物置小屋に男二人はきつすぎるが、仕方ないだろう。ほかに密談できる場所がないのだから
人が来ないことを確認して、クライヴが小さない声でゆっくりと話し始めた。
「・・・聞いて驚くだろうが、モティマー、あいつの本当の名前はそんなんじゃない。あいつの本名はオリオン・レーガン。俺の・・・・」
弟だ。
一瞬息をするのも忘れてしまうぐらい、その衝撃の事実に胸を打たれた。
なんだって・・・あいつが、クライヴの弟?
「あいつがレーガン家の血を嫌っている理由は知っているか?」
「・・・いいや」
事の始まりはオリオンと俺が子供の時だ、とクライヴは続ける
「何が、あったんだ?」
「この話がまた長いんだが、さかのぼることレーガン家の当主、クライヴが妻を蘇生させる前のことだ。」
初代当主クライヴには息子や娘が多くいた、親戚も無論のこと由緒正しい家柄ばかり。
昔も今もスクイブに対しての風当たりは悪かった。由緒正しい家ならばなおさら。レーガン家は魔力も高く、優秀な子供に恵まれたが、一人、スクイブだと思われていた子供がいた。
その子供は父親に世間から隠されるように育った。家族の中で、彼に対して唯一家族として扱ってくれたのが母親のローズ。彼女はその子供をとても愛していた。しかし病弱だった彼女は若くして亡くなってしまう。
母親が亡くなった直後、彼の体に不思議な変化が現れたのだ。今までスクイブだと思われていた彼は、実は魔力が眠っていただけで、その時には魔法が仕えるようになっていたのだ。
初代当主は最愛の妻が死んだ理由をその子供にこうなすりつけた、お前がローズの魔力を奪ったせいで…と。
その後、クライヴは妻を蘇らせようと悪魔の研究に没頭した。その間、その子供は魔法学校に通い、魔法を学んだ。
子供が全員学校を卒業してしばらく、クライヴが悪魔の研究を完成させた。それは、禁断の魔法、けして破ってはならない命の法則を破ったものだった。
「・・・で、この先は知ってるだろうが、一族は呪いを受け、滅びゆく運命を背負うことになった。だが、重要なことが抜けているんだ、この呪いをかけた人物のことを」
「まさか、スクイブだと思われていた・・・その者が・・・」
「流石だな、正解だ。そいつの名前はレーガン家の歴史から一切消されていたから気付かなかったが、調べたところ、そいつの名前も、オリオンなんだ――――」
初代当主の名を授かったクライヴ、そして実の弟が呪いの根源オリオンだったとは。
弟だという事実でさえ驚愕したというのに、恐ろしい事実が次々と発覚してゆく。体の血という血がさーっと引いていくのがわかる。
「俺たちがまだ子供の頃、オリオンが家の宝物庫に無断で入ったんだ。宝物庫は別に勝手に入ってもかまわないんだが、問題はその奥、なんだ」
「・・・なにか、あるのか」
「ああ。大ありさ。その奥には呪いの根源である、【オリオン】の意思を宿したネックレスがある。そのネックレスは【オリオン】がローズの死ぬ間際にローズから受け取ったものなんだ。」
【オリオン】がいつ死んだかは不明だ。【オリオン】の存在を隠されたまま、何百年と続いてきたレーガン家だが着実に滅びの道をたどっている。
「そのネックレスを、何故か父上達は代々大切に、そして誰の目にも触れられぬような場所に封印していた。だが、オリオンが家の者が留守の時を見計らって、そこへ行きついてしまったんだ…。」
これが運命なのか、何なのかはわからないけど。クライヴは胸から白い杖を取り出し、名前に見せた。
「・・・ここに、名前が彫ってあるだろ?オリオン・S・レーガン・・・と。この杖はローズの墓の中に眠っていたものだ。この杖を作ったのも【オリオン】、一族に呪いをかけ、父親を殺めたのも【オリオン】――――」
そして、今闇の帝王の右腕として働いている男もオリオン。それは【オリオン】なのかオリオンなのかはわからないが、俺が大切に思っていたオリオンが【オリオン】によって蝕まれていることは確かだ、とクライヴは続ける。
「憎しみの力は闇の力を強くする。オリオンは今、【オリオン】と一体化してしまっている。そのネックレスを持ち出したことがばれてしまったオリオンは二度 と屋敷を出ることはなかった。オリオンを殺せと命じたのは父上だった。俺はその日、突然父上が嫌いになった。愛していた弟を殺せと命じた父上をひどく憎ん だ。」
「俺はオリオンが本当に殺されてしまったのだと思っていた・・・だが、ようやく気がついた。オリオンは殺されたのではなく、母上によってどこかへ逃がされたんだって。そして・・・・トムの元へたどり着いた、というわけだ」
すべてが一つにつながった瞬間だった。だから、モティマー、いいやオリオンは僕が憎かったんだ。レーガン家の血を引く僕が・・・
その男によってつけられた背中の古傷がずきずきと痛みだしたような気がした。
今までの謎が大まかに解き明かされた。これをずっとクライヴは調べていたのだ。だから、あんなに体調が悪そうだったのだ。恐らく、この真実にたどり着くまでに随分と苦労を重ねたようで、話を全て終わらせた時には息を切らし、ソファにうなだれていた。
「トムを確実に消滅させる方法も見つけたし、あとは戦いに挑むだけだ」
「・・・なんだって?そんなことまで調べ上げていたのか?」
「この俺を誰だと思ってるのさ?天下のクライヴ様だよ?」
「…ならば聞くが、その天下のクライヴ様は一体どんな方法で闇の帝王を消滅させる気なんだ」
「それは言えない。まぁ、きっと見ればわかるよ」
クライヴが一瞬、切なそうに眉を潜めたのを名前は見逃してしまった。
だから、その後どんなことが起こるのか予想もできなかった。
「そうそう、まだ言い忘れていたことがあった・・・お前が、蛇になる正式な理由だ」
「・・・それは、レーガン家の呪なんじゃ・・・」
「ただの呪じゃないぞ、それは―――いいか、よく聞け」
名前が満月の夜、蛇の姿になってしまうのには複雑な理由があった。今までは呪だとして簡単にまとめていたが、実はそれだけではないようだ。
ローズの血を色濃く引いた名前は、常に魔力が不安定なのだ。血を色濃く引いているということは、彼女の魂の片割れがそこに存在しているということ。
そこに、オリオンの魂が現世にあることによってさらに魔力は不安定になる。ローズとオリオンの関係は切っても切れぬ関係で、必ずしも繋がりあうのだという。
オリオンの魂の波長と、ローズの魂の波長が重なる時がちょうど満月、暴走した魔力を抑えるために、魔力を多く使うアニメーガスになって、体の中の魔力を調和していたのだという。
それを知らず、今まで変身止めの薬を飲んでいたおかげで、さらに魔力は不安定になり、体の中の魔力が行き場を失い、左目の呪いの進行を早めたのだとか。入院をしょっちゅう繰り返していたのはそれも原因のようだ。
蛇のアニメーガスである理由は、ローズのアニメーガスが蛇だからとクライヴは続ける。
「それに、レーガン家の呪いに関してだが、かなり重要な情報を得た。これは、決死の覚悟でオリオンの心の中にもぐりこんだ時に発見した真実なんだが―――」
そんなことまでしていたのか。そう言いたかったが、話を遮るようで悪いので黙って話を聞くことにした。
オリオンが一族にかけた呪いは複雑な呪いで、解くことは不可能だと言う。そもそも、その呪いはどれも『死』に纏わることで、一族は長生きをしない。
その長生きをしない理由を聞かされて、名前は言葉を失った。
「俺にも体のどこかにその『死』を食らう呪いが施されている。これは、生まれた時から血によって伝わる呪なんだ。名前の場合、左目に『死』を食らう呪いがかかっている。この呪いは、他者の『死』を食らう。だが、勘違いしちゃいけないのは、『死』を食らったからと言って、その者は死から逃れることはできない。
この『死』を食らう呪いは、他者の『死』を食らうことによって、呪いの宿主にそれを魔力として変換して提供する。だが、これはただ提供してくれるだけじゃない。その呪いは最終的に宿主の『死』をも奪う。つまり、魂をその呪いによって奪われるという事だ」
『死』を感じた時に、目がひどく痛むのはそれのせいなのだ。
先ほどからの説明で、わかったことが多くあったが今の感情をどう、言葉で言い表していいか分からなかった。とりあえず、レーガン家が長生きをしない理由はわかった。
どのみち、呪いの進行を自分でさらに早めてしまった名前のこの先はそんなに長くない。死ぬのは怖い、そう思っていたが、いざそう言われると、恐怖を通り越して無の境地に入ってしまった。
「この呪いは、その者の魂のすべてを食らう訳ではない。魂の一部を食らうだけなんだ。でも、こうして説明していると自分たちがまるで死神のようだと思うよ」
ははは、とあどけなく笑ってみせるクライヴだが、表情はどこかひきつっている。彼もまた、このことで長い間悩んでいたのだろう。以前よりも躊躇に現れた顔の筋でそれが伺える。
「だから、トムは彼女を蘇生させるのを今か今かと待っているんだ――――名前、お前が死ぬ間際が、その蘇生の時なんだ」
その魔法は人柱が死んでしまっては効力を成さない魔法で、さらに他者が手を加えてしまっては無意味になってしまうのだとか。だから、レーガン家であるオリオンが名前に徐々に衰弱させる呪いをかけたのだとクライヴは続ける。ヴォルデモートも正式には血縁者となるのだが、レーガン家の血が濃ければ濃いほど、呪いの力は増幅していくそうだ。
「トムは妹を、【オリオン】は母を――――これで、あいつらがどういった理由で手を組んでいるか、わかっただろ・・・つっても、急にいろんなことを言われて頭が混乱してるだろうな・・・とりあえず、今日はゆっくり眠れ。続きはまたあした話すさ」
今、この機会を逃したら何もかもが聞けなくなってしまうような気がした。だから、名前は震える声を振り絞って、クライヴに続きを求めた。
「でもよ・・・お前、そんな状態じゃこれからの話、相当身に堪えるぞ…」
「それでも・・・いい!僕は・・・すべての謎を解き明かしたい――――」
そうか、なら・・・とクライヴはソファから立ち上がり、白い杖を名前の額にあてた。
「・・・これが、レーガン家の全てだ。そして、これから、俺が成そうとしていることも、すべてわかる」
その瞬間、杖先から放たれた光に飲み込まれ、名前は意識を失った。
なんだか、随分長い間眠っていたような気がする。目が覚めた時、名前は見知らぬ部屋にいた。壁にはルーン文字で描かれた複雑な呪文が描かれており、部屋の中央には不思議な魔法陣が描かれている。その中央で長い黒髪の少女が座っていた。
この少女を自分は知っている、名前はそう確信した。
「お嬢様!!!危険です!!!」
「この方法しかないでしょ…!夢に出てきたんだから、兄貴が、死ぬって――――」
「で、ですがそれは夢でございましょう…!」
魔法陣に入れず、屋敷僕がキーキーと声を上げる。
だが、この屋敷僕、随分と見覚えがある・・・だが、それを考えている余裕はなかった。
「いいこと?これは内緒だからね。兄貴には、特にね!あんたがいろいろ尽くしてくれるのはうれしいんだけど、こればかりはあたしにしかできないからね」
少女は自分の指に針を刺し、床に血で文字を書き始めた。
屋敷僕はオロオロと涙を流し始め、再びキーキーと声を上げる。
「危険でございます!!キリクお嬢様!!!」
「あたしの魔力が並じゃないってことはわかってるんでしょ?あたしはローズ・S・レーガンの生まれ変わりなんだからね。きっと、生きて帰ってくるわ」
「たとえあなた様がローズ様の生まれ変わりだとしても、これは危険すぎます!お嬢様が命を落とされるかもしれないのに!」
「平気だってば」
ははは、とのんきに笑う少女。そう、この少女こそ、トム・M・リドルの実の妹であり、最愛の存在。姿からして、まだホグワーツに通っていた時とも思える。
「あたしが、時渡り人なんだから、あたしの出来ることと言えばあれしかないでしょ。未来を変えるのよ・・・あんな、あんな残酷な未来を・・・変えなくちゃ・・・・せめて、兄貴にだけはあんな惨い死に方、してほしくないの」
消えそうな声でつぶやくキリクに、屋敷僕はついに地べたに頭を擦りつけ、嗚咽し始めた。
「危険でございます!おっお嬢様・・・ど、どうかそのような危険なこと、おやめになってくださいっ・・・!」
「もう、危険危険うるさいわよ、これがいかに危険であることぐらいわかってるってば。下手をすれば魔力を全部使って死ぬからね。大丈夫、この日のために魔力を蓄えておいたんだから!」
少女が描いた血文字は、次第に不思議な形を成して、一つの文字へと変わった。
「名前・・・・レーガン家の血を引く、名前という名の子がこの先の未来を変えてくれる・・・」
自分の名を呼ばれたとき、息が止まるかと思った。
「この子をあの時代へ・・・そうすることによって、兄貴は惨い死に方を逃れ・・・そして、ローズの願いが叶う。」
魔法陣に膨大な魔力を注ぎ込んでいるのか、少女の額からはうっすらと汗がにじみ出てきた。随分と長い間、少女は魔力を注ぎ込んでいたような気がする。魔法陣がすうっと音をたてて消えたとき、少女はそのまま倒れこんだ。
屋敷僕は急いで少女のもとへ駆けつく。
「あはは・・・さすがに、魔力使いすぎちゃったな・・・」
「おっおおお嬢様っ・・・!」
「だから・・・言ったで・・・しょ?あたしには・・・膨大な魔力が・・・ローズの魂が・・・・ははは」
少女の口からこぼれる言葉に、屋敷僕は泣きはらす。もはや言葉になっていない屋敷僕の言葉を、少女はただ笑って聞いていた。
「ありがとう・・・お前は、あたしを本当に心配してくれたんだね・・・それは、あたしがローズの生まれ変わり、だから?」
違います、と嗚咽の中叫ぶ屋敷僕。
「ふふ、冗談よ。わかってるわよ、あんたが心の底から、あたしのことを思ってくれていることを・・・。あたしが別の時代へ飛ばした子に、副作用が出なければいいんだけれども・・・」
副作用、という言葉に名前は耳を傾ける。自分がどういった経緯で過去へ飛ばされたのかがいま分かった、が、副作用とは一体どういうことなのだろうか。
「副作用――――あたしの魔力が少なからずともあの子に注がれた。っていうことは、あたしの特技があの子に移ってしまう、ってことなんだけどねぇ・・・ねぇ、スティンギー、あんたはどう思う?」
頭を激しく打たれたような、そんな感覚に陥る。いま、彼女はあの屋敷僕のことをスティンギーといわなかったか?
もしかしたら、別のスティンギーかもしれない。そう思い再びあの屋敷僕を見つめるが、自分の知っているスティンギーにとても似ていた。屋敷僕そのものが皆同じ姿をしているが、やはりどう考えても自分の知っているスティンギーにしか思えなかった。
「お嬢様・・・スティンギーめは、不安でございます」
「不安、ねぇ」
「その者にお嬢様の特技を移した、ということはその者がお嬢様と同じ苦しみを味わうということになるのではないか・・・と」
「そうかもね。誰だって、人の心の奥底に眠るものなんて覗きたくないもんね――――」
人の心の奥底に眠るもの・・・・?いったいどういうことだ・・・・それに、何故スティンギーが彼女の所へいるのだ。彼は、レーガン家の屋敷僕ではなかったのか?
それに、何故今まで彼女のことを話さずにいたというのだろうか。謎は謎を呼び、名前を混沌の渦の中へと引き込んだ。
頭が割れるように痛い、そう思った頃には目の前には先ほどいた暖炉前のソファがあった。
「・・・悪いな、俺もちょっとした魔力不足でお前にすべてを見せることはできなかったみたいだな。でも、どこまでわかったか?」
クライヴの額には汗がにじんでいる。
「・・・キリクと、スティンギーがいた・・・それで、未来を変えるために僕を別の時代に飛ばした・・・とか・・・」
「そうだな、あいつは時渡り人であり、ローズの生まれ変わりだったからな・・・一回人を飛ばしたところじゃ死なないさ。だけど、あいつはお前を別の時代に 飛ばしたことによって、魔力の一部をお前に移してしまった。だから、結果的に呪いの進行が早まった。そして、別の厄介な力も貰ってしまった・・・」
それが、人の心の奥底に眠るものを覗く力、ということなのだろうか。だが、それは具体的にどんなことだろう・・・名前は父親と似た表情で眉間に指をあてた。
「あいつは未来を変えるつもりで、お前を別の時代にやった。だが、それも失敗に終わった――――同じ、時渡り人が、お前を元の時代に戻してしまったからだ」
きっとそれは、アルベルトのことだ・・・。
「別の時渡り人がいることを察したキリクは、折角自分が行った行動も無意味なことになってしまうと考えた。まだ身内では時渡り人はスリザリンの血を滅ぼす 力を持っているといわれていた時代だったからな・・・だから、キリクはあいつに言ったんだ、時渡り人がレーガン家にいる、と」
まるで、自分のせいでアルベルトが殺されてしまったかのようにも聞こえる。アルベルトは、自分のせいで死んでしまったというのだろうか・・・
名前は一瞬で頭が真っ白になり、手足が諤々と震えだした。
僕が、結果的には彼を――――殺してしまったのだ。
名前の今の心境を察したのか、クライヴはそれ以上話を続けなかった。
今の状態の名前に何を言っても心を傷つけるだけだ、と考えたからだ。
名前をしばらく一人にさせることにしたクライヴは、他の騎士団員がいる居間へ戻った。
居間にはハリーとフラーが何かを話している。
「あ・・・クライヴ、あの時は、本当にありがとう・・・・!」
戻ってきたクライヴに気が付き、ハリーは駆け寄ってくる。
「あの時、ドビーを助けていなかったら・・・」
「ははは、礼には及ばないさ。俺もずっと身を隠していたからな。お前には特に、苦労をかけさせたな・・・」
そう言い、ハリーの頭をぽんぽんと叩いた。
「よく悲しみから立ち上がれたな・・・シリウスは、お前を誇りに思ってるだろう」
「・・・だと、いいな・・・・」
シリウスの名を告げると、ハリーは顔を俯かせた。本当に、お前は強いよ、とクライヴは優しく笑う。
「俺はトムを消滅させることができる、だが、それはハリー、お前の協力無しではできないことだ」
「・・・あいつを、本当に・・・!」
「あぁ、お前たちが今、アレを探し回っていることは知っている。だが、アレはお前たちの手で見つけて、破壊しなければならない。それが、運命だからだ。す べてを破壊したとき、俺は今まで練ってきた作戦を実行する。だが、そのためにはハリーがあいつと対峙する必要があるんだ」
分霊箱の場所のヒントを与えたのはダンブルドアとクライヴだ。本当ならば次の分霊箱はどこにあるのか問い詰めたい。だが、クライヴは自分たちで見つけて破壊しなければならないという。
それに、ハリーにはずっと気になっていたことがあった。本人を前にしてこれを言うか言わないかずっと悩んでいたことだ。これを機に、ハリーはずっと聞きた かったことを聞くことにした。ハリーの口から放たれた言葉はとてつもない重みを含んでいて、クライヴはしばらく無言になってしまった。
でも、これはいずれ気が付くことだった。だから、何をいまさら躊躇しているのだというのか。
「ああ・・・そうだ、俺とあいつは、親友だった。ハリーは怒るかもしれないが、俺はあいつを、トムを親友だと思っている・・・。」
予想通りの言葉が返ってきて、ハリーは複雑な気持ちになった。味方がこんなに酷い仕打ちにあっているというのに、クライヴはあいつのことを平然と親友だと言い切るのだ。でも、クライヴの気持ちもわからないことはなかった。
「もう二度と帰っては来ない日常を、何度も思い出しては遣る瀬無い気持ちになったさ。だが、過去を振り返っても仕方がない・・・過去は、変えられないんだ」
未来を変えようと奮闘したキリクも、結局は未来を変えられずに終わってしまった。これが、定めであったかのように。
「だが、ハリー。お前だけに全ての重荷を背負わすつもりはないさ。結果的には、ハリーがあいつを倒すことになる。そして、俺は保障みたいなもんだ」
なんだか、今までクライヴのことを疑っていた自分たちが馬鹿だったみたいだ。ハリーはクライヴの瞳をまっすぐ見つめ返していう。
「僕はあいつを倒す―――でも、保障ってどういうこと?」
「名前には絶対に言うなよ・・・いいか――――」